表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/109

人質生活56日目

「ブレンダン、21歳の誕生日おめでとう」


父親からかけられた言葉に第一王子は感謝の言葉を返し、頭を下げた。

今日は珍しく早起きした国王が、ダイニングルームで彼を待っていたのだ。

妹のアデレートも兄の誕生日を祝う。

「本当におめでとうございます、お兄さま」

「ありがとう。下の妹もいればよかったのだが」


侍女が歩み寄る。

「こちら、イザベラ様からのお手紙がございます」

「さすが抜かりは無いな」

第一王女がすかさず皮肉を挟む。

「あの子は実際に居ないほうが、淑女としてより良い振る舞いをするんだから」

国王がヒゲを撫でながら喋る。

「まだ14だ、騒いだりわがままを言ってなきゃ病気の年頃だぞ?」


ダイニングルームに笑いが起こる。

食事が終わった後、国王はブレンダンを傍へ呼んだ。

「…つまり、大叔父さまや大叔母さまを安心させるために、さっさと部屋あらためだけをやる、という事でよろしいでしょうか?」

「待て待て!部屋あらため”だけ”とは何だ”だけ”とは!」

「ならず者が王城に侵入し、わざと皆の気を正門に引き付けておいて、その間に何かをしたんです。その何かが判らないのに部屋あらためという儀式だけを先行させるとは…」

「魔法使いたちに見てもらったが怪しい痕跡は見つけられなかった。きっと異常者が騒ぎを起こすためだけに侵入したのだろう。とにかく役目を引き受けてくれ、私はもう二度と部屋あらためをしないと決めたのだ。面倒だし」

「…」

「第一王子であるお前が引き受けなければ、第一王女に任せる事になる。お~いアデレートぉ?」

「わかりました、長子の責任を果たします」


とんだ誕生日だ。

不服ながらもブレンダンは引き受けるしかなかった。


――――――――――


快晴のアリディンバリスとは打って変わり、トーラティカの山脈近くは大雨だ。

「乗馬も中止だ!マシュー、勉強を手伝ってくれ」

「喜んで。それは私の本来の仕事です。では…こちらの語学学習用テキストを使って今日は勉強を進めていきしょう」

「頼んでおいた本をもう手に入れられたのか!準備が良いな!今までは舞台脚本や新聞の切り抜き、手紙の例文などがお手本だったが、やはり勉強用に作られた文章が学習には一番いいと決まっているんだ。どれどれ?」


レジナルドはテキストを読み上げた。

「海にメッセージボトルが流れ着いた。”当方バンドリーダー。ベース、ボーカル、ドラム、ギター募集中!※経験者のみ”………………う~ん、やっぱりリーディングは難しいな。どこか間違っていないか?こんな変な文章、存在しないだろう?」

「一音たがわず合っていますよ、正解です」

「こんな変な文章あるわけないだろ!!!!人生のどこで使うんだ!!!!」

「語学学習用テキストは実例からかけ離れた変な文章と決まっているんですよ。テストになるともっと複雑で、2人の会話かと思いきや伝聞どうしを伝えあっていたり、レンタル馬車の手配、平面情報複製出力魔法道具の故障とその対応、そしてネイティブ話者でもめったに出くわさないシチュエーションであるリスケジュールのリスケジュール…」

「第一、ベースとボーカルとドラムとギターを募集しているなら、この手紙の送り主って何を担当しているんだ!?」

「サイドギターとかキーボードとかコーラスじゃないですか?」

「なぜそんなヤツがバンドのリーダーになれると思ったんだ?!?!?!」

「もしくはプロデューサー志望なのかもしれません」

「っていうかそもそもがだな!バンドメンバーをメッセージボトルで集めようとするな?」

「うっかりセイレーンがボーカル志望でやって来て我々ヒューマンの脳をめちゃくちゃにして帰っていく怪異物語の導入みたいですもんね?」

「そ、そこまでとは言わないが………とにかく、もっと真面目な語学学習用テキストを読ませろ」

「結局のところ、こういう意味不明な脈絡のない文章が一番勉強になるんですけどね。じゃあ、この歴史ある問題をどうぞ」

「何だこの羽の生えた果物のキャラクターと手足がある野菜のキャラクターは!?!?!?こんな変な問題やりたくない!」

「じゃあ馬車と船のどちらがより動物園・美術館に早く着けるか・近くまで行けるかで議論するタイプの問題にしましょう。文章がこんがらがってネイティブ話者でも正解率は10%を切る難問です。ワクワクしますね~」

