人質生活65日目
「それではこれより、転生させ女神様に祈りを捧げます。皆さま、この世界に感謝を!」
今回はきちんと聖職者の衣装を着ているルイスが、モルリヴァール語で喋る。
みんなそれぞれの方法で祈った。
頭を下げたり、胸に手を置いたり、片ひざを折って床に付けたり、指を組んだり。
祈りの時間が終わると、おのおの捧げものを女神像の前に置き始めた。
上級使者…その正体はトーラティカの王子フィリップだが、彼はもぞもぞしている。
「あ~、ええと、レジナルド様」
「?」
「このチェストの中に転生させ女神様への贈り物が入っているんだ。でもね、別にお供えした後は好きにしていいから。例えば、自分の部屋に持って行くとか」
「おおっ!さすが上級使者様じゃないか!!大きなケーキを持ってきてくださったんだろう!!」
「えっ!?ち、違…!!」
空気が読めないレジナルドはチェストを開けてしまう。
「特大ケー………これは」
レジナルドの部屋から押収したコレクションだった。
「ええっと…転生させ女神様のご機嫌を損ねちゃいけないだろ?レジナルド様とそのブタ、じゃなかった、モグラは女神様のお気に入りらしいし…」
「…」
「怪しいものが無いか検査したけど、まあ、問題なかったから…返すよ」
「ありがとう」
「えっ!?」
「自分の過ちを認めて奪ったものを返してくださるとは、寛大なお心だ。感謝する」
フィリップが掴みかかろうとしたのを彼の従者が止めた。
「女神像の前でおやめください!」
「ふん!」
フィリップは仕方なく拳を降ろした。
「やっぱり返すべきじゃなかったかな?」
ハインリヒが慌てて手をパシパシと叩く。
「さあ、軽食を用意してございますので」
マシューもフィリップに寄っていく。
「立ったままでの食事ですがお許しください。それも女神像の完成パーティらしくて良いでしょう?上級使者様の好きなアンダーグラウンドヒル蟹のテリーヌ、電気リンゴのパイ、アコーディオン豚皮の油掛けもございます。スパイスは円盤流れ星を用意しました」
「嬉しいよ。良く調べてくれたね」
一国の王子の好きな食べ物なんてみんな知っているだろう、と心の中で突っ込むレジナルドの横で、モグラがシュッと消えた。
「おお、転生させ女神様の元へ行ったのか」
「帰って来るでしょうか?」
「さあな、そんな事より、俺はこのフェニックスの羽で作られたフェニックスのフィギュアを自分の部屋に運び入れる」
マシューがそっとレジナルドを止めた。
「お気持ち、お察しいたします。しかし、みんなで食事を取っている最中にそのような行為をなされてはフィリップ王子様の気持ちを逆撫でするだけです。どうか今は押さえて、ご一緒に食事を楽しんでください」
「…そうだな。危うく、子供じみた真似をするところだった。止めてくれてありがとう」
――――――――――
モルリヴァールでの闇オークションで落札されたレジナルドの絵画は、貴族や王族、コレクターの手に渡っていた。
「いいですね、絵画そのものより、やはりレジナルド様が所有していたという部分で価値が付く」
支配人はゴールドを数えて満足気だ。
まさか闇オークションで内国為替や外国為替を許すわけにもいかず、ゴールド現物を使っての取引のみが行われているのだ。
「もっと”商品”を仕入れてくださらないでしょうか?」
影に溶けていた女性が出てきた。
「最近は王城での盗みがバレて大騒ぎらしい。もうムリだろう」
「これからという時に…」
「コレクションを偽装すればいいだろ?何を持っていたのかは本人が宣伝していたのだから、それっぽいアイテムを作れば…」
「そうしたいのは山々ですが、やはり本物を手にすると贋作との違いは判ってしまうのです。溺死王のデスマスクもその最たる例でした」
「そうか…でも私もこれ以上は動けない」
「王城で働く使用人や兵士と、なんとかしてコネクションを作ることは?」
「それを恐れて使用人も兵士も貴族でガチガチに固めているんだ、門外漢…私は男じゃないが、部外者が入れるような隙間は無い。魔法使いも魔法が得意な従者や兵士の中から選ばれるし………いや、待ってくれ」
「どうされました?」
「演者はどうだろう」
