人質生活72日目
午前中の乗馬を優雅に済ませ…スパルタ気味の丘登り&丘下りの3往復を指して優雅と呼べるのかどうかはともかく。
軽くシャワーを浴び、昼食を取り、フィリップ王子の訪問を待った。
「…来たぞ!」
馬車がポータルから、いつもの2頭立ての馬車が出てくる。
カントリーハウスの門をくぐって、上級使者を名乗るフィリップが降りてきた。
「やあやあ!みんなにお出迎えしてもらえるとは!」
「ようこそ上級使者様。お待ちしておりました。お荷物がかなりあるようですね。お手伝いを」
「いや、大切なものだからね。従者と僕で持つよ。さて…」
フィリップはすでに飾り付けられているガゼボに目をやる。
デコレーションの手間暇がかかっているのが遠目からでも判った。
意地悪く口角が吊り上がる。
「………今日は屋敷の中でお茶を飲むことにしよう」
「お天気も良く、過ごしやすい秋の午後なので是非…」
「僕が室内で過ごしたいと言ったらそれに従って!」
「了解しました」
「レジナルド様もいいね?」
「ああ。使用人にとっては手間になるかも知れないが…セットの移動を手伝おう」
ベヴァリーが前に出た。
「いえ、室内でのお茶をご希望された場合に備え、応接室にも同じ用意をしてございます」
「!?」
「おおっ、流石トーラティカ王国の使用人は仕事ができるな!」
「フン!」
レジナルトとフィリップはゲストルームに移動する。
テーブルは庭と同じぐらい華やかに飾り付けられていた。
それどころか切り花がテーブルだけでなく、チェアの近くにも生けられていて、庭以上に花の香りを感じられる工夫がされていた。
「なんという華やかなティータイムの席だ!」
「…思ったよりしっかり仕事をしているようだね。ここまで贅沢にもてなさなくてもいいけど」
テーブルの上には金色のワイヤーで作られた王冠を模した花カゴが置かれ、中から大輪の秋バラがこぼれるほど顔を出している。
執事のハインリヒはテーブルに菓子をのせ、着席を促した。
「さて、お座りください。従者の方もどうぞ」
「立たせておけ」
「では、こちらの小テーブルで失礼させていただきます」
小さな丸テーブルにも半球のブーケが置かれ、美しいテーブルクロスがかけられている。
「これはどうも」
「本日のお茶はバラで香りづけされた紅茶でございます」
「ああ、甘い香りがいいね」
ある程度カップに口を付けると、レジナルトがじれったそうにレザートランクを指さした。
「上級使者様。これが最後で良い。俺のリングを見せてくれ」
「…」
手の動きだけで従者に指示を出し、テーブルにトランクを置かせる。
ビルが素早くテーブル中央の花カゴや装飾品をサービスワゴンに下げた。
「町の装身具店に作らせても、やっぱりアリディンバリスのジュエリー職人に作らせた品のほうに思い入れがあるみたいだね?」
「どちらの指輪にも思い入れはある。別のエピソードがあるのだから、どちらも大切だ」
「正直じゃないね。思い入れがあるなら、装身具店で作らせているリングを5個でも10個でも買えばいいじゃないか?価値は同じなんだろう?」
「価値はそれぞれ違う。もっとも装身具店で指輪を買い足すつもりだったから、予算を使わせてくれるのならそれはありがたいが」
フィリップはひと笑いした。
そう言いながらも、本物を見せれば泣きついて返してくれと言うに決まっている。
「ほら、これだよ」
「良く見せてくれ」
ライトパープルのハンカチの上に”コットンキャンディ花が埋め込まれていないリング”が置かれる。それをフィリップはテーブルの中央に置いた。
レジナルドが手を伸ばし、ハンカチごとリングを取る。
「指にはめても?」
「どうぞどうぞ」
レジナルドは未練がましくリングを指にはめたりはずしたりしている。
クルクルと回して日光に当て、水晶の中に封じ込められた砂糖の結晶の様子も見る。
「…まだサイズが俺の指の太さだ。上級使者様はサイズ直しもされていないようだな?」
「ハハハ!いずれ、そのうちね。いや待てよ、サイズを直させたら工房のサインが消えてしまうじゃないか。そんな勿体ない事はしたくない。やっぱり、そのサイズのままにしておこう」
