人質生活67日目
「舌鼓ウザいわ、って発酵焙煎チョコレート号に言われたが!?」
「そうそう、たまに大嫌いな子も居るんですよ」
レジナルドはカントリーハウスから出て、丘を登っていた。
眼下にはウニ葡萄の収穫作業が見える。
「動かないからやっただけなのに。チッチッチッチッ…」
「でも、レジナルド様は馬と会話できるじゃありませんか」
「簡単な土魔法を使えるからな…えっ?何だって!?」
「どうされました?」
「短鞭も好きじゃないと」
「口で言えば分かるタイプの馬なのでしょう。発酵焙煎チョコレート号は賢いですからね」
「賢いなら止まらないでくれよ~?」
ブルル、といたずらっぽい鼻息で返された。
丘の下から馬が走って来る。
「おお!マシューたちが帰って来たんだ!!」
「オホホ。屋敷に帰りますか?」
「もちろんそうしてくれると嬉しい。乗馬のレッスンをありがとう!」
レジナルドは馬の腹を力強く蹴り、屋敷に向かって走らせた。
「下り坂を走らせると危険ですから、意識的にゆっくりお戻りください!」
「ああ!」
――――――――――
屋敷に着くと、先に馬から降りていたマシューとハインリヒに出迎えられた。
ハインリヒは微笑む。
「セーラさん、少しお茶でもどうでしょう?」
「いただきます」
「おおっいいな、4人で喋ろう」
「では、私と先に応接間に移動しましょう。そのまえにお着替えを」
「ああそうだな!」
レジナルドはマシューと共に階段を上がっていった。
2人の姿が見えなくなると、ハインリヒはセーラに素早く上申の結果を伝える。
「…という内容をお伝えいたしました」
「あら」
「無論、良いことも報告しましたが」
「フィリップ王子様がレジナルド様に向かって良いことなどしましたでしょうか?」
「所有物をお返しになられたじゃありませんか」
「…奪っていないものは返すことが出来ませんよ」
その言葉にハインリヒは眉を下げた。
セーラが話す。
「宰相は反応そのままのお人ではありません。言葉やリアクションとは真逆の本心を持っていてもおかしくないでしょう」
「なら、フィリップ王子様のやんちゃさを問題だと思っていない可能性が?」
「いいえ、問題だと思って、その上でほったらかしにしようと考えておられるかも」
「何故です!?」
「自分で痛い目を見ないと判らないからですよ。他人に叱られる経験も必要ですが、フィリップ王子様の性格を考えるに…宰相が直接叱れば、それに激怒なされるでしょうね」
「…」
「結局、大臣たちが集団で罷免すれば宰相もイスから蹴り落されるわけですし」
「本気で王族を怒らせれば、領地への罰をチラつかせて、大臣の行動を操ることは簡単です。しかし…」
「しかし?」
「先王様が自ら王冠を脱ぎ、隣国へ人質として渡ったんです。身を賭す統治で反抗的な貴族を押さえ、大臣たちを納得させたにもかかわらず、未来を託した孫が低レベルな振る舞いをしていると知れば、落胆なさるでしょうね。貴族たちも再び強固な姿勢に戻るかもしれません」
セーラは肩をすくめた。
「先王様と対立していた貴族は、先王様を嫌っていたのであって今の国王様を嫌っておられませんから…大丈夫でしょう」
「………っ!」
「ごめんなさい、でも貴族同士を対立させて内戦を起こさせたともっぱらの噂ですし、全てが100点満点の統治者は存在しないとはいえ、絶賛されるべき国王様だったのかは議論の余地が…」
「この話はやめましょう」
セーラは冷や汗をかいた。
ハインリヒのように絶対的な先王の支持者は多い。
一方でセーラは、牧場に訪れてくれた貴族から様々な意見を聞くことができ、貴族側の苦労を知っている。
上げてもいない謀反の煙を嗅ぎつけられてはたまったものではないという主張は正当に思えた。
とは言え、大人同士の会話なのでセーラは軽く謝る。
「すみません」
「いえ…しかし、お言葉ですが、そもそもアリディンバリスはトーラティカから造反して作られた国なのです。同じ轍を踏まぬよう、国内で財力や兵力をもっている領主に釘を刺しておくことは立派な政治でしょう?」
「それを言うならトーラティカだってモルリヴァールから独立したのではありませんか?」
「ううっ…」
政治の話はややこしい。
――――――――――
「ふむ、問題無いでしょう」
