人質生活47日目
アリディンバリスの王城。
第一王女アデレートの部屋。
朝起きて、何気なく棚を見た彼女は叫びそうになった。
「~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
捨てるようにと命じ、実際に部屋から無くなっていたポプリポットが、元の位置に戻っているではないか。
――――――――――
「やっぱり丘の上は気持ちいいな!」
高い場所から馬に乗ったまま、カントリーハウスの屋根を見下ろす。
全身にうっすらと汗をかいているが、強い風が顔だけは冷やしてくれる。
スーッとおでこの熱が下がっていくのを感じた。
レジナルドの言葉に、乗馬インストラクターのセーラが答える。
「そうですね。本当に”美果の月の25日の詩”のようですね」
「トーラティカでもアリディンバリスと同じ詩が愛されていて嬉しいぞ。”強く眩しい日差しは休みの最終日を輝やかせ、子供たちの遊ぶ声の名残惜しさに目を細める”…俺は学校に通ったことがないが、明日で長期のホリデーが終わってしまうと妄想すると、残念な気持ちになるな。それとも、イマジナリー学友たちとの再会を喜ぶべきだろうか?」
セーラは笑った。
「もうすぐ夜会がありますね。友人でなくとも、同年代の男子と喋ることができて嬉しいのではないですか?」
「それがな。上級使者様から追加で手紙が来たんだ。せっかく練習したっていうのにダンスは禁止。それだけじゃなく、俺から参加者に話しかけるのも禁止。許可されているのは飲食だけだ」
「なるほど、お寂しいですね」
「大丈夫だ。この屋敷にはビルやサイモンたちがいる。少し年上だが、話し相手が見つからなくて寂しい気分になる事は無いぞ」
「身分が違っていても話題は同じですからね。天気や季節、食事に服装、それから…」
レジナルドは胸から新聞の切り抜きを取り出した。
「最近は、雑談の引き出しもバリエーションに富んできたんだ」
”雲の裏地から銀を採取”と書かれた地方記事の見出しがあった。
新聞の切り抜きは頻繁に届けてもらえている。
「オホホ!」
2人はのんびりジグザグに馬を歩かせ、ゆっくりと丘を降りていく。
――――――――――
第一王女アデレートは、魔法使いたち数人を部屋に呼んだ。
「この部屋にお母さまの霊は居るように感じる?」
魔法使いは顔を見合わせた。
「王妃様の魂は穢れも無念もありませんでしたので、確実に死後の世界にいらっしゃいます」
「不安になられないでください。もし王妃様のことが恋しくなったのなら、魔法使いではなく侍女や占い師に相談したほうが…」
第一王女は首を振った。
「いや、居ないならいいの。もう出てって」
母親から貰ったポプリポットを捨てたことで、魂を怒らせてしまったのではないかと考えた上の妹は、魔法使いを呼んで部屋を見てもらったのだ。
「…アデレート様」
魔法使いが部屋から出て行くと、昔から仕えてくれている侍女が、彼女の横に腰掛けた。
「王妃様が亡くなられてもう3年になりますね。寂しいのですか?王妃さまの思い出でしたらいくらでも語って差し上げます…」
「い、いや、別に大丈夫。それより散歩がしたいの。何人かついてきてくれる?」
母の霊がポプリポットを戻したわけではないと判って、その部分ではホッとした。
が、逆に言えば不気味さが増加している。
「…清掃に入った使用人から何か話は無かった?」
「いえ、ございませんでしたが…何についてのお話でしょう」
「ううん、気にしないで」
侍女は頭の上に”?”を浮かべた。
――――――――――
アリディンバリスの第一王子、ブレンダンにも不満はあった。
父である国王は、王城で起きている盗難事件に興味が無い。
2人きりになったタイミングでこっそり話してはいるのだが、ブレンダンが”親族が関わっている可能性もあり、大問題ですよ!”と声を荒げてみても、あっそという感じでスルーされてしまうのだ。
ここは議会場。
大臣が苦しそうな声を出す。
「どういたしましょう?」
議会は重苦しい雰囲気に包まれている。
国王も眉間にシワを寄せ過ぎて頭痛を起こしたのか、こめかみを親指でグッグッと押していた。
席に着いている第一王子も、頭の中では盗難事件の事を考えてはいるが、いかにも話し合いに参加しているという険しい表情をキメていた。
議員たちが話し合う。
「借金のカタに領地を切り渡したというのは大問題でしょう」
