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人質生活70日目

今日は晴天だ。

「町から大工さんが来てくれたぞ!」


乗馬インストラクターのセーラも安心したように頷く。

「また嵐が来て落雷、なんてことにならないように、早く厩舎を建て直していただきたいですね。もっとも仕事を急かすつもりはございませんが」


心地よい風が吹いた。

発酵焙煎チョコレート号の体から、毛がフワフワと舞う。

レジナルドはくしゃみをした。

「ブラッシングが足りてないようだな!」

「いいえ、冬毛になるんですよ。短い毛がポヤポヤと抜けているんですね」

「何っ…じゃあ、冬にはモコモコになるのか?」

「はい。フカフカのモコモコうまになります。でもまあ短く刈って、雪が体についたり、汗をかいたりした後に体が冷えないようにしてやる事が多いですけどね」

「もし体を乾燥させてやることができれば、モコフワうまのままで冬を越させてやることができるか?だとしたらやってみたい!」

「魔法で乾かしてやるおつもりなのでしょう?しかし、やはり体毛は短く整え、馬着を着せてやった方がいいかと思います。レジナルド様がずっと馬につきっきりになれるのならともかく。馬係が毎回タオルで雪を落とし、全身くまなく乾かすまで他の仕事に移れないと考えると…」

「た、確かにな!俺はまだ馬の世話初心者だし…」


郷に入っては郷に従え、だ。

「今日は森の近くの砂利道を歩いてみませんか?」

「冬眠前の水グマやウェンディゴが出ないか?」

「ウェンディゴは冬眠なんかしませんよ」

「なおさら危険じゃないか!!」


砂利道は蹄が滑って危険だ。

「気を抜かず、ゆっくりと歩かせるように」

「は、早く走らせたくてもこの道じゃ無理だろう!!」


レジナルドは手綱を緩め、発酵焙煎チョコレート号に全てをゆだねる。

「乗り手がリードしてください!」

「わ、わかった…頼んだぞ~発酵焙煎チョコレート号!!俺の生死はお前にかかっている!!」

「それがリードと言えますか?」


ヘロヘロになりながら屋敷に戻ると、屋根の部分に木材が載っていた。

「午前中だけでずいぶん進んだな!防水シートを張って、その上から屋根材を打つんだろう?」

「あら、お詳しいですねレジナルド様。でもその前に断熱材を入れませんと。ですから、断熱材を保持するための木の板、断熱材、防水シート、そして見栄えのいい屋根材、の順ですね」

「むむっ…厩舎ひとつとっても、複雑な手順を踏むのだなぁ…」

「ですから大工の皆さま方はプロフェッショナル中のプロフェッショナルなのですよ!」


セーラは職人に向かって投げキッスを飛ばした。

小屋組みは立派で、まるで厩舎とは思えない美しさだ。

「ああっ!セーラさん!」


水グマのような体系の男性が駆けてきた。

顔なじみらしく、セーラも明るい口調で挨拶を返す。

「いつもお世話になっております」

「いえいえ!こっちこそ、オービター牧場のみなさんには頭が上がりませんよ!」


2人は立ち話を始めたので、レジナルドは馬を歩かせ先に馬小屋に入る。

「よっこらせ、っと!」

発酵焙煎チョコレート号が何か言いたそうにしているので、馬の鼻先の横に耳を持って行く。

馬の話し声は小さい。

「なになに…バリカンで刈られるのが好きだから冬毛は短く整えてほしい…!?あと、汗も早く乾くし………ほ、本人、じゃなかった、本馬からそう頼まれたら短くするしかないなぁ」


レジナルドはフワフワになったポニーのような馬を想像する。

それが見られないと思うと、ちょっとだけ寂しい。


――――――――――


昼食を食べ終わる頃、町から買い出しの馬車が戻って来た。

見覚えのある顔が馬車から降りてくる。

「ベヴァリー!仕立て職人を連れてきてくれたのか!!」

「ええ、お土産もございますが、それは採寸の後で」


まず採寸を済ませ、どっさりとサイズ直しの服を押し付けた。

「この量を依頼してくださるとは…ありがとうございます。必ずや雪が降る前までに直します!」

「ワハハ!まだ爽夜の月の17日だぞ。雪が降るのは終年の月だろう?」

「…南方ではそうなのかもしれませんが、タフタフリッチでは落黄の月の中盤、遅くても星近の月には雪が降ります」

「!?!?!?!?」

「…ええっと…急いだほうがよろしいですよね?」


ビルは紙を一枚差し出した。

「冬用の室内着を作っていただきたいのですが。仕様はここに」

「わかりました。なるべく早くお届けできるように頑張ります。じつは、レジナルド様のおかげで仕事が増えると見込んで新人を雇ったんですよ。最近は町も賑やかになってきましたし、人質万歳です!」

