人質生活61日目
「まったく!朝からエピオルニスが脱走して大変だったんですよ!!」
「ハインリヒと馬係がトラブルを治めたたのだから、マシューが怒ることは無いだろう?」
それに、とレジナルドは付け加える。
「俺はあの巨鳥、結構気に入っているぞ。暴れ馬…じゃなかった、暴れ鳥ではあるが、なんとか一言二言会話もできたしな」
「何を請求していたんですか?」
「ギャーギャー騒いでいたからいってクレーマーだという決めつけは良くないぞ!?それが、厩舎で馬と共に暮らすのは嫌だと喚いていた。風魔法を使えるハインリヒも同じ発言を聞いたらしいし、結局、馬たちとは離れた場所に住処を作ってやるしかないな」
「なるほど。確かに巨鳥と馬との相性がいいようには見えませんからね。そう思うと…オービター牧場での暮らしは悪夢そのものでしたでしょうね?」
「わはは!馬嫌いが馬牧場で暮らす悲劇さは、悪夢という言葉でもまだ足りないだろうな。さて…」
レジナルドはモグラを床に降ろし、コーヒーを啜った。
「しかしこの曇天。買ってもらった本にもあったが、トーラティカに”秋の嵐”があるというのは本当のようだな」
「今日は来そうですね。そう思われてか、早朝のうちに使者様が新聞の切り抜きとお手紙を持ってきてくださいましたよ。さっき受け取ったばかりですので、まだ私も目を通しておりません」
封筒はフィリップからだった。
「…転生させ女神像をカントリーハウス内に置くことは許可しない、だそうだ」
「そ、そんなバカな!?私は昨日送った手紙にだけでなく、それ以前からの報告書にも、転生させ女神様の像を作っていると書いていたんです。もし、許可が出されないのであれば、もっと早くにそう仰っていただければ良かったものを!!」
「いいかマシュー、気に食わないプロジェクトというのはだなぁ…」
「…」
「完成間近で無かった事にするのが一番ダメージが大きいのだ!!」
通訳はガックリとうなだれる。
おもわずハインリヒも参戦した。
「王族ともなれば信仰に篤いのは当然です、石像を用意することぐらい問題無いのでは?」
「おお賢明な執事よ、手紙に正当な拒否理由が書かれていないという事は…それが存在しない、という話だ。あとな、俺の転生させ女神様への信仰は薄っぺらだぞ?」
「何度か夢で出会われたとお聞きしますが。熱心に祈られてもいいでしょう?」
「転生させ女神様は、今、人間に興味が無い。モグラに夢中だから祈っても祈らなくても同じだ」
ダイニングルームにいる使用人たちがどよめいた。
「ふ、不信心な発言はお控えください…」
「手紙にはまだ続きがあるぞ。どうやら上級使者様は、クライマックスでの登場をお望みのようだ」
「まさか」
「タフタフリッチの聖職者長に儀式を頼んだと言っていたな?」
「ええ、買いだしついでに教会に直接赴きお願いをしてきました。4日後の完成式には来ていただけるように、約束を取り付けてまいりましたが…」
「なら全員揃ったところで像の取り壊し式が始まるな。あの王じ…上級使者様は、完成式を最低のパーティに変えるつもりだぞ」
全員の表情が曇る。
「転生させ女神様の像は、役目を終えたり、不適切だった場合には勝手に粉になって消えてしまいます。作った像をわざわざ破棄するなど聞いたことがありません。女神様から罰が下るのでは?」
「王族に罰なんて下るわけが無いだろう!」
「そ、そんなことありませんよ!!」
使用人たちも詰め寄ってきてレジナルドの顔のそばでギャイギャイ騒ぐ。
「あ~~~~~~っ!!!!うるさい!とにかく、転生させ女神様はそこまで不寛容でもないし、かといってヒューマンの営みに興味津々な訳でもない。今はモグラ戦争に第三の勢力を介入させ、三つ巴の戦いに発展させることにワクワクしていらっしゃるのだから、当日の上級使者様がどう出るかによってのみ、この問題は問題か問題じゃないかが判明する!以上!!」