「それは良い考えですね。しかし、流れの道化師がいきなり王城に潜り込めるものなのでしょうか?」
女性は目線を上にあげ、腕を組んで”ふむ”というポーズを取った。
「私には何のコネクションも無い…だから、直接入り込むことはできない。でも既に実績がある人間を焚きつけることぐらいは…出来るかもしれないな?失敗したとしても、やってみる価値はあるだろう」
渡りに船、ならぬドラゴンで、湖の街には旅客ドラゴンが到着していた。
アリディンバリスまでひとっ飛びだ。
――――――――――
「兵士が行方不明になった事実を、家族に隠し続ける事は不可能だ」
アリディンバリスの王城にある小さな部屋。
部隊長が数人集まり、兵隊長と話し合っていた。
「ウォルターの失踪を全力で誤魔化さなければなりません」
王城で起きている不気味な騒ぎは広く知られる事となり、ウォルターがこのタイミングで消えたとなれば、彼の家族が苦しむことになるのは明白だった。
「ウォルターと仲が良かった兵士にも聞き取りをしましたが、結局、ギャンブルに入れ込んでいたようで…」
田舎にはない楽しみが都会にはあるものだ。
それで身を崩してしまっては元も子もない。
「まず間違いない、騒ぎを起こしたのはウォルターだろう」
「それなら余計に隠さないと」
「移動があって、その先で行方不明という事にしては?」
「あなたも貴族ならご存じでしょうが、我々は横のつながりが強いです。移動先に出身領主から一筆あることも当たり前で、移動の報告も実家に送られますから…本人の”体”が無ければおかしいとすぐに気付かれるでしょう」
「すでにウォルターが失踪したことは兵士の間では噂になっている。もう隠ぺいは不可能だ」
兵隊長がうなった。
「…彼の家が治める領地と、私の叔父の治める領地は隣り合っている。なんとか助けたい」
隊長たちは視線を交わし合う。
誰かがポツリと呟いた。
「名誉の殉職という事にしましょう」
全員がうなずく。
――――――――――
「…つまり、業務中にウォルターはドラゴンに飲み込まれてしまい、死亡した」
大勢の兵士は立ち尽くしながら話を聞いている。
その中のひとりが、兵隊長の話を要約した。
「あのー、えっと、つまり…ウォルターは極秘任務の”ドラゴン・ゴーレム計画”の水やり係に任命され、水やり業務をしていた、と」
「ああ。計画を任された数名の兵士と、大臣しか知らない極秘中の極秘プロジェクトで、私も知らなかったが」
「…そして、ドラゴン・ゴーレムの口の中に水魔法で水を出している最中に………飲まれた??水と一緒に?????」
兵隊長の言葉を素直に信じた兵士達から不満の声が上がった。
「それって労災の中でも最低のヤツでは!?」
「多額の手当てが家族に送られるとか、階級が上がるとか、そんな事で済ませられるんですか!?」
「殉職って、言葉の聞こえを良くしてるだけで、そのプロジェクトは本当にアリディンバリスにとって必要…」
「第一、人造ドラゴンだなんて…」
部隊長たちがその場を収めた。
「この話は当然秘密だ。口外する者がいれば計画全体が崩れる。その事は理解してくれるな?」
「…」
「…」
「…」
「よし。もちろんドラゴン・ゴーレム計画はいったん中止にする。お前たちに声が掛かることは無いが、同僚のウォルターの意志を無駄にしないためにも…絶対に、誰にも言わないでくれ。いいな!?」
後は両親を呼び出すため、故郷の領地へ手紙を送るだけだ。
――――――――――
トーラティカのカントリーハウス。
昼食を兼ねた簡単なパーティは終わり、レジナルドは上級使者とその従者を見送っていた。
「これはシェフが作った焼き菓子だ」
「…ありがとう」
従者が受け取り、馬車が出発した。
下り坂のポータルに入るまで一応見つめる。
「………っっっよし!!!!帰ったな!!!!!!!!」
レジナルドは今までに見せたことが無いぐらい機敏な動きでUターンし、エントランスに駆け込んだ。
「お!れ!の!!!!収!集!物!!!!!」
自らが何年もかけて集めたであろうコレクションを確認し、奪われた全ての品が戻ってきた事を確かめる。
「よおおおおおおおぉぉぉっっっし!!!!!俺の宝物が、すべて!!戻って来た!!ああ~~~今まで不信心で申し訳なかったが…やはり”女神の一睨み”は効くんだなぁ…」