「そうか。やはり、あまり気にかけてくれていないのだな」
「ああ、正直、元々アクセサリーにそこまで興味があるわけじゃなくてね」
フィリップに言葉を返さないまま、レジナルドはリングを手元でいじっている。
「おいおい、そんなにこねくり回してないで、そろそろ返してくれないか?」
「わかった。見せてくれてありがとう、感謝する」
「…」
レジナルドは指輪をハンカチの上に置き、テーブルの中央に置いた。
「…ずいぶん聞き分けがいいじゃないか?」
「これが見納めだろう。あまりモノに執着しても、人生は幸せにならないからな」
「笑わせないでくれよ、18歳のセリフとは思えないなぁ?国の予算で好き放題買い物してたアリディンバリスの第二王子はどこへ行ってしまったのやら!民から信頼を得ることができなくても、カネさえ使えば宝石商や貴金属職人からは支持されるからなぁ?」
マシューがたしなめる。
「上級使者様!今のお言葉、見過ごせません」
「冗談だよ冗談、まさか侮辱に当たるわけでもあるまいし、なぁ?同年代なんだから、ちょっとぐらい砕けた会話をしたっていいだろう?」
「…ああ。上級使者様の心が広いからこそ、俺の願いを聞き入れて、再びこの指輪と再開させてくれたのだ。感謝しかない」
「フフッ、そんなにかしこまらなくてもいいのに」
フィリップは予想と違い、あっさり指輪を手放し、感謝の言葉まできっちり述べるレジナルドに驚いた。
「…もういいのかい?」
「そろそろ返してくれと言ったのはそちらじゃないか」
「まあね…」
泣きつかれる妄想までしてワクワクしていたのに、これでは肩透かしだ。
しかし、フィリップには隠し玉があった。
「話は変わるけど。今、貴族や王族の間でミニ馬車っていう模型が流行ってるんだ」
「ああ、上級使者様がくれた新聞の切り抜きにそうあったな」
「…あっ、そうだっけ?と、ともかく。ミニ馬車キットっていうのがあって、もう切り抜かれている木のパーツが入っていて、それを組み立て、塗装して自分だけの馬車が作れるんだ!それは知らなかっただろう?」
「ほう」
「それが…これだ!!!!!」
改造レザートランクは斜めに開くようになっており、2段がいっぺんに見える設計だ。
そこにはフィリップ渾身のミニ馬車が4台入っていた。
「凄いだろう!手に取ってよく見るといいよ」
「おお~っ!!確かにこれは凄いなぁ!拝見させていただこう」
「ふっふっふ…!まだあるんだ。おい、そっちのトランクも出せ!」
従者がトランクを開けると、これまた丁寧に作られたミニ馬車キットが出てきた。
「素晴らしいなぁ~!この台数を作ると考えると、相当な日数がかかっただろう!」
「まあね。手に取ってよく見なよ」
「誰か、サイモンを呼んできてくれ!」
「?」
フィリップは使用人を呼ぶレジナルドの意図がわからないでいる。
「ふむふむ、塗装が丁寧だな。同じ雑貨屋で売っている塗装セットを使ったのか?」
「うん、ペンキが少量ずつ入っているから便利だったよ。それにステッカーも作ったんだ」
「へえ~。ちゃんと左右対称じゃないか」
「当たり前だろ!ステッカーは転写紙を使ってコピーした後、裏面に接着剤を塗って同じ場所に貼りつけたんだ。定規を使って、数ミリの誤差も無いように貼りつけたんだぞ!」
「手が込んでいるな」
「ふふっ、作りたくなってももう遅いよ!工房から雑貨屋に納品される分は、僕が全部買い占めてるんだ!友達にしか回してないからね。いくら欲しがっても買えないなんて、残念!」
「飛ぶように売れていると聞いてはいたが、そういう事だったのか。これは嬉しいな。やはり、上流階級の人間の間で流行することがバズのコツだからな」
「…それってどういう意味?」
使用人のサイモンが応接間の扉をノックし、入室する。
「失礼いたします。…お、おおおお!!!!」
「凄いよな?」
「す、凄いクオリティです!」
驚き方でピンときたフィリップはたずねる。
「なるほど、使用人はすでにミニ馬車キットのファンだったのか。じゃ、僕の作品の素晴らしさがわかるよね?どれだけ精密に作ってあるか伝わる?」
「ええ、もちろんですよ!ここまで愛情たっぷりに作っていただけて嬉しいです」
レジナルドも同意した。
