人質生活59日目
「じゃあ…なんで手紙を…手紙を書けだなんて指示を出した?俺を落胆させるために、アリディンバリスに戻れるかもしれないと期待を持たせて、やっぱりできませんでした~~~って!?どういう嫌がらせだ!!」
「レジナルド様、落ち着いてください。私も今回は怒りを覚えています。執事のハインリヒと共に王城へ出向き、宰相に上申させていただくつもりです」
「グッ…く、悔しい………!!一瞬でも、故郷に戻り収集物と再会できるのだと期待させておいて!!!!!!!!!」
「嘘でもいいから家族との再会を望んでいたのに、と最初に口に出して、次にコレクションの順にしましょうね?」
マシューはレジナルドの背中を擦った。
ビルを呼びつける。
「エントランスの魔法道具のシャンデリアを点灯させてください。サイモンを呼んで、彫刻のための道具を用意させるように」
レジナルドは”?”という瞳でマシューを見上げる。
「苦しい時ほど転生させ女神様に祈りましょう。といっても、まだこの屋敷の転生させ女神像は完成しておりませんからね」
「…」
虚ろに揺れる瞳に反応は無い。
「一晩中、彫り続けましょう!私は歳ですから貫徹は無理ですが、深夜1時ぐらいまではお付き合いいたしますよ」
「えっ、徹夜できないのか?」
「やろうと思えば出来ますが、その後の日中パフォーマンスがゴミになる上、完全回復に丸3日ぐらいかかるのでやらないのです」
「加齢って怖いな」
「40なんてあっという間ですよ?」
「やっぱり加齢よりも、40を過ぎた人間が”40歳なんてあっという間”ってコピー&ペーストしたみたいに同じ言葉を口にするようになる方が怖いな?バラバラの人生を送っているのに、どうして脳みその回路が似通って組まれていくんだ?」
「最終的には体臭と口臭も収束して一つのパターンに納まりますから。ヒューマンという種は歳を重ねるごとに個性が消えていくんですよ」
「だからおじいちゃんおばあちゃんってみんな似ていて見分けがつかないのか」
「面白いことに性差もなくなっておじいちゃんおばあちゃんでも無くなるんですよ」
「全然面白くないぞ?怖い」
――――――――――
人質生活59日目
「かなりマズいだろ?」
アリディンバリスの王城。
兵士のボブとカールは、部屋でこっそりと話していた。
「もちろん何も知らないとしらばっくれたが、ウォルターが話を通していたヤツは10人以上になるか。絶対に誰かが口を割るだろうなぁ…」
「あ~やべぇ…どうする?そもそも、盗みがバレたりしてないのか?」
「それはちょっと前から指輪が無いだのなんだのかんだので、ずっと騒ぎになってるから大丈夫だろ。ほら、議員の部屋からゴールドや装飾品が消えてるって話題もあったし」
「ウォルターの話じゃ、あれも結局使用人の仕業らしいけど」
「まあ盗めるとしたら清掃に入る使用人だからな。でも噂通り、レジナルド様の生霊がイタズラして回ってるって可能性もゼロじゃないと俺は思うぞ!」
2人はクックックッと声を上げないように笑う。
「警備全体がグルにならないと不可能な計画だったな。最初からとん挫する運命だったんだよ」
「いやしかし、何があってああなったんだ?」
「さぁ。第二王子はモノ好きだったからな。ウォルターのヤツ、呪われたアイテムにうっかり手を出したんだろ」
「呪われたアイテムといえば、俺の実家にも風の呪いの盾があったなぁ…その盾を持つと、向かい風になるんだよ」
「嫌がらせの度合いが微妙だな…?」
「戦場では向かい風を受けて戦うのは不利になるんだから最悪な呪いだって!でも浄化できる高度な光魔法を使える人間も居ないから困ってたんだ。冗談半分だったとは思うけど、両親はレジナルド様に献上したいとか言っていたが…もうそれもできなくなったな」
――――――――――
「かなり彫り進みましたね!」
サイモン、マシュー、ビルのいつもの面子が協力してくれたおかげで、薄っすらと全体像が見えてきた。
「ああ!朝日が大窓から入ると、転生させ女神像が照らされて神々しいな」
白い巨石は光を受けて輝いている。