念のため町から医者を呼び、レジナルドの腕に刻まれたモグラテンボスの痣を見てもらっていた。
「それにしても、魔法のアトモスフィアを感じませんね。これが転生させ女神様のお力ですか」
「”管理者”というユニークスキルを使えるのだろうな」
「私はため息が出ますよ。こんな不思議なことができるなら、世界中の生き物から病気を取り除くことも可能でしょうに」
――――――――――
トーラティカの王城では、フィリップが従者と共にミニ馬車を作っていた。
「う~ん、こだわろうと思えばどこまでもこだわれるなぁ…」
「塗装のペンキが無くなってしまいました」
「今すぐ買いに走れ!」
10台を組み立てたフィリップは、疲労感もあるがそれ以上に達成感に包まれていた。
「目地の細かい紙やすりで滑らかにすることがコツですね」
「ああ。いい感じのミニ馬車を作ってレジナルドに見せつけてやるんだ!」
――――――――――
「外へ出てはダメですよレジナルド様」
「ベヴァリーのケチ!ちょっと見物するだけならいいじゃないか!」
屋敷の庭では厩舎の移築作業が行われており、レジナルドはそれに興味津々だった。
「ついこの間まで戦争をしていたのですし、市民の中にはアリディンバリスの第二王子を快く思わない者もいます」
「危害を加えてきたら返り討ちにしてやる!」
「いえ、大工さんが捕まったり罰せられたりするのが可哀想じゃないですか」
「俺の心配じゃなくてそっちの心配をしてるのか~!?」
「勘違いなさらないでくださいね。私たちが使えているのはトーラティカ王家ですし、同胞である市民をかばうのは当然です」
しれっと冷酷な事を言いつつ、発言とは裏腹にレジナルドの事を心配していた。
「以前、街で買い物した時は、俺に親しく接してくれる市民ばかりだったぞ?」
「まさか、あれが本来の町の様子だとお思いになっていたのですか?ガチガチに先触れしてあったので、店員も市民も気を使いながらレジナルド様に接されていたんですよ」
「えっ…じゃあ、なんか兵士が多かったのも…?」
「もちろんアリディンバリス国内でならどこへ行っても大歓迎でしたでしょうが、ここはトーラティカです。勝手に独立し、国交を断絶した上でダラダラと戦争を続けていた歴史を考えますと、敵国の王族なんて恨まれているのが普通ですよ」
「兵士とその家族はうんざりしたかもしれないが、別に個人商店や大工をやっているような人間に恨まれる筋合いは無いぞ!」
「税金を無駄に使われて」
「グッ…」
言い返せず悔しがるレジナルドにベヴァリーは笑った。
「この屋敷の中は安全ですから。マシュー様の言いつけを守って、作業に来てくださった職人のみなさんを刺激しないよう、3階でお過ごしください」
「わかってる…じゃ、自分の部屋でリラックスしようかなぁ~?」
「…何か、わざとらしいですね?」
「そ、そんな事ないぞ!お前も自室へ戻って茶を飲め!」
「では、下がらせていただきます。甘イモ入れを編みませんと」
「よろしく頼んだぞ」
ベヴァリーが部屋から出て行くとレジナルドは窓を開け、風魔法を使って屋根へ登った。
「へへっ、ダメと言われたならやるしかないよな!!」
ただの悪ガキである。
屋根の端まで来ると、建築中の新厩舎の様子が見えた。
「地面を広く掘って、石を敷き詰めているのか。へぇ~」
ナーロッパの中でも木材資源が豊富な地域なので、構造体には木が使われていた。
屋敷も同じで、柱、梁、床、そして屋根まで木で作られている。
この屋根が面白く、瓦のように木板が段々に敷き詰められているのだ。
肝心のレンガは壁面に使われ、基礎、床、木の柱を隠す分厚い壁&構造物として重要な役割を果たしていた。
ちなみにレンガは断熱性抜群の建材だ。
「おや、こんなところにいらっしゃいましたか」
声がして頭を上げると、マシューがレジナルドと同じく、屋根のふちに立っていた。
「ビビらせるなよ!驚いて落ちたらどうする気だったんだ?」
「ちゃんと足音をさせながら近づいたではありませんか」
「ふん、風魔法が使えるヤツはダメだな」
「もう窓から出入りするのはおやめください。魔法石の魔法返しが付けられていたらどうするつもりだったんですか?風魔法が発動せずに地面に落ちてしまいますよ」
「土魔法が使えるから、その時は地面を柔らかくする」
