人質生活66日目
「うおおおっ!?!?!?」
「おはようございますレジナルド様」
ビルが朝の着替えを手伝おうと部屋の中に入ると…パジャマの左半身を脱いだレジナルドが騒いでいた。
「どうされたんですか?あっ!モグラが帰って来たんですね!サイズが縮んでて良かった!抱っこできる方が嬉しいですからね」
モグラは鼻をスンスンさせて元気いっぱいだ。
「俺の左腕を見ろ!!」
「え?何ですかこれ、モグラに噛まれました…?いえ、文字が書かれていますね」
「なんて書いてある?俺から見ると、ちょうど逆さ文字になっていて」
肩と肘の間に、長方形で囲まれた文字がタトゥーのように浮かび上がっている。
「モグラテンボス 恒久パス」
「クソっ!!!!!!!!!人間の体なんてオモチャぐらいにしか思っていないんだ!!!!」
ビルが話を聞けば、睡眠中に転生させ女神にさらわれ、精霊空間へ移動していたという。
「なるほど、そこにあるテーマパーク?で遊んだ帰りに…」
「一生無料のパス、略して生パスをやるぞと、カードを手渡されたと思えば…これだっ!!」
皮膚にはくっきりと”モグラテンボス 恒久パス”と刻まれている。
「痒かったり痛かったりしますか?」
「いいや…でも違和感があって服を脱いでみたらこの仕打ち!!俺が何をしたって言うんだ~~~っっっ!!!」
「お、落ち着いてください…」
「ああそうだ、カチューシャも貰ってきたんだ」
「落ち着くのが早すぎますよ」
「どうせ騒いでも消えないだろ」
「それはそうですが…」
ビルが光魔法を最大にして腕に当てても、まったく薄まる気配が無い。
「浄化されたら転生させ女神は邪悪って事になっちゃいますから、やはり無理ですね…回復魔法も?」
「う~ん…効かないな。まぁ、皮膚を剥がして、そこに皮膚を再生させれば消えるかもしれないが、それで転生させ女神の機嫌を損ねては元も子もないしなぁ、諦めよう。後、ここだけの話だが」
「はい」
「楽しかったから、また行きたい」
「それはパスを大切にした方が良いですね」
――――――――――
「おはようございます…なんですかそのカチューシャは?おっと、モグラが帰って来たんですね!」
「マシュー、お土産いるか?」
「何の何の何です?????」
「話すと長くなるが…転生させ女神様の作った奇妙なテーマパークに招かれたんだ。これはそのお土産。全然長くならなかったな?」
カラフルな缶を、これまたド派手なトートバックから取り出した。
「使用人やコック、シェフも持って行ってくれ!」
みんなでワイワイと缶を見る。
「凄く立派な金属缶ですね!開けてみても?」
「もちろんだ、何が入っているのは俺も知らないからな。興味がある」
「では失礼して………個包装のクランチチョコレートです」
「あれっ、こっちも個包装のクランチチョコレートですね」
「この縦型の缶には流石に別のモノが入っているでしょう…個包装のクランチチョコレートでした」
「まあ、その、何だ…外側の入れ物に価値があるタイプの品なんだろう」
執事のハインリヒが苦笑いでお土産を片付けた。
「それでは、使用人一同でありがたく頂戴いたします。さ、朝食をお召し上がりください」
――――――――――
前日の話。
カントリーハウスからタフタフリッチの町へ移動したフィリップ王子は、雑貨屋でミニ馬車を買い漁っていた。
「し、しかし予約もございますし、城下町の店に出荷する約束も…」
「私は王子だ。この身分を知ってもなお、そういう態度を取るわけだな?」
「いえ、まさか、決してそのような………ざ、在庫をすべてお渡しします」
「そうしろ」
町で馬車を調達し、従者の馬と合わせて2頭にハーネスを着ける。
「使者様は馬車側に乗られますか?」
「ああ、ゆっくりと戻れ」
馬車に積み込んだ大量のミニ馬車キットに囲まれ、フィリップは満足気だ。
「いい事を思いついたぞ」
「お友達にお配りなさるのでしょう?人気すぎて品薄だと聞きましたからね」
「それもある、が。最高の一台をつくって愚かなレジナルドに見せびらかしてやるんだ。あいつ、こういうの大好きだろう?きっと羨ましがって暴れるぞ~!」
「ハハハ!それは意地が悪いですね…」