レジナルドの後ろからマシューや使用人がクスクス笑った。
その笑いの中には安堵も含まれている。
「お部屋までお運びしましょう」
「ああ…ありがとう…いいや!俺も運ぶ!みんな、手伝ってくれ!!」
自ら一番重たそうな壺を持ち上げ、わしわしと階段を登っていく。
その後から使用人たちが続いた。
――――――――――
パーティの片付けもひと段落した頃。
庭から蹄の音がして、ハインリヒが出て行くと使者が居た。
「新聞の切り抜きです」
「お疲れ様です。ああ、上級使者様とポータル出入り口ですれ違いませんでしたか?」
「いいえ…王城へ向かう道ではすれ違いませんでしたから、タフタフリッチへ向かわれたのかも知れません」
「何用で?」
「王じ…じゃなかった、上級使者様のお仕事に私は関与しておりませんので」
新聞の切り抜きが入った封筒を、セーラがハインリヒの手からひょいと抜き取る。
今日のセーラは乗馬服ではなくドレス姿で、そもそも乗馬ではなく馬車で来ていた。
「嵐の被害はまだ新聞記事になっていませんから、のんびりとした話題ですね」
南方から順次ウニ葡萄の収穫はじまる、という季節のニュースだった。
「レジナルド様に無許可で封筒を開けないでください」
「オホホ。いつもは新聞記事の切り抜きで大喜びですが、今日はそれどころじゃございませんものね」
――――――――――
レジナルドは自分の部屋にコレクションを並べ終え、ホッとしながら泣いていた。
「もう二度と取り戻せないのかと思っていた…良かった、本当に良かった」
マシューとビルに慰められながら、レジナルドは落ち着きを取り戻す。
「ああ、今日は…すごくいい日になった」
「本当ですね。棚に置き物があるのが懐かしいですよ」
「お茶と菓子を持ってまいります」
ビルは退室し、マシューとレジナルドの2人になった。
「…」
レジナルドはうつむいて涙をぬぐっている。
パーティの最中も気が気ではなかったのだろう。
「良かったですよ。それに…聖職者も呼んで正式に転生させ女神像として認めていただけたわけですし」
「…うむ」
「元気を出してください」
「何だって?今までにないほど元気だぞ。ただ…はしゃぎ疲れただけだ」
「ハハハ、それならわかります」
ビルがサービスワゴンを押してきて、カップに茶を注いでくれた。
レジナルドはぐるっと部屋を見回し嬉しそうに笑う。
「ありがとう…ああっ、宝物が戻って来たことばかりに気持ちが行って、ルイスやセーラに来てくれたことへの礼を言い忘れたな」
「そこはご安心を。執事の役目でしょう」
「そうか…」
安心したのか、菓子をバクバク食べる。
「軽食をあまり食べていらっしゃいませんでしたね」
「ああ、気が気じゃなくてな。俺の人生で初めて食欲を忘れた一瞬だった」
「ダイエットのために、定期的に持ち物を没収していただきましょうか…?」
――――――――――
地下牢で罪人の泣きわめく声が聞こえる。
「おいお前ら!静かにしろ!!」
兵士が近づくと、誰かが囲まれて蹴られているのが見えた。
「勝手な事をするな!離れろ!!」
「どうした?」
「仲間割れみたいだ、まったく…」
元犯罪集団のボスが囲まれていたらしい。
「リンチか?まさか殺してないよな!?」
犯罪者たちが言い訳する。
「こいつらが古物商の店を乗っ取らなきゃ、俺たちのレクリエーション嗜好品製造工場に目をつけられることも無かったんだ!」
兵士はため息をついた。
「はいはい、そしてその古物商は燃えて証拠は何も無く、取引が記録されたリストも見つからなかった。で?お前たちは裁判待ちだと…」
もうひとりの兵士が笑う。
「裁判待ちっていうか、死刑の執行待ちだな?ハハハ!危険嗜好品の製造・販売・購入は死刑だからな!」
どうしようもなく見下した笑いをかけられた罪人は、鉄格子の隙間から手を伸ばした。
「待て!司法取引しようじゃないか!!」
「はぁ?」
蹴られてぐったりしている男を指さす。
未だに体が角ばっていた。
「こいつは悪党どものボスで、仲間がよくたむろしてる酒場があるんだ。その場所を教える」
「へぇ」
「そんなに大きい集団なのか?」
