人質生活51日目
「で、話ってのは?」
アリディンバリスの郊外も郊外。
「ボスが持ってる、あの革で出来た筒。”成仏できぬ水筒”らしいじゃないか」
「有名なのか?」
「普通の美術品じゃない。砂漠で死んだ魂が水筒に憑りついていて、周囲の水分を吸収していくんだ。いわゆる呪われたアイテムだよ」
「…そら高く捌けるんだろうなぁ?」
「俺たちが店主のばあさんから盗んだ品物の中にあったんだ。さっさとあれを売り捌いてもらえねぇかなぁ…まとまったカネが欲しいんだ」
ひとりがタバコに火をつける
「なんだよまとまったカネって」
「デカい投資話があるんだ」
「ブワッハッハ!!!チューリップの球根で懲りただろ!」
「今度は違う!モルリヴァール側に水源があるスグム川沿いで、開発計画があるらしい」
「へえ」
「そこの領地を管理してる貴族が、一般市民にも開発に参加しないかって募集を出してるんだ。土地は坂ばかりだから移動もポータルで楽々だし、店や住宅がバンバン建つと俺は予想してる!」
「土木工事には大企業しか絡めないけど、普通の家や店が建てられるぐらいになったら、まあ手を出してもいいかもな?」
「そんな悠長な事言ってられっか!もう出店権は売買されてんだよ!街にあるそこら辺のパン屋や洗濯屋も店の出店権を買ってんだ!わからないのか!?」
おお、というようにもうひとりが胸を反らす。
「出店権の転売か」
「そうだ!濡れ手に粟、買えば買うほど市場を操作できる!」
歴史の影にresellerあり。
冗談はともかく、転売は昔から悪いヤツらの投資ビジネスだった。
「ボスにカネを作ってもらって、今からダッシュで権利を買えば…」
捕らぬ狸の皮算用は膨らむばかりだ。
――――――――――
「ではトーラティカ先王様、ご準備はよろしいでしょうか?」
アリディンバリス。
国王とその臣下一団、そしてトーラティカの先王が、”暗闇のトンネル世界を照らす一筋の光、モグラ王国発展の道は竜退治に通ずる!悲運の第二王子の手により敵同士が協力するとき、地底のマグマドラゴンは磁化されコアに沈む!6000度に耐える最強ドラゴンを倒すには重イオンをぶつけ合って摂氏5.5兆度を目指すしかない!掘れ!クソデカ長々粒子加速トンネル!”の特別上演を見に行くことになった。
おまけで第一王子ブレンダンと、第一王女アデレートもついて来る。
「観劇の希望がかなって、本当に嬉しい。観劇で感激!なんつってな、ガハハ!」
トーラティカ先王のダジャレに国王は苦笑いしていたが、先王は偉ぶるところも無く、人質としてワガママも言わず、温和なじじいなので王城では好かれ始めていた。
ついでに演劇が好きなのも、去っていったレジナルドをどことなく思い出させる。
また約束通り無一文でアリディンバリスへやって来た事実も、尊敬されるポイントだった。
「着きましたよ。足元にお気を付けください」
「おお!ここが王都の劇場か!民間でやっているとは思えない程立派だなぁ!」
いちいち褒めるのも愛されポイントだった。
劇場の入り口でビシッと待機していた支配人も、深く頭を下げる。
「この度は、国王様、そして第一王子様、第一王女様にお越しいただき、誠に…」
国王は”挨拶はいい”と言うように手を振り、支配人の喋りを止める。
「では、中へご案内いたします」
もちろんただの観劇ではない。
王都で大流行中の演劇がレジナルドをモデルにした内容だと知り、王族をバカにする要素があれば即刻中止させるつもりで劇場に来た、のだが…。
「…あれは、レジナルドじゃないか!?」
舞台に登場したロジャーを見て、国王は思わずつぶやいた。
第一王女も同意する。
「あら本当、下のお兄さまにそっくりじゃありませんこと?」
国王は笑った。
「これは愉快だな。どうやって演者をあそこまで太らせたんだ?服の中に枕を詰めているようには見えないが!」
劇は盛り上がり、熱気は最高潮のまま幕が下りた。
人々は割れんばかりの拍手でその喜びを伝える。
トーラティカ先王もその観客のひとりだ。
「素晴らしい劇だ!しかし、モグラのコスチュームの横についている窓のようなものは一体?」
第一王子が補足する。
「あれは真夏に動けるように、服の中に風の魔法石が仕込んであるんです。風が送られるから涼しいんですよ。もっとも労働者が使うのが一般的で、我々には必要のない魔法道具です」