マシューはいつになく真面目な顔で話した。
「北方の支配者が、転生させ女神様の指紋をつけて一生を過ごしたお話、レジナルド様もご存じですよね?」
アリディンバリスやトーラティカとは直接国交は無いが、北方にとある国がある。
その支配者が国民を大勢集め、”転生させ女神に戦いを挑む”と発言したのだ。
瞬間、空から手が伸びてきて支配者を掴み、数分の後、ゆっくりと地面に降ろした。
支配者の背と胸腹には大きな曲線が等間隔で赤いタトゥーのようにつけられており、転生させ女神様の指紋だ、と人々を恐れさせた。
当然支配者は国民からの支持と権力を失い、その国は丸ごと別の国の支配下に置かれてしまったのだ。
「上級使者様がそのような目に合わないとは保証できません…どうか、転生させ女神様にご意見を伺っていただけませんでしょうか?」
「…仕方ないな。俺一人じゃ恥ずかしいから、みんなも来てくれ」
――――――――――
「オホホ。このお屋敷で働く人間全員と私で祈る、というわけですか」
「ああ、なるべく大勢で願ったほうが通じやすくなると聞くだろう。迷信かも知れんが…」
「馬にも心がございますから、馬も連れてきてはいかがでしょうか?」
「糞でエントランスを汚されるのは困る」
「ごもっとも」
乗馬インストラクターのセーラも加え、彫りかけの転生させ女神像の前で、全員で祈る。
その時。
屋敷が白い光に包まれた。
どこかから女性の声が聞こえてくる。
「ああ。もういい!これ以上削らずに、完成としてくれ!!このぐらいの荒さがエモいからな。何でもかんでも滑らかにすればいいという物でもないぞ?」
「!!!?????????!?!?!??!?!?!?」
使用人たちは事態が把握できず、ポカンと上を眺めている。
空も地面も無い真っ白な空間に身長5メートル以上の転生させ女神、そして隣には彫りかけの転生させ女神像があった。
「ゆ、ゆゆゆ、床がございません…!」
レジナルドは腰が抜けて座り込んだ使用人の手を取り、立たせ、スカートを軽く払ってやる。
「安心しろ」
それを見て他の使用人も落ち着きを取り戻した。
しかし。
「は???????????ここは?????????」
着替えの途中で無理やり転移させられたのか、シャツの上から2番目までのボタンしか留めていないフィリップが立ちすくんでいた。
適当に連れてこられたらしいルイスも慌てている。
「て、転生させ女神様!!聖職者の衣装に着替える時間をください!」
「ん~~~!細部までディティールに凝った像も愛情を感じるが、石の質感を感じられるこの粗削りなテクスチャ…いいぞ!特に気に入ってるのが、目口が無い事だ。見る側の想像を刺激し、より印象に残る女神像になる。評価できるポイントであろう」
女神本人は全然気にしていない。
とにかく、この空間に集まるべき人間が揃えられている。
「こ、ここは…?」
慌てるフィリップのシャツのボタンを留めてやりながら、レジナルドは微笑む。
「上級使者様は、巨人のヒザにあるカントリーハウスに転生させ女神像を置く事を許可されなかった。そうだよな?」
「なっ!?!?!?!?」
フィリップは慌てまくり、レジナルドの手を払った。
自分でシャツのボタンを留める。
「ここはどこだと聞いているんだ!!」
聖職者のルイスがやんわりと叱る。
「王子様、転生させ女神様の御前です」
「えっ!?そ、そんな…!?!?!?」
「それより、転生させ女神様像を置くことを許可されなかったというお話、本当ですか?」
「…!!!!こ、この屋敷は王家の所有物だ!何をするにも王族に決定権がある!それに…だって…でも………」
「聖職者長として見過ごせません、報告させていただきます」
