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人質生活74日目

領地を没収された領主が、謝罪に直接王城を訪れていた。

調査に向かった貴族と兵士によれば、取り調べには積極的に応じ、やり取りした書面なども全て包み隠さず提出したという。

丸一日かけた話し合いの翌日、国王は議会であらかじめ決めておいた人事を発表する。

「領地没収の裁きを下す。領主には、私の妹であるチェルシーを当てる。チェルシーとその夫は、リトルトン家の領地を治める事、これを命令する。国王、そして王国議会の名において………」


仰々しいスクロールに主要大臣全員が署名し、一番下に国王のサインが走った。

ブレンダンはその決定に渋々拍手をする。

叔母のチェルシーの子供、つまりいとこはそのまま王城に残るので一安心ではあるのだが。

「彼がリトルトンの領地に行かないと聞いて安堵した。もし、監視の目の届かない遠い場所に行ってしまえば…何を企んでいても気付けなくなるからな」


後ろに控える従者が首を振る。

「心配ご無用です。領地没収の場合、法律で王族とそのパートナーが代わりの領主を務めると決まっておりますから。どうあがいてもいとこ様は関係してきませんよ」

「まあな。だが…油断してはならない。叔母さまもそうだし、問題はいとこだ」


30歳になるいとこはブレンダンがライバル視して追いかけてきた親戚だ。

年上なのもあるが、実際に魔法と剣術に優れており、賢く温かい人柄は周囲の使用人や同年代の貴族にも愛されている。

政治には近づけさせないようにしているものの、いつ牙をむいて来るのかと、勝手に用心しているのだ。

「だが、両親が遠い場所で暮らすとなると…今まで距離を取ってきたお父さまも、ある程度、彼を目にかけるようになるだろうな」

「それは当然そうでしょう。国王様は叔父であり、妹のチェルシー様ご夫妻からも息子を頼むと託されるわけですから」

「…変に情が湧かない事を祈ろう」


――――――――――


ブレンダンにはもうひとつ仕事があった。

弟のレジナルドからの手紙が届いたのだ。

「”…魔法学校創設は、アリディンバリスにとって素晴らしい判断だったと後世の世で称えられるだろう”か。どうやら、自身の財産が盗まれている事については、スルーして…貰えたんだろうか?」


