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人質生活76日目

「ああ~外って最高だ!乗馬って最最最高高高だぁああ~~~!」

「馬上で騒ぐのは命取りですよ」

「はい」

「はしゃぎたい気持ちはよくわかります」

「ああ~外って最高だ!乗馬って最最最高高高だぁああ~~~!」


自室謹慎を解かれたレジナルドは浮かれながら馬に跨っていた。

3日ぶりだと馬に乗った感覚を思い出すのに少しだけ時間がかかる。

「今日は丘を登ろう」

「ええ」


外に出ると、厩舎の建築もいよいよ終盤だという事が良くわかる。

「凄い人数で仕事をしているな」

「最終工程の屋根張りですよ。あと、内側の仕上げもあります。馬房を仕切る板だったり、床には水が流れやすいように傾斜を作ったり」

「仕上げまで細かくやってくれているという事だな。感謝だ」


セーラはオホホと笑った。

「馬にとっても好ましいでしょう。移築が終われば騒音も消え、新しい厩舎に移れるわけですから。ところでレジナルド様。レンガ同士はどうやってくっついているのか、ご存じですか?」

「知ってるぞ、モルタルだろ!」

「いいえ。実直な姿勢と、愛です」


――――――――――


アリディンバリス、王城。

「国王様。トーラティカの先王が手紙を書きました」


動きをトレースし、コピーして書かれた手紙を従者は手渡した。

それを読んだ国王は目頭を押さえる。

「…っ!このように可愛がっていた孫がいたのか…」

「ええ。王位を娘に譲り、その娘が国王になったので、孫は今では王子でしょう」

「フィリップといったか?ああ。人質システムは本当に良くないな」

「しかし、レジナルド様を他国に押し付けられましたよ」

「それは良かったんだよ。だから、功罪相半こうざいあいなかばするって感じだな」

「ですね」

「…でもなぁ。ここまで孫の事を思っていたとは。いけ好かない出しゃばりのジジイかと思えば、こういう点では本当にただの人の親だ。いや、祖父か?ともかく、同情する部分がある。”会ってお前を抱きしめてやりたい”とは、泣かせるじゃないか」

「確かに人質システムは残酷です。トーラティカ先王様の残りの人生は、それほど長くないでしょう。死の間際に送り返すのでは余りに残された時間が少なく、哀れに思えます」

「返してやるか?」

「それではレジナルド様も帰ってきますよ?」

「うまい事、アイツだけを他国になすり付けたい…何かいい方法はないものか?」


――――――――――


アリディンバリスの王城で、レジナルドの部屋から呪われたアイテムを盗み、逃走に失敗して死んでしまったウォルター・トムソン。

そのウォルターの母親と侍女たちが王都に着いた。

出迎えた兵隊長は頭を深く下げる。

「遠いスターレイクスからよくお越しくださいました」

「息子は任務中に亡くなったのでしょうか?遺体はどこに…」

「それについてご説明させてください」


兵隊長の執務室へ移動し、事情を話す。

母親のオーガスタと侍女たちは説明を聞き、唖然とした。

「研究開発中のドラゴン・ゴーレム…?ゴーレム・ドラゴン…?」

「どちらでも構いません」

「…に、食べられて死んだ???????」

「はい」

「????????????????????」

「申し訳ございません」

「犯罪者との戦いのさなかに崖に落ちて、死体は回収不能、とか、そういう名誉ある死だと思っておりました」

「ウォルターは立派でした」

「何が立派だったんですか?」

「ド、ドラゴンへの水やりが」

「口の中に立って水魔法を使って水を飲ませることが立派だったと?ジョブキャットが出ますよ!!!!!!!」

「申し訳ございません…申し訳ございません…」


侍女が、奥様落ち着いてくださいと母親をなだめる。

「そ、そのような研究に意味はあったのでしょうか?」

「もちろんございます。世界情勢は不安定で、いつトーラティカが国土奪還の戦いを挑んでくるかと考えますと」

「それはそうですが…」

「モルリヴァール国内では、アリディンバリスを属国視することが未だ続いており、のらりくらりと交わしてはおりますが…いずれは再びの統一を、という声もあるようで」

「それも知っております」

「ですから、国防のために魔法生物を研究することは、軍の役目であり、そこで働くのは兵士…」

「いえ、わかりました。新しい生物兵器を造ることは軍の仕事の一部なのでしょう。しかし、ドラゴンの口内に立っていて、そのまま飲み込まれてしまった、というのは納得がいきません。髪の毛一本、骨一本でもウォルターだったものを返していただきたいんです」