「なんでいっつも目的地が動物園か美術館に設定されているんだ?」

「”夫婦間の問題解決のために調停所へ行きたいのですが、解決金を支払わなければならなくなった時のためにゴールドを節約したいのです。馬車と船、どちらの料金が安く済みますか?いいえやっぱり歩いていきます。あなたの人生に幸運がありますように。それは私の人生から失われたものです”…って文章を何度も音読したいんですか?」

「や、やっぱり語学学習用に全ての不幸が取り除かれた仮想世界の住人の会話がいい!!」

「でしょう?」


――――――――――


「もう限界だ!あいつらは何か隠しているに違いない!!」


アリディンバリス。

悪事を副業にしている魔法使いたちが声を荒げる。

本人たちは義賊だと自負しているが、やっている事はケチな盗みや地上げ、詐欺、そしてマッチポンプの”傷害&回復セット”だ。

人によっては誘拐にまで関わっている者も居た。

「あんなに仕事熱心だったヤツがこんなに長い間行方を眩ますわけ無いぞ!もう一度直接乗り込むか…?」

「あそこをねぐらにしてる悪党どもに拉致されて、どっかで働かされてるに違いない」

「”どっか”なんて言い方するなよ、穴掘りに決まってる!鉱山にでも閉じ込められているんだ!!」


土魔法は低位で土、中位で石、高位で金属を操ったり探知することが可能なため、炭坑や宝石、金属鉱石、そして何より魔法石の採掘に土魔法使いが引っ張りだこなのだ。

正式に採用される場合もあれば………拉致監禁されて奴隷のようにこき使われるケースもある。

「行くぞ!」


日中に例のアジトに乗り込もうとする。

しかし。

魔法使いのひとりが、建物に近寄っただけで邪悪な気配を感じ取った。

「毒の気配がする。あと低級なモンスターの幽霊もいるな」

「罠か!?この前顔を出した時はそんなもの無かったが…?」

「待て待て、ここら辺のヤードは違法レクリエーション嗜好品を作ってたりするヤバい場所だぞ。毒のアトモスフィアなんて空気みたいなもんだ!ビビるな!!」


ずんずん進むが、店に着くその手前でまた止まった。

「ゴ、ゴールドがある!」

「何だって!?」


店の前で騒いでいたので、店内で休んでいたゴロツキたちがゾロゾロと出てきた。

「何だぁ!?ボスが帰って来たのかと思ったら、お前ら見慣れた顔じゃねぇか。また文句言いに来たのか?」

「お、お、おい!?この大量のゴールドはどうしたんだ!?」

「何っ!?何だと!?!?!?」


高レベルの土魔法使いの言う事を聞き、不快な臭いのする天井を斧でつつく。

いつも鳴っている木のたわむ音を100倍ぐらいにした爆音が鳴り響き、大量のゴールドがザーーーーーーーーザーーーーーーーーザーーーーーーーーザーーーーーーーーと落ちてきた。

腐敗した人間がズドッと落ちてきて、排泄物や体液の混ざりあったものが飛び散り、そこにいた全員が吐いた。


――――――――――


モグラはバタバタと手足を動かしてキッチンまでやって来た。

「おお!?馬鹿デカいネズミが居る!殺さないと!!」

「よく見てくださいシェフ!これはレジナルド様のモグラですよ!」

「何だ~紛らわしい!犬にもネコにもジャッカロープにも似ていないからネズミかと間違ってしまった」

「腹が減っているんでしょう。適当な虫をあげますよ」


すっかりこの方式の餌付けに慣れている様子で、モグラは上を向いて口を開けた。

コックは紫スライムの皮やオベリスク・センチピードを細かく刻み、直接口に放り込んでやる。

「水も飲むんだぞ、ノドに虫を詰まらせたら苦しいからな」

「ところでモグラってクチクラは分解できるの?」

「クチクラって何ですかシェフ?」

「甲虫の外骨格」

「さすがにオベリスククラスのセンチピードは殻を除いてやっています。”虫の殻はエビカニの殻”と先輩の職人に習いました。消化できないものを殻ごと食わすわけありませんからね!まあ、小さいセンチピードは勝手に見つけて食ってるみたいですから、薄い殻なら消化されて、大丈夫な気もしますが」

