人質生活71日目
トーラティカの先王から久々に手紙が届いた。
王城では議員、国王が集まり、宰相が文を読み上げる…前に、複製された手紙が配布された。
「驚きの内容です。文章を各自お読みください」
魔物の出現に怯えなくてよい場所に作られた王城は最高だ!ところで、
法律は守っているか?法律はトーラティカの宝だ。常に磨き、鍛えよ。
学ぶことでしか知識は得られないからな~。特に孫のフィリップ、
校正をさせてから手紙でも何でも送るように。誤字脱字があって恥ずかしい
をもいをした事が昔あった。今、それを思い出しながらこの手紙を書いている。
作ってくれるならクッキーはクッキーでもチョコチャンククッキーがいい!
れもん だいすき
「こ、これは!?」
「もうお気づきですね、みなさん?」
「チョコチャンククッキー、私も大好きです」
「私も」
「私もです」
「縦読みになってるんですよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
宰相の言葉に議員たちが慌てて手紙を読み直す。
「魔、法、学、校、を、作、れ!?」
「間者から報告も上がってきています。どうやら、アリディンバリスでは魔法学校を建設する計画が持ち上がっているようで」
「我が国にはすでに魔法学校があるではございませんか」
「ええ、ここに居らっしゃる皆さまの中には魔法学校で経営や政治を学ばれた方も多いでしょう。ところで…魔法は学ばれましたか?」
「基礎教養の授業で」
「それだけでしょう?」
「まさか!」
「そうです、この手紙にある”魔法学校”とは、魔法に主体を置き、学び研究する施設のことを指すのではないでしょうか?」
議会はざわついた。
国王はふむ、という顔で話を聞いている。
議員の発言が続く。
「我々は魔力に溢れ、魔法と共に暮らしています。今更それを学ぶなど、歩き方や眠り方を研究するようなものでは!?」
「それに、家庭教師として活動している魔法使いはどうなるのですか?」
宰相も資料をパラパラとめくった。
「それに関しましては…そうですねぇ…」
貴族の議員たちは否定の言葉を口にする。
「突飛な話です」
「平民でも魔法が使え者は多く居るのに、それをあらためて…魔法学校ですって?」
「それより、兵士たちを訓練する学校を作った方がメリットがあるでしょう」
「兵士の訓練校はすでにございます」
「魔法兵の話です。魔法使いは国家防衛の要、どれだけ養成しても足りませんよ」
「その施設を魔法学校と呼ぶのでは?」
議論は盛り上がる。
国王は、その話を前向きに検討するように、と指示して午前中の議論から退出した。
――――――――――
同じくトーラティカの、こちらはカントリーハウス。
「良かったなぁ~エピオルニス!」
しっかりと基礎から始まり、柱を建ててもらい、立派な鳥小屋の構造が組みあがっていた。
屋根こそ斜めの片流れ屋根だが、馬係は修理がしやすいと喜んでいる。
「屋根貼りとレンガ壁はこれからですが、鳥1匹には大きい小屋になりますね」
「まあ、大きい鳥だからな」
「それはそうですが…」
にっこり微笑むエピオルニスは高さ3メートルあり、普通の小屋では天井が低すぎる。
小屋には庭係の物置きも併設される予定なので、傍目には本当に人が住む一軒家に見えるだろう。
庭係もニコニコだ。
「嬉しいです。これが完成したら古いほうの物置きは取り壊していただくので、結果的に屋敷の庭が広くなりますよ!」
「2階建ての物置とは恐れ入ったな」
「庭師の仕事の半分は道具の管理という言葉もございます」
マシューが感慨深そうに話す。
「それにしても、改修が必要なタイミングで落雷が落ちてくれて…もちろん一歩間違えれば大変な事故になっていたでしょうが。それにしても鳥小屋、古びた物置、そしてボロボロの厩舎という3つの問題がいっぺんに解決してしましましたね」
レジナルトは厩舎が燃えなくて本当に良かったとうなずいた。
たまに落雷で牛舎や豚舎が火事になった話も聞くので、やはり火は怖い。