「丸飲みされて消化されてしまったので、それは不可能です。軍服も消化されてしまいました」

「剣は?」

「剣も見つけられませんでした」

「ならその消化液が敵と戦う武器なのですか?」

「そ、そうです…炎の代わりに消化液を吹くドラゴンなのです」


母親は絶句した。

せめて、部屋にある持ち物だけは返してもらおうと立ち上がる。


――――――――――


「ウォルター…うっ、うぅっ…!!!!」

「オーガスタ様…」

「お、お願い、少しだけドアの外で待っていて…ひとりにさせて………」


侍女は部屋から出て行った。

兵士たちの部屋は、ひとり部屋ではあるものの最低限のベッドと机、それにバスルームが付いていた。

特に机は事前に片付けられたように綺麗になっている。

母親であるオーガスタはひとしきり泣いた後、彼のクローゼットを開けた。

中には想像以上に服がかけられており、王都生活を満喫していたであろうことが推測される。

「…ウォルター。残念だったでしょうね、まだ若かったのに…遊び足りなかったでしょう」


オーガスタは泣き腫らした目を擦り、息子が領地から持ってきたコートのポケットに手を入れた。

中に家の紋章が縫われており、指で手順に沿ってなぞると第二ポケットへのボタンが現れるようになっている。

「お守りを入れておいたのに…結局、ウォルターを守ってはくれなかった…。人生これからという時に、安全対策が不十分な現場に回されて。可愛そうに」


隠しポケットに手を入れると、お守りの代わりに何かが入れられていた。

なんだろうと思って手に取ったそれは、メモのように小さな日記だった。

仕事への不満が書いてあったら、それを証拠に兵隊長を訴えようと考える。

一番新しいページをめくってみると…。

「えっ?」


中にはギャンブルの勝った、負けたの収支計算が細かい数字で書いてある。

「あの子ったら…カードが好きだとは思っていたけど。王都に来てまでカードで賭けていたの…!?」


そして、不穏な文章を見つけてしまう。

「”負けた。全部スった。勝負どころで降りるわけにはいかなかった。その場にいる金貸しに………”!?」

正規の金融機関ではない個人とのゴールドの貸し借りについてのメモだった。

「ご、50万ゴールド…!?」


一回の借り入れでこの金額だ。

何度も賭場に出入りしていたと考えると、借金が膨らんでいてもおかしくない。

さらに衝撃的な一文を見つけてしまう。

「”盗めばチョロく稼げる。これを元手にカードで増やせば…”」


盗む、という単語を見つけて、慌てて日記を閉じた。

今は息子の死への悲しみより大きな不安がオーガスタの心臓を揺らしている。


――――――――――


トーラティカのカントリーハウス。

町から馬車が帰ってきた。

食料品を降ろしてサイモンが階段を駆け上がってくる。

「レジナルド様、光る!回る!音が鳴る!魔法の剣ですが…」

「…」

「あれっ?そんな雰囲気じゃないですね」

「俺の余命は3日だ」


マシューが噴き出す。

「笑い事じゃない!ゴリゴリの初心者なんだぞ!防具を付けても死んでしまう!」

「最初から医者が呼ばれているでしょう。ご安心を」

「”安心”のレベルが次の段階に上がったなぁ?」


頭に?を浮かべているサイモンに、レジナルドはついさっき受け取ったばかりの手紙の内容を説明した。

「上級使者様と…剣術の模擬試合…!?魔法も禁止!?!?いえ無理でしょう。あの方は、国で最も優れた騎士から指導を受けていらっしゃいます。敵いっこありませんよ」

「決定事項だ。ろくに木剣すら持ったことのない人間をイジメる気満々だぞ。どうなってるんだお前らの国は」

マシューが首を振った。

「レジナルト様は死にませんよ。人質が不慮の事故で亡くなった場合ですら大問題になりますからね。故意にケガをさせることも…まあ…骨折ぐらいが関の山でしょう」

「その関の山は標高1メートルあるか無いかだろう。気付いたら越えていそうな山だ」

「受け入れてください。もうレジナルト様の人生はずっとこんな感じなんです」

「ヴァアア~~~ン!!!!」


サイモンがアイディアを出す。

「こっそり魔法を使っちゃえば勝てるんじゃないですか?地面を柔らかくするとか」

「不正の方が問題になりますよ」