「いや、多分フンに混ざって殻は排出されていると思う」

「えっ!?消化できないんですか?」

「モグラが超強力な胃酸を持っている可能性もあるが、クチクラ、キチン、ケラチンあたりは消化できないって相場が決まっているからなぁ…」

「クチクラは昆虫の外骨格で、キチンは甲殻類の殻で、ケラチンってなんでしたっけ?」

「ケラチンは人間なら髪や爪、動物ならひづめ、ツノ、そして羽なんかかな」

「そういえば皮って毛を取り除いて皮だけにして食べますもんね」


シェフは屈んでモグラを撫でた。

「相手が動物でも、うっかり消化できない食べ物を与えないようにしないと。我々調理人の務めだ」

「…ちなみに毛を食べるとどうなるんですか?」

「ネコみたいに毛づくろいが習性の動物なら吐き出せる。人間は少量なら便に混ざって体外に出るか…」

「出るか?」

「胃、小腸、大腸の閉塞を引き起こし、一般的にラプンツェル症候群と呼ばれる症状を引き起こす。そうなれば回復魔法で体を持たせながら手術になる」

「ヒェッ…」

「まあモンスターの毛とかツノは調理次第で食べられるけどね。とにかく、モグラのエサは適当にはやらないようにしよう!」

「は、はいっ…!」


さっき殺せと叫んだ人間にだけは言われたくない。

モグラは”?”という顔をしながら口をクッチャクチャさせている。

満足したようで去って行った。


――――――――――


「ダンシップ家だな!お前は父親か、じっとしていろ!」

「あ、あなた達は…!?」


モルリヴァールでアリディンバリス軍隊の制服を着て歩くわけにはいかず、兵士一同は木こりウェアで揃えていた。

彼ら彼女らは、モルリヴァールの小さな町から少し離れた場所にある屋敷に乗り込んでいる。

「アリディンバリス語で話せ!」

「わ、私たちが何をしたっていうんですか!!」


母親の叫ぶような非難が言い終わらないうちに、誰かが2階の窓から飛び降りた。

当然外で待機していた別の兵士に捉えられる。

「元アリディンバリス使者、ホレイシォ・ダンシップで間違いないな!?」

「ち、違う、人違いだ…」


苦し紛れでモルリヴァール語で答えるが、兵士の顔をみてハッとする。

何度も城内で会話したことのある、面識のある兵士だった。

「ぐっ…!!!!!!!!」


他の兵士も集まってきて、どんな魔法使いでも絶対に逃げられないというぐらい囲まれた。

ホレイシォは屋内に引きずり込まれる。

「今から罪状を読み上げる。封蝋偽造罪、封蝋印偽造罪、国家機密漏洩罪、国家親書無断開封罪、国家親書改ざん・隠匿罪、国家任務未履行罪、王家不敬罪…」


とんでもない量の罪状の読み上げに、ホレイシォの両親の顔面から色が消えた。

「う、嘘だと言って!!使者の仕事を退職してきたって言ったじゃない!!」

「…………………………」

母親の言葉に無言で返す。

それが何よりの証拠だった。

「嘘だと言って…」


父親がわなわなと震えながら声を絞り出した。

「ホレイシォ…お前、そんな歳になって、何をやったっていうんだ…一族の恥め!!!!ここで死んでくれ!!!!」

「…………………………」