「後から手に入れようとしても私がすべて買い占めてやるんだ!地団駄を踏んで悔しがるに違いない!!ふふっ!」
――――――――――
アリディンバリスの王城の庭に、旅客ドラゴンが着陸した。
羽をスロープにする板が取り付けられ、ひとりずつ背から滑り降りてくる。
第二王女イザベラも、ドロドロの疲労にふらつきを覚えつつ、なんとか大地を踏みしめた。
「こ、これで文句ないでしょ!帰ってあげたんだから…!」
「お帰りなさいませ第二王女様!」
「お帰りなさいませ第二王女様!」
兵士や侍女、従者達の声がどこか遠い。
イザベラはきょうだいや父親への挨拶もせずに、とっとと自分の部屋に戻ってベッドに潜り、眠り直した。
――――――――――
昼食後。
ハインリヒとマシューは王城へ用事があると馬車を出させた。
「2人で行ってしまうのか?このカントリーハウスの責任者は誰になるんだ?」
「臨時の責任者にはベヴァリーを指名してあります」
いつもモグラの服を作ってくれる使用人だ。
「お任せください」
「では、失礼いたします。レジナルド様、お行儀よくいてくださいね?」
「子供じゃないぞ!」
蹄の音が遠くなっていく。
「ま、いつも通りに過ごすだけだ!」
ポータルから入れ違いで、大型の荷車を引いた馬がやって来た。
「何だ!?」
「もう来てくださったんですね」
荷車の後から数人が乗った馬車がやってきて、レジナルドはそれが厩舎を建てるために来た大工たちだと気付いた。
「おお!」
「レジナルド様はお部屋へお戻りください。周囲で遊んで邪魔になってはいけませんからね」
「だから子供じゃないって!!」
しかし素直にベヴァリーの言いつけを守り、ピューッと屋敷に引っ込む後ろ姿は子供のようだった。
――――――――――
トーラティカの王城で出された夕食を食べながら、マシューとハインリヒは宰相との面会を待った。
部屋がノックされ、従者が顔を出す。
「…ご準備は出来ていらっしゃいますでしょうか」
「もちろんです」
「こちらへ」
通された部屋は小さな会議室だった。
以前、マシューがフィリップ王子に直接文句を言いに来た時よりも立派な部屋だ。
「お話しください」
「フィリップ様の事で………」
2人は、フィリップがレジナルドのせいで落馬したと嘘をついたり、禁じられている酒を何度も勧めて無理やり飲ませようとしたことを報告した。
「なるほど、嘘はついておりませんね。直接私に手紙を渡せるルートを作っておけばよかったです。まさかフィリップ様がそんなバカげた行為をしているだなんて」
「これ以上エスカレートされては、フィリップ様の身に危険が及んでしまうと感じた出来事がございます」
「どうぞ」
「カントリーハウス内に転生させ女神像を作っていたのですが、フィリップ様はそれを置くことに許可を出されず………これは推測ですが…破棄するように、と命じるつもりだった可能性があります」
「まさか」
「しかし、転生させ女神様の世界に我々は直接招かれました。そして、大勢の前で女神様はその事を指摘されました」
「いつです?」
「8日の午前中だったかと」
宰相は頭を抱えた。
フィリップが部屋から消えた日だ。
「タフタフリッチの教会から報告は?」
「あ、上がってませんが…何てことだ、嘘をついていませんね」
宰相はユニークスキルをもっており、会話の相手が嘘をついているかが判る。
マシューは続けた。
「わざわざ女神様に召喚され、”像を壊そうとしても壊せないようにした”と忠告を受けたのです。我々の目の前で」
「バカな…」
宰相のメガネがずれる。
マシューは話を続けた。
「ところで、なぞなぞを出題してもよろしいでしょうか?女神様からの直接のお言葉の一部です」
「おおっ!それは貴重な…」
「モグラが好きな音楽のジャンルは、な~~~~んだ?」
宰相は数秒考えた。
「アンダーグラウンドミュージック?」
「!!!!」
「て、天才…!?!?」
「違いますよ。知識を問われる”クイズ”じゃなくて”なぞなぞ”なんですから、ひとひねりある回答かな、と」
その言葉を聞いてマシューも宰相を見直した。
「さすが我が国の頭脳ですね。さらに、もうひとつご報告が」