「でもフィ…上級使者様ならやってきそうじゃないですか?」

「あのお方の不正は不正と認定されないでしょう。トーラティカの王子なのですから」

「えっ!」


レジナルドが涙をぬぐった。

「もうとっくにバレているぞ。第一に、ただの使者があそこまで偉ぶれるわけないだろう?」

「常識的に考えてそうですよね…」

「まあ、お前らの王子には常識的に考える力が不足しているようだが」

「王族に対して無礼ですよ」

「素人に剣術で勝負を仕掛けてくる方が無礼だろ?あと俺も王族だ」

「正論ハラスメントはおやめください」


レジナルドはグッとこぶしを握った。

「だが…サイモンは良いことを言ってくれた。せめてシャルロッテを借りられないだろうか」

マシューも顔を明るくする。

「なるほど」

「?」

「いいかサイモン。俺が魔法を使わずに正々堂々剣で戦ったとしても…いや戦えないが。仮に戦ったとしても、向こうは魔法を使ってくることが見込まれる。あるいは、いつも連れている護衛だとか、従者に使わせるかもしれない。それを防げる」

「どういうことです?」

「シャルロッテは魔法無効のユニークスキルを持っている。マシュー、すぐに一筆書いてオービター牧場に送ってくれ。もうスケジュールを押さえるのは不可能かもしれないが…」


マシューはその場で手紙を書き出した。

短い文章を書き上げ、封筒に詰め、サイモンに渡す。

「これを使者へ。宛先はオービター牧場です」

「トーラティカの王城と、アリディンバリスへの直通の手紙以外の使者の利用は禁じられています」

「おっとそうでした」

「お任せください、緊急事態です。私が行きますよ」

「いいんですか?」


サイモンは部屋から飛び出した。


――――――――――


「クローイ!あなたって人は!!!!」


トーラティカの王城では、明日の国王誕生会のために飾り付けが進んでいた。

そんな中、突然クローイが水槽を作ってエントランスを飾りたいと言い出したのだ。

水槽の中に水だけでなく、キラキラと光る粉を入れるように命令し、侍女が断ると自分でグリッター袋を持って、限界突破するまで投入した。

無事、水槽に入っていた魚は死滅し、それを救おうとした彼女も水槽に落ちた。

その時の衝撃で水槽そのものもぶち壊れエントランスはキラキラのびしょびしょ、細かいガラスの破片と魚の死体まみれになっている。

「クローイ様…」

「どうして…」

「ハァ」

そんな彼女はベッドに寝かされ、回復魔法と医療によるダブル治療を受けていた。

どうもグリッターの他に、危険な薬物が水の中に入っていたらしい。

水槽に落ちた彼女は所々皮膚が溶け、筋肉が露出し、肘などは直接白い骨が見えている。

「ほら、もう回復してきたじゃない。良かった良かった」


国王がため息をつきながら言った。

クローイと暮らしていると、こんな事は日常茶飯事だ。

自分の誕生日に毒ガスを撒いたこともあった。

「それで、あの水がかかった使用人たちは?」

「みな手当てしております。しかし、クローイ様の治療に魔法使いが集中しているため、王都から医者と回復魔法使いを集めており…」

「わかった。使用人は後回しでいい。とにかくクローイの回復を優先して」

「了解です」


さっさと自室へ戻っていく国王は、心配気に義理の妹を見る夫を引っぱった。

ついでに息子も引っ張っていく。

「見つめる鍋は煮えないってね」


――――――――――


自室で使用人に茶を入れさせ、国王は一息ついた。

フィリップはしょんぼりしている。

エントランスには貴族と王族から送られた誕生日プレゼントが飾られており、その中にはフィリップからの贈り物もあったのだ。

「(おじいさまのぬいぐるみが…)」


人を払ったのに、すぐ侍女が入ってくる。

「調査の結果をお伝えします。城に危険な薬物が置いてあったわけではございません」

「じゃあどうしてクローイがあんな目に?」

「清掃に使う、単体では危険性が低い洗剤があるのですが、それを混ぜてしまったことが原因だと思われます。清掃係はその事をクローイ様に伝えたそうなのですが…。さらに、水で1万倍に薄める濃度のものを大量投入したようで、その結果、タンパク質に効果抜群の溶解液が出来上がってしまった、と」