「ハァ…」
呆れながらも一緒に物見をする。
「建物が出来上がっていく様は見ていて楽しいですね」
「うむ、それなりに年季の入った厩舎だと思っていたし、建て替えられるのなら替えたほうがいいと思っていたんだよな~!」
「馬たちも新しい厩舎の方が…いや、すぐ隣でドシンドシンと音を聞かされるのは辛いかもですね」
「音には敏感だからなぁ」
「それに馬は臭いにも敏感ですから、しばらくは新厩舎の匂いも嫌がったりするでしょう」
「何か忘れているような…ハッ!!!!!!!!!!!!」
「私は忘れておりませんでしたよ」
マシューがクイッとメガネを上げ直した。
「エピオルニスの小屋も大切だな」
「あんなモンスターじみた鳥と一緒に住まわされたら、どんな馬でも調子を狂わせてしまいますからね」
「いや、馬が苦手なのはエピオルニスの方なんだが…」
工事は続き、夕暮れで視界が悪くなる手前で職人たちは町へ帰っていった。
「それにしてもレジナルド様、お瘦せになられましたね?」
「?」
「屋根を突き破って落ちなかったじゃないですか」
「もともとそこまでじゃないぞ!?!?!?というか手抜き建築でない限り、180kgぐらいまでは耐えてくれるだろ!?」
――――――――――
アリディンバリスでは、魔法学校の建設のために大臣が指名されていた。
「ええっ!?貴族や王族からだけでなく、平民からも生徒を集うの!?」
第一王女のアデレート姫は不満そうだ。
魔法学校担当大臣が柔らかく回答を返す。
「ええ。すでに教育機関が運営されている他国では、この方式で実績も…」
「ふ~ん、でも無条件で入学させるようなことは避けないとね?」
「…と仰いますと?」
「それはそっちで考える事じゃない?」
「…」
担当の大臣、ハーパーは、王族の機嫌を損ねないようにいつもの10倍の笑顔を作っていた。
その一方で人質の間にも、ぼちぼち情報が回り始めた。
トーラティカの先王は感心している。
「なるほど、”資料保存館”とは考えたな。レジナルド様のコレクションを、王城からその魔法学校に移動させてしまおうという作戦だ。やはりこの国の第一王子様は頭が切れる!」
そう褒められると従者も満更ではない様子だ。
「しかし、まだ計画段階だろう?人質の私に話しても良いのか?」
「計画といっても決定後の建設・運営計画の段階へ進んでおりますので」
なるほどなぁ、と言いながら人質である先王はヒゲを撫でる。
「本当に魔法を習う魔法学校か…考えた事も無かったな。魔法使いの養成は資源に乏しい国の戦略だとばかり…ふむ」
――――――――――
モグラのミュージカルが大当たりし、面白いほど稼げている劇場の支配人は浮かれ顔だ。
それに今日は特別な打ち合わせのスケジュールもある。
「商談を許可して下さり、感謝しております。モルリヴァールの人間ですので言葉の拙い部分はご容赦ください」
「なにをなにを!!本来ならこちら側が通訳をつけるべきお方でしょう、それを直接…」
支配人は揉み手で女性を迎えた。
彼女は盗品をモルリヴァールの闇オークション会場へ流す仕事をしているのだが、今回はモルリヴァールの”演者スカウト”という体で来ていた。
「モルリヴァールの王城では、市民演劇の盛んなアリディンバリスへの興味が高まってきております。ぜひ王城へ、この劇団の劇団員さんをお招きしたく」
「芸術の都の王城へ招かれるだなんて、演者としても夢のようなお話でしょう!ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとうございます。この劇団に所属しつつ、私がスカウトを務めるモルリヴァールの演劇団体、両方への所属という条件で契約していただけるなら、契約金をお渡しいたします」
「へっへっへっへ…それはそれは。ところで、契約金とは演者と所属団体の双方に支払われるものでございますよね…?」
「ええ、しかし一括でゴールドをお渡ししますので、配分はそちらで検討していただきたく」
支配人の目が輝いた。
演者スカウト…を装っている女性は説明を続ける。
「例えば、演者が5割、あなたに5割…」
「ゴクリ…」
「演者が2割、あなたに8割…」
「!!」
「演者には契約金の事を知らせず、あなたが全取り…」
「!!!!」