「全部報告を言い終わってからなぞなぞを出してください!変な雰囲気から真面目な雰囲気に切り替えるのが一番恥ずかしいんですから」
「レジナルド様の私物…アリディンバリスの王城にあるはずの貴金属が売られ、トーラティカへ流れてきています」
「…フッ、あの国らしいと言えばらしいです。確かに大問題ではあるでしょうが、隣国の不名誉なニュースにそこまで関与できませんよ」
「その貴金属をフィリップ様が購入されました」
「なんで????????????????????????」
「恥ずかしいですよね。まあ、思考回路は理解できます。レジナルド様がジュエリーを愛してやまない事は有名なので。売られたリングを本人に見せて嫌がらせをしてやろう、というお考えなのでしょう」
「なんと子供じみた…いや、理屈は理解できますが、王族のやることではない…」
黙っていたハインリヒが口を開いた。
「今はまだカントリーハウス内で納まっていますが。もっと大掛かりな嫌がらせをしようと周囲の貴族や臣下を巻き込む可能性もあり、見過ごせません。フィリップ王子様はトーラティカの宝、太陽、天を支える山脈。これ以上の宜しくない言動は…」
宰相が遮る。
「わ、わかりました。もういいでしょう」
「…上申を許可して下さり、感謝しております」
「失礼します」
咳払いと共に立ち上がり、従者にドアを開けさせた。
「夜道は危険です。一泊していきなさい」
「では。お言葉に甘えて」
「お心遣い感謝いたします」
勧められたことは素直に受け取っておくのがマナーだ。
――――――――――
そんな風にチクられているとは全く知らないフィリップは、部屋でミニ馬車作りに精を出していた。
元々工作は好きだったが、すでに木から切り出されたものを組み立て、塗装したりステッカーを張るだけでも十分楽しい。
さらに、世間ではミニ馬車キットが品薄だ。
それなのに大量に在庫を持っている事実も、彼の気分を良くしていた。
――――――――――
「おお、イザベラ!」
「上のお兄さまに会いたかった!」
イザベラとブレンダンはハグして、数日ぶりの再会を祝った。
「おみやげにとサメの歯でネックレスやブレスレットを作ったんだけど、荷物は馬車に任せたの」
「それがいい。お土産なんておまけだからな。イザベラが元気に戻って来たことが何より嬉しいぞ」
姉のアデレートも姿を見せる。
「あ~ら久しぶり、ちょっと見ない間に背が伸びたんじゃない?ああやっぱり伸びていなかった!」
イザベラはフンっというように斜め上に目を動かしたが、口答えすることなく落ち着いて言葉を返した。
「ただいま、お姉さま。長い間留守にしていてごめんなさい、おかげでリフレッシュ出来ました」
アデレートは年上らしからぬ態度を取り続ける。
「まだまだ遊べる歳だからいいよね?そんな風に何日も城を留守にして…しかも暑い時期にわざわざゾーフ国境沿いへ行くだなんて、愚か!」
「べつに私の好きなタイミングで行ったっていいでしょ…ジェフと一緒に遊べたし、最高の休暇になったけど」
「!?」
意中の男子の名前が出てきてアデレートは目を見開く。
ブレンダンは妹たちに呆れて首を振った。
「しばらく会っていなかったんだ、顔を合わせた途端にケンカするのはよせ」
「け、ケンカって程では…」
「旅客ドラゴンの背に乗って昼夜を問わずに飛ぶのは本当に疲れるよな。まぁ、一眠りして体力も回復しただろう?」
ブレンダンは侍女に命令し、軽食をもってこさせる。
「冷たい食事でよければ、旅の思い出話を聞かせてくれ」
「お兄さま、ありがとうございます」
久々に会った下の妹に優しい調子の兄を見て、アデレートはイライラを募らせる。
しかし、ここで同席しなければ自分の悪口大会が始まってしまうのが予測できたため、やってらんないと思いつつも、私もイザベラの話を聞きたいと申し出た。
「(だって…あの気難しいジュエリー職人たちを投獄したイザベラ程じゃないけど、私も演者たちを一時の怒りに任せて投獄しちゃったし…!でも、すぐにお父さまにバレて全員解放されたから問題ないでしょうけど)」
イザベラはウソをつくことは避けつつ、大げさに楽しかったと話を盛って、兄と姉に旅行の土産話を聞かせた。