「それを聞いて安心した。王城に危険な毒物があったわけじゃないの?」

「はい。それどころか、2種類の洗剤は反発し合う容器に入れられて、物理的に近づけられないようになっていたのですが…」

「わかった。ありがとう、下がって」


侍女は部屋から出て行った。

王配であるフィリップの父が心配する。

「クローイ、大丈夫かな?」

国王は怠そうに話す。

「…あの子は大切な家族の一員。一員ではあるけど、もうそろそろ面倒を見切れなくなってきて…疲れた」

フィリップも肩を落とす。

「明日の誕生日パーティはどうなるんでしょう?」

「何も心配ない。大丈夫」

「(…おじいさまのぬいぐるみが)」


国王は姿勢を崩した。

「ここだけの話…お父さまじゃなく、妹が人質としてアリディンバリスへ行ってしまえばよかったのに」

「!?」

「もちろん貴族の反発を解消して、モルリヴァールを経由する迂回貿易を終わらせるためにも必要な事だったけど。ああ。お父さまじゃなきゃクローイをしかれない」


国王の手を王配がぎゅっと握った。

こういうボディタッチで何人もの男女を無意識のうちに誘惑してきたのだから罪な男だ。

あとシンプルに顔が良い。

「あなたがその役目を果たせばいい」

「姉の言う事には何でも反発する妹だもの」

「じゃあ…じゃあ…私がしかろう!」

「クローイが王城で一番舐めてるのはあなただから、無理」

「…もしかして温室の植物が定期的に全滅するのって…?」


フィリップはソファーから立ち上がった。

「お母さま!!!!!!!!それ!!!!!!!!!凄く良いと思います!!!!!!!!」

「ど、どどど、どうしたの?何が?」

「クローイ叔母さまをアリディンバリスになすり付けましょう!だって、向こうも面倒を見切れないレジナルドを押し付けて来たんです!」

「ああ、レジナルド様といえば」

「?」

「26日にあのデブと剣で対決するように」

「は?」

「お膳立てしてあげたんだから、絶対に勝つこと。勝って、身の程を弁えさせること。いい?」

「か、彼は剣術を習っていません」

「そんなことはあり得ないでしょう。王族なんだから。”上手くない”の言い換えで、習っていないと主張しているの。最低限の動きは身に着けているはず」

「それは…もしかしたらそうなのかもしれませんが…いえ、今その事はどうでもいいんです!とにかく、クローイ叔母さまをアリディンバリスに押し付けてしまいませんか?」

「どうやって?」

「まず手紙で交渉してみましょう」


母親は首を振った。

「お父さまが人生の最後にトーラティカから出て、アリディンバリスへ行ったことは有終の美、歴史の1ページ。ご本人の意思で行ったのだから、帰ってきてなんて頼めない。それに大臣や、お父さまを支持してくれている貴族たちも計画に関わっているのだし」

「発想の転換です。相手の国が信頼できないから、二重に人質を送ろうと提案してはどうですか?」

「!?」

「そうすれば、おじいさまは連れ戻させずとも、最悪クローイ叔母さまだけはサヨナラグッバイできます!」

「…」


――――――――――


「ヴァ~~~っ!!ムカつく、バーナビーのヤツ!!」


アリディンバリスではブレンダンが自分の部屋で騒いでいた。

剣術の練習で、いとこが思い切りブレンダンの剣を弾き飛ばしてきたのだ。

もちろんブレードに刃は無く、重量だけが実剣と同じ重さの模擬鉄剣ではあったが、それでも”真剣”勝負だった。

「これでは”今まで手加減してきた”と言うのも同じじゃないかぁ!!」

「約10歳もの歳の差があるんです。仕方ありませんよ」

「くそぉ…明日からもっとトレーニングするぞ!待てよ、それを口実に議会を休めるんじゃ…?いやダメだ!肝心の政治で差がついてしまうのはもっとダメだ。打つ手なしか!?」