「なるほど、必要は発明の母という訳か」
臣下たちも大喜びで王城へ帰った。
ひとり、第一王女だけが不満顔だ。
「…あなたたち、モグラグッズを買わなくて良かったの?」
アデレートの侍女たちはビクッとする。
「街で流行りの演劇なんだから、ぬいぐるみやステッカーのひとつやふたつ、売店で買ってくれば良かったでしょう?」
侍女は第一王女がその演劇を目の敵にしている事を知っているので、グッズを購入したりはしなかった。
「まさか!下品なストーリーで、いかにも市民が喜びそうな、ちゃちな物語だと思いました」
「そうですよ、歌とダンスでごまかす、中身がスッカスカのミュージカルの手本のような作品でした!」
「見ていて眠りそうになり、困ってしまって…」
侍女たちと共に第一王女は笑った。
「ああ、ちょうどいいタイミングじゃない?演者たちを呼んで!」
――――――――――
王族と貴族が帰った後の劇場。
「今日の公演は最高だった!午後からも頼めるな?」
「ええ、もちろんです!ありがとうございます!」
ロジャーははちきれんばかりの笑顔を見せた。
支配人の後ろから脚本家が声をかける。
「これで人気が落ちかけていた”ぽっちゃり王子~財力カンストで自重してと言われてももう遅い!暗黒と光明のパラドックス最強神魔法の使い手に転生!?妖精999人に愛されチート生産スローライフ実況~”をやめることが出来ますね。午前、午後の二本体勢に移行するとして、夕方、夜間の残り二枠はどうしましょう?」
「ああ、実は目星がついてるんだ。団長室へ来てくれ」
支配人の部屋では、王城に務める演者がくつろいでいた。
「…まさか!」
「そのまさかだ。”先見の明があり過ぎて人生1回目なのに転生を疑われるチート賢王、世界平和のため人質生活を送ることになったが、元敵国の民に慕われすぎて困っています!女神に祝福されてるのは嬉しいけどひっそり暮らしたい(汗が飛んでるemoji)この歳で魔界のボスと渡り合えって、これ以上能力アップしたら冒険譚が上巻・中巻・下巻じゃおさまらないんですが!?増刷1億達成でまた国内総生産引き上げちゃいましたか、オレ?”通称”のがあり”の演技指導で来てもらっている」
「と、トーラティカの王族を持ち上げるような真似をして、我々の首は大丈夫でしょうか?」
「私がそんな行き当たりばったりな人間に見えるか!?もちろん許可は取ってある!」
宮廷演者が立ち上がり、お辞儀をした。
「この劇は二国間交流事業でも上演された、王宮お墨付きの劇なのです。国家間の貿易がやっと再開されたばかり。このような状況では、少し無理やりにでも市民間の敵対感情が薄れるようにプロパガンダしていきませんと」
「な、なるほど…しかし、脚本が出来上がっているのなら私の出番はございませんね…」
演者は気まずそうな顔をした。
「いえ、実はオチが…その、トーラティカの先王様のお好きなオチにしましたので、古典が過ぎるというか…とにかく、プロの脚本家に直していただきませんと、劇としては二流三流のレベルなんです」
「ええっ!?古典が過ぎるって、まさかヒロイン2人に両側から引っ張られて、”俺のために争わないでくれよ~”って叫ぶとかそのレベルじゃありませんよね?まさかですよね?」
あまりに部屋の空気が気まずすぎて、フルーツ入れに置かれていた果物の皮が勝手にすべて剥けた。
――――――――――
トーラティカのカントリーハウス。
昼食中、蹄の音が聞こえた。
「おお!使者が来たんじゃないか?」
「レジナルド様、食事中に席を立つのはお行儀が悪いですよ。ハインリヒさん、ご対応を」
「お任せください」
すでに従者と侍女が出迎えていたが、ハインリヒもエントランスから外へ出る。
「ふぃ、フィリップ王子様!?」
「その名前で呼ぶな執事!レジナルド様に聞かれたらどうする気だ?」
「申し訳ございません…しかし、先触れのないご訪問だったので驚いてしまいました。今、レジナルド様をお呼びいたします」
「その必要は無い!」
フィリップが手でサインを送ると、従者が馬から降り、ハインリヒに小包を手渡した。
「こ、これは…」
「その中に入っているモノを、レジナルド様に気付かれる事なく書斎の引き出しの中に戻せ。いいな!」