「何を言っている、こんなところで死なれては事件を調査できないだろう!」

兵隊が父親に向かって言い捨てた。

「その様子を見る限り、ホレイシォが逃げてきたという事は知らないようだな?」

「に、逃げてきただなんて…」

「アリディンバリス王家の偽装シーリングスタンプを所持していた。大きな犯罪に関わっていた事は明白だ」

「ち、違う!私は使者の仕事は誠実にやり遂げてきた…ただ、魔が差して…」


腕を組んだ兵士が、床に押し付けられた元使者を見下す。

「へえ?」

「ぬ、盗めるものがあれば盗んでやろうと…」

「ただの盗みのためにわざわざ封蠟スタンプを偽造するような愚か者は居ないだろう。誰をかばっているのかは知らないが、すぐに吐かせてやる!」


何事か、と物見に人が集まってきた。

兵士たちは全員家の中に入る。

ひとりの兵士が近隣に響き渡るような大声で叫んだ。

「借金の取り立てだ!こうなりたくなければ、お前たちも返済を怠るなよ!!」


その怒鳴り声を聞いて隣人たちは驚く。

「商売で成功して、ひと財産築いて田舎に引っ越して来たって言ってたけど…?」

「使用人も住み込みじゃなく通いだったし、本当は借金まみれだったのかもねぇ…恐ろしい!」

「いやいや、ダンシップさん夫婦は普通のご老人だし愛想もいいよ。お金もあったに違いない。あの急に転がり込んできた息子が、外で借金を作ってたんじゃないか?」

「大金を何度かに分けて引き出したって話、もしかして借りたゴールドだったのかも…?」


――――――――――


「探せ!」


リーダーの兵士が言うより早く、他の兵士は家の中を探し始めた。

ホレイシォに2人、両親にそれぞれひとりずつ兵士がついている。

「親を傷つけられる前にすべて吐いたほうが良いぞ。我々はもちろんアリディンバリスの議会が直接派遣した兵隊だ」


父親が反論した。

「こ、ここはモルリヴァールで、他国での勝手な取り締まりや逮捕は国際法違反だ!」

「口を塞げ」


兵士は無慈悲に父親の口に布を詰めていく。

母親は後ろ手を縛られながら、絞り出すような声で懇願した。

「や、やめて…夫を放して…!」

「息子次第だな。ご両親には申し訳ないが…」


兵士が抜いた短剣が日光に反射して光る。

ホレイシォは正直にすべてを白状した。

「………つまり、レジナルド様への手紙の中に指輪が封入されたのを確認し、それを自室で開け、再び封をして、素知らぬ顔で届けたと?」

「そうだ。高価な指輪だろうから、1000万ゴールドはくだらない品物だろうと期待したが…売値は散々だった」


尋問する兵士は笑いを押し殺して答えた。

「第二王子様の所有されていらっしゃる装身具は、奇妙なおもちゃみたいなモノばかりだからな。私も何度か自慢されたことがあるが、軽すぎて浮いてしまう木で作らせた王冠とか、ガラクタの寄せ集めで辟易したものだ」

「…今、その王冠はどこにあるんだ?」

「さあ?お部屋の天井にでもくっついているだろう。気を抜くと浮いて、手で頭まで戻して、浮いての繰り返しだったからな。子供でもあんなバカみたいなおもちゃで遊ばないぞ」