「ま、待ってくれ!」
変なタイミングでサイモンが急に喚き、白い地面に倒れた。
「う、うわああああああぁあぁああぁっっっ!!!!」
レジナルドが駆け寄る。
「落ち着けサイモン!」
「も、申し訳ございません!転生させ女神様の像ですが…勝手にキャストオフ版を製作しようとしていました…」
使用人たちはドン引きしている。
どうでも良すぎるサイモンの懺悔に転生させ女神が口を開いた。
「どうでも良すぎる。それより、素晴らしいレリーフを彫ってくれたな。褒めるぞ。ハイ褒めた」
「!!!!」
「レリーフは、完全に立体の像とはまた違う味わいがあるのだ…フフ」
サイモンは鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら両指を組んで女神に感謝した。
「レジナルドも、良く作ってくれた。モグラたちへの加護はこの女神像を通して地中深くまで届く事だろう」
「ありがとうございます」
「ま、そんな深い場所にはモグラは居ないのだがな。広く浅くがモグラの生活範囲だ」
「モグラ雑学要りませんよ」
「私のカワイイ雷雲ちゃん~おいで~」
転生させ女神の招集に応じ、レジナルドのモグラがすーーっと等速直線運動で女神の肩に馳せ参じる。
使用人たちは驚いた。
「聖獣のブタのように凛々しいぞ!」
「女神様の肩に乗ったモグラに後光が射してる!」
「さて。フィリップ・ジョシュア」
名前を呼ばれたフィリップは震えながら答えた。
「お、お久しぶりです転生させ女神様」
「そっちは久しぶりだろうが、こちらは全ての生き物を毎日見ている」
「も、申し訳ございません!!」
「この像は壊そうとしても壊せないようにした」
フィリップはサウナに入って30分経っているかのように汗をかく。
「そ!!!!!!!!!そんな!!!!!!!!!!!まさか女神様の像を破壊しようだなんて不信仰な真似はっ!!!」
「まあ、用が済めば消え去る。我慢してくれ。あと母親によろしく伝えてほしい。あの人の夫は顔が良すぎるから、それに免じて許してやろう」
フィリップは汗を拳で拭った。
転生させ女神様は別の人間に話しかける。
「マシュー・バー。超久しぶり。あまりにもモブ気質が強すぎてお前の事は毎日見ていなかったなぁ…すまない。結婚式の日の夜にキャサリンとの夢に出たのが最後だったか」
「たまにでも、お目にかけていただけるこの光栄、身に余ります。言葉がございません」
「ひいおばあちゃんに似てきたな。ああ直接会ったことは無いか、覚えていられない程小さな頃に死に別れたかだろう。彼女は特殊性癖を持っていて、デンタルフロスになりたいと願っていたから今はデンタルフロスの精霊をしてもらっている。歯と歯の間に糸を通す時、いつも先祖の事を思えるなんて、この幸せ者~!」
「ええ…?」
「お前の領地に湧くチョコレート沼は立派に務めを果たしたぞ。今までの供えドリンクご苦労であった」
「そ、それは…!こちらこそ今までご加護をありがとうございました」
転生さ女神は手を広げる。
「さて!みんなにナゾナゾをだしてやろう」
「!?」
「モグラが好きな音楽のジャンルは、な~~~~んだ?」
みんなザワザワと喋り出す。
「モグラは耳が良いと聞きますから、音楽も静かなものを好むのでは?」
「やはり歌でしょう!コーラス、オペラ、ミュージカル…」
「ギターはどうですか?」
転生させ女神は違うなぁ~違うなぁ~というように首を振った。
レジナルドが大声を上げる。
「もう降参だ!答えをお教えください!」
「正解は…アンダーグラウンドミュージック!」
全員が絶句した。
転生させ女神は高笑いで消えていく。
白い部屋はだんだんといつものエントランスになり、フィリップ王子とルイス聖職者長の姿も消えていた。
「も、戻った!!」