モグラを抱いた執事が降りてきた。
「一晩でここまで形になるとは!みなさん、お疲れ様です」
キッチンから使用人たちがゾロゾロでてきて、3階に食事を運んでいる。
「もう朝食の時間か」
「ええ。バスルームで汗を流しましょう」
普段手伝ってくれるビルは自分の体を綺麗にしなければならないため、今朝は執事が従者のように振舞った。
「モグラも一緒に浴びているのですか?」
「ああ。テーブルに置いてある雨を呼ぶ笛を取ってくれ」
全裸のレジナルドが雨を呼ぶ笛を吹くと、室内なのに雨が降る。
モグラは床をびしゃびしゃにしながら水浴びをした。
「では、お着替えはここに置いておきます」
「すまんな」
汗を流せば朝食だ。
久々に徹夜をして、レジナルドは大きなあくびをする。
「このまま馬に乗ればケガをしてしまいそうだ」
「もちろん乗馬なんてさせませんよ。今日はこのまま朝寝をしてください」
「わかった…ふぁぁあ!」
――――――――――
マシューはベッドで横になるレジナルドにブランケットをかけた。
「気丈に振舞われてはおりますが、辛いでしょう?」
「…………………………辛い」
「とにかく今は、おやすみなさい」
「…………………………気分が昂って眠れない。疲れているのに」
「では、安眠剤を差し上げましょう」
「おお、いいな。原材料は何だ?」
「歴史と国語の勉強の時間をすり潰して粉末状にしたものです。摂取方法は耳からですね」
「ちゃんと真薬なんだろうなぁ?ジェネリックは嫌だ…」
「その道18年の通訳から抽出されたピュアな材料を精製したものですのでご安心を。えー、では。ゴホン。約200年前、広大な王国、モルリヴァールで、海側に住む領主たちが反乱を起こし、内陸の王家と戦争が起きました。貿易が盛んで人材も武器もゴールドも豊富に持っていた領主たちが反乱を起こしたきっかけは、ルーク国王が海側の富を強制接収し、内陸側で巨大な建築を建て続けた事への反発です。地震が多い土地柄にも関わらず、アホみたいに木とレンガと泥でできた塔を建築し、その倒壊による災害を理由に税金を増やし、また、娘であるゾーイ国王も領土拡大戦争に明け暮れ…」
「グーーーーーーーグーーーーーーーーグーーーーーーーー… … …」
「レジナルド様!?眠るのが早すぎますよ!?えー、モルリヴァール国王の妹であったヴェロニカ様が、現在は王都と呼ばれる土地の領主、ジョシュア第一代目国王と婚姻関係を結ばれました。この年、正式にトーラティカが誕生します。つまり、戦争終結より前にトーラティカは王国として存在していた訳です。戦争の砦として築かれたのが現在も建ち続ける王城、我が国家のシンボルともいえる国城になるわけですね。この、戦争終結前にトーラティカが国家として独立を宣言していたというのは絶対にテストに出ますから。覚えておいてください」
「グーーーーーーーグーーーーーーーーグーーーーーーーー… … …」
「そして約100年前、アリディンバリス半島に住む王族がトーラティカからの独立を宣言し、自身の従者であったカイル・チェンバレンと婚姻関係を結ぶことになり、地名であったアリディンバリスがそのまま国家名として使われる事となったのです。つまり、レジナルド・チェンバレン様、あなたが住んでいらっしゃった100年の歴史しか持っていない王国は、何としてでもトーラティカの影響力を削り、もう一度海路を取り戻したいモルリヴァールに背後から糸で操られていた、傀儡戦争で独立したというわけですね。モルリヴァールの策略により独立し、国交断絶政策でトーラティカとの往来も絶え、たった100年で両国間は”使う文字や文法は同じだが単語の発音が違う”という言語の差まで生まれてしまったわけですが…」
「グーーーーーーーグーーーーーーーーグーーーーーーーー… … …」
「それにより、田舎の貴族である私が通訳の仕事を得られ、今日も家族にそれなりのゴールドが送られている、というお話でした。めでたしめでたし!」
皮肉なことに、現在ではモルリヴァールと比べ、海側を押さえたトーラティカの方が繁栄している。