そう言い放ち、馬から降りる事無くUターンしてカントリーハウスの敷地外に出た。
呆気にとられる従者たちをよそに、執事は慌てて小包を剥く。
「これは…?」
ハイパーシークレットダイアリーと書かれた手帳のような日記、それにインクだった。
おまけで新聞の切り抜きもついている。
ハインリヒは早足で三階のダイニングルームへ向かった。
「レジナルド様、使者様が新聞の切り抜きをお持ちになられました」
「おお!ありがたいな!」
マシューと2人でどれどれ、と切り抜かれた小さな記事を見る。
ハインリヒはそのまま後退し、同じ階にあるレジナルドの書斎に入った。
最近はコレクションをまとめた資料を執筆しているらしく、机の上に紙が無造作に散らばっている。
引き出しを開け、からっぽだったそこに日記帳とインクを収めた。
――――――――――
何も知らないレジナルドはウキウキで新聞を読んでいた。
「”呪われた甲冑100体を古城に閉じ込め、最後の一体になるまで戦わせてから光魔法で浄化 効率的な手法に関係者驚く”」
「う~ん…それって呪いが強まったりしませんかね?人の手に負えない業に変化する前に、面倒でも一体一体浄化していったほうがよさそうな気がするのですが?」
「城内には中継水晶も設置されるそうだ!これは賭けが捗るなぁ~!」
「また卑しい事を…モンスターの駆除や呪われたアイテムの管理は公共事業として領主が管理しなければいけません。最近の流行か知りませんが、民間に任せるから小銭稼ぎにこういうバカバカしい見せ物を始めてしまうんです。第一、呪われた甲冑が一体でも逃げ出してご覧なさい!経費の節約のはずが、捕獲のために人を雇わなくてはという事態になりかねず…」
「俺は”赤のダブルクロス”に100万ゴールド賭ける!あと”苔むした青銅”も強そうだな~ビルはどの甲冑が最後の一体になると思う?」
「私は”両手剣の黒甲冑”ですかね!やはり武器が2つあるというのは強いのでは?」
近くにいたシェフも寄ってきて、みんなで新聞の切り抜きを見ながらワイワイ騒ぐ。
「”胴無しの白刃”も猛者感ありますねぇ~」
「”エイムがいい東区レジェンド最強戦闘狂”はどうだ?」
「ああ~そういう名前のヤツはイキリですから、初手で戦いまくって消耗して早々に離脱しますよ」
マシューが渾身の声量で叫ぶ。
「…っていうかレジナルド様、賭け事が許される身分とお思いで!?絶対にダメですよ~~~~!!!!」
――――――――――
レジナルドはモグラを抱きかかえ、午後からの勉強のためにライブラリへと向かった。
隙を見てハインリヒはマシューを捕まえ、執事の執務室へ連れ込む。
「使者ではなく、フィリップ王子様が直接来られました」
「!?」
マシューは取り乱す。
「やはり、明後日の舞踏会は来るなという言づてを…?」
「いえ、夜会の事ではなく、以前の訪問…調査で…」
ハインリヒは言葉を探す。
「し、資料として押収されたハイパーシークレットダイアリーを返却していただいたのです。さっき、レジナルド様の書斎にこっそり返してきました」
「押収?”勝手に持ち出した”の都合のいい言い換えですね」
マシューはハインリヒほど自国の王子に気を使っていなかった。
「でも、一度持って行ったものを返してくださるとは、どういう風の吹き回しでしょう。何かおっしゃられていましたか?」
「いえそれが、本人に知られる事なく引き出しの中に戻せ、という指示だけで。ところで、レジナルド様は自身の日記帳が無くなっている事に気付かれていらっしゃいませんでしたよね?」
「ええ。買ったまま引き出しの中に入れてそれっきりで、一度も文字を書いたことは無いでしょう」
マシューとハインリヒはふーっと安堵の息を吐いた。
「レジナルド様が書かれていない文章が偽装されていましたか?それを証拠に彼を貶めるおつもりでしょう」
「いえ、ページは真っ白でした」
「ええっ!?じゃあ、本当に返却してくださっただけ…なのでしょうか…?」
「不安ですね。時間差で何かが起きる魔法がエンチャントされているのかも知れません。それに、夜会でどう仕掛けてくるかを考えると…」
「レジナルド様に、上級使者様はフィリップ王子だと告げて、失礼な態度を取らないように対策を練った方が良さそうですね」
ライブラリに2人が向かう。
一足先に勉強を始めていたレジナルドに、深刻そうなテンションで声をかけた。