「私の人生で初めての転生させ女神様との触れ合いでした!」
「大きかったなぁ…女神様…」
「本当に神秘的なお姿でした。石像も許されてよかったですね」
笑顔の使用人たちの中、レジナルドは巨大な生き物を見つけてギョッとしていた。
「おい!エントランスの扉を開けっぱなしにしておいたせいでイノシシが侵入しているぞ!ぶっ叩いて追い出してくれ!!」
その生き物は頭から汗を空中に出している。
「お前っ…まさか…!?」
セーラが近づき、前足をつついた。
「オホホ。この大きな手、モグラですね」
「何ぃ~~~~っ!?!?」
モグラは体をクネらせる。
「デカすぎるだろう!!」
使用人たちが寄ってきて撫でた。
「モフモフはそのままですねぇ~」
「子猫や子犬みたいな手触りはそのままですよ!」
「転生させ女神様が、レジナルド様の巨体に合わせてペットも太らせてくださったんですよ!」
「誰が巨体だ!!」
「毛が生えた朱色イモムシはこんな感じなのでしょうか、毛皮の総量が増えましたね」
「!!??」
モグラの目に涙が浮かぶ。
使用人はモグラの頭を撫でた。
「就寝用の甘イモ入れや腹巻を編み直さないといけませんね?」
「ハハ、頼めるか?」
「もちろんです。それに、転生させ女神様の聖獣とあっては、優しく接することで何か見返りがあるかも、ですし」
「現金だな????」
「もちろんゴールドでもいいですよ」
「見返りの話をしているんじゃない」
――――――――――
アリディンバリスの国王は激怒していた。
大人しくしているのが仕事の人質が、どうしても議会で発言をしたいと申し出て…。
「機会を与えてみれば、あのトーラティカのジジイ!!!!」
息子である第一王子のブレンダンと、第一王女のアデレートが父親に同情する。
彼と彼女も議会に出席したのだ。
「しかし、トーラティカの宰相を招き、誰が嘘をついているのか尋問させよう、という発案は…侮辱も侮辱。我が国への攻撃的発言とも受け取れます」
「ええ。他国の宰相を呼んで王城内でのトラブルを解決してもらえ、という提案は、国家侮辱罪に価するでしょうね」
「…でも、まあ、正直、羨ましいよな?」
「えっ?!」
「”他人の嘘を見抜ける”ユニークスキルなんて、もうそのユニークスキルだけで宰相まで上り詰めただろソイツ?…正直、ちょっと羨ましい」
国王の発言に、その場にいた全員が沈黙した。
王城で起こっているドタバタを思えば、そんな便利なユニークスキルがあるなら使わせてもらいたい、というのもまた事実だ。
――――――――――
フィリップがトーラティカの王城にある自室に戻ると、従者と兵士、それに魔法使い達が騒然としていた。
「王子様!!ご無事で!?」
「ああ…転生させ女神様にお会いしてきた」
「なんと!しかし、それならば一安心です、お着替え中にまばゆい光に包まれ、どこかに消えてしまわれたので…心配しておりました」
珍しく母親の顔もある。
後ろには叔母のクローイも居た。
国王は息子をハグした。
「ああフィリップ!!誰かにさらわれてしまったのではないかと心配した!」
「私はどれだけ姿を消していたのですか?!」
「数分。従者が慌てて警戒プロトコルを発動させたので、私の所に兵士がスッ飛んで来て。何事か尋ねれば、あなたが消えたと。それを聞いたら私がこの部屋にスッ飛んで来るしかないでしょ?とにかく、無事、帰ってきてよかった」
「ご心配をおかけしました。転生させ女神様が”母親によろしく。あの人の夫は顔が良すぎる”とのお言葉を」
「フフ、私の夫の顔が良い事は事実」
「恥ずかしいのでやめてください」
クローイがオホホホホーーーーッ!!!!と笑った。
「さすが王族ともなれば、突発的に転生させ女神様にお招きいただくこともあるのねぇ?」
その言葉を聞いてフィリップの顔は真っ赤になった。