「立派な造りで気にしていなかったのだが、ここの屋敷そのものは建ってどれぐらい経つんだ?」
「もうちょっとで100年だそうですが、屋根の断熱材の入れ替えなどの改修はちょこちょこ行われておりますし、窓枠の交換に、そうそう、レンガも大きく割れたり欠けたりしていれば交換されますからね。あと1000年は住めますでしょう」
「壁や床に張られている木材などは新品のようだぞ?直したばかりなのか?」
「まあ、王族が休暇で来る屋敷ですから」
「そうだよなぁ…家財道具も重厚感があり、非凡な装飾が施されていると日々感じている」
「王城ではございませんが、カントリーハウスでの暮らしもなかなかリッチだとは思いませんか?」
「ワハハ!そう思う。いつも感謝しているぞ」
職人が村からレンガを運んできたのでエピオルニスを厩舎に戻し、部屋の中から見守ることにした。
いつの間にかモグラも足元にやってくる。
「あれは何をしているんだ?」
「モルタルを混ぜているんですよ。レンガは素組みじゃ弱いですからね。間にモルタルを塗って、接着剤のようにレンガ同士をくっつけるんです」
「へえ…今度はデカい石を確認しているのか?」
「水平を取っているんでしょう」
村から運んできたブロック状の基礎の上に、床になるレンガを敷き詰めていく。
「丁寧な仕事だな。あれなら寒さも暑さも地面から登ってはくるまい」
「ええ。床だけでなく、レンガの壁なら隙間風も直射日光も防いでくれますよ。最強の断熱材です」
「”火を消した後もしばらくは暖炉が暖かい”と聞くが、あれはレンガのおかげだそうじゃないか」
「そうですよ、熱がレンガに移っていて、時間をかけながらジワジワそれを放出してくれるんです………”と聞くが”って?あっ、王族だから数時間ごとに使用人が部屋に入ってきて、暖炉に薪を足してくれるんですね?」
「うむ。冬に寝室の火が絶えることは無いぞ。もっとも寒さが厳しくなる頃には避寒地へ移動しているから真の寒さを知らずにいるがな。ワハハ!」
「王城を守る貴族や使用人は、朝、震えながら起きるているというのにっ…!」
「ごめんな?」
「レジナルド様には自前の暖房があるから避寒なんてしなくてもよろしいでしょう?」
「脂肪の事を暖房と呼ぶのは止めろ!というかなぁ、脂肪って筋肉に比べて冷たいんだぞ?ヒンヤリしている」
「ならどうして常に汗をかいているんですか?」
「クビな?」
「クビに汗をかいてあせもになる?」
「解雇だ解雇!!!!」
厩舎の建て替えは着実に進んでいる。
――――――――――
「まさか、おじい様がアリディンバリスの政治に影響されるなんて…」
フィリップはショックを受けていた。
祖父のような偉大な国王が”魔法学校を作れ”と命じるのだから、それは必要な施策なのだろう。
しかし、先にアリディンバリスが手を付け、さらにそのアイディアを真似たとあれば格好が悪い。
実行したいが実行したくない、という意味不明なジレンマに挟まれていた。
「ですが王子様。別にアリディンバリスが発明した画期的な政策などではなく、すでに世界中の国に魔法学校は存在しているのです。ただの後追いですよ」
「なら、我々は後追いの後追いをしなくちゃならないんだぞ!?」
従者は目線を逸らした。
「我が国は貴族はもちろん、平民ですらなんらかの魔法の素養がある者が殆どです。トーラティカのように恵まれた国では、魔法学校は必要ございませんよ」
「でも、アリディンバリスに本格的な魔法学校があるのに、トーラティカにないというのは…」
「劣っているように思える、と?」
「だ、だがしかし、そうじゃないのか?」
「兵士も貴族出身の者で固めておりますから、ほとんどが魔法を使えます。貴族の中でも優秀な者は魔法使いとして王城で働いているのに、何がご不満でなのしょう?各領地でも積極的に魔法の力のある者の雇用を進めているはずです。わざわざ予算をかけて学校など…」
「でも…でも…隣国にあるモノが我が国に無いと、格好悪いじゃないか!」
「オモチャじゃあるまいし、そんな簡単に作れませんよ」
――――――――――
「まずはオモチャのような簡素な施設で良いんです」