「俺が作ったのは素組みまでだったからな。色塗りは根気と手先の器用さが必要だからどうも向かない」
「えっ…そ、そう?レジナルド様ももう作ったことがあったんだ?まあそれもそうか、だってタフタフリッチの街の雑貨屋が扱っているわけだし。すでに買って遊んでいてもおかしくないか………おいおい、予算利用申請書にミニ馬車キットの項目はなかったぞ!?嘘をつき、別の予算名目で申請したのか!?それともまさか、雑貨屋に無理やり献上させたわけじゃないだろうな!?」
「いや、俺たちがミニ馬車キットを作ったんだ。なぁ?」
「は?」
サイモンは複雑そうな表情をする。
「まぁ…その前に5万ゴールドもするコンター・リージョンズのミニ馬車をねだって…」
「そ、それはちゃんと活用しただろう!!!???」
「活用というか、図面を作るために解体しちゃったじゃないですか。接着剤の付いているパーツを剥がしたからかなりダメージを負ってしまい、未だに元に戻せないままですし…地味に心が痛みますよ」
「待て待て待て待て!!!!何の話をしているんだ!?」
レジナルドとサイモンは話す。
「この手先の器用な使用人がミニ馬車キットを作り、それをタフタフリッチの雑貨屋が販売しているんだ」
「ええ、でも企画・アイディアはレジナルド様です」
「……………そ、そんな」
「雑貨屋に行って聞いてみろ」
「な、なんでそんな出しゃばった真似をしたんだ!」
「出しゃばるとはなんだ出しゃばるとは!上級使者様だってミニチュアの模型が好きだろう?俺は好きだ。その模型を、切り出した木材のまま売ってみてはどうだと提案しただけだ。実際に設計書を作ってパーツの形や大きさを考えたり、組み立て説明書を作ったりしたのは彼だ!俺は手を動かしてないぞ!」
「ひ、人質のクセに、そんな…」
「お待ちください!」
マシューが割り込む。
「上級使者様、嘘はついてございません。もし宰相の前に出て確かめさせろというなら従います。誓って、この使用人サイモンが製作し、雑貨屋がそれを採用しただけで、レジナルド様は…こう…」
ピキピキと音が聞こえてきそうなぐらいフィリップは怒っている。
めちゃくちゃハマっている趣味の発案人が大嫌いな他国の王族とは、彼にとっては最低のどんでん返しだ。
「こう、何だ?」
「こ、こう…”自分で組み立てられるミニな馬車がキットとして存在すればいいのになぁ~”と呟いただけですので…」
「そうです!そうなんです!!」
空気を呼んでサイモンも同意した。
「私はレジナルド様のひとりごとを聞いて、それを形にしたまでで。当然、ひとりごとの…言い主?言い主であるレジナルド様には最初に組み立てていただきましたが、逆に言えばそれっきりで、レジナルド様は雑貨屋がきちんと製品にしたキットを組み立てたことはございません。そうでしょう?」「あっ、そうだなぁ。言われてみれば、雑貨屋が工房に作らせた完成品はまだ見てないぞ。今度町で買って来てくれ」
「ダメだ!!!!!!」
「!?」
「雑貨屋にも命令するが。今後、ミニ馬車…いや、他の商品も販売させないように命令する!いいか使用人ども、二度と雑貨屋を使うな!!」
「ええっ!?」
余りの暴挙に従者も前へ出る。
「上級使者様、雑貨屋は紙やインクなど、日々の業務に必要不可欠な日用品を置くところです!」
ハインリヒも頭を下げた。
「このカントリーハウスは下町と持ちつ持たれつで長年運営されて来たと聞きます。王都へ買い出しへ行くと丸一日かかってしまい、業務に支障が出るのが予想されます。どうか、雑貨屋で買い物をさせてください。洗剤やほうきなどの掃除道具も雑貨屋頼みなんです」
「ダメだ!!」
「そ、そんな!」
困惑する使用人たちを見て、レジナルドはフィリップに謝罪した。
「すまなかった。謝罪させてほしい。上級使者様を不快にさせてしまった事、申し訳なく思う。その罰として、俺は今後、雑貨屋で買い物しない。どうか屋敷の仕事に影響が出ないよう、使用人たちは許してやってくれ。日々の個人的な買い物もあるだろう」
「…」
フィリップは無言のまま従者を見た。
コクコクと小さくうなずいており、ここで引かなければ大ごとになると彼本人も頭の片隅で思ってはいる。
