人質生活3日目
レジナルドは朝から浮かれていた。
馬に乗れないというコンプレックスが解決するかもしれない。
「おはようございます、レジナルド様」
経験豊富そうな60代ぐらいの女性のインストラクターがレジナルドに挨拶する。
「よろしくおねがいいたします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
まずは馬と一緒に歩く。
インストラクターが手綱を引きながら歩くので、その隣で歩いた。
「レジナルド様。乗馬で難しいのは何か、ご存知でしょうか」
「ああ!確か、走らせる速度を変える事だったかな。いや、右に行くか左に行くかを伝える事?上手く障害物を越えさせる事だったか…?」
「乗馬で一番難しいのは、馬に乗ることです」
馬の胴体を模した木の台がデデン!と置かれた。
まずはこれを使い、サドルへの上がり方を練習しなければならないらしい。
踏み台があるものの、それなりの高さまで足と体を持ち上げなければならず、想像より大変だ。
「うっ、うぐぐぐぐ…!」
「そうそう、そうです!そのまま左足を持ち上げて…」
「うっ、うぐぐぐぐ…!」
「はい、見事乗れましたね。では同じ側から降りましょう」
「ハァハァ………一度乗ったら降りられないが?」
体を持ち上げるのも一苦労だったが、体重があると踏み台に足を降ろすのもまた一苦労だ。
馬の右から乗って右から降りる。
馬の左から乗って左から降りる。
馬の右から乗って左から降りる。
馬の左から乗って右から降りる。
「馬に乗れなくても、馬に乗れないだけですが、馬から降りられなければケガをしてしまいます。しっかりと練習いたしましょう」
「ハァハァ………確かに着地は危険だな」
「ええ。落馬といえばみなさん乗馬中の落馬ばかり想像なさるんですが、実際は乗り降りの際に落馬してしまうことも多いんですよ。特に、レジナルド様のように自重がある方ですと…ちょっと落ちただけで、ご自分の体重がドン!と圧し掛かってきますからね。より死にやすいです」
「より死にやすい!?!?!?」
さすが一流のインストラクターは違う。
レジナルドは必死に練習して、午前中だけで馬の模型に自由自在に乗れるようになった。
ちなみに本物の馬には一度も跨っていない。
午後からは疲労で泥のように眠った。
――――――――――
この日の前日。
アリディンバリスではとある劇が公演初日を迎えていた。
そして翌日の今日。
王国議会で、その舞台が議論になっていた。
議員が神妙な顔で劇のタイトルを読み上げる。
「”ぽっちゃり王子~財力カンストで自重してと言われてももう遅い!暗黒と光明のパラドックス最強神魔法の使い手に転生!?妖精999人に愛されチート生産スローライフ実況~”ですが、どうもレジナルド様をモデルにした演劇のようだという情報が」
「国王様、いかがいたしましょう」
レジナルドの父である国王は眉間にしわを寄せた。
「…ざまあ要素はあるのか?主人公を捨てたパーティが酷い目にあう台本なら見に行きたい」
「国王様!今は劇の内容はどうでも良いでしょう!」
レジナルドの兄である第一王子が発言する。
「レジナルドの浪費は問題になっていましたが、多くの芸術家、演劇の公演、それに音楽家を支援していたことの裏表でもあります。貴族は自分の領地や屋敷にアーティストを囲ってしまいますが、弟は広く市民も親しめるように、王都の芸術を盛り上げてくれていました。芸術振興の一面があったことは否めません」
高齢の大臣は苦々しい口調で発言する。
「しかしですよ。歴史上の王族ならともかく、存命の第二王子をモチーフにした劇というのは国家への侮辱ではありませんか?面白おかしい劇にされては、王家の威厳に傷がつきます」
国王はフン!と鼻をならした。
「あいつが息子である事実のほうが、王家の威厳に傷がつくというものだ。好きにさせておけ」
レジナルドの上の妹も笑った。
「面白おかしい劇というのは確かにいただけませんね。悲劇ならどうでしょう?ぶよぶよとした体形でワガママ。自国では誰からも相手にされず、軽んじられていた第二王子。必要とされないあまり、とうとう人質として異国の地へ送られ、侘しい生活でやせ細り、勉強を怠っていたので会話の一つにも苦労し、薄暗く狭い部屋の中に閉じ込められ、涙を流す…」
臣下の貴族と国王は笑った。
「さすが我が娘、才能があるな。その台本で劇を演じろと命令してみたらどうだ?」
「そうですね。私ったら案外、脚本家としてセンスがあるのかも…?」
第一王子は首を振った。
「議論の内容はそこではありません。なぜそんな劇が上演されたか考えてみてください。大衆芸術を愛していたレジナルドが去ってしまったことを寂しがっているんです。弟が居なくなったのなら意図的に国家予算を舞台芸術などへの支援に使うべきです」
国王は何かの冗談だと思い、次の議題へ!と大臣へ命じた。