「なぜ気軽にそんな事をしてしまったのか、まったく意味不明です」
「判断に苦しみます。そもそも、領主同士でカネの貸し借りをするなど…」
何人かがゴホンゴホンとせき込んだ。
公にはされていないが、借金はそれなりにあるものなのだろう。
「ゴールドがなくとも食料や人材で返せば済んだものを、なぜ国から管理を任されている領地で返せると思ってしまったのでしょう」
バーン!と大きな音を立てて扉が開かれた。
その話し合いの場から締め出されていた貴族が会議室に入ってくる。
兵士の制止を振り切り、その場にいる議員や国王に懇願した。
「私の祖父がそんな事をするとは考えられません!聞き取りをお願いいたします…」
普段は議員として議会に参加している男性だが、自分の家が絡んだ揉め事とあって、今は排除されていたのだ。
彼は床に両ひざをつき、両手を握って叫ぶ。
「既に使者と議員を数名送られたとのことですが、なにか理由があっての事に違いありません…理由があっての事に…」
国王はざわつく議員たちを大人しくさせ、口を開いた。
「本人にも事情は聞きに行く。だがな、すでに調べはついている。勝手に領地を分割し、借金の返済に充てようとした。その事には間違いがないのだ。人が近寄らない山ならやり取りしても構わないだろうという判断なのだろうが…勝手な土地の貸し借りが領地争いへと発展し、やがては内戦に繋がる。お前も国家の運営に関わる身なら判るだろう?これは重罪だ。お前の祖父は良い領主ではなかったな」
臣下の男性は地面に這いつくばったまま体を震わせた。
「せめて、家に帰らせてください」
「ならぬ」
国王は兵士に命令し、兵士は両脇を抱えて男性を会議場から連れ出した。
国王は続ける。
「最終的な判決は調停大臣が決めるだろうが…領主に、領地を治める能力が無い事は明らかだ」
全員が目を見開いた。
アリディンバリスの歴史上、まだ数回しかない領地没収が今ここで決定された。
一斉に拍手が沸き起こる。
「さすが国王、素早いご決断で」
「派手に罰しておきませんとね」
国王は手の仕草で拍手を収めた。
調停大臣に目線を送る。
大臣も頷く。
「領地没収の処分で問題無いでしょう。領主、その2親等までは領地を追放されます」
「親族で重要施設は運営されているな」
「一度に管理体制を変えると混乱の元ですので、そちらはそのままで良いかと」
議員たちはかたずをのんでやり取りを見守る。
さっきまで王城の盗難事件で頭が一杯だったブレンダンも、思わず身を乗り出していた。
「前例を参照しますと…臨時の領主としてその時の国王の親族があてがわれるのが通例です」
「ふむ」
すでにどこかの土地を収めている貴族の血縁を連れてくれば、”おいしい思いをしやがって”という他の貴族からの目線が強くなり、どうしてもうまくいかない。
実務経験が豊富でも、どれだけ離れた土地から連れて来ようとも、既に領地がある家がさらに力をつける事は国としても好ましくなかった。
そこで、国王の親族が登場という訳だ。
王族は飾りで、実質的に管理をするのは追放された領主の親族。
ぼちぼち2、30年もすれば”血族はそのまま、追放された領主の恥のみがそそがれている”というエコシステムである。
「そうか、なら、適当に私の妹夫婦か弟夫婦を送ろう」
臣下たちは納得し、頷いた。
が、ブレンダンの心だけがザワつく。
いとこも叔父も叔母も信用ならないのだ。
――――――――――
「第一王子様!レジナルド様からお手紙が届きました」
「ああ…そうか。後回しにせずさっさと開封してしまおう」
レジナルドの部屋に、エイデンとブレンダン、そして…。
「新しい使者だな。どうだ、仕事は?」
「気にかけて下さりありがとうございます。国境の傍で待機し、トーラティカの使者が渡した手紙と、密偵からの情報を城まで届けるだけの仕事です。何の困難もございませんよ」
そう言って手紙を第一王子に渡した。
「お前が信用に価する人間であることを願うぞ。困難は無いかも知れないが、重要な仕事だ」
「誓って、アリディンバリス王国と王族に忠誠を捧げます」
使者は深く頭を下げた。
「…」
ブレンダンの視線は固いままだ。
手紙の内容は当り障りのないもので、相変わらず常識なしのレジナルドが書いているとは思えない。
「そうか。返事は…まぁ、急性の連絡事項はない。とにかく使者、ありがとう。同封されていた手紙は”のがあり”の感想のようだから、トーラティカの先王にお渡しして、その後は部屋で休んでくれ」