「…」

「あっ、申し訳ございません…」

「いやぁ、そうじゃなくて。俺はそこまで服を作らせないぞ。そんな簡単に人件費を増やして大丈夫なのか?」

「いえいえ、レジナルド様が装身具店にアクセサリーを作らせたり、魔法道具屋や雑貨屋に色んなアイディアを渡してくださったおかげで、住人そのものが増えているんです。服は人の枚数だけ必要ですからね」

「おお、そうなのか」

「我が仕立て屋も、若い風を取り込みませんと。ええっと…温かい素材のニットベストですか。やはり胴回りを温かく保つことが冬を快適に過ごすコツですからね」

「頼んだぞ。オーバーサイズでなく、寸法ピッタリにしてもらいたいんだ」

「ニットなら生地が伸びます。賢明なご判断で」

「いや、体に合っている服の着心地が好きなだけだが…まさかまた太ることを視野に入れた発言じゃないよな?」


仕立て屋はゴホンゴホンと空咳をした。


――――――――――


「それで、心の整理はつきましたか?」


レジナルドから渡された手紙を読みながら、マシューが尋ねる。

手紙はアリディンバリスに向けてだった。

魔法学校と、そこに併設される資料保存館について、”良いじゃないか”という内容で返事を書いたのだ。

「コレクションが無事かを確認してくれなかった事については普通にショックだ。俺の所有物をぞんざいに扱われていると感じるし、正直今でも気が気ではない。しかしな、よく考えて見ると、絶対に盗まれた、あるいは意図的に販売されたと判っているのは”コットンキャンティ花が埋め込まれていないリング”だけなんだ。まず落ち着いて、手紙を返そうと思った」

「聡明なご判断です」

「そして…俺の収集品が資料保存館として一か所に集められ、展示される喜びを考えると………ウォーーーーッ!!!!入場料をタダにして全国民に来てもらいたい!!!!」

「ハートが2つに割れちゃいそうですねぇ?」

「お前は自分の趣味の品を自慢して回ったり、見せるために部屋に人を呼んだりしたことは無いだろう。そういう性格に見える。しかしな、俺は自慢屋なんだ。とにかく”レジナルドすごく変わった本当に価値のある魅力的な魔法道具&呪われたアイテム資料保存館”の建設の喜びはマ~~~ジで俺の人生の頂点かも知れん!!ものすごい嬉しさと悲しさが心中に混在していて、感情はぐちゃぐちゃだ」

「う~ん、私はアリディンバリス語のネイティブ話者ではないのですが、多分そんな変な名前の資料館にはならないと推測いたします。というか、レジナルド様のお名前がつくとは、手紙のどこにもございませんでした…」

「いや、俺の名前がつくだろう」

「…この議論はしましょう。さて、お手紙ですが。文法的におかしい所はございませんから、このまま封をして使者さんにお願いしましょう」

「この、”魔法学校創設は、アリディンバリスにとって素晴らしい判断だったと後世の世で称えられるだろう”という一文、どうだ?」


マシューは今までに見せたことのない、人を疑う柴犬のような顔をした。

「な、何だよ!?」

「手紙の向こうにいらっしゃるアリディンバリス王家を褒める事は大切で、模範的な文章だと思います。しかしレジナルド様、本気で魔法学校の計画を絶賛してらっしゃるわけではございませんよね?」

「えっ!?べ、別にいいだろ。西側では国ごとに設置されていると聞くが…」

「西側の小国は転生させ女神に見放された、魔力の弱い人たちの住む土地です。そういう機関が無ければ魔法そのものが滅びてしまうのでしょう。しかし、我々は古都モルリヴァールをルーツに持つ名誉ある人間なので、わざわざそのような学校を…」

「トーラティカにも魔法学校はあるだろ!」

「ございますが、魔法を使えるかどうかで入学者にフィルターをかけているだけですよ。一応、授業として魔法の取り扱いはありますが、実際には魔法の修得や強化などはメインのカリキュラムではございません。娘のバーバラも総合家政学部ですし」