さらにトーラティカと比べ、圧倒的にアリディンバリスのほうが繁栄している。
砂漠経路での陸路貿易がある分、トーラティカよりも景気は良いのは当然だった。
この半島を経由しなければ内陸にあるモルリヴァールは貿易品を手に入れることすら難しい。
――――――――――
「あら、もうここまで彫り進んだのですか?」
乗馬インストラクターのセーラは首の後ろに手を当てながら、巨石の上を見つめた。
モグラを抱えて隣に立ってるハインリヒが、昨日の出来事を赤裸々に話す。
「…という訳なんです」
「なるほど。フィリップ王子様は我が国の宝ですが、たまには誰かに厳しく叱られた方がよろしいでしょうね。例えば母親、とか」
「滅相もありません!国王様への直接の上申ははばかられます」
「その言い方、別の手が?」
「私とマシュー様とで、宰相にお会いしようかと。まずは従者を通しての謁見のお願いからですが。ある程度事情を説明して…」
「従者もまたどこかの領地から来た貴族なのです、王子様の醜聞になり得る話を聞かせるのはよろしくないでしょう。国の恥を知らせるのなら直接です。宰相のユニークスキルをご存じでしょう?悪い情報になればなるほど、部下の耳に入れるかどうかも宰相ご本人が決められる事です」
「直接?可能でしょうか」
「オービター牧場は王家から見て口数の少ない従順な取引相手です。その立場を崩すのは残念ですが…どうしても宰相ご本人のお耳に入れたいことが、と、近衛部隊隊長を通してお願いしてみましょう。そちらの方が国家の名誉がかかっている問題だと気にかけていただける可能性が高いかと」
「…ご同席頂けるというわけですか?」
「いいえ。そこまで出しゃばるとビジネスに差し支えます。わたくしは遠くから、お役に立てるようにお力添えいたしましょう。そして…」
エントランスから外に出ると、使用人たちが集まって鳥を撫でていた。
といっても3メートルほどの身長があるので、手の届く首の付け根や体の横を撫でているようだ。
「あの鳥は?」
「エピオルニスです。夫が南国から連れてきた生き物で、最初は厩舎に入れていたのですが馬房から首を伸ばし、馬たちとバトルするのでここへ連れて来ました」
「連れてこないでください!?!?」
「そう怒らないで。職人に頭絡も作らせましたので、なんとか乗ることもできますよ。ハインリヒさんは風魔法が使えましたよね?」
「かなり低級ですが…」
「話しかけて、ぜひ乗ってみてください」
執事は仕方なくモグラをセーラに手渡し、彼女の指示に従ってエピオルニスに頭絡を装着していく。
「馬具ならぬ鳥具というものですね。さ、あぶみに足をかけて」
「サドルまで作らせたんですね?」
「原産地から持ってきたものを手本に製作してくれました。優秀なスタッフが多くて助かりますよ」
乗ってみると、あり得ないほど上下に揺れる。
「2本足で歩くモンスターに騎乗したのは初めてです」
「いえいえ、モンスターではなく巨鳥ですよ!」
「ここまで大きればほとんどモンスターでしょう?」
「血は赤いので動物ですよ。さて、馬係さ~ん!新しく住処を作ってやってください」
「ちょ、ちょっちょっちょ、ちょっと!困りますよ!」
「オホホ。少しの間、預かっていてください。ここなら手入れもしっかりしてくれますし、安心です」
「まあ、乗馬を教えに来てくださっているのですから、短期間預かるぐらいのお手伝いはさせていただきますが…」
「よかった、ではモグラを入れるバスケットをください。エピオルニスの代わりとしてモグラを借りていきます」
――――――――――
ぐっすり眠っているレジナルドの夢の中。
転生させ女神が叫んでいる。
「おきろデブ!!!」」
「何だと失礼な………て、転生させ女神様、お久しぶりです。最近は過ごしやすいお天気で…」
「モグラ誘拐犯!!!モグラ誘拐犯が出たぞ!」
「え!?!???!????????!!!!!!!!!!!?!?!???」
レジナルドが飛び起きる。
ベッドルームから出ると、応接セットのロングソファーでマシューが眠っていた。