王子と共に手紙を読んでいる使者と、エイデンは小さくうなずいた。

使者が話す。

「遠い地で人質生活を送っているのです。どれだけ気になっても、悔しくても、本人が動けないのだから致し方ないという状態でしょう」

元第一従者のエイデンが首を振る。

「レジナルド様の性格なら、脅してでも所有物をトーラティカへ送らせると思っておりましたが。やはり本人は亡くなっていて、誰かが代筆しているのでは?」

「うっ…正直そっちの方がありそうだな」


使者がそんなわけないと訂正する。

「いえいえ!間者からの報告によると、毎日乗馬やモグラとの交流を楽しまれているようで。ご存命ですよ!!」

「モグラとの交流!?」

「ええ。報告ママの表現になりますが…」

「モグラというのは間者、つまりスパイの事か?」

「いいえ、ダークブラウンの丸々太った円筒形のモグラだと」


ブレンダンとエイデンは爆笑した。

「それは親友同士になれるだろうな。ああ、とうとう話し相手が居なさ過ぎてモグラと会話するようになったのか」

「つ、ついうっかり笑ってしまいましたが、王子様。これは問題ですよ。そのような精神状況にあっては、発狂するのも時間の問題です」

「もうすでに発狂してるだろ。モグラとの交流を楽しんでいるんだぞ?」

「まあそうですね」


――――――――――


「速報だ!速報だよ!!領地没収!リトルトン一族が治める領地で、近隣の貴族と領土の売り買いがあった!新聞は500ゴールドだよ!領地没収!!500ゴールド!」


城下町では事前に情報を得ていた新聞屋が、稼ぎ時とばかりに新聞を売っていた。

市民も滅多に無い領地没収スキャンダルに興味を持っている。

「なんてことだ!アリディンバリス王国の土地を勝手に売り買いしたとは!」

「貴族様は税金で潤ってるだろ、なんでまた借金なんか…」

「へぇ~、領地没収は55年ぶりかぁ!55年前に領地没収された領主は特定の企業を優遇する代わりに、こっそり献金させて帳簿に記載せず、裏金を蓄えてたヤツらしいぞ!」

「………っ!!!!????」


ひとりの男性が、新聞売りの女性に食って掛かる。

「こ、この内容は間違っています!”売り買い”と書いてあるじゃないですか!私の故郷を治めるオカラガン様は、リトルトン家から土地の売買を提案され、これは大問題だと使者を飛ばして国に報告したんです。でも、これじゃまるでオカラガン家まで一緒になって犯罪に手を染めたみたいな書かれ方で…」

「おおっと…確認します」

「ぜひお願いします。訂正して、その部分がわかるように書かれている、新しい新聞を刷ってください」

「そうします」

「よろしくお願いしますよ!」

「これが全部売れたらね」


――――――――――


「かなり練習したの?調子いいじゃない」


小さなホールでピアノを弾くのは妹のイザベラ。

バイオリンを弾くのは姉のアデレートだ。

2人で久々に合わせて演奏してみたが、それなりに調子がいい。

教師の音楽家も褒めている。

「だって、ゾーフ国境沿いに泊まっていた時も練習してたから」

「へえ驚いた!一日中遊んでばかりと…」

「王城とは気分も変わって、のびのび練習できたの。何なら、いつもより集中して練習できたぐらい!」


教師はイザベラを褒めた。

どうやら休暇でリフレッシュ作戦は大成功だったようだ。

アデレートはちょっとだけ不服そうにしている。

「まあ確かに、環境を変えれば音楽に対する姿勢だって変わるから、それは理解できるけど。でも肝心の勉強は疎かになったんじゃない?」

「ええっ!?逆に夜は貴族との夕食会も無かったから勉強に励めたんだけど。円周率だって最後まで計算できたし、平面上の図形で4色以上使わないと塗り分けられない分割を発見したの!」


侍女たちは気まずそうに笑った。

教師の顔があからさまに曇る。

アデレートは言い返した。

「私はあなたが遊んでいる間、王国議会に参加して政治の勉強をしていたの。あと、正9面体と正10面体と正11面体を発見して、熱を加えると磁力が増す素材の磁石を開発したの!」

「お姉さまが真面目に王族らしく暮らしている間、私はジェフと遊んでいたの~」

「キィ~~~!!!!」

「おやめくださいお2人とも!!」


教師が叱りつけた。

「いいですか、音楽というのは心、心が弱くては良い演奏はできません」

「心が弱いって?」

「他人に影響されやすい、という事です」


イザベラとアデレートは互いの顔を見た。

「あなた方ご姉妹は、幸せも不幸も他人と比べる事でしか得られていませんでしょう。そのようにスカスカの感受性では、良い音楽を奏でられるはずがございません。心がスイスチーズでできていないのなら、もっと自然を愛し、動物を愛し、そして何より素晴らしい音楽に耳を傾ける事で………」


教師のお説教の間、姉妹は互いを睨みつけていた。

その時、小ホールの扉がノックされる。

「…あら、もう茶の時間でしょうか?」


侍女が開けるよりも早く、扉が押された。

「お、お父さま!?」

「どうしてここへ!?」

「どうしてって、私は国王なんだから自由に王城をうろつく権利があるだろう」


教師がフォローした。

「…それはそうなのですが。失礼申し上げますと、国王様は普段からお子様方の行動をあまり気にかけておられませんので。こうして楽器の授業を参観されることも初めてではないですか。急なことで驚いてしまいました」