「まあ、我々はお支払いするものをお支払いするだけですので」
「す、素晴らしいお話をありがとうございます」
支配人は頭が千切れそうなぐらい激しくうなずいている。
女性も目を細めた。
「それでは早速、交渉に移りましょう。あのロジャーという主演俳優、素晴らしい演技力で、ぜひとも…」
支配人が急に真顔になる。
「他の演者なら話を通します。しかし、ロジャーだけはお譲りできません」
「!?」
「彼は私の舞台人生のうち、一生に一度、出会えるか出会えないかの逸材なのです。どれだけゴールドを積まれても、移籍させるわけにはまいりません」
演者スカウトは驚いた。
「(これじゃ計画が水の泡だ………)」
プランBを用意するほど入念に準備してきたわけでもないので、ただただ焦る。
「そ、そのような事を仰らず…我が劇団に所属していただきたいのです。演者にとっても支配人様にとってもメリットしかないでしょう?我々が独占するわけではないのです。両方の団体に所属していただければ…」
「いえ、今やっているメインの舞台は、彼無しでは絶対に成功しないんです。あれだけの体格にも関わらず、風に舞う木の葉のような身軽な動き、ホール全体を震わせる太くて伸びの良い低音、それに演劇にかける情熱、若さ。ロジャーだけは…どうしてもお話を受けられません」
手持ちのカードなんてない演者スカウトは吹っ切れて、話の底を見せる。
「………そうですか。実は、モルリヴァールへの王城へ演者を招きたいというのは嘘なんです」
「!?」
「箔をつけてアリディンバリスの貴族たちに挨拶へ行き、そこから王家に繋がる人脈として彼を利用したかったのです。第二王子のレジナルド様に容姿が瓜二つ、というのも魅力的なポイントでした」
「な…!?何故そのような…目的は?」
「我がモルリヴァールでは古典劇ばかりが演じられ、現代的なざまぁ物語の芽がなかなか出ず、今ではトーラティカやアリディンバリスの芸術文化に後れを取っています…ご存じでしょう?」
「ま、まあ、それは…この仕事をしていれば、モルリヴァールの旅行者の皆様にご愛顧いただいている事実は理解しておりますが…」
「モルリヴァールの演劇団体にロジャーさんという超人気演者を所属させられれば、アリディンバリス王家との繋がりが生まれ、そこから良い刺激を受けて歌劇の発展が促されるのではないかと…。モグラの舞台はアリディンバリスの王族も観劇されたそうですね?モルリヴァールでニュースになっているんです。この話題でさらにお宅の劇場には観光客が増えてましたでしょう?我々はそういった良い循環を生み出していきたいんです。これは国家が関連した事業ではございませんが、私は国の芸術をより豊かにするために………」
「ちょ、ちょっと、待ってください!」
「はい?」
「…箔が付く…そうですね、古都モルリヴァールの演劇団体に所属している事実があれば、よりロジャーの経歴に箔が付く…ふ~む…新生スターがモルリヴァールからスカウトを受けたとくれば………」
「あのぉ?」
「さらには王城との繋がりも…!?それは願ったり叶ったり…今はまだ演劇をたまに見に来てくださるぐらいですが、もし、王家ご用達の劇場という事になれば…!!!他の劇場と差別化も図れるし…」
「え~っと…?」
「その移籍、お受けいたしましょう!!」
「!?!?!?」
支配人の食いつきっぷりには理由があった。
少し前にトーラティカの演者を招いて”のがあり”の演技指導を受け、上演も決定した。
しかし、思っていたような人脈が生まれず、それどころか王城お抱えのはずの演者が”王族の気まぐれには付き合いきれない、ここで働かせてくれないか?”と頼んでくるぐらいなのだ。
さらに貴族や大臣達は他の劇場をひいきにしているという噂もあり、差別化のためにも、何としてでも王家との繋がりを持ちたかった。
「ただし、回りくどく貴族様方へのご挨拶なんていたしません。直接王城へ行き、ロジャーのカリスマっぷりを見せつけてやるのです!丁度夜会もございますし、そこでの出し物という事で…そのまま王家とのコネクションを確固たるものにできれば…!」
「!?」
「そうそう、モグラ舞台が続く限りは出演させ続けますからね。演者としての契約はモルリヴァールの演劇団体と共同で構いませんが、そこは譲れません」