「そ、そう言われればそうだが…」

「魔法はパーソナリティに大きくよるところがございますので、集団での訓練には向きません。家庭教師がついて指導して初めて魔法への深い理解が得られるのです」

「そうかぁ…でもそうやって訓練して使えるようになった魔法が、カップを温めて茶の温度を保持する魔法、ではなぁ…?」


マシューはイラっとした顔をレジナルドに向けた。

「その程度で充分です。冬の寒い日には自分が入るベッドを温められますし、冷たい服も温められるから最高なんです!」

「そ、それは言われてみればそうだが…冷たいシャツに腕を通した時の不快感は耐え難いからな」

「フフン」

「今の流れで得意気になれる意味が分からんが!?というか俺も魔法が使えるようになったから、自分の身の回りを快適に保つことができるようになったのか…」


冬を越すヒントは至る所にありそうだ。


――――――――――


アリディンバリス、ワーグマンの屋敷。

「ねえお母さま、クリスティーナはどう?」

「どう…って、何?」

「…」

「別にいつもと変わらない様子だったけど。私が見る限りは、ねぇ?」

「ふ~ん…」

王都では夜会が開かれているが、スカーレットは出席しなかった。

他の領地の貴族と結婚したいという野望は、とうに消え失せている。

「あなたまさか、クリスティーナが本気でブレンダン様と恋仲になったと思ってるんじゃないでしょうね!?いい?あの子は嘘ばっかり。目立ちたがり屋で、自分がいつも話の中心で無いと気が済まないトラブルメーカーなんだから」


スカーレットもその事を理解している。

クリスティーナは人間同士の対立が大好物で、いつも問題を悪化させることに情熱を注いでいる。

もしトラブルの気配が無ければ、目をつけた人間と親しくなり、自分から焚きつけて思い通りにその子の友達と不仲にさせ、一通り遊び終われば友情を解消することもあった。

人の感情が大きく乱れる場面が好きで、揉め事から栄養を摂取している悪魔のような妹だった。

「わかってるけど…」


スカーレットは、2日前に食卓で見た涙が忘れられない。

「あの子、明日はクリスタル・ミンク牧場へ行くんだから。あなたは気晴らしに買い物でもしてきたらどう?私も欲しいものがあるの、一緒に行きましょ」

「お母さまはクリスティーナについていかないの?」

「まさか!若い2人を邪魔するほど野暮じゃないけど。使用人を付かせるから大丈夫」


スカーレットは薄暗い気持ちになった。

以前から気になっていた相手だったのだが、趣味が虫捕りと知って、あっさり縁談を終わらせてしまったのである。

「あんな昆虫大好き男、気色悪い。クリスティーナがアイツと付き合うなら笑っちゃう!」

「そう?貴族も豪商も酒、モンスター狩り、酒、浮気、散財、酒、ギャンブル、ダンジョン探検、みたいな趣味の人間ばっかりで嫌になっちゃう。虫捕りが趣味なら、無茶なモンスターに挑んで大怪我をすることも無いし、ドラゴンを墜落させて賠償金の支払いで家計が苦しくなることも無いし、アルコール中毒で早死にすることも無いし…まあ、虫取りとそれらの趣味を両立させている可能性もあるけれど。とにかく、大人しい成人男子ってのは宝石よりも見つけがたいわけ。それが彼なの。じゅうぶん素敵な男性でしょう?」


スカーレットは奥歯が欠けるほど強く歯を食いしめた。

「私の判断をそんな風に否定しないでよ!」

「それに見た目が良くて、性格が良くて、女性にがっつかない男性は同性愛者なの」

「そんな事ないから!」


半年前の出来事を思い出す。

スカーレットは2人の異性を気にしていた。

ひとりは領地内に留まらず、近隣の領地でも繁盛しているカフェの経営者を祖父に持つ、金持ちの男性。

もうひとりは遠いワーグマンの血縁で、領主の家を守る兵士として働いている男性。

どちらかと付き合ってあげてもいいかも、と思っていた矢先、その2人から付き合っていると言われて気絶してしまったのだ。

「私だって性別に囚われているわけじゃないの。”二隻の船”みたいなパートナーがいれば、女の子と結婚してやってもいいけど?」


二隻の船はモルリヴァール時代から伝わるおとぎ話で、女性同士のパートナーである兵士と領主が、民と領地を守る冒険話だ。

文字が読めるようになった頃の子供に人気があり、挿絵が多い。

何かにつけて大岩が転がってきたり、崖の向こうまで丸太一本で渡ったり、足を踏み出す度ひびが入る薄氷の上を落下しないように高速で走ったり、大口を開けた水グマの口にサッ!と木の棒を差し入れて口を閉じられなくしたり、とにかく子供が大好きなアクションたっぷりのドタバタ話なのだが。

「嘘おっしゃい。あなた、男性が大好きでしょ?」

「…」

「異性に興味がない人間はパートナー探しも淡白で、紹介された相手とすぐにくっつくんだから。まあ、私も男子がいなきゃ人生灰色ってぐらい男好きだから気持ちはわかる。わかる、けど。あなたは少し選り好みが過ぎるんじゃない?もうちょっとだけ広い心で他人を見てあげてもいいと思うけど」