使者は再び深く礼をして部屋から出て行った。
ブレンダンは扉が閉まるのを見守ってから、侍従長に言葉をかける。
「エイデン」
「はい」
「近々、領地没収がある」
「!!!!」
エイデンは目を丸くしながら第一王子から話を聞いた。
「なんとまあ、しかし、国から管理を任されている領地を勝手に分割しようとは…それも、借金のカタに…」
「貸した側からこの提案についてのリークがあった。もうあらかた調べはついている」
「それはお心苦しいでしょう」
「とうとう動き出したようだな」
「!?」
「やはり、国家転覆の流れはいつだって身内からなのだ!追放される領主の代わりに、父のきょうだいが…!」
「お、落ち着いてください王子様…!それは妄想です!!いいですか、ご親族は離宮からは許可なしに動けませんし、上級使用人ですら数年で入れ替わるような仕組みになっているのです。従者を使ったとしても、悪事を働くことなんか出来っこありませんよ!」
「…それは常識的にはそうだろうな。しかし、叔父さまや叔母さまが領主になる、となれば話は別だ。権力と実働部隊を手にすることが出来れば、あっという間に反乱軍を作り上げ…」
エイデンは頭を振った。
「ち、違いますよ…貴族同士でのイザコザを避けるために、国王様の血族を据えるわけです。権力なんて持てるわけないでしょう。人に指示を出すには日付や帳簿などの数字を見て管理をしなければなりませんが、そういった能力は王族に最も欠けている資質です。納税に、公共施設の管理に、職人ギルドのカルテル防止、討伐必須級モンスターの処理の判断、冒険者ギルドへの仕事の依頼…素人領主が無双できる世界じゃないんですよ」
「途中で王族をディスってなかったか?」
「…」
「とにかく、叔父さまも叔母さまも信用できない。そう、私は絶対にお父さまを説得したいんだ」
ブレンダンはエイデンに顔を近づけた。
「何でもいい、アイディアをくれ!」
「な、なら…信用できる高位貴族を置くしかありませんよ、ね?」
「だろ~?私と仲が良い友達を…」
「けど、別の問題が起きますでしょう」
「えっ?」
「”2人のキャプテン、1隻の船”ですよ。アレコレ問題が起きる事が目に見えています。すでに領地の運営は…ゴホン、追放される…貴族の親族が行っているわけですから、摩擦を避けるためにも”リーダーらしいリーダー”は連れてくるべきではありません。むしろ、無能な領主とそれにぶら下がっていただけの親族を排した後なら、有能な人材が育つのにうってつけの環境ともいえるので。10年後のアリディンバリスを思えば、口を出さない事が一番ではないかと」
「う゛っ…」
ブレンダンは後ろに下がって、フカフカのソファーに腰掛けた。
レジナルドがいつも座っていた場所だけへこんでいる。
「しかし、私はどうしても血族が好きになれない。特にいとこ達なんて大っ嫌いだ。いつも背中を狙われているような気分になる」
「まあ実際、第一王子様や王女様方が不運な事故にあわれた場合、いとこ様が正統後継者として国王になるわけですから…」
王子はキッとエイデンを睨んだ。
「あ、いえ、もちろんこれは制度上の仕組みを説明したまででして…現実には起こり得ないでしょう!」
「ふん、それが今までに何度も起こってきたのが、世界中の”王家の歴史”なんだ。ああ、こうして考えるとレジナルドは惜しい人材だったな。おだててなだめすかしておけば、いくらでも都合よく動いてくれた。頭がカラッポで目先の楽しみだけを追い、何かを深く考える事も企むことも無い人間だった…」
エイデンも少しだけ思い出深いような表情をした。
「うらおもて、隠し事のない明るくサッパリした判りやすい人間性でしたね…ワガママでしたが」
「………レジナルドが領主になってくれればいいのになぁ」
「は!?」
「そうは思わないか?」
「思いませんが?!」
第一王子は眉を下げ、子犬のような顔をした。
「(アイツは最高の引き立て役だった。レジナルドが弟というだけで、何もしなくても私の株が上がったものだ…)」
――――――――――
トーラティカ、王城。
王子のフィリップは町から複数人の宝石商を招いていた。
「今着ているのが夜会服だ。これに合う装飾品を探したい」
宝石商たちは早速おすすめの品のセールストークを始めた。
ひとりひとりから一点ずつ買っていく。