俺への心配はいいから自分の部屋へ行ってゆっくり眠ってくれと言いたいが、今はそれどころではない。
慌てて窓を開け、叫ぶ。
「モグラ誘拐犯!!!この屋敷のどこかにモグラ誘拐犯が出たぞ!!!毛皮を狙っているに違いない!!!」
ちょうどバタバタと手足を振り回して嫌がるモグラをバスケットに詰めたところだったセーラは慌てた。
「チッ!」
「ええっ!?レジナルド様!そのように窓から身を乗り出しては危ないですよ!!」
執事が言い終わらないうちにレジナルドは飛び降りた。
風魔法で自分の体重を軽くし、地面を柔らかくして着地の衝撃を減らす。
また、雑草を成長させ草のクッションも作った。
「…っ!スプリング蔦は凄いな。おい!!モグラ誘拐犯!」
「オホホ。ちょっと借りていくだけですのに」
「誰のペットだと思ってるんだ!」
「申し訳ございません。ちょっっっとだけお貸ししてはいただけませんでしょうか?貴族のお集まりがあるので、このような巨モグラを披露して、みなさまに手触りを楽しんでいただきたいのです。決して傷つけたりせずに、2、3日中にお返しいたしますから」
「ダメだ!今…俺は起こされたんだ」
「どなたに?」
「転生させ女神様に」
沈黙が場を包み、慌ててセーラはバスケットをレジナルドに付き返した。
中からものすごい勢いでモグラが飛び出してきて、汗を空中に浮かべながらレジナルドの首回りをバタバタと移動している。
「器用なヤツ!」
――――――――――
「終わったあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ブレンダンは絶叫し、倒れ込んだ。
最後の瞬間を見届けた使用人や兵士たちは感動して第一王子に駆け寄る。
「アリディンバリス王家万歳!アリディンバリス王家万歳!」
本当に見届けていなければならないはずの大臣たちは早々に離脱している。
そして従者もバタバタと倒れていく。
ドン引きする侍女を押しのけて第一王女アデレートが兄に駆け寄った。
「嘘でしょう、お兄さま!?まさか1日で部屋あらためを終えた訳が…ないですよね?まさかそんな…!?!?」
ブレンダンは発声する気力もないのか、目線だけで”やり遂げたぞ”とアイコンタクトを送る。
魔法使いもへろへろになりながら回復魔法で第一王子を元気づけた。
「お、お兄さま…王城と離宮の部屋あらため、合わせて一週間はかかるはずです。それを…」
「国王様に…伝えてくれ。やり遂げたぞ、と…」
「嘘!?お兄さま!?お兄さまぁああーーーーーーっっっ!!!」
「落ち着きくださいアデレート様。極度の疲労で眠っているだけです」
「そ、そうなの?さっさと回復してあげて!ポーションは?」
「許容範囲を超えた使用になってしまうので回復ポーションは使用できません。とにかく、お部屋まで運んで、ゆっくりと休んでいただきます。さぁ、お手を離してください」
「早く運んであげて!!」
「ですからお手をお離し願います!!!!」
王女は侍女たちになだめられ、担架で運ばれていく上の兄を見送った。
「回復魔法を使える者達を第一王子様のお部屋に集めるそうです。すぐに元気を取り戻される事でしょう」
「そう…それならいいんだけど」
第一王女は兄の言いつけ通り、父親に報告するため議会場に乗り込んだ。
「上のお兄さまが部屋あらためをやり遂げました!もう王城に穢れはございません!」
「えぇ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
マヌケな声を出したのは父である国王だ。
「き、昨日、これからやると言っていたが…?」
「やり遂げたのです!」
「厳密にはまだ1日、24時間も経っていないぞ!?」
「お兄さまはやり遂げたのです!」
「えぇ………」
議会に出席している大臣や議員たちも渋い顔だが、とりあえず拍手で王子の苦労をねぎらった。
――――――――――
トーラティカ。
「ダメか…この作戦はダメだったか…!!」
フィリップは悔しがっていた。