まさかその女神様の像に無礼を働こうとして、たしなめられたとは絶対に知られたくない。
「と、とにかく着替えの最中ですし、皆さん、出て行ってください!!!!!!!!!!!!」
人を払って、従者に手紙を代筆させる。
「女神像の完成式は計画通りにやれ、私も出席する、と書け!!!!タフタフリッチの教会のルイスにも同じ文章で送るように。いいな!?」
「か、かしこまりました…」
――――――――――
「エイデンはどこだ?」
ブレンダンは従者と共に侍従長のエイデンを探していた。
彼は使用人長のコーラと共に、次はアンを解雇しようと口裏を合わせている真っ最中だ。
「侍従長室ではないでしょうか」
覗いたが、エイデンの部屋には誰も居ない。
「王城は広い。やみくもに歩き回ってもすれ違うだけだ。ここで待たせてもらおう」
「約束を取り付けられては?」
「いや、今話したいことがあるんだ」
「トーラティカの人質についてでしょう?」
「ああ。あの先王に付けている従者や兵士から直接話を聞いて、アリディンバリスへの悪口が少しでも出ているようなら…」
「トーラティカ側に苦情のひとつでも入れませんとね?」
「まったくその通りだ。不愉快な人質め…ある程度、自由を奪ったほうが良いのかもしれないな?」
「他国のように離れた場所に住まわせませんか?王城は国家の運営者たる王族とその臣下のための住居です」
「そうだなぁ…だがしかし、直接見張れるという点においては………この音は?」
「えっ?」
「なにか聞こえるだろ?こう、くぐもったような音が」
従者が音の発信源を探して部屋をうろつく。
すぐにブランケットの塊を見つけ、それを足で蹴った。
「生き物でしょうか?」
「魔法道具かも知れないな。まあ、プライバシーの内だろうから…そっとしておいてやる事は…出来ないなぁ!?」
第一王子も21歳になったばかりの若者である。
ウキウキでブランケットを取り払うと、中からレザートランクが出てきた。
「なんと残酷な!この中に動物が閉じ込められているのでは?」
「迂闊に開けようとするな、モンスターかもしれないぞ?」
「…出してくれ」
「んっ?」
「だ、誰かいるんだろう!?侍従長じゃない誰かが!ここから出してくれ…出してくれ…」
第一王子と従者は互いの顔を見る。
「呪われたアイテムですよ!!」
「中には悪魔が閉じ込められているのか?こういう子供向けのお話を聞かされたことがある。出してくれ、出してくれ、と泣いて…」
「憐れんでトランクを開けると、中から沢山の悪魔が出てきて家の中をめちゃくちゃにしてしまうお話でしたよね?結構好きでした」
「どこら辺が好きだった?」
「バスルームの石鹸を食べてしまい、悪魔が泡を吹いて死ぬ場面です」
「私はキッチンの洗剤を目にかけて失明する悪魔が好きだったな」
「あのお話、今考えると子供がやっちゃいけない事をまとめただけですねぇ?」
「いわゆる教訓話ってやつだな。まあ、鍋からおかゆが湧き続けて、”よくわからないものは触らないようにしましょう”とかっていうフンワリとした教訓が得られるだけの話より、具体的で好ましいぞ」
「そうですか?私はおかゆが湧く鍋の話が大好きで、たまにミュージカルを見に行きますよ?」
「楽しいか?」
「ラストシーンでおかゆが町中に溢れるじゃないですか?そこで町人たちは自分の家の玄関を目指しておかゆを食べ進めながら帰っていくんですよ。あの場面がすごい好きですね。王子様も今度見に行きましょうよ~」
「楽しいか????」
レザートランクは泣き続けている。
「俺は悪魔なんかじゃない…信じてくれ…お、俺は…」
そこからは短い自白が始まった。
「なるほど、簡単な話だ。つまり、町の郊外に盗品商があり、レジナルドのコレクションがそこで売られた。そしてお前は証拠である”盗品リスト”を持っている、というわけだな?」