「こ、細かい事は契約書を作ろうじゃありませんか」
スカウトは、これで良かったんだろうか?という風に頭を傾げた。
――――――――――
アリディンバリスの山の中。
「クソっ、土地開発計画を先に調べときゃ良かった…!!」
スグム川沿いの土地への出店権を買い占めるつもりだった2人の悪党は、途方に暮れていた。
「そもそも権利を販売している土地の面積がデカすぎる!!こんなんじゃ、1000万ゴールドどころか10億あってやっと山一面を買えるぐらいだ!」
出店権を買い占めて転売しようなんて夢のまた夢、結局普通に土地の利用権を買っただけになってしまった。
「どうする?」
「…こうなったら」
「おおっ、挽回の名案があるんだな?」
「真面目に商売でもやるか!」
もうひとりの悪党がずっこけた。
「百歩譲って店のオーナーになるとしても、だ。俺たちゃ店の出店権だけでスッカラカンになっちまったんだぞ!!どこに上物を建てる資金があるんだよ!」
「土建屋が人を募集してるだろ?」
もうずっこけるだけの気力もない。
「そういう地に足を付けた仕事が嫌だから盗みをやってるんだ!」
「落ち着いて聞け、何事にも攻めと守りの時期がある。もし、土地開発の工事で下働きをして、デベロッパーの内側に入り込めたら…?」
「うん…?」
頭の上に金庫や財布、貴金属が浮かぶ。
「デカい工事には人数が必要だ。それだけじゃねえ、モンスターや魔法使いも集まってきて賑やかになるだろ」
「大勢いる中でスリやら盗みやら、やりたい放題ってわけか!」
「ちょっと我慢して働けば、裏で盗賊として活躍できるチャンスが生まれる。真面目にやるのはおっくうだろうが、リターンを考えれば苦労する甲斐があるだろ?」
もうひとりもいやらしく笑った。
「そりゃ土地の開発権を売り買いするよりも手軽にカネを集められるかもなぁ…へへへ…」
「ああそうだ。そして、ゴールドをたんまり集めた暁には…」
「暁には?」
「店を建てて商売ができるだろ!」
まだずっこける気力が残っていた。
――――――――――
アリディンバリスの王城。
「国王様。トーラティカの先王様がお手紙を故郷に書かれました」
従者が一通の手紙の写しを国王に見せた。
ちなみにペンの動きをトレースして、別の場所に写せるユニークスキル持ちがいる。
彼女がトレースできるのは実際にはペンではなく体の動きなので、マジックなども瞬時に種明かしをすることができる。
嫌われ者だ。
「出たがりジジイめ、久々に手紙を書いたかと思えば…」
魔物の出現に怯えなくてよい場所に作られた王城は最高だ!ところで、
法律は守っているか?法律はトーラティカの宝だ。常に磨き、鍛えよ。
学ぶことでしか知識は得られないからな~。特に孫のフィリップ、
校正をさせてから手紙でも何でも送るように。誤字脱字があって恥ずかしい
をもいをした事が昔あった。今、それを思い出しながらこの手紙を書いている。
作ってくれるならクッキーはクッキーでもチョコチャンククッキーがいい!
れもん だいすき
「この最初の文、当てつけだよなぁ?」
「と仰いますと?」
「魔物の出現に怯えなくてよい場所、とは、王城で騒ぎがあったことを揶揄しているのではないか?わざわざそんなことを書くとは、ここでは変なヤツが出現して騒動になったり、解決できないまま有耶無耶にして次の仕事に取り掛かってる、という暗喩な気がするぞ!?我々をあざ笑っているのではないか!?」
「まあ、騒動自体は伝わっているでしょうね…しかし結局、害は無かったのですから。変態が侵入して王城で騒ぎ、ファイアボールに焼かれて死に、死体は水に落ちて流されていったはずだが行方不明、で、よろしいのではないでしょうか」
「よろしいわけがないだろ?」
「ないですよね」
国王はもうひとつ気になると指をさす。
「チョコチャンククッキーってそんなに美味いか?くどくて1枚食べきるのが苦痛だよなぁ?」
「流行ってるんですよ」
その言葉に国王はブチぎれ、茶のカップを床に叩きつけた。
「美味しいか美味しくないかを話しているのに!!!!流行ってるとかみんな食べてるとか言い出すやつは頭が悪すぎるだろ!?!?!?」
「も、申し訳ございません………お手紙はどういたしましょう?」
「どうでもいい、さっさと送らせろ!!」