「そう言われると気まずいな。というか実際にお前たちの事を気にかけて来たわけじゃないんだ」

「ハァ」

「お父さま…」


国王は扉の向こうにいる男性を手招きした。

「えっ…!?」

「どうしてバーナビーを連れて来たの?」


そこには水色の髪の、いかにも人畜無害そうないとこが立っていた。

頭の頂点に乗っている髪は短く整えられ、襟足からぐるっともみ上げまで一周、薄くカリカリに整えられている。

国王はふ~むという顔をした。

「話せば長くなるが…ええと?」

「領地没収があり、私の両親がリトルトン家領地を治めることになりました」

「ああ!短かったな。まあともかく、チェルシーたちはバーナビーを置いていくんだ」


アデレートは事態を知っているのでうなずいた。

イザベラは頭に?を浮かべている。

「一緒についていけばよかったのに」

「いや、単身かふうふ、どちらかだけで行く決まりになっている。子供は駄目だ。で、私と弟たちで面倒を見ようと思ってな」

「…なるほど」

「ちょうど部屋も空いているし、離宮ではなく本城に住まわせてやろうと考えている。いいよな?」


イザベラとアデレートは声をシンクロさせて驚いた。

「ええっ!?」


バーナビーの細い銀色のメガネフレームがチラチラと光を反射させる。

「よ、よろしくお願いします…」

「そんなにかしこまる事ないだろ、いとこ同士だ!」

「ちょっと待ってくださいお父さま!王城でも、ここは国王と直系の血族が住む場所のはずです。叔母さまと叔父さまが遠い地を治める事になったのは悲しいですが、それとこれとは話が違うでしょう!?」

「そうです、だって…だって、私たち王位継承権のある人物といとこは、距離を取って生活しなければならないと教えられてきたのに!」


国王は首を振った。

「お母さまが亡くなった時、どれだけ悲しかったのか。まさか忘れていないよな?」

「…!」

「…そ、それは…」

「両親のどちらかでも残っていればいいが、バーナビーの両親は2人とも去ってしまうんだ。だからしばらくの間、様子を見るために近くに置いてやりたい。これは国王としての仕事ではなく、チェルシーの兄としての行動だ」

「…でも、バーナビーって30歳じゃなかった?子ども扱いする歳じゃないでしょう?」

「こんなフワフワした甥っ子を放置しておけるほど人でなしではない」


フワフワと言われたバーナビーは”えっ!?”という顔をした。

「わ、私だって私なりに頑張っているのですが…」

バーナビーを無視して国王は喋る。

「それは逆だイザベラ。30にもなってこんなに頼りない人間は見たことが無いだろう?不安になる。だから傍に置いて、調子を崩さないか見てやるだけだ。それに、ずっと本城で暮らさせるわけじゃなく、ある程度時間が経てば離れに戻す」


イザベラとアデレートはそれを聞いて語調を弱めざる負えなかった。

「しばらくの間だけなら、いいのではないですか?」

「まぁ、ご両親が遠くへ行ってしまうという急な環境の変化には同情しますから…」

「さすが我が娘たち。心が広いな。じゃ、ブレンダンにも今の話を伝えておいてくれ」

「えっ!?流石に大切な話ですから、お父さまの口から直接お伝えに…!!」

「いやぁ、これからチェスで一戦交えようと思ってな!ほら、バーナビーは強いからなぁ~?」

「私はまだまだですよ。叔父さまのユニークな戦略にはいつも驚かされてばかりですし、今のところ戦績は引き訳じゃないですか」

「ワハハハハ!そうそう、バーナビーが勝ったら、その次のゲームでは私が本調子を取り戻して絶対に勝てるんだよなぁ~!!」

「ハハ…私はプレッシャーに弱くて、連勝がかかっていると思うと、つい良くない手を選んでしまうんです」

「…」

「…」


イザベラとアデレートは力なくお互いの顔を見た。


――――――――――


トーラティカの屋敷。

「まったく!セーラのヤツ、見せつけるように庭で障害競技のデモンストレーションをやるんだからなぁ…頭にくる!俺は自室謹慎中なんだぞ!あんなに楽しそうに馬に乗って………クソっ!」