アデレートは震えるフォークでひよこ豆とジャッカロープのパテをつつきながら、憎たらしい妹の自慢にうなずき反応する。
妹は数日しか一緒に過ごしていないジェフとのエピソードを細切れにして、まるで旅行中ずっと一緒に居たかのように話を組み立てた。
その場で話を作れる能力は詐欺師向きだ。
ブレンダンは眉間にしわを寄せた。
「ムーアの一族は砂漠の国境の守護者だ。デザートウォーカーの二つ名は大げさでも何でもない。お前が行ったことで彼らの貴重な時間を使わせたのだから…」
「う、ううん、違うの!たまたま…ジェフがいて、それで一緒にサメの歯を拾いに…」
「領主も含め”王族のために砂漠から戻って来た”と言ってくれたと…」
「そ、そうだけど!」
アデレートのまぶたが上がり、つられて眉も弓のように反った。
話にボロが出始めると断然面白くなる。
イザベラはこれ以上追求しないでというように、オレンジ入りのチーズをパンの上に乗せ、サンドイッチにして口へ運んだ。
――――――――――
同じアリディンバリス。
国内危機管理大臣は部下からの報告を受けていた。
「例の美術商の動きですが。1111万ゴールドという大金が爽月4日の早朝に動いています」
「…ハァ。こんなに時間にこんな不自然な金額の入出金記録があるということは、土地でも扱っているんですか?」
土地は全て国家が所有しており、そこから地方に分けられ、実際は領主が管理している。
領主が販売しているのが管理権で、宅地だろうが農地だろうが工場用地だろうが、販売されている”土地の管理権”を購入しなければならない。
実際に土地を個人で所有できるわけではないのだが、100年のスパンで管理権を所有している家系やが企業が多いため、一般的に所有と見なされていた。
また、又貸しや転売なども認められているため土地ビジネスも存在しており、当然動く金額は莫大になる。
大臣は皮肉っぽく美術商で土地が売り買いされたとボヤいたのだ。
「無論、高額な美術品が買い取りされた”だけ”の可能性もございますが…まずもって”成仏できぬ水筒”を買い取ったのかと」
大臣は資料を何度もめくって流し見をする。
「普段の取引傾向からして、額が大きい場合は日中に入出金がありますからね。深夜早朝に大きい取引とは、まるで盗品買取商のような動きではありませんか?」
「ふふ、第一王子様の前で5000万ゴールドを請求した際、”アリディンバリス語が不自由な者から買い取った”と、外国人が所有していたかのように申告しておりましたが…実際、口座の持ち主はアリディンバリス市民、と」
「もっと言えば、”物々交換だったのでゴールドの移動では追いかけられない”というのも嘘ですね」
大臣はイスに深く座り直した。
「モンスターを飛ばした見張りからの報告は?」
「いかにも窃盗団らしき人間が、馬車に大量の荷物を積んで出入りしていたと」
「盗品等関与罪の匂いが?」
「します」
「いやぁ、感謝しないと。そういう場所でなければ、成仏できぬ水筒のような呪われたアイテムに関しての知識すら無いでしょうからね。見つけて王城まで持ってきてくれるとは」
「必要悪でしょうか?」
「本当に闇から闇へ個人売買されたり、貴族、王族のコレクションの価値を理解できないならず者に破棄されるよりましでしょう」
「こういう場所はこちらが利用してやりませんとね。ところで…」
部下は無言で別の資料を差し出した。
国内危機管理大臣は無言になる。
「…」
口座に振り込まれた1111万円が、スグム川付近の土地所有権の購入に使われている、というのだ。
大臣の叔父は、スグム川の開発を始めたばかりの領主で…大臣は少しだけ不整脈を感じた。
「おおっと…冗談でしょう?」
「故郷が潤う事より良いことはございませんね」
「さらに、この情報があれば、いざという時に悪党が購入した土地を接収したり…親族に濡れ衣をかける事も可能、と」
「ふふ、私の故郷にもこのようなスキャンダルが欲しいのですが。王のように振舞う兄たちを貶めてやりたいですよ」
「最近ざまあ臓に栄養をやっていなかったような気がします。演劇でも見にいかなければ。よろしければ一緒にいかがです?」