「…クソっ…!!!!!!!!!」

「あの人に関わると碌なことが無いのに、よくやってくれたな。さぁ、国へ帰るぞ」

「お、親は開放してくれ」

「ダメだ。元々アリディンバリスの人間で、今も経営している会社があるだろう。そこと繋がっている可能性もゼロじゃない。徹底的に調査させてもらうからな」


1階と2階に手分けして探しをしていた部下が集まってきた。

「それらしい手がかりは見つかりませんでした」

「わかった、後はバレないように国内に連れ戻すだけだな」

「帰りは空路を」

「大丈夫か?」

「ちょうど隣町に旅客ドラゴンが着陸したようなので、そのまま頼める可能性はあります。荷物に偽装しましょう」


兵士は3人を屋敷から連れ出し、少し離れた場所で見守っていた隣人たちに向かって声を荒げる。

「借金を返さないと、地下で死ぬまで魔法石を掘ることになる!覚えておけ!!」


馬車に詰め込まれ、町を去っていく一家を誰も追おうとはしなかった。

開けっ放しにされた屋敷のドアが風に揺れる。


――――――――――


アリディンバリスの郊外。

天井から落ちてきた死体は、まだ面影がある行方不明の仲間だった。

「殺したな!?!?!?!?!?とうとう仲間殺しの大罪まで犯すとは!!!!!!」


魔法使いの仲間たちが彼を止める。

「そんなわけないだろ!どれだけ酔っぱらってても死体を天井裏に隠したりなんかするもんか!」


ゴロツキたちも驚き、2回、3回と吐いている人間もいる。

「こ、こいつら!この家に隠されたゴールドを探しに来たメンツじゃねえか!?どういう事だ!?」

「あのババアが罠を仕掛けてたんだよ!ゴールドを見つけると魔法で発動する罠かなんかを…」

「いや、案外ゴールドの重みで勝手に窒息死してたり…オエッ!」

「バカな事いってんじゃ…うっぷ、とりあえず外に出て話さないか?」


各々、屋外の新鮮な空気を吸い込んだり、ポケットに入れていたタバコに火をつけて口直ししたりしながら会話する。

「…つまり、事故死って事だな」

「ああ」

「灯台下暗し!ツテを全部使ってさがしてたのに、まさかアイツら、人が寝てる屋根の真上に居たとはなぁ…オエッ!!」

「家が臭せぇ臭せぇとは思ってたんだが。ロジャーとかいう孫が、ここに侵入したバカをぶち殺したって聞いて、その臭いだと思い込んでたんだよなぁ~!」

「店主のばあさんの呪いだろ呪い!!」


謎が解けてスッキリしたのか、悪党どもの中には笑顔も見られる。

それに比べて、未来ある同僚の最後を受け入れられない魔法使い達の表情は暗い。

「…お前らのボスと話がしたい」

「残念、ここ数日行方が知れねぇ。まあどっかでデカい儲け話でも拾い上げて、持ってきてくれんだろ」

「お前たちの事情はどうでもいいんだ。この落とし前、どう着けてくれるつもりなのかを聞きたいんだよ!!!!」


一瞬で場が不穏になる。

「言いたいことは判る。でもな、雇った時点で前金は払ってるし、どんな仕事にもリスクはつきものだろ?大体、盗みがクリーンな副業だと思ってる時点でお宅らの頭も湧いてると思うが」

「ここの古物商は盗品買取もやってる有名な店だったじゃないか。そんなあくどい店からゴールドを盗むのは善行に決まってる。彼も自分が死ぬなんて思ってなかった!死の罠が仕掛けられた危険な家に忍び込むつもりは…!!!!」

「あ~~~~~ヤメヤメ!」


ひとりの悪人が手を振ってクロスさせた。

「視線に気付かないのか?」


周囲の崩れかけた家々や施設から、光の反射を感じる。

人間の眼球もあれば、望遠鏡のレンズのような光線も含まれていた。

一度観察の視線に気付いてしまえば、そこに立っていられない程には気持ちが悪い。

「…ボスは平等だ。お前らへの補償は無いだろうが、分け前はいつも”等分”なんだよ」


魔法使いたちは息を吞む。

「あのゴールドを分けてやるから許せってのか?」

「そうだ。”補償”はないが、哀れな土魔法使いへの”分け前”ならキッチリやるよ。ボスはそういう男だ。この場には居ないが、きっと許可してくれるだろうう」


皆が店内を見た。

ギシギシ音を鳴らしていた不気味な天井は無くなっているが、その代わり山のようなゴールドが天井のあった位置にまで届いている。


――――――――――


その夜。

レジナルドは夢を見た。

隣りのペット用天蓋ベッドで眠っているモグラも巻き添えで同じ夢を見る。

「…ナルド様、レジナルド様!」

「誰だ?」

「私は夜会で助けてもらった貴族です。感謝の意を表したくて夢にお邪魔させていただきました。この夢枕に立つユニークスキルはいとこの能力なんです、面白いでしょう?でも30秒しか時間が無…何ですかそのずんぐりむっくりすぎる犬は?食べさせ過ぎは虐待ですよ?あっネコ?どちらにせよ…」