「いやぁ、素晴らしい模範演技でしたね。やはりオービター牧場はトーラティカで一番の馬生産&訓練施設です。感動しちゃいました。レジナルド様は良いものを見せてもらったんですよ?」

「そう言われると反論できないが…」

「生産だけでなく、訓練のぬかりなしとくれば最強。その最強牧場からわざわざ直で指導を受けられているレジナルド様は…」

「最強の乗り手候補、って事か!?」

「そうでしょうね。明後日には謹慎も明けますから。また乗馬を頑張りましょう」

「うむ!」


昨日の雨とはうって変わり晴れ空のトーラティカの屋敷では、厩舎の建築が進んでいた。

同時進行で庭師が使う作業小屋と鳥小屋もどんどん造られていく。

「あ~あ。昨日の雨で本はいいだけ読んだしな」

「こういう時に楽器ができれば自室でも楽しく過ごせるんですよ」

「…もう俺のために演劇をやってくれる演者も居ないしな。楽器かぁ…!」

「ええ。私もいろんな楽器に浅く広く触れてきましたが…結局何も身に付きませんでした。冬になれば、再開してみるのもいいかと思っています」

「ちょっとずつ触って何も身に付いていないとは、貴族生活を絵にかいたようで笑ってしまうな。毎週入れ替わりで家庭教師が来たのだろう。ところで何の楽器を弾けるんだ?」

「ドラムならちょっとだけ」

「ナーロッパの貴族がドラムを習う事ってあるか????」

「兄はテルミンを習っていたので、よくセッションしていました」

「それはもう同空間で個別に演奏してるだけだろ。絶対に音が調和する事ないぞ?」

「え!?めちゃくちゃ合いましたよ!」

「どうせ基本的なリズムパターンしか叩けず、実質メトロノームだったんだろ?」

「エスパーやめてください!そうでしたけど!!バスドラムも踏めずに…」


――――――――――


アリディンバリス。

ロウトン家に叔父が尋ねて来た。

メリンダの母と父に、忍び込ませている使用人からの手紙を渡す。

「………ええっ、ワーグマンさんのお家、そんなに家族仲が悪かっただなんて…」


メリンダの父親も驚いている。

「普段から親しくさせていただいていますが、年に1、2回、互いを行き来するぐらいでは判らないものですね」

叔父は頷く。

「まぁな。しかし残念ながら、王城での盗みの話は出てきていないようだ。いや、残念ではないが…」

「…そうですか。メリンダと同じく、もしかしたらクリスティーナちゃんも何か関わっていたのではと勘繰ってしまって。申し訳ない気持ちで一杯です」

「仕方ない、今回に関してはタイミングが一緒だったからな。メリンダの死と関係がありそうなものだったが、全くの無関係とは。それにしても…王族との恋愛か。こりゃ大スキャンダルだ」


叔父は手紙を読み直す。

「ウチもメリンダが亡くなった事で悲しんでいたが、どうやら、どの家も苦労を抱えているらしいな」

「た、確かに…お会いした際のお話やお手紙で、良い素性の男性を紹介していただければ、という内容が多いなとは思っておりましたが。まさか、スカーレットちゃんの結婚で悩んでいたなんて。あんなに美人で領主の孫とくれば、王都に住んで夜会に顔を出したほうが早いでしょう?」

「これは噂だが、どうも母親が長女を気に入っているらしく、結婚しても領地を出ないように近隣で相手を探しているそうだ。まぁ噂ではあるが…本人の意向とそう変わらないんだろう」