「…フン!仕方ない、使用人は許そう」
ホッと安堵のため息が聞こえてきそうな部屋の空気だ。
「しかしレジナルド様。あなたは自分で”雑貨屋で買い物をしない”と言った。これについてはどうだろう?」
「俺は自分の言ったことは最大限守る」
従者がフィリップの肩を掴んだ。
「いけません、どんな人質にも身の回りの品を購入する権利は認められています!」
「黙れ!!!!例外だ!!!!」
レジナルドは隣に居るサイモンに言った。
「便箋と封筒を持ってきてくれ。紙とペンを買い与えていただけなくなったので、アリディンバリスから届けてもらうようにしなければ」
「…っっっ!!!!」
今度はマシューがレジナルドの肩を掴み、止めた。
「挑発はおやめください!ご自分の立場が悪くなると想像できませんか!?」
「俺は自分の言ったことを最大限守ろうとしているだけだ。おっと、整髪料も忘れずに頼もう。そういえばトーラティカの先王様は我が国でどれほど快適に過ごされていらっしゃるだろうか?」
ドン!とフィリップがテーブルを叩いた。
冷めきったティーカップの中身が揺れる。
「…わかった。言い過ぎたようだ。こちらも謝罪して…雑貨屋での買い物を以前通り許可しよう」
「それは助かる。物理的にな?」
「…っ!しかし、ミニ馬車キットの購入は禁止する!!!!!!」
「禁止も何も、上級使者様とそのご友人で買い占められているのなら、どうやって手にすればいいんだ?」
フィリップがプレートを持とうとしたのを従者が弾き飛ばし、阻止した。
床にぶつかってライトブルーとホワイトの美しい皿が割れる。
従者の顔は険しい。
「万が一、人質に危害を加えてみてください。トーラティカの国そのものが国際社会の笑い者になるんですよ!?」
「………クソッ!!!!本当にっ…腹が立つ!!!!バカが!!!!王城で暮らせず、丘の上の小さな屋敷に追いやられているくせに、態度だけは一人前で………」
従者がフィリップの体をぐいっと引き寄せ、正気を取り戻させるように揺さぶった。
「………か、帰るぞ!!!!」
フィリップは何も持たず、サーブのために立っていた使用人を突き飛ばすように部屋から出て行った。
従者は慌ててテーブルの上のレザートランクを閉め、運ぶ。
ハインリヒもアクセサリーの入ったレザートランクを閉めて運ぶ手伝いをした。
「まったく、コットンキャンディ花が埋め込まれていないリングを持って行こうとする素振りすら見せないとはな!」
「レジナルド様!」
「うっ…」
「お部屋に戻っていてください」
「だ、だって、買い言葉に売り言葉だろう!」
「お・部・屋・に・戻っ・て・ください!!!!!!!」
レジナルドはマシューの言葉に従う。
自室の窓からは大声で喚き散らすフィリップと、彼を馬車に押し込む従者が見えた。
――――――――――
レジナルドはモグラを撫でながら、本来の茶の時間でチャージできなかったカフェインを摂取する。
「ごめんて」
「ハァ…」
フィリップは王城へ帰ったが、別の問題が彼の前にあった。
「あの人は我がトーラティカの国王様の息子、つまり王子様なのです。ご存じで?」
「…」
「喋ってください」
「存じ上げておりましたぁ」
「よろしい。彼に対して無礼な態度を取るという事は、トーラティカの国に対して…」
「人質にも権利がある」
「そ、それは…」
「紙を取り上げようとしたな?インクとペンもか?まさか手紙を書かせまいと…」
「ぜ、絶対にそれはあり得ません、絶対に!ですが…怒りに我を忘れ、あのような…」
マシューは口ごもり、茶を飲んだ。
「で?俺は自室謹慎か?」
「何日ぐらいがよろしいでしょう」
「本人に聞くな!」
「3日程が一般的かと」
「嘘だろ~~~~~~~~~!?!?!?」
「今すぐ王城に手紙を書きましょう。私はあなたを3日間の自室謹慎にしたと報告します。あなたが書くのは反省文ですよ」
「チッ…アリディンバリスの家庭教師と何ら変わりないじゃないか!!集団学習の教師ですら反省文なんてめったに書かせないだろう!」
「あの人たちはメチャクチャ反省文を書かせますよ?あと兵士教育の現場でも反省文は書かされまくるそうです」