最後に老人がレザートランクを抱え、王子のデスクまでやって来た。
「お前で最後か。で、薦める品はなんだ?」
「もうすでに、ブローチなど一通り揃えてしまわれたようなので…ここでは”愉快なコレクション”をお見せします」
店主は淡いピンク色のリングケースを開けた。
中には、同じく淡いピンク色の宝石がついたリングが入っている。
後ろの応接セットでくつろぐ商人たちに聞こえないよう、そっと老人は囁いた。
「こちら、アリディンバリスからお越しの人質、第二王子レジナルド様が所有されていたリングでございます」
「!!!!????」
フィリップの隣に立っていた従者も、無意識のうちに力が入ったのか会計用紙をぐしゃっと掴む。
「宮仕えの貴金属職人のサインがございます」
「興味がある。ルートは?」
「どうも、アリディンバリス側の人間が古物買取に持ち込んだらしいのですが。言葉が拙かったらしく詳細までは判りません」
「…見せてみろ」
フィリップ王子はリングを受け取り、しげしげと眺める。
「いくらだ?」
「300万ゴールドです」
「…たっか」
「本物であることは命を懸けてお約束いたします。私は新城下のグリーンローズ通りに店を構える宝石商で、近隣には装身具店が数多く並び、雰囲気の良い場所でございます。馬を止めておく場所には馬用の超極小ビーズ入りクッションを用意しており…」
ベラベラ喋る商人の言葉はさておき、フィリップの頭の中に考えが浮かんだ。
横を見て従者にたずねる。
「以前、レジナルドが手紙で指輪をねだっていたのを覚えているか?」
「…まさか」
「あのリングじゃないだろうな?」
「…滅多なことは口にできません」
フィリップは少しだけシリアスな顔になり、買おう、と言った。
――――――――――
「まさかとは思いますが…そのリングをご本人に披露されるつもりは…」
「そのつもりが無いなら買うわけないだろ!」
フィリップは低い声で笑った。
商人達が帰った後の部屋で、自分の指に輝くリングに満足そうな表情を浮かべる。
「まあ、どっちにしろだ!送って欲しがっていたモノでなくとも、アイツの所有物であることは間違いないのだろう」
従者は少し呆れたような口ぶりで話した。
「レジナルド様は派手好きで知られています。そのリングもきっと自分好みに作らせたのでしょう…高そうな珍しい宝石がついておりますから。もし、王子様の手に輝くリングを見れば、頭に血が上って襲いかかってくるかも知れませんよ。危険です」
「あんなデブが脅威になる事はない、むしろ足でも引っかけて遊んでやってもいいぐらいだ。ああ、忘れていた。王族へ危害を加えようとすれば即牢屋行きだな?」
フィリップは一段と低い声で笑った。
――――――――――
「流石ですね」
紅茶を啜りながらマシューはレジナルドの絵を褒めた。
彼が所有していたコレクションのリストに、絵を付け加えたのだ。
「まあ、絵画に関してはざっくりとした再現しかできないが…どんな物かは大体伝わるだろう?」
「う~ん、これ、絵画は抜きにして考えてみてはいかがでしょうか?」
「んっ?」
「当初の目標からは逸れてしまいますが、”全世界 珍しいアイテム セレクション”というタイトルにして、レジナルド様がお好きな世界中の名品、珍品をまとめるんですよ。庶民が読んでも面白いように逸話なども一緒にまとめるんです」
「せ、世界中の名品と俺のコレクションを並べるだって!?それなら俺が所有していた”ゴミ””くだらないオモチャ”扱いされていたオブジェや骨董品、貴金属も格が上がるかもしれないな!」
「まあそれは錯覚ですが…」
レジナルドは走って自室へ戻っていった。
入れ替わりで執事のハインリヒが顔を出す。
「レジナルド様はもうお茶を飲まれたのですか?」
「執筆活動で忙しいでしょうから、後でビルに届けさせますよ」
「資料をまとめるとか何とかおっしゃられてましたね。バタフライナイフのアクションの練習にも来ていただけず、寂しいですよ。ただし仕事は捗るので良し悪しですね」
「ええ。コレクションをリスト化するという目標があれば当面は悲しさから顔を背ける事ができますし、何より害悪なバタフライナイフに触れずに済むんですから」
「害悪ではないですよ!…ところで、真面目な話があります」
「…たぶん、私も同じ話題を取り上げようとしていました」
ハインリヒが席に着いた。