「………ハッ!」


目を覚ましたレジナルドはゆっくりと上体を起こす。

「ぐっ!とんだ勘違いだ!こいつはネコでも犬でもない!というか一方通行的なメッセージを送信するな!モヤモヤするだろ~~~~!!!」


モグラはなぜか誇らしげだ。

どれだけずんぐりむっくりしてるかでモグラの美しさは決まってくるらしい。

「えっ?歳をとればとるほど体が伸びてくるから、丸っこくてポヤポヤしているのは若さの象徴?」


モグラは頷き、体をクネらせた。

「まあ、当人が怒っていないならいいかぁ…ふあぁ…ムニャムニャ………」


薄いコットンキャンディ花のブランケットを腹にかけ、再び眠りにつく。

もぐらは褒められた嬉しさで朝方まで寝付けなかった。

一方、領地に帰る途中の宿で、コンストミニアン国立公園を有する広大な領地を持つ貴族の娘は、いとこと共に騒いでいた。

「ちょっと~~~食べさせ過ぎは虐待でしょ!?どうにかしてダイエットフードを送れないかな?」


同じビジョンを共有した、いとこも同じように激怒している。

怒りで上下に揺れているので、アフロが入ったシルクのボンネットもワシワシと揺れる。

「このご時世にペットを太らせすぎるだなんて、本当に情報のキャッチアップがなってない!やっぱりデブはペットも太らせちゃうんだ…可哀想に!」

「わんちゃんの寿命は人間と違って短いんだから、もっと健康に気を使って過ごさせてあげないと…」

「えっワンちゃん?ネコっぽかったよ?」

「しっぽがなかったじゃん?」

「短いけどしっぽはあったよ。それにヒゲもあった…イヤちょっと待って、耳が無かったね?」

「モンスターかな?」

「なら太ってるタイプのモンスターなのかも?」

「…」

「…」


真夜中に2人でモンスター辞典を引っ張り出して読む。

「あっ!毛生えスライムだって」

「これじゃん!心配して損した~寝よ?」

「ちょっと待って!!!!私、恩人に向かってペットがずんぐりむっくり過ぎるって罵倒しただけの失礼な貴族になってる…」

「悪役令嬢じゃん」

「誰がぁ!?!?!?」


あまりに騒がしかったため、隣室に居た侍女が起きてきて2人を叱った。


――――――――――


「じゃあこれで、キレイサッパリこの問題は永久解決、ってことで…いいな?いいよなぁ!?」

「…もうしばらくは、お宅らとは関わり合いになりたくないけどな」

「そう言うなよ~ビジネスライクで行こうぜ?腕力が必要な時もあるだろ?いつもの酒場でまた会おうって!」


袋に入り切らない程のゴールドを持った魔法使い達が帰っていく。

そのうしろ姿を眺めながら悪党はボヤいた。

「流石にここまですれば、一応は大丈夫って言ってくれ?」

「いやぁ、ボス顔負けの場捌きだったぞ」

「あんまり褒めるなよ」


井戸から毒水を汲み上げ、それを光魔法で浄化し、その水でゴールドをキレイに洗って山分けしたのだ。

傍から見れば、家の隙間や窓という窓がビカビカビカビカ光ってうるさいぐらいだったろう。

「にしても、こんだけ人が死んでりゃ呪われた魂の2、3残っててもおかしくないよな?」

「さあな?…いや、罠にかかって死ぬと混乱のうちに魂も切れぎれになるって聞くから、逆に悪霊にならずに済んだのかも知れないぞ?」


清潔?にしたゴールドを見て、ひとりがボヤく。

「こりゃ当分遊べるな」

「へへっ!こんな陰気な場所から出て、街中のでけぇ宿屋のスイートルームに泊まろうぜ!」

「割り勘にすればもっと安く長く居られるし、遊びに金も回せるな!賭けウォーターホースでこの儲けを増やすしかねぇ!!」

「賭けるならスライム闘技場だ!」

「とにかく宿屋に運ぶぞ。その間、ゴールドを奪われないように交代交代見張るとするか。薄気味悪いアジトともこれでオサラバだ!!」


壊れたように悪党どもは笑い、交代でせっせとゴールドを運んだ。

「おっと、ボスが帰ってきたらどうする?ねぐらを変えたことを伝えておかないと」

「ここが廃屋になってたら酒場に顔出すだろ、心配すんな、子供じゃあるまいし!」


必要なものを運び終えた悪党どもは、その店に火をつけた。

大声でギャハハと笑いながらその場から立ち去る。

「火葬してやってんだ!感謝しろよ!!」


隣接するヤードに暮らす人々は、もらい火の心配だけをする。

治安が悪い場所では互いに介入しないのが長生きのコツだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