「…クリスティーナちゃんがクリスタル・ミンク牧場の長男とデートの予定、とございますね」


父親が頭を押さえた。

「ああ、残念だ。メリンダが死んでいなかったら、いずれはワーグマンさんの家のように、恋人探しに奔走していたかもしれないのに」

「私たちの息子と娘には自由にさせてあげるって約束したじゃない…もうその約束も無意味なものになってしまったけど」


沈黙のうち、母は叔父に告げた。

「叔父さま、ワーグマン家に送っている侍女を引き上げてやってください。もう終わりにしましょう。怒りと困惑から、関係ないクリスティーナちゃんを疑ってしまいました」

「ああ。そうするよ。ところで…兄の事だが」

「!」

「一緒に食事をしないか?」

「この屋敷ででしょうか!」


叔父は眉を下げた。

「…いや、冒険者ギルドの隣のレストランでだ」


彼女の目から輝きが消えた。

一瞬でも、父が屋敷に戻ってきてくれるかもしれないと抱いた希望が消えたのだ。

叔父が言い繕う。

「しかし、子供の顔を見て、久々に話をすれば気が変わるかもしれないしな。試してみる価値はある、そうだろう?」

「…ええ。場を設けてくださって本当にありがとうございます」


実際、叔父はワーグマン家から使用人を帰らせる気はなかった。

そもそも使用人本人も給料がいいと乗り気だったし、隣の領地の情報が筒抜けになると考えればメリットは大きい。


――――――――――


「つまりな、鞘も作りたいんだ」

「なるほど。剣と鞘とはセットですものね」


レジナルドはサイモンを自室に招き、オモチャのさらなる改造の計画を立てていた。

「というか、鞘から引き抜いた時点で音が鳴ったらカッコよくないか?」

「!!」

「鞘に納める時に押されて、鞘から抜くときに浮くボタンのような部品をつけるだろ?」

「そのタイミングで風魔法の魔法石と回路を繋げれば…」


既に、風が通ればドレミファソラシドの音が出る管と魔法石は繋げてある。

後は回路を組み直すだけだ。

サイモンが提案する。

「風魔法の魔法石を2つ入れて、高いオクターブのドレミファソラシドも演奏できるようにしませんか?」

「…あのな、このオモチャ…いやもうオモチャと言ってしまっているが。このオモチャ、雑貨屋に売らせてみたくないか?」

「えっ!?かなり高くなると思うのですが、買う人が居ますかね…?」

「そう、この時点でカネがかかってるだろ?市販品にすることを妄想すると、魔法石はこれ以上入れられない」

「なるほど理解しました。今のままでやりましょう」


サイモンはレジナルドに頼み、光魔法に魔力を封じ込めさせる。

「雑貨屋が都合よく、光魔法と風魔法と水魔法を使える人間を工房で雇っていればいいですけどね」

「ん?」

「大量生産するには、魔法石に魔力を注がないといけないじゃないですか。今みたいに」

「おお、そんなものはカントリーハウスに持って来させろ。俺は超ラッキーな事に、5つの魔法を使えるんだ。タダで働くほど暇だしな」

「ハハ、レジナルド様は理解されていらっしゃらないんですね。魔法というのは魔力が尽きてしまえば回復するのに半日かかります。普通の人は魔法石ひとつ分の魔力しかございませんから、30個の魔法石に魔力を満たすなら一ヶ月はかかるんですよ。それに魔力が尽きたら体もダルくなります。貴族や王族の皆さまは全力で魔法を使ったり、魔法石にエネルギーを提供するなんて事しないのに。レジナルド様は働こうとされてるんですか?」