「レジナルド様は…フィリップ王子様が調度品を持ち去った事をどう思われていますか?自分が貶められようとしていたことに関して、何かおっしゃられていませんでした?」
「いや、今のところは…もちろん気にしてはいるでしょうが、やはりコレクションを奪われたことに心が傷ついているようで。落馬の罪を擦り付けられる手前だった事を重く受け止めていないように感じます」
ハインリヒは普段から険しい眉間をさらにギュっと絞った。
「あの時、王子様が激昂してレジナルド様の所有物を持ち帰ったのは幸運でした。王子様も本来の計画を忘れてうっかり怒り、ああいう結果になったんでしょう。あれがなければ、レジナルド様はフィリップ様を意図的に落馬させたとして、何らかの罪に問われていたはずです」
マシューは腹の底からため息をついて、肩をほぐすように手を伸ばした。
「やはり王子同士ですから、気に食わないのでしょうね」
「フィリップ様が本気になれば、いつでもレジナルド様を投獄することが可能でしょう。そうならないよう、なんとか説得出来たらいいのですが」
「最終手段と思っていましたが、私が王城に向かい、直接お話を願い出ます」
「立場が悪くなりますよ?」
「そうかもしれませんが、ここを去ることになろうとも、何もしないよりはマシですよ…私が直接城へ向かいましょう。王城で一泊して、明日には屋敷へ帰れると思います」
「お願いしてもいいんですか?」
「私はトーラティカを愛しています。王子様が20歳になってもあれでは、この国の未来が危ういですよ。もっと大人になってもらいませんと」
王家をちょっぴり侮辱して2人で笑いあった。
――――――――――
「レジナルド様、これ、モグラに着せてみてくださいませんか?」
「これは…?」
使用人から筒状の布を渡されたレジナルドは、頭の上に”?”を出す。
「真夏なので日中は必要ないかも知れませんが、夜は涼しい時もあるじゃないですか。モグラが寝冷えしないように、服を作ってみたんです」
「おお!なるほどな!」
レジナルドと使用人はモグラを探して屋敷を歩き回った。
ライブラリで絨毯をかじっていたモグラを見つけ出し、筒状の布をスポっとはめてみる。
「うむ、似合うな!」
「うふふ、思ったより…トラですね!」
胴体がトラになったモグラが爆誕した。
もちろんリアルファーではなく、トラ柄を模した編み物である。
「これは色々欲しいなぁ…?」
「はい。すぐにシマウマ柄、ヒョウ柄もご用意いたします」
「ジラフ柄は?」
「お任せください」
「頼んだぞ!」
モグラも嬉しそうに使用人の足に抱き付いた。
服というよりは腹巻をつけたブタのような見た目になっているが、本人(本モグラ?)が喜んでいるのなら良いのだろう。
――――――――――
トーラティカ、王城。
「1週間でも2週間でも待たせておけ!先触れも出さずに、不敬なヤツめ!!」
夜、マシューが王城にやって来たのだ。
従者がアドバイスする。
「今晩のうちに対応しておいた方がよろしいかと…」
フィリップは横目で、レジナルドから奪ってきた調度品を見た。
「”コレ”に関する苦情だろう?」
「恐らくは。正式な手続きを踏まずに没収してしまったので、事態が国王様まで伝われはマズいかも知れません」
「ふん。お母さまは私のやったことを褒めてくれるだろう。それにマシューは一介の通訳だ。爵位の低い貴族だし、レジナルドを見張る役目を与えたとはいえ出過ぎた真似を。苦情を言いたいのなら他の貴族や議員、宰相…いや待てよ、それはお母さまにスニッチされるよりもずっと厄介なことになるな…?」
夕食を終えたフィリップは自室で休むつもりだったが、気がかりなことがあれば気が休まるわけがない。
「仕方ない、呼べ」
――――――――――
マシューは応接室に通された。
「先触れも無く失礼し、王子様にお手間をかけさせる無礼な真似をお許しください。差し迫ったお願いがあったのです」
「わかっている、どうせコレクションを返せと泣きつきに来たのだろう?レジナルド様が暴れでもしたのか?」
「いいえ、フィリップ王子様。レジナルド様はコレクションの事はさほど気にしてらっしゃいません」
「!!」
意外だった。
「そ、そうなのか…成る程、強がっているわけだな。で、従者も同様のお前が主人の心情を汲み、私に情けをかけろと…」
「いえ、違います。しかしレジナルド様についてのお話で間違いありません。王子様、なぜレジナルド様に嫌がらせをされていらっしゃるのですか?」