「くそぉ…絶対に滅びたほうがいいだろこの習慣!」
――――――――――
げっそりしたレジナルドは震える手で便箋をマシューに手渡した。
「これでどうだ…頭脳労働のしすぎで1kgぐらい体重が減ったぞ!」
「反省文を一枚書くだけで頭脳労働とは。脳みそが聞いて呆れますよ」
「何だと!?俺の脳みそは自分で自分を褒めると思う。決して自身の出力したプロダクトに呆れたりはしない。そういう自尊心を持った脳みそなんだ!」
「もうよくわかりませんね。とにかく、日が沈みつつあります。使者に手紙を託しましょう」
秋の夕暮れは早い。
使者はどうしようもない報告書と謝罪文を受け取り、王城へ馬を走らせた。
――――――――――
午後の議会もぼちぼち終わった時間。
フィリップ王子、その護衛である従者は共に宰相の執務室に居た。
宰相は空腹に耐えかねて、夕食前に菓子をつまんでいる。
「お聞きしました」
「頼む…お母さまにスニッチしないでくれぇ~~~!!!!」
「もう限界です。使者の役目から降りていただきたい」
「そ、そんな…」
「すべて私のところに情報は入っております。まず…」
宰相はフィリップ王子のやらかしをひとつひとつ並べていった。
「カントリーハウスの馬を傷つけ、ご自身は落馬したように装いましたね?」
「あ、あれは本当に落馬…し…」
宰相の前で嘘をつくことは不可能だった。
彼のユニークスキルは、相手が言っている事が嘘か真実かわかるという魔法だからだ。
「落馬…したんだ…レジナルドの馬が大暴れして、それで、私の乗っていた馬も驚いて…」
「嘘です」
「ぐぅっ…!」
「何度でもお聞きしましょう。落馬したように装いましたね?」
「…ああ」
「さらにその後、レジナルド様の私物を勝手に接収しました」
「と、取り上げた訳じゃない!預かってただけなんだ!一時的に…」
「嘘です」
「………!」
「一番の問題はその後です。転生させ女神様の像を…」
フィリップは取り乱した。
「あ、あれは転生させ女神様から直接お叱りを受けた!だからもういいじゃないか!」
「反省しておりますか?」
「もちろんだ!だから、レジナルドに所有物を返還した。ちゃんと間違いを認め、過ちを正す行為をした!それでいいだろう!!」
「そして今回は…」
フィリップは隣に立つ従者をキッ!と睨みつけた。
従者は眉を下げ、居心地悪そうに首をすくめる。
「申し訳ございません、お許しください。報告をしないわけにはいかず…」
「スニッチ野郎め!!!!」
「ゴホン!!!!」
宰相の方にフィリップは向き直す。
「…お母さまに告げ口するなと申されましたね?」
「ああ。それだけは、頼む!」
「ならもうレジナルド様に関わるのを止してください。本来の使者はあなたの隣に居るその人なのです」
「で、でも…」
「同じ王族、気になりますよね。が、20歳も過ぎ、毎日剣と魔法と乗馬の訓練に、勉強、議会への出席とやるべき事は山積みです」
「…」
「息抜きも兼ねて人質をからかいたいというのも理解できますが、イジメるのならもっと国の利害と関係ない人物にしていただきたいですね。どうでしょう?」
「あ、ああ…」
「同年代の貴族の中に愚鈍な人物は居ませんか?それを友達とからかわれてみては?」
フィリップは使者を演じるのを辞める、と約束して部屋から出て行った。
――――――――――
夜。
部屋は暗く、もう寝る時間だ。
パジャマ姿のレジナルドは、”コットンキャンディ花が埋め込まれていないリング”を親指と人差し指で挟み、クルクルと回して見ている。
フィリップと話している最中に、トーラティカで作らせたリングとすり替えたのだ。
「もちろん装身具店の店主、それに違法改造ミルクセパレーターを作ってくれた金物屋、シェフにコック、マシューにハインリヒ。あのリングに関わってくれたみんなへの感謝の気持ちは大いにある。あるにはあるが…」
リングを宙に放り投げ、パシッと握った。
「それはそれ、コレはコレ」
実際に指にはめて見ると、リングが緩くてすぐに落ちてしまう。
「痩せたなぁ」
モグラは大きの手のひらを見せた。
レジナルドはしゃがみ、世界一床から近い場所でハイファイブをキメる。