「隙間時間に剣術の訓練をするしかございませんよ」

「剣を隙間時間に練習とか聞いたことないぞ!?単語の暗記じゃあるまいし!!」

「では入浴の時間を2時間から30分にするとか」

「それは嫌だ。ヘッドマッサージとフェイスマッサージとボディマッサージとフットマッサージを減らしたらストレスで死んでしまうからな」

「ハァ。同じタイミングでやらせればいいじゃないですか」

「脳が受け取る快楽情報が混線するだろ?無粋なヤツめ」


ブレンダンは従者を下がらせた。

「まったく。レジナルドじゃなくアイツが代わりに人質として送られれば良かったのに」


レジナルドは自分を引き立ててくれる最高の演者だった。

それに、問題児がいれば父の気も逸らせ、自分が叱られることも無い。

「帰ってきてくれ…頼む…そうだ、人質の交換を申し出るか。バーナビーが出て行けば丁度いい。王妹の息子なら他国では王位継承権があるらしいし、人質の地位としては充分だろう。それで弟をアリディンバリスへ戻すことができれば、レジナルドの私への忠心はより強いものなるだろうしな。いいぞ…!」


――――――――――


「持てますか?」

「やはり長剣は無理だ!」


マシューはレジナルドから剣を受け取る。

「両手で握る剣はかなりの修練を前提とするものです。そして剣をはじめとする大型の武器の長所は”間合いを取れる”事ですからね。相手より長い武器なら攻撃される前に攻撃できますし、スピアなんかもそうですが、結局は振り回すことが強いんです。鉄の重量が相手の体に当たればノーダメージではいられません。長剣相手には、長い獲物でないと」

「短剣は不利か」

「不利どころの話ではございませんよ。距離を詰めたら相手から蹴りを入れられます。腕を伸ばせば腕を斬られます。短剣は熟練者でようやくロングソードと戦えるレベルでしょう」

「バタフライナイフならなんとか…」

「…それを持って試合に臨まれた場合、勝ったとしても母国の名誉を汚すことになるかと」


パァン!と、静寂を一発の拍手が切り裂いた。

夕暮れの庭の暗闇から、ハインリヒが出てくる。

「………ケンカ………ですか………?」

「怖い」

「怖いですよ」

「………ケンカ………ですね………?」

「剣術の試合を喧嘩って言うな!一気に格が下がるだろう!?」


ハインリヒの周りにだけ黒いチリのようなゴミが舞っている。

「私はトーラティカ王国を愛し、王子様を敬愛しています。しかし…ケンカと”成れ”ば話は別」

「青年漫画みたいな変換してくるな?」

「ケンカ…それは、相手が油断をしていれば、ジャイアントキリングを起こせるものなのです」


マシューはうつむいた。

「殴り合いではございません」

「いいえ、刃のない模擬鉄剣でしょう?ブレードで肉は裂けない。ですね?」

「こ、怖い言い方をしないでください!まぁ、切ったりはできません」

「相手を〇す前提で無いものは、全てケンカです」

「…理屈はわかりました」

「致命傷になり得る目、鼻、口、耳は狙えない。レジナルド様はタッパがあって肉も厚い。防具は着けさせてもらえる………この条件なら、剣を掴みましょう」

「!?」

「!?」

「ブレードは研がれておらず、刃が無い」

「そ、そうですが…」

「なら合間を取って、とにかく相手の攻撃を避け続けましょう。剣を払ったあと素早く基本の構えに戻すのが剣術ですが、相手を舐め腐っていれば、振り下ろした剣の処理が遅い機会が必ずございます」

「フィリップは俺を舐め腐って…いるだろうなぁ~!!!!」

「もしくは、突いてきた場合」

「!」

「どちらの状況でも剣を掴み、脇と横腹に挟んでください。あるいは、剣の位置さえよければ脇に直接挟んでも良いです」


マシューは剣のグリップをレジナルドに向けた。

「どうやら、ハインリヒさんも本気で指導してくださるようですね…もう夕暮れですが、今から訓練しますか?」


レジナルドは剣を受け取り、不敵に微笑む。

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