「ま、まだ若いし…それに、叔母さま達だってまだ結婚されてないじゃない!」

「ええ、もちろん無理に家から追い出すつもりはないけど。でも結婚したいって言っているのはあなた本人で、そのために私やお父さま、おじいさまおばあさまが婿探しに時間の一部を割いている、ってことを忘れないでね?」

「…っ!そ、それは…」


スカーレットはとうとう言い返す言葉も見つけられなくなって、口ごもった。


――――――――――


「では、皆さん、楽しんでくださいませ!乾杯!」

「乾杯!」


合図とともに貴族がグラスを上げ、ドリンクに口を付ける。

アリディンバリスの王城、大広間で夜会が始まった。

ハーパーは故郷から来た甥と姪と落ち合う。

「それで、何も変わったことは無い?」

「おかげさまでこちらは平穏無事に暮らしております。ハーパーお姉さまはどうですか?」

「…もう正式発表されたのかな?実は、アリディンバリスに、いわゆる”魔法学校”を作ることになったの」

「えっ!?」


甥と姪は驚いて目を大きくした。

「それって、西側の国にある、魔法の素養がある貴族が通える場所…ですよね?」

「うん。回復魔法と5つの魔法の力を鍛える場所、みたいなイメージかな。その学校の建設計画と、シラバス、雇用計画の全てを任される大臣に…私が指名されて」

「お姉さまを過労死させたい勢力がいるという事ですか????」

「う、ううん!魔法学校の設立を熱心に推してた議員がいたんだけど、なぜか計画が決定した途端、気持ちが折れちゃったみたいで。特に仕事がない私が指名された、ってワケだと思う。多分」

「…大丈夫ですか?」


ハーパーは濃緑のドレスを揺らして笑った。

「多分、過労死する」

「そんなぁ」

「でもね、利益誘導はバッチリするつもりだから」

「!?」

小さなピースで勝利を誇る。

「魔法石の採掘場後さいくつじょうあとに魔法学校を誘致…というか、誘致も何も、私に決定権があるわけだから。あの荒れ地に建てようと思うの」

甥と姪は目線を交わした。

「き、聞くところによると、一般的に魔法学校は海のそばの景観が良い場所や、深遠な森の中のように、良い環境に建てられているようですが…?」

「それは西側の国の話でしょう?私たちが住んでいるのはアリディンバリスなんだから、アリディンバリスらしい場所に学校があったっていいじゃない!」


アリディンバリスらしさ、が、魔法石が掘り尽くされた荒廃した土地なのかどうかは議論の余地があるだろう。

地下はアリの巣のような迷路、地上は見渡す限りの荒野、所々に放置されたヤードがあるその土地は、ハーパーの叔父が領主を務めている場所にあった。

もし荒れ果てた魔法石採掘場後に学校を建てる事ができれば、領地にとっては最高のビジネス話だ。

「っぱ箱物でしょ!」

「お、お姉さま~…」


舞踏会に”みなさま!”という声が響いた。

「本日はアリディンバリス中央劇場より、演者のロジャーさんに来ていただいております!」


貴族がザワザワと騒ぎ出す。

第一王子は驚き、会話していた大臣達から離れてそちらへ体を向けた。

妹のイザベラも声を出す。

「ええっ!?あれは誰!?」

驚く妹に、姉のアデレートは教える。

「彼は中央劇場の演者。モグラの舞台の主演俳優なの」

「へえ、モグラっていうよりはブタに見えるけど」

「違うってば、下のお兄さまの役を演じているの!」

「じゃあブタで合っているじゃない」


妹2人の酷い会話はともかく、侍女従者、使用人、そして誰より父親の国王が驚いていた。

「おお!この前見た演劇の俳優か。本当にシルエットだけは似ているな!我が国にあそこまで肥満体の人間が息子以外に居たとは!これは楽しいサプライズだ!!」


離れた場所に固まっていた人質たちからも歓声が上がった。

「おいおい、まさかトーラティカへやった人質は影武者で、あっちが本当のレジナルド様じゃあるまいな?」

先王の従者も感心してしきりにうなずいている。

「あそこまでのそっくりさんを見つけてくるとは!中央劇場の支配人が舞台にかける情熱は本物ですね」

その先王も喜んで手を叩いた。

「う~む、確かになぁ…我が故郷でも私にそっくりなジジイを見て懐かしむぐらいの事をしてくれているんだろうか………おおっ、ダンスもするのだな!」


ロジャーは参加者の女性に深々とお辞儀をし、軽やかにダンスを踊り出した。

実際は睡眠時間ゼロで疲労も頂点に達しているため、いつ気絶してもおかしくないのだが、気分を上げるハーブを無理やり摂取させられているのでその点は問題ない。

「ほう、軽やかな足取りだ!」

「ロジャーとかいう演者、なかなかの人物ですね」

「ふむ…」


他の人質も指をさして笑っている。

普通に女性をリードしたり、息を合わせてステップを踏むダンスではなく、派手で滑稽な動きを合間合間に入れたり、服の内側に隠している花をばら撒いたりするので、見ていて面白味があるのだ。