「ふむ…」
「とりあえずやってみて、その後改善していきましょう!」
「スタートアップ魔法学校か?」
「急成長を重視しています。まずは予算を引っぱってこない事には何とも」
「サッと出せるのは1億ゴールドぐらいだな」
「1億!?上物どころか整地代にもなりませんよ????」
アリディンバリス。
ハーパーは予算担当の大臣と会話していた。
大臣は目玉をぐるりと回し、呆れたような物言いをする。
「ああ。魔法学校に隣接する資料保存館…物置きの立派なヤツだろうが。そこには国王様が100億ぐらいかけて立派な物を作れと」
「笑」
「笑ってる場合じゃないんだ。俺たち貴族がかき集めた税金がドブの公共事業に吸われて消えていくんだぞ!?」
「逆に笑うしかないでしょう」
「それはそう」
議論は全く深まらない。
ハーパーはとにかく土地の決定を先に済ませたかった。
「ネイ家の領地に丁度いい場所があるんですよぉ」
「お宅のフルネームは?」
「ハーパー・ネイです…」
「あのさぁ~~~~~~~~~~~~!!!!」
「待って違うの!!!!魔法石を採掘した後の、ただっぴろい荒野があって…別に領地にお金を落としたいわけじゃなく、本当に適した用地が先にあって、というか候補地の中で一番いいのがそこなんです!!評価シートもあります、いや、今はないけど予算審議の日までにはクリエイトしてきます!!!!」
「ああ、ネイ家といえば………」
大臣の頭の中に、ほじくり返された山々と谷、木も生えていない丘陵が思い出される。
「…散々土魔法でくり抜かれた、あの…いや…地獄のような荒れ地だった記憶が!?!?」
「逆に、土地の使い道が無いでしょう?学校でも建てるしかないですよ!」
「う~ん…普通、魔法学校って聞いたら、こう、イメージされるのは緑や水が豊かな自然の中じゃ…」
「あの辺りは魔法石の採掘の影響で突然変異したモンスターも多いから、学生に狩らせれば一石二鳥ですし」
「笑」
「おおいに笑ってください」
「笑ってる場合じゃないんだ」
「それはそう」
結局、最低のアイディアが出た。
「入学取り消し&退学になってもキャンセル不可の寄付金を入学生のペアレントさんに支払ってもらいましょう」
「地獄のアイディアだがそれにすがるぐらいしか無いなぁ。いくらぐらいが現実的だろうか?」
「1000万ゴールド…」
「…ギリ払えそうな貴族は居るだろうが、まぁ、もう少し下げても…」
「いえ、まだまだアイディアはあるんです。貴族だけでなく、平民からも募集しましょう」
「!?」
「正直、ヘタな貴族よりはよっぽど商人の方がゴールドを保有していますからね。それにビジネスをやっている平民のガッツは異常です。お子様たちにもその根性は受け継がれており、きっと質の悪い環境に文句を言わず、黙々とカリキュラムに沿って勉学に励んでくださるかと…」
「けどなぁ、初年度は絶対に10億欲しくないか?まずは学校を建築しない事には話が始まらないだろ?やはり議会で議題として取り上げて、粘り強く予算交渉を…」
「それも考えがございます。とにかく、まず、土地を決定、土地を決定、土地を決定してしまいたい!!というわけで来年の開校を目指し、計画を進めていきたいと思います!」
「あと1年後!?そんなの無理に決まって…ちょっと待てよ、まだシラバスだって何も検討してないんじゃ?」
「初年度の生徒の学習内容を”シラバスの作成”にすることで乗り越えようと」
「無敵か???????????」
1000万ゴールド寄付させておいてそれでは暴動が起きそうだ。
――――――――――
「レジナルド様!魔法道具屋さんで買い物してきましたよ!」
レジナルドはベヴァリーから魔法石と白い半透明の板を受け取った。
「油カイコの繭だ!在庫があったのか!」
「薄い木の板もございましたので、どちらも買ってきました。予算的にはそれなりにかかってしまいましたが、マシュー様がうまく誤魔化してくださるそうです」
「ありがとう!…よし、サイモン!サイモンは居るか?」
呼び寄せられたサイモンは企画書と材料を交互に見る。