「喜んで」
大臣は短期間でよくここまで調べてくれましたね、と部下を褒め、大切そうに資料をしまった。
――――――――――
同じアリディンバリス。
窓から身を投げて死んだメリンダ・ロウトンの両親は、領地内で冒険者ギルドを営む叔父を招いていた。
メリンダの父親が驚いて尋ねる。
「それは本当ですか?」
「ああ、最初聞いたときはどうせ与太話だろうと思ったんだ。しかし、人を送って、領主の屋敷で働く使用人の口から実際に…」
「ワーグマンの次女が王城奉仕から帰って来た、と聞き出したのですね?」
「らしい。今は、屋敷に引っ込んでいるようだが…まあ、税金の計算でも手伝わされているんだろう」
領主である母親は、遠くから耳鳴りを感じた。
ロウトン家とワーグマン家は隣り合った領地を治めており、親交もある。
民間ベースでの行き来は活発で、大型のモンスターが出現するなど、互いの領地でトラブルがあればすぐに駆け付ける関係だ。
実際、領地の境界に発生したダンジョンなどは、争いにならないようによくよく話し合って所有権を決めてきた。
「でも、叔父さま。メリンダとは違い…名前は何だったか…クリスティーナ?クリスティーナちゃんはまだ半年かそこらしか人質になっていなかったでしょう?」
夫がたしなめる。
「人質だなんて言うな。王家への感謝を込めた労働、だろ!」
「とにかく。王城への奉仕からそんなに早く帰って来るだなんて、前例をご存じでしょうか?」
叔父はヒゲを撫でた。
「十中八九、なにかやらかしたんだろうな」
領主と夫は顔を見合わせる。
「実は、叔父さまにお話が…」
メリンダが窓から身を投げた理由が、盗みに関わったことを恥じて、というものかも知れないと正直に打ち明けた。
叔父はヒゲを撫でている手が疲れたのか、反対の手でヒゲを撫でだした。
「小さい盗みやらケンカやら、そんな事はちょくちょくあるらしい。ただ大体の出来事は、使用人長や同僚がごまかすと聞いたが、まあ…表に出そうになったんだろうな」
「それが…メリンダは第一王女様の所有物を盗んだようで」
「何だって!?そりゃ大罪だが、しかし…メリンダのように優しい子がまさか。驚きだ、信じられない」
「はい。私もメリンダからお金が送られて来た時、こんなに賃金をいただけるものなのかと驚いたんです…あの時、気付いてやれれば」
父親が肩を掴む。
「嘆いても仕方がない。しっかりと葬式はあげたんだ」
話を変えるように、叔父は兄の様子を話す。
ロウトン一族で前領主だったのは彼の兄の妻、つまり兄嫁だった。
領主である兄嫁が病気で引退した時、彼女の夫である兄が当然領主の座に納まるものかと期待していたのだが、夫婦関係が愛情から憎しみに替わっていた両者でそれは起こらなかった。
兄嫁は領主の座を娘に渡し、また、夫である兄も領主なんてまっぴらごめんだと断ったため、メリンダの母親が一族と領地を治めていたのだ。
「…というわけで、まぁ…酒は絶対に渡してないし、好き勝手出来ないようには気を付けている」
「お父さまを任せっきりにしてしまい申し訳ございません」
「どんな家にも体面がある。もっとも、妻から領主を引き継がなかった時点で体面はボロボロだ。取り繕っても仕方のないことかも知れんが」
使用人が茶を足しにやって来た。
「…お母さまが亡くなった時、これでお父さまも屋敷に帰ってきてくれると思ったのですが」
気まずさに叔父は背を丸めた。
兄が酒におぼれている事は恥だが、兄嫁が病気の間、一度も顔を出さなかった事、そして未だに領主の屋敷に戻っていない事はもっと大きな恥だった。
「説得はしているんだが、戻りたくはないそうだ」
「もうお母さまは居ないのに?政略的な結婚ではありましたが、それでもロウトン家の血筋はお父さまのものです。お母さまは亡くなったのだから最低限一族の長である責任を果たし、家に居てもらえれば、それだけでいいのに…」
「それができないから弟である私も苦悩している。姪っ子であるお前には償いになることなら何でもしてやりたいんだ…そして」
壁に飾ってある肖像画を見た。
家族の肖像画で、小さな子供がヒザの上に乗っている。
「亡くなったメリンダのためになることもな」