砂漠の向こう、ルヴモから来ている人質がトーラティカの先王をつついた。

「レジナルド様は一応この国の王子だったからな。こうして笑う事も出来なかったが、彼のような道化が演じてくれるなら思う存分楽しむことができる!」


ニンミィアの人質の女性は顔を歪めた。

「どれだけ落ちこぼれでも国王の直系である血族。なら、役者にパフォーマンスをさせてまで笑い者にするのは、下品なのでは?」

トーラティカの先王は少しだけ同意した。

「よくわかりますよ」

2人目の娘、クローイを思い出す。

目立ちたがり屋で騒ぎを起こしてばかりだったが、それでも可愛い子供には違いなかった。

「ご本人が見れば傷つくかも知れませんね」

「それにあのマント、何でしょう、目が痛い…!」


夜会服と羽織ったマントがギラギラに輝いている。

会場の床に設置された光魔法の魔法石から光線が射出されているようで、それが正方形の小さな鏡を張り合わせた服とマントに反射し、会場をビカビカ照らした。

「お楽しみでしょうか、”来賓”のみなさま」


招宴長がメガネを光らせながらやってきた。

人質が来賓とは皮肉だ。

「あの演出は、他でもございません、レジナルド様が発案されたディレクションなのです」

「そ、そうでしたか…」

「しかし、企画中に人質としてトーラティカへお行きになられる事となりましたからね。ご本人はがここに居らっしゃらないのは…正直良かったですよ。あの派手好きの変態が居なくなれば、夜会の計画はすべて私がコントロールできますもの」

「我が国の夜会でこのように愚かな振る舞いをする者があれば、国王の息子だろうと牢に三日三晩入れて反省させるだろう」


ルヴモの人質が言い捨てた。

近くにいる従者が慌てて、言葉に気をつけてくださいと頼み込む。

招宴長は別のゲストの方へ体を向けた。

「それではみなさん、お楽しみを。おっと、進行の時間をお守りくださいね。早期開幕なし、閉幕延長なし!!」


その日の舞踏会は大層盛り上がり、ロジャーはパフォーマンス料としてそれなりのゴールドを貰った。

彼を迎えに来たソフィーと中央劇場の支配人は、はした金なんかいいから回復魔法をかけてくれればよかったのに、と嘆きながら馬車にロジャーを押し込む。

真夜中でも光魔法のライトで道の先を照らし、家代わりの劇場に向かわせる。

「この足、酷いな。かかとも指先も靴擦れで真っ赤だ…足裏もだぞ!痛くなかったのか?」

「き、気づきませんでした…」

「大丈夫、癒しの呪文が書かれた包帯があるから」


ソフィーが左足、支配人が右足に包帯を巻いていく。

出血が治まり、肉の厚みも本来のボリュームを取り戻していく。

「あ、ありがとうございます…」

「まだだ。一応、体力回復ポーションも持ってきたんだが、念のため用意しておいて良かった!」


揺れる馬車の中、こぼしながらも何とかポーションを飲み切り、体力を回復させる。

気力が戻ってきたロジャーは、夜会の演出がいかにド派手だったのかを興奮気味に話した。

支配人は感動する。

「や、やはりアリディンバリスで最も華やかなダンスパーティだ、格が違う!」

「いいえ…それがどうやら企画はレジナルド様のようで…」

「ええっ!?」

ソフィーは包帯を解きながら喋った。

「トーラティカへ向かう前の置き土産だったんでしょう…あら、爪は再生しないみたい」

「足の爪なんて要りませんよ。ありがとうございます、もう大丈夫、自分で足桶薬湯をして回復させます」


支配人は馬車の中に散らかったゴミを集めながら呟く。

「骨が見えていた場所にも肉が這ってきて良かった。それにしても、王城とのコネクションを作ることができれば…我が劇場は…!!」


ロジャーは役者としての未来に思いを馳せ、ソフィーは自由に王城へ出入りできるようになった自分を想像し、ニヤつく。

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