「光る!回る!音がする!剣の製作ですか…」
「そうだ。一緒に作ってくれないか?俺は全ての魔法が使えるから、魔法石に魔力を込める事が可能だ」
「なるほど。しかし問題があります」
「?」
「ただ光るだけ、音がするだけ、ではコンセプトが謎です。何か”テーマ”を持たせないと」
「おおっ…それならもう、”魔法”でいいんじゃないか?」
「当然そうなりますよね?光の魔法石には光の魔法を、火の魔法石には火の魔法を閉じ込めるわけですから。とすると…」
サイモンは図を描き出した。
相変わらず整理上手で、矢印などを活用して分かりやすい説明図を作る。
「光魔法のフォーム、火魔法のフォーム、水魔法のフォーム、この3つのモードにチェンジできるようにしましょう」
「おお~~~っ!!ワクワクしてきた!さっそく作るぞ!」
「では。作業室へ移動しましょう」
のこぎりやハンマー、ちょっとした木材など、緊急時のDIYに必要なものが揃っている。
「この糸鋸で剣の形に切り出しましょう。その前に、型紙を作りませんと」
「真面目にプロダクトを設計しようと思ったら手順を踏まないといけないんだな」
「ええ。このぐらいでよろしいでしょうか?」
「剣先を丸めるのか?というかブレードの長さ自体も短いし、つまらんなぁ~」
「レジナルド様は人質です。あまり尖った刃物を所持していては問題になりますでしょう?」
「そ、そういえばそんな身分だったな!!」
――――――――――
「そうか。ムーア家の…ええと、ジェフと言ったな。そいつに2人して夢中か?」
アリディンバリスの国王と第一王子は近しい従者だけをそばに付け、茶を飲んでいた。
「はい。イザベラの話しぶりからすると。これは問題です」
「むしろ最高ではないか!ムーアの一族の増長っぷりと言ったら目に余るほどだ。しかし国境沿いの厳しい環境を任せるのならそれ相応の旨味も与えておかねばならず、管理が難しい。だが、娘のどちらかをジェフと結婚させることができれば…なぁ?」
「ハンドリングは我が王族に戻ってくるかと。しかし、妹たちがひとりの男子をめぐって争っているのですよ?」
国王は手をヒラヒラさせた。
「14と16だ、別のいい男が現れればそっちへ流れていくだろう。もし、揉めるようなら…それはその時に考えればいい」
「はぁ…」
「そういうお前はどうなんだ?」
「ええ。国のためになる良いお話がございますか?」
「…モルリヴァールの姫がそろそろ相手を探すつもりらしい。小耳に挟んだだけだが、まぁ間違いないだろう」
「!」
「モルリヴァールの現国王の娘が王座を継ぎ、国王になる事は間違いない。そしてその王女には娘が2人と養子の息子がひとり。下の娘が城を出るそうだ」
「モルリヴァールほど近く親しい国なら、今更政略結婚など不必要でしょう…わざわざ王家同士で…」
「そうは思うが、一応聞いてみたんだ。お前自身はどう思う?」
「…私はまだ結構です」
「ハハハハッハ!ああその通り、まだ早いだろう!若すぎる。王妃が存命なら息子可愛さに、40、50まで結婚させなかったかも知れないぞ?他の女にとられるぐらいならいつまでも可愛い子供でいてもらいたいとボヤいていたのを思い出す。なぁ?」
話を振られた従者は笑いながら、王妃様のお心が理解できます、と国王の話を盛り上げた。
ブレンダンは内心ため息をつく。
「(お父さまだって30を超えてやっと結婚したのに、どうしてこんな風に私の結婚を急かすのだろう)」
妹たちとは違い、毎日の生活で忙しくしている兄は、それほど恋愛への興味を抱けずにいた。
――――――――――
「マシュー!これを見てくれ!”ギュイ~~~~ン!!火魔法フォ~~~~ムッッッゥ↑↑↑ゴオオオオ~~~~!ファイアボォォ~~~ル!!↑↑♪~♪♪♪♪~♪♪~♪♪~”」
「ええっ!?」
トーラティカのカントリーハウス。
マシューは謎の装置を見せつけられていた。
使用人のサイモンもノリノリだ。
「この魔法石を押します!!すると!!!」
「”ギュイ~~~~ン!!光魔法フォ~~~~ムッッッゥ↑↑↑ピカアアア~~~~!ライトォオオォ~~~ッッ!!↑↑♪~♪~♪~♪~♪~♪♪~♪”」