鉄格子の前にワッと罪人たちが迫って来た。
「魔法石の採掘でも何でもやるから牢屋から出してくれ!」
「レクリエーション嗜好品を作ってたのは謝るよ、一生をかけて償う。でも、あの辺りを荒らすだけ荒らして出てったコイツの仲間は許せねぇ」
「コイツと仲間たちは小さい盗みを繰り返してる小悪党なんだ!少し裕福な商売人の屋敷にも入ったりしてる!全部教えるよ!!」
「私たちなんかより、泥棒集団の方がよっぽどアリディンバリスの面汚しでしょう!?それに私、知ってるの………」
兵士が女に近づく。
「何を?」
「あの古物商に家具か何かを持ち込んでいた人間を!」
「古物商ってのは、人の出入りが相当あるだろう?全員を覚えてるってのか?」
「違う…明らかに盗人や、生活に苦しんで物を売っていた人間じゃなかった」
「詳しく聞かせろ」
「あなた達兵士が、あんな郊外にわざわざ来たんだもの、何か重要なものが盗まれたんでしょう?私、覚えてる…朝、男性が荷車を馬に引かせて…」
「へえ」
「若い男性で、何度も来たの。女性と一緒の時もあった!きっと彼と彼女は…貴族の屋敷とか、王城とか、良い場所で働いていて、そこで盗みを働いたんだよ、間違いない!!」
それを聞いたカールとボブは顔を見合わせた。
「同僚の恥を隠してやろうか」
「そのぐらいはやってやらないとな、危うく俺たちも巻き込まれる寸前だったところを”回避”させてもらったわけだし」
「回避って言っても自分でドジっただけだったけどな。ま、死んだ仲間への手向けみたいなもんかぁ?」
牢屋の中に入っている人間の頭に?が浮かぶ。
「よし。その泥棒たちのボスを蹴り殺せ。そうすればお前たちの罪が軽くなるよう調停官に働きかけてやる」
その言葉を聞いた罪人たちは目の色を変え、すでに意識のないボスを蹴りまくって殺した。
ハァハァと息が荒い集団に向かって、兵士は”今度はお互いに戦え!”と指示する。
ためらいながらも生き残りたさに負け、仲間同士で殴ったり蹴ったり噛みついたりを小一時間程した。
消耗した頃に兵士たちは同僚を呼びに行く。
「おい!とうとう犯罪者たちが狂ったぞ!」
「とんでもない混乱で手が付けられない!助けてくれ!!」
生き残った犯罪者たちは大声で違う、こいつらが戦うように命令したんだ、と騒ぎまくった。
しかし後から増援で来た兵士がそんな言い訳を信じるはずもなく、牢屋の隙間から、投獄されている人間を剣でサクサクと刺す。
叫び声が上がり、魔法石で出来た床に血が滴る。
「確か回復魔法使えたよな?」
「内臓がやられてそうなら無理だけど、切り傷なら直せる。いったん牢から出さないと」
「すまないな、頼む。仲たがいして暴れ出して困ってたんだ、まだ生きてそうなヤツには回復魔法をかけてやってくれ」
「しょうがないなぁ…」
生き残った人間の中にはまだ暴れて兵士にかかって来る元気がある者も居たが、剣でスパっと腕を斬られた。
反抗もできずただ血を失っただけの男は、自分の腕が千切れてしまわないように傷口を押さえる。
「くっつけてほしいなら騒ぐな」
「…」
生き残った数人の犯罪者の目からは、生きようとする希望の光が失われた。
――――――――――
ブレンダンの部屋の扉がノックされ、兵士が従者に小さい声で話す。
「ブレンダン様…」
「その様子だと、良くない知らせだな?」
「牢で罪人が暴れ、トランクケースの男が別の罪人に蹴り殺されたそうです」
「…っ!!!!」
第一王子のブレンダンは目を通していた資料を窓に叩きつけた。
「やはり罪人を閉じ込めておく場所を別に作った方が良いな。もう平和な時代は終わったんだ、これからは専用の”刑務所”が必要になる」
従者が首をかしげた。
「罪人をひとりずつ閉じ込めて監視できる牢ですか?」
「そうだ、今までは広い檻で大勢をいっぺんに閉じ込めていたが、それだと人間の取り違えや罪人同士のイザコザで死んでしまう者が出るだろ?それを解消できる」
「他国ではそのような施設があるそうですが…我が国でその刑務所を作るとなると、魔法石が大量に必要になるでしょうね」
「仕方ない、これも国の安定のためだ。そもそも、王城の地下に捕らえておくというのは時代遅れだと思わないか?」