「しかし、アリディンバリス王家のマヌケさを笑っていただく事には成功したではありませんか」
「そうだな。お母さまが笑顔になってくれると嬉しい。近しい者がレジナルド第二王子の大切にしている貴重品を売って歩いているというのは最高に面白いからな。ただ…一瞬、光が見えた気がしたんだ。もう一度おじい様に会えそうな…そんな道も見えたのに…」
「ちょっとやそっとの事では、人質は母国へ戻れませんよ。そもそも、気軽に行き来できるような2国間なら人質は必要ないんですから」
「…」
従者の言葉にガックリと項垂れながら、フィリップはウィングチェアから立ち上がった。
「ところで新聞は読んだか?例の一件で、貴族たちの間では”ヤツ”の話題で持ちきりだそうじゃないか?」
「仕方のない事です。警備の兵士や近衛、魔法使いたちがすぐに対応してくれたら良かったのですが、皆がアワアワと状況確認をしている間に、レジナルド様が片をつけてしまわれて」
「衝撃的な出来事だ、話題に上げるなという方が無理があるだろう。しかし…」
シンプルに不愉快だった。
「あの程度の対処、私にも可能だったと断言できる!外に連れ出してくしゃみを止めただけなんだ!」
「それに関しては魔法使いの報告書をご一読ください。回復魔法でくしゃみを止めたほうが、より素早く簡素な解決策になった可能性があるとの事で。確か、レジナルド様は回復魔法も使用できるご様子なのですよね?でしたら最も効率的な収拾方法ではなく、パフォーマンスの高い”魅せ”ソリューションを選択されたのではないかと…」
フィリップは眉間にしわを寄せた。
「あのアホデブが一瞬でそこまで思考を巡らせられる訳がないだろう。たまたまだ。問題発生源を外に連れ出すというのは被害者を最小限に抑える、ユニークスキル由来のトラブル回避の一般的な対処法だからな」
従者は、ほほうというようにアゴを撫でた。
「流石フィリップ様。ユニークスキルの始末については、数多の王族や貴族を相手にされていらっしゃるだけございますね」
「しかし、気に食わない…ちょっと目を離しただけで貴族たちに囲まれていたし」
「宰相がすぐ寄って行って、貴族たちを退けようとはしたのですが…」
「あっ…」
叔母であるクローイが出しゃばってきて、宰相がその機会を逸したと知っているフィリップは頭を押さえる。
その時、部屋の扉がノックされ使者が入ってきた。
「失礼します。レジナルド様がアリディンバリスへ向け、お手紙を書かれましたので」
「!」
そこには大きめの小包があった。
フィリップはすぐに包み紙を開けさせる。
「まさか、わざわざ従者を送って”故郷へ帰らせることはできない”と伝えておいたというのに…!」
激怒しながら中身を見ると、そうではなかった。
従者も同時に文面を読む。
「………誰かが自分の財産を売っているから、全てを宝物庫に仕舞ってほしい、というシンプルな内容ですね」
「これなら送る事にストップはかけられません」
また、小包みの中にはレジナルドが自分で書きあげた”コレクション一覧リスト”もあった。
これが同封されていたので手紙ではなく小包みだったわけだ。
「へえ、アイテムやオブジェの特徴だけでなく、絵まで添えられていますから分かりやすいですね」
「あのふとっちょ、いつの間にこんなリストを書き上げていたんだ…?」
「まとめればちょっとした冊子、いえ、一冊の本になりそうな厚みです」
「熱心な収集家とは聞いておりましたが、持ち物をリストにして管理していたとは」
フィリップは自分の部屋の床に適当に置かれているレジナルドのコレクションに目をやった。
勝手に没収して以来、邪魔だが捨てるわけにも部屋の外に出すわけにもいかず、どうしていいのか困っている収集品の山だ。
解像度の低いネコがグルグルと回転している。
「…フン!この文章なら問題ない。そのまま閉じてアリディンバリスへ持って行け!」
「かしこまりました」
作業を見守るフィリップに、従者がコソコソ話す。
「例の指輪の件ですが、どう出ますかね?」