「王子様、信じられませんよ!」
「悪魔かどうかは開けてみればわかるだろう!!」
向こう見ずな若さで、ブレンダンはレザートランクを開け放った。
その途端、中から中年の男が出てきた。
体は角ばっており、ブルブルと震えている。
「ほ、ほ、ほ、ほ、本ん当に、に、…あ、あ、あ、あ、ありが、あががとうございます…」
男は床に頭をつけ、第一王子に感謝の意を示した。
「お前はリストをエイデンに見せた。すると、エイデンはお前を捕えた。つまり…王族の貴重品の管理も任されている侍従長にとって、都合が悪かったのだろうな」
「そ、そ、そ、そうではないか、お、と、と思われます…」
従者はレザートランクの蓋を恐る恐る閉じ、ブランケットで元の状態と同じようにぐるぐる巻きにした。
「これは魔法道具か何かでしょう。なぜエイデンさんがこんな危険なアイテムを所持されているのかはともかく」
「ああ」
ブレンダンはトランクの男の首根っこを捕まえた。
「お前は自分自身がコソドロだと白状したな?尋問だ。部屋に連れていくぞ!」
男は従者と王子に両脇を固められ、第一王子の部屋へと連行された。
――――――――――
「そうか…エイデンは信頼できる人間だと思っていたのだがなぁ」
ブレンダンは大きく伸びをする。
「盗難事件は本当に起きていて、さらに盗まれたものは売り捌かれている。まあ、考えようによっては、だ。我々王族や臣下を互いに疑心暗鬼にし、結束を弱めようとする闇の巨大勢力の仕業ではなかった、という事だ」
従者達が頭を押さえた。
「前々からそう申し上げていたではありませんか…王子様のお耳を汚すことになるお話ではありますが、従者や使用人がゴールドや貴重品をくすねるという事件は”稀によくある”ものなのです」
「…王城で盗みを働くなんて、よっぽどの邪悪な犯罪集団の企みだと期待したのだが…クソっ!巨悪との対決はまた今度だな!推理を披露したかったのに…!!」
レザートランクから救出した男は未だに角ばっている。
「なんでもお話、お、俺は…あ」
男の精神状況は明らかにおかしいように見えた。
第一王子はため息をつく。
「エイデンは侍従長としての不手際を隠すためにリストを破棄した。重要な証拠をよくも!」
「少し同情する面もございます。彼自身が罪を犯したわけでないのに、責任者というだけで投獄、裁判の憂い目に会うと想像すると…部下が勝手にやった窃盗のせいで…」
もうひとりの従者も割って入る。
「それに、エイデンさんは前の侍従長から役職をバトンタッチしたばかりなんです。盗みは以前から行われていたのかもしれないのに、エイデンさんの代になって急に表面化しては、損というものですよ」
「お前たち、ずいぶん侍従長を擁護するのだな?自分の立場を守るために事実を闇に葬り去ろうとしたんだぞ?」
「そ、それは…」
「エイデンさんはレジナルド様に散々振り回され、それでも他の従者のように移動を申し出なかった、忍耐の人です。従者と侍女、全員から慕われております」
「ふむ…」
第一王子は立ち上がった。
「私も人の子だ。失態を隠したいという感情は理解できる。しかし、今必要なのは”真実”だ。本当は、いとこたち親族が起こした政権交代をもくろむ下剋上大作戦だという持論を崩したくはないが…だってそっちの方が面白いからな………おい!」
ブレンダンはレザートランク男の首根っこを再び掴む。
「盗品を売買したリストがあると言ったな?」
「は、は、い」
「郊外の盗品商の店に、それが置いてあるというのは本当か?」
「本当…すよ、証拠も…ございます、す」
「証拠?何の証拠だ?」
「お、俺は、レジナルド様の、コ、コレクションの…”成仏できぬ水筒”を、しょ所有しております…」