「お話があります。実は……………………………………上級使者様は、この国の王子、フィリップ様なんです」
「あ、ああ…そうか」
執事と通訳は顔を見合わせた。
「反応が薄くないですか?」
「いっ、いやぁ…まあ、周りの萎縮具合を見るに、そうなんじゃないのかなぁ~~~?ぐらいの事は予想していた」
まさか使用人にこっそり教えてもらっていたとは言えず。
「そうでしたか…萎縮とは、おっしゃる通りですね。私たちの態度でバレバレだったのかも知れません」
「あと、あんだけちょくちょくちょっかいをかけてくる所も、王族特有のヒマさ加減だなぁ~~~?と感じはした。本当に上級使者としての仕事がある様な振る舞いもしていなかったしな。酒に酔ってぐでんぐでんになった夜の事を覚えているか?」
ハインリヒは思わす吹き出してしまった。
「ああ、この調子なら大丈夫ですね。夜会でフィリップ王子…上級使者様にどうからかわれようと、決して取り乱すことなく、低姿勢で臨んでください。ケンカを買うような態度を取れば相手の思うつぼです」
「ワハハ!その程度の対応なら弁えている。安心しろ」
ライブラリにおだやかな笑い声が響いた。
――――――――――
「…うっ…き、貴重な脚本拝見うけたまわり、この喜び…」
「そんなおべんちゃらどうでもいいから!」
場所はアリディンバリス。
第一王女アデレートが怒鳴った。
「私が聞きたいのはやるのか、やらないのか、それだけなの!当然演劇をやってくれるんでしょうねぇ?この台本を渡した時、”演じさせていただきたい”って言っていたと記憶しているけど?」
「も、もちろんでございます…」
王宮勤めの演者が手にしている脚本は、愚かな第二王子”ドナルド”が、トーラティカで酷い目に合う悲劇のストーリだ。
正直に”つまんないですねぇ~悲劇にも面白い悲劇とただただ悲しいだけの悲劇がありますが、これは後者ですねぇ~”とは言えず、演者は灰色の顔をしながら胸を叩いた。
「お、お任せください王女様…」
「もう演者たちで素読ぐらいはしたでしょう?10日以内に仕上げて頂戴!まずは私と侍女だけで見るから。あなた達の演技が及第点ならお父さまや上のお兄さま…妹は旅行中だから置いとくとして、臣下たちにも見せてあげたいの」
「わかりました。ところで…脚本にちょっとだけでも手を加えるという事は…」
「なりませんっ!!!!あと…」
「あと?」
「グッズも制作なさい?」
「なんて????」
さっさと取り掛かって!という怒号と共に演者は第一王女の部屋から蹴り出された。
――――――――――
「どうですか!我ながら会心の出来かと…」
サイモンは小さめの石に彫りあげた転生させ女神像を、誇らしげに抱えている。
「どれどれ…っていいわけがあるかぁーーーー!!!!」
「やめてくださいよ大声で…唾液が飛んできてバッチいですよ」
「何だこのキツネ風のメスケモは!!!!お前の性癖で彫るなと言っただろう!」
「すみません、ノミとハンマーが乗っちゃって…」
「筆が乗る、みたいに言うな!」
キツネは憂いたような表情で顔を斜め下に向けており、細長いマズルがセクシーだ。
「立体物としての美しさは充分あるじゃないですか。それに今回は服もちゃんと着せましたよ」
「あのなぁ、転生させ女神はそもそもメスケモじゃなくて、人間の女性の外観をしてるだろ」
「…」
「いや反論できない事をやろうとするな????」
とにかく彫り直しになった。
「しかし、手先の器用さを見せつけられはしたな。今度こそ頼むぞ!」
「チャンスをいただけて嬉しいです。ところで、私の部屋には前に彫ったセクシー転生させ女神像があるので、この像はレジナルド様のお部屋に置いていただけませんか?」
「こんなに人間パス度が高いメスケモはちょっと。そもそも二足歩行は人を選ぶしなぁ…」
「業が深かった」
――――――――――
アリディンバリス。
窃盗団のボスは、歯をむき出しにして今にも唸りそうな顔をしていた。
「…成仏できぬ水筒は、しかるべき場所にしかるべきタイミングで売る。その時まで待て」
「でも、出店権を早めに押さえとけばデカい儲けに…」
「それはわかる。わかるが、これは価値が付けられない程高価な品なんだ。売り時は数年先になるかもしれない。だが、売り上げは間違いなくお前たちと分け合う。それは約束させてくれ」