「どうでしょう…便利な面もございますが。王城に牢があるのは、逃亡を防ぐために一時的に閉じ込めておく場所が必要だからです。これが遠方にあれば折檻して自白させるのも難しくなりますよ」
「まあ、それもそうだな…」
「そもそも懲役刑がある国では、牢に入ること自体が罰になるそうです。刑務所というのもそのための施設だそうで。しかし、ここナーロッパでは普通は死刑、もしくは無罪、あるいは罪があるのならその罪状を弁償させる金銭の支払いや労働、財産没収。この3つに振り分けられるではないですか。運用上、長期投獄の刑務所は必要ないかと」
丁度いいタイミングで別の従者が茶を運んでくる。
ブレンダンは一口だけ茶を飲んで落ち着きを取り戻すと、地下牢に向かった。
「申し訳ございませんでした。騒ぎを収めるために剣を使ったのですが…内臓まで深く傷つけてしまい、数名はそのまま死亡しました」
第一王子の冷たい視線が牢の中に転がっている死体に向けられる。
「ご苦労だったな。愚か者共が自分たちの手足を食い出す惨事を止めるすべはない、申し訳ないだなんて言うな」
ブレンダンは腹を立てていた。
貴重な情報をまだ持っていたかも知れないトランクケースの男が蹴り殺されたのだ。
騒ぎの当事者であろう、生き残りに目を向ける。
「う~ん、別にいちいち裁判にかける必要も無いな。そうだろ?」
鉄格子の中で生き残った数名が震えて肩を寄せた。
「魔法石の中じゃこいつらを焼き殺すこともできないからな。もういい、剣で首をはねてくれ」
「しかし王子様、裁判は?」
「必要ない、どうせ違法なレクリエーション嗜好品を作っていた奴らだ。むしろ貴族の刃に血を流すのなら名誉ぐらいの下等さだろう?」
ブレンダンの言葉にボブとカールは迷わず剣を抜き、その場で彼ら彼女らの背や胸を刺した。
「首をはねてやれと言ったのに!」
「首を落とすのは困難です。かなりの技量が必要ですし、勢いをつけなければなりません」
「狭い牢の中では剣を振り降ろせません、お許しを」
ブレンダンは、仕方ないな、というジェスチャーをして牢から出て行った。
――――――――――
「おい!大変だぞ!!」
豪華な宿屋でくつろぐ悪人たちは、報告に驚いた。
「元のアジトに兵士が来たって!?第一王子も居たらしいぞ!?マジでヤバいじゃねぇか!」
「近くに住んでる奴らは、俺たちの存在を速攻でチクっただろうな…ここに居る事は知らないだろうが」
「普段通ってる酒場も危ないぞ」
「ボスはここ最近ずっと居ないし、どうすりゃいいんだ!?」
行きつけの酒場で情報収集や仕事探しが出来なくなれば、別の場所を見つけるしかない。
しかし、別の酒場やたまり場は、当然別の窃盗集団の縄張りであり、おいそれと顔を出せるような雰囲気ではなかった。
普段から交流があるのなら話は別だが、ライバル同士顔が割れており、商売敵であるチームに向かって、気軽に仲間に入れてくれと頼めるような関係でもない。
「今あるゴールドだっていつかは無くなる」
「まさか、泥棒が食いっぱぐれるなんて笑い話だろ、手持ちが尽きれば盗むだけだ」
「そんな先の話をしてる場合じゃない、ボスが見当たらないのは…捕まったからじゃないのか?」
「まさかだろ!」
悪党共は額を合わせて相談する。
「とりあえず、ここからは出るか」
「出るか、って、気軽に言うなよ!?行く当ては?」
「少しの間でも王都から離れておけばいい。1年もすりゃほとぼりが冷めるってもんだ」
別の悪党が宿屋へ戻って来た。
「おいおい、シケた話しやがって、王都から離れる!?最高の儲け話があるのに、どこへ行こうってんだよ!!」
「兵士にここを嗅ぎつけられるかもしれねぇ、命が何より大切だ」
「”大きな屋敷を打ち破る”計画があるらしい。そこで暴れまくれば、一生分のゴールドが貰えるんだぞ!!俺たちにピッタリの仕事じゃねえか!」
悪人たちは話を聞いた。
「実行は次の次の月か。大きな屋敷ってのは…まさか、貴族の屋敷じゃないよなぁ!?」
「魔法が使える人間の反撃に会えば即死だ。誰がこんな危ない仕事を…」
「でもなぁ、一生分のゴールドか…」
――――――――――
「誰か、モグラを見たか?」