ハインリヒもキャッキャと喜ぶ。
「完成したんですね!」
「ああ!この青い魔法石を押すと…!!”ギュイ~~~~ン!!水魔法フォ~~~~ムッッッゥ↑↑↑パチャパチャパチャァアア~~~~!!ウォータァァ~スプラァァッシュウウウゥ~~~!!↑↑♪♪♪♪~♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪~♪”」
マシューは頭に手を置いた。
「ハァ…こんなおもちゃのために魔法石を10個も20個も使って…まったく。”屋敷中の魔法道具が一斉に壊れたため、修理のための魔法石代が必要でした”と予算利用の申請をする私の気持ちにもなってみてください!」
「買わせたのはその個数だが、実際には4つの魔法石しか使ってないぞ!ちょっと遊んでみろ」
「遊んでみろって、もう完全にオモチャじゃないですかぁ…”ギュイ~~~~ン!!光魔法フォ~~~~ムッッッゥ↑↑↑ピカアアア~~~~!ライトォオオォ~~~ッッ!!↑↑♪~♪~♪~♪~♪~♪♪~♪”………」
「面白いだろ?」
「フフッ、ちょっとだけ楽しいです」
「残り2種類のフォームも試せ?」
「お断りです。いい大人なので」
「悪い大人になれ?」
「いい歳という意味の用法ですよ!10歳ぐらいまでの子供なら楽しめるかもしれませんね」
マシューを差し置いて、執事と使用人と第二王子は盛り上がっている。
シェフとコックが咳払いした。
「おっと、夕食夕食!」
――――――――――
「”ギュイ~~~~ン!!ギュ、ギュ、ギュ、ギュイ~~~~ン!!ギュ、ギュ、ギュ、ギュ、ギュ、ギュ、ギュ、ギュ、ギュ、ギュイ~~~~ン!!”」
「次にそれ鳴らしたらぶっ壊しますからね?それか殴ります」
「武闘派通訳め。暴力にモノを言わせるのはよくないぞ。しかも実際には体力が無いのを知っているんだからな?」
「こう見えて貴族です、日々のトレーニングも欠かしませんし、レジナルド様よりも力はございますよ」
「笑わせるな、何が力だ。部屋のウイングチェアをずらせないとベヴァリーを呼んでいたじゃないか」
「ど、どうしてそれを…」
「それに殴り合いになったらモノを言うのは皮下脂肪の鎧とウエイトだぞ?俺の圧倒的有利は火を見るより明らかだ」
「ううっ、しかも私はメガネなので分が悪すぎます。レジナルド様は両手の使用を禁止してください」
「なら体当たりしか攻撃方法が無くなってしまうが、タックルの方がダメージがデカいからな?」
「参りました白旗です…って、そうじゃないでしょう!?何の話ですか?」
「自分から恐喝しておいてそれか。大人は汚い」
「ええと…」
マシューが胸から出したその封筒は、ライトブラウンに金色のツタが這っている上品なものだ。
「へへっ、見覚えがあるぞ。バー家の封筒だな。キャサリンからか?」
「いえ、エロイーズからです。卒業式への招待状が同封されてますね」
「!!」
「遠いんですよ。エロイーズが通う魔法学校は西ウルバーズにあって…」
「1週間はかかるだろう!!今すぐ行け!!」
「いえいえ、流石にまだ早すぎますが!?」
「そ、そうか」
「どれだけあわてんぼうでも前乗りが過ぎますよ!落黄の月の8日が卒業式です」
「しかし余裕をもって出発してくれ!もし遅れたら困る。俺が厳しい主人みたいに思われるだろ?そして卒業式の翌日ぐらいはゆっくり家族で過ごすべきなんだから、8日を中心に前後の日も居られるようにしろ。7、8、9日だな」
「ありがとうございます。休暇を申請してみますよ。代わりの通訳の手配も…」
「もうこんなにトーラティカ語がペラペラなんだ!心配無用!」
「ですね。ええっと…」
マシューは指折り数えた。
「…爽夜の月の30日に出発して、落黄の月の16、17、18日あたりに帰ってきます」
「それじゃあ収穫祭はお前の分も食べるな?」
「料理を作らせるのを一人分減らせば良いだけですが????」
モグラも、収穫祭を待ちきれないよ~という調子で、大きな体をくねらせた。