「……………」
そう言われるとそれ以上は頼めなかった。
ボスは成仏できぬ水筒を頑丈そうな箱に入れ、外出する。
古物買取店に残された仲間たちも、それぞれ仕事があるらしく外へ出て行った。
「………チッ!あの様子じゃ本当に売らないみたいだな」
「忘れようぜ。それより、隣の家に顔を出しに行った仲間についてった方が良いんじゃないか?レクリエーション嗜好品の工場らしいぞ」
「へえ、捕まれば死刑なのに。ご苦労な事で」
「まあ…それだけ儲けも良いからな…俺はせっせと精神依存性ポーションを枯れ葉にしみこませて揉み込むなんて肉体労働したくねぇけど」
「普段俺らがやってる盗みの方がよっぽど肉体労働だろ!」
「違う違う!肉体労働でも別の種類の辛さなんだよ。お前、ラインで働いたことないだろ。同じ作業を1日続けんるだ、マジで辛いぞ!もっとも30分で飽きて眠たくなってくる方の辛さだけどなぁ~」
ハッ!と笑い飛ばした。
「そういうカタギの仕事が嫌で悪党やってるのに、スリルがない”仕事”なんて死んでるのと同じだろ?」
「そ~だよなぁ…手っ取り早くスリルを味わえるし、ゴールドも手に入る。泥棒は天職だ!」
――――――――――
「ああ、ここだ、アンダーソン宝石店…」
製造業の会社がいくつも集まる街の北側にあるその店は、入り口で魔法道具のライトが点滅しており、営業中を知らせていた。
「失礼しまーす、どなたかいらっしゃいませんか…?」
店の奥から店主が顔を出す。
エプロンを外しながら挨拶するところを見るに、職人も兼業しているのだろう。
「(久しぶりに入ったが相変わらずシケた店だな、望み薄か…?)」
予測とは裏腹に、エイデン侍従長の名前を出すと食いついてきた。
ボスはさらに奥の手を見せる。
「これは内密にしていただきたいのですが、実は…」
勿体ぶって、それらしい紙を見せる。
「王城の中で窃盗事件が起きている可能性があるのです。我はたまたまこのリストを手に入れたのですが、どうも絵画やオブジェなどが…」
「!!!!」
店主は血相を変えた。
「そ、そのリストにリングは!?」
「えっ!?い、いいえ、指輪の記述はありません。このリストにあるのは絵画とオブジェのみでして…」
「そ、そうですか…」
アンダーソン宝石店の店主は、コットンキャンディ花が埋め込まれていないリングに関しての情報を喋った。
「驚きました、まさか、レジナルド様のジュエリーを盗み、模倣品を作らせようとする悪党が居たとは…もし実現していたら、レプリカを宝石箱に戻し、本物を高値で売り捌いて美味しい思いをしていたに違いありませんね」
「えっ!?」
「あ、ああいや…と、とにかく、エイデン様に繋いでいただけないでしょうか?」
ボスはなんとかお願いをして、手紙を書いてもらえることになった。
「王城で盗難事件が起きている事はご内密にお願いします。ある意味国家機密と言っても差し支えないので」
実際はちょくちょく起こっているのだが。
――――――――――
「レジナルド様。お酒に関してですが」
「ああ、夜会では礼儀として口を付けなければならないな?それじゃあ仕方ないかぁ…!」
「いーえ、飲酒は許可されておりません。そもそも、ここ1ヶ月以上お酒は口にされていらっしゃいませんしね。ご配慮としてお水を出していただけるそうですよ」
「何だと!?舞踏会で飲まないのは逆に失礼だろ!?」
「ダメです。お体が悪いという事にして、禁酒を続けましょう!」
「俺の体はどこも悪くないぞ!」
「デブでしょう?」
「デブは悪くないだろ!…いや、悪いのか?」
「悪いですよ」
「悪いのかぁ…」
「内臓と足腰に良くないですよ。体重が原因でヒザを痛めている10代とかカッコ悪いでしょう?」
「ちなみに会場では何が出るんだ?」
「別に普通の酒ですよ。奇数本&偶数本のトゲのウニ葡萄のワイン、電気リンゴのシードル、そしてビールなどです」
「シードルだって!?あんなのジュースみたいなものじゃないかぁ~~~!!!」
「あ~~~酒で身を亡ぼす人はみんなそうやってガブガブ飲んで内臓をおかしくするんですよね。何を食べたり飲んだりしても衰えないのはざまあ臓ぐらいですよ!」
マシューが熱心に説得した甲斐あって、レジナルドは渋々納得した。