トーラティカのカントリーハウスでは、レジナルドが夕食時になっても現れないモグラを探していた。
「外にもおりませんでした」
「なら、転生させ女神様のもとへ連れていかれて、それっきりか…」
「不安がることはございませんよ。きっと転生させ女神様にかわいがられているのでしょう」
「そうだといいが」
レジナルドはさっさと食事を済ませ、ベッドに入った。
彼の隣に置いてあるベッドは空っぽだ。
寂しさを感じながらも眠りにつくと…。
「ここはどこだ!?」
「よく来たな!!!!モグラテンボスへ!!!!!!」
隣りを見ると、胸に子犬サイズに縮小されたモグラを抱えた、転生させ女神が立っていた。
「て、転生させ女神様!?俺と体のサイズが一緒ですね…!?っていうかモグラテンボスって何ですか!?」
「モグラの家、つまりモグラのテーマパークだ!!数か月かけて作った。今日は全世界からモグラ好きを呼んだのだ!」
「俺はモグラ好きじゃないです」
「まずはウェルカムゲートだ!」
「話を聞いてくださいよ…」
花に囲まれたトンネルに入る。
「おお、凄いですね…ここは世界のどの辺りにあるのでしょうか?」
「転生空間にあるから、まあ、精霊や守護神の居場所だな」
「えっ…地上ではないのですね」
「ここにあるのがモグラの蛇口。ひねるとモグラが出てくる」
「怖いですよ」
「ホットとコールドの2種類だ」
転生させ女神はレジナルドと共にテーマパーク?の奥に進んだ。
「これはミミズライド。乗れ」
「もはや命令形ですね」
レジナルドがアトラクションに乗ると、ミミズ型の乗り物がウネウネと動き出した。
「きしょいですよ~~~!!!」
「そう言うな、当のモグラは喜んでいるぞ?」
モグラもきしょがって体をくねらせた。
「次はフードだ!」
「昆虫ですか?」
「当然だ。ラージ・カマドウマの肉を棒状にして油で揚げて砂糖をまぶしたお菓子を食え!」
「おお、甘くて美味です。塩味のあるチュロスみたいですね。レシピをシェフに教えてやらないと」
「虫以外もあるぞ。幻覚見キノコのスムージーだ…おい…モグラテンボスの地面が…揺れて…ぐにゃんぐにゃんだ…」
「正気ストーンの粉末で灰汁抜きしないからですよ?」
他の人間や精霊、人型の生き物が騒ぎ出した。
「うおっ、あれってエルフですか!?初めて見ました。森の主のような存在だと知識は持っていましたが、モグラ好きのエルフも居るんですね…なんか幻滅するなぁ…」
「もうこんな時間か!パレードが始まるぞ!!」
「パレード…!?」
「キャストが馬車の上に乗ってダンスしながら施設内を練り歩くんだ。音楽もいい感じで作らせたからな!」
乗り気ではなかったレジナルドもパレードを見ると気が変わったのか、大興奮で手を振った。
「こっちにも花を撒いてくれ!」
「凄いだろ~?」
「ええ、まるで動く舞台です、俺が見たかったものだ!!それに…転生させ女神様のお顔もパレードの紙吹雪みたいにピンクと水色になってますし…大丈夫ですか?」
「幻覚見キノコのスムージーは再考の余地があるな…」
転生させ女神に抱きかかえられたモグラも、パレードを好きになったようで大きな前足を振って喜んだ。
その後もモグラと一緒にゴンドラに乗って水上をまったり移動したり、スーベニアショップでもぐらのカチューシャを買って頭に付けたり、モグラテンボスを満喫した。
「最後はショーだ!モグラ塚の前でモール・ジャンボリーをみんなで踊るぞ!」
「えっ、だ、ダンスは得意じゃなくて…」
「案ずるな、脳に記憶を植え付けてある」
「怖いですよ」
会場には多種多様なゲストが集まっていたが、全員、寸分たがわないリズムでダンスを踊った。
「同じデータだと気味が悪いな。今度からもうちょっと”ズラす”ことに気をつけようと思う」
「今度も何も、もう呼ばないでくださいよ」
「でも楽しかっただろ?」
「凄く楽しかった!!」
「じゃあまた来るよな~?」
レジナルドの手に何かが手渡された。
「これは?」
「生パス」
「年パスじゃなくて?」
「一生無料なので生パスだ。いつでも来てくれ!!ワ~~~~ッハッハッハッハァ!!!!!!」
朝起きると、レジナルドの頭にはモグラのカチューシャがついたままだった。