「ハハハ!”俺の持ち物なのだから返してもらおう”と泣きついて来るだろうな」
「隣国の第二王子の情けない姿を拝めそうで、今からワクワクいたしますが…」
「所有者以外が取引したのだから売買は無効だ!とでもぬかすつもりなのだろう。そうはいかないぞ」
「ええ。アリディンバリスではどうか存じませんが、トーラティカの法では一度売買されたものは、それが盗品であろうとも所有者が移ることになっています。例え王族の所有物でも慈悲はございません」
「ま、例によって通訳を寄こしてくるだろうな。あっさりと追い返してやろう。悔しさに震える背中を見るのが楽しみだ!」
――――――――――
「まさか、思いつきで作っていたコレクションリストがこんな時に役立つなんてなぁ…」
「あの資料と部屋に残されたアイテムを比べれば、何を売られてしまったのかがわかるというわけですね」
「ひとつだけはどこの誰が所有しているのハッキリしているが」
レジナルドは片眉を上げて通訳を見た。
マシューは咳払いする。
「…オホン。我がトーラティカ王国、フィリップ王子様の行動につきましては…全国民を代表して謝罪させていただきます」
「そんなことはしなくていい。ああ。あの時は取り乱してしまったが、今となってはタフタフリッチの装身具店の店主と職人が作っているリングにも、同じだけの価値がある。人質の身だ、素朴な宝石箱で我慢しようじゃないか」
「まさか、諦められるんですか?」
「い~~~~や!隣国の王子が窃盗により闇取引された貴金属を誇らしげに所有している方が面白いと思ってぇ~?」
マシューの顔が苦痛に歪む。
「う゛ぅっ…!」
「みっともないよなぁ~?俺は被害者だが恥のバイブスを感じ取ってしまい、なぜかこっちが気まずい思いをしているが…」
「っ…!」
――――――――――
「よくも私の顔に泥を塗ってくれたな。いや、アリディンバリス王族の顔に、というべきだろうか?」
アリディンバリスの王城の地下牢。
両親と共に捕えられたホレイシォは、モルリヴァールから移送され、第一王子ブレンダンと対面していた。
「た、大変…申し訳ございませんでした。私は自らの過ちを、深く反省し、悔いています。どのようなことをすれば犯した罪を………できるのか………裁判を…」
「長い長い!裁判になんてかけるわけがあるか!死罪だ死罪。それより、さっさと白状しろ」
「調停大臣にお話した通り、偽造したシーリングスタンプはその1回限りでしか使用しておりません」
「弟の指輪を盗むためにしか使っていないと申すんだな?ん?そんなわけがあるか!第一、お前は長年使者として領地と王城を行き来してきた。そんなちっぽけな盗みに手を染めるような人間ではないだろう!」
ブレンダンは大声で怒鳴る。
「言え!!お前の背後には誰が居るんだ!どんな組織に所属しているんだ!!やはりモルリヴァールからのスパイなのか!?」
「け、決してそのような…」
ホレイシォの後ろにいる両親は泣き出した。
それでもブレンダンは大声で怒鳴るのをやめない。
「先日、王城に奇怪な侵入者が現れた。それもモルリヴァールが関係しているのか!?」
「何のことやら存じ上げません!死罪なら受け入れます、どうか親だけは…」
「口の堅いヤツだな…仕方がない!」
ブレンダンが軽く手を振ると、牢が開けられ父親と母親が連れていかれた。
「お許しください!!!!!!!!!お許しを!!!!!!!!!」
「なら話せ、何故だ、誰を匿っている!?」
「だ、誰も匿っていません。ゴールドになると思って売ったんです。封筒にリングを入れるのを見たので…じ、自室で封を開け、指輪を取り出し、そして外部で作らせたシーリングスタンプで再び封をして…トーラティカまで手紙だけを届けました。本当です…裁きを受けるのは、私だけなのです…両親はお許しください…シーリングスタンプを作らせた工房は無くなりました。本当です!親だけは!!親だけは許してください!!」
ブレンダンは冷えた顔でホレイシォを見つめた。
見張りの兵士だけが残され、高齢の両親は叫び声を上げながら別の場所に移されていく。