「働く気なんて毛頭ない。しかし俺は趣味になら全力を尽くす。それだけだ!」


サイモンは、頼もしいですねと笑いながら作業を続けた。


――――――――――


アリディンバリスの王城、ダイニングルーム。

夕食の場でブレンダンは天井を見上げた。

美しい天井画とシャンデリアに目を細める。

「その仕草は失礼じゃないかブレンダン?」


国王は息子を咎めた。

「いえ、首が痛くなって。ちょっとしたストレッチですよ」


隣りに座るバーナビーは優しく微笑んだ。

「やはり夕食の場にまで、私が顔を出すのは失礼では」

国王は否定した。

「何を言ってる!最低でも週に1回は貴族や人質、それに離れで暮らす親族を招いて食事をしているだろう。それが毎日になるだけだ」


ブレンダンは不服だったが、しばらくすれば離宮にいとこが戻されるだろう、と気持ちを落ち着かせた。

しかし、妹のアデレートははっきりと意見を口にするタイプだった。

「お父さま…」

「不満か?」

「ええ。だって………」

「だって?」

「うまく言い表せられないけど。とにかく、嫌なの」

「ハァ。慣れていないだけだ。すまないなバーナビー」

「いえ、アデレート様のお気持ちはごもっともです。私は文字通りの他人なので」


娘2人はため息をついた。

ブレンダンは話を逸らそうとする。

「そういえばお父さま。レジナルドの様子を伝えた間者の報告、お聞きになられましたか」

「ああ、驚いたな」

「モグラと会話しているらしく。まったく、ふざけていますよね?」


イザベラは噴き出した。

「えっ!?モグラと!?」

アデレートは呆れて目を半分にした。

「あのミュージカル、ある意味事実に基づいていたの?信じられない!」


きょうだい3人が笑ってバカにしあう中、父親が違うだろう、と会話に入ってきた。

「あいつ、魔法が使えるようになったんだったな。確か、そう報告があった」

「えっ…?」

「だから土魔法でモグラと会話していたんだろう」

ブレンダンは焦る。

自分がレジナルドに”おまえは魔法が使えないんだ”と吹き込んで来た苦労が、隣国へ行ったことで台無しになってしまった。

「いくつの魔法が使えるのでしょうね?」

「アデレートのところにまでまだ報告が行ってなかったな。5つの魔法すべてと、推測ではあるが回復魔法も使えるらしい」

「じゃあ、おばあさまと一緒…という訳ですか!?」

「そうなるな」

「…」


祖母ディヴィーナは名君としてアリディンバリスを発展させた。

その祖母と同じだけの魔力が無ければいいが、とブレンダンは震える。

「まあ、間者の報告は断片的なものだが。とりあえず動物と会話できる程度の魔法を使える事は間違いないだろう」


イザベラは気に食わないとスプーンを振り回す。

「私だって4つの魔法が使えるし、毎日…じゃないけど、魔法の勉強をしてるんだから!!」

「フフッ、下のお兄さまの事だから。どうせ魔法の訓練をする根気も無く、宝の持ち腐れでしょうね。ところでバーナビー、あなたっていくつの魔法が使えた?」

「私は3つです」


ブレンダンが体を反らした。

「貴族でも4つ魔法を使える者がそれなりに居るが。王族で3つとは」


後ろで待機している従者が咎める。

「王子様。使える魔法の種類と、魔力の強さ、魔法のレベルに関係はございません」


国王も無言でうなずき、ブレンダンは体を丸めた。


――――――――――


レジナルドはパジャマ姿のまま、新聞の切り抜きを読んでいた。

「”ダトでネタバレ禁止法案 成立”かぁ。ダトは小国だがいい国だ。文学と音楽のみやこだもんなぁ、ネタバレ禁止法案ぐらいあってもおかしくないだろう」

「それはどうでしょう…新聞には”古典のネタバレも禁止”とありますが、さすがに100年ぐらい経っている物語のネタバレぐらいいいのでは?」

「”主要キャラがAとBの2人いるが、実はAはBの妄想で、最初からBしか居なかった”タイプの話だとネタバレに刑罰を設けるのもわかるぞ」

「監視水晶玉にBしか映ってなくてハッとするタイプの話ですよね。とはいえ、そのどんでん返しは古典的過ぎませんか?」

「馬車の苦情修理受付業の主役が、石鹸商の男と友人になり、増えた仲間たちと地下室で殴り合う舞台でな…」

「あっ、今ネタバレしようとしましたよね????ここがダトなら最大10000ゴールドの罰金刑ですよ?」

「フライング刑罰やめろ!いい調停官になれないぞ!!!」


マシューとしょうもない会話をしながら、うーんと体を伸ばした。

そろそろ就寝の時間だ。

「自室謹慎はつまらないが、平和だな」

「平和が一番ですよ。さぁ、おやすみなさい」

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