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人質生活45日目

太陽が昇り始めた早朝。

アリディンバリスの王城の傍にある、使用人の宿舎。

クリスティーナは、メリンダの部屋から拾ってきた指輪を一瞬眺め、すぐに机の引き出しに隠した。

他ならぬジャンプスケアリングだ。

「これだけ別格って感じの指輪だなぁ…売ったらいくらぐらいになるだろう?」


彼女にとって良くない知らせもあった。

当然ながら使用人長は故郷に使者を出し、数日以内に家族がメリンダの遺体と荷物を引き取りに来るだろう予想されたからだ。

「これ、母親から貰った大切な指輪とか、そういう雰囲気があるかも…もし代々受け継いできてリングだったら、無くなったって騒ぎ出すよね…?」


早めに売ってしまいたいが、ちょっと前に絵画を売り捌いたルートを使うのは気が引けた。

クリスティーナは確かに、怪しい女からカネを受け取れた。

が、渡された金額の何倍ものゴールドを、女は取引相手から得られたであろうことは間違いない。

バスタブから溢れるゴールドに埋もれ、高笑いしている女が夢に出てきて以来、あの売買を後悔している。

「直接、盗品買取をしている店と交渉出来たらいいのに…」


――――――――――


同じく、アリディンバリスの王城の傍にある兵士と官職用の宿舎。

朝っぱらから兵士のウォルターが、同僚と頭を並べて知恵を出し合っていた。

「そりゃあな。使用人じゃなきゃ盗みは出来ないって訳だ」


掃除道具が入ったワゴンを押し、大きな物を運んでいてもおかしくないのは清掃に携わる下級使用人だけだ。

上級使用人、つまり侍女や従者も主人の言いつけで部屋の模様替えをしたり、家具や寝具を運び出したりするが、大勢に目撃されるので窃盗には向かないだろう。

清掃はどの時間帯でも行われ、使用人は空気のように扱われるが、上級使用人は他の侍女従者と積極的に連携するため、その点でも他人に覚えていられやすく、犯罪に不向きだ。

「俺たち、警備のために立ってる兵士もそうだ。何かを小脇に抱えてたら、”そりゃ何だ?”って声をかけられて一発アウトだな」

「文官の方がまだ箱を持ち歩いてても怪しまれないよ。アレって何を運んでるんだ?」

「報告書とか地図とか本とか、事務方で使う資料だ。ちょっと前に運搬を手伝ったけど、あの箱ひとつでなかなか重たくてさ」


ウォルターは両腕をウーンと伸ばした。

「宝石箱が仕舞われないうちに、ジュエリーを盗んでおけばよかったなぁ」

指輪だろうがブローチだろうが、そこまでの大きさではない。

甲冑の隙間に隠せばいくらでも持ち運べる。

「機を逸したな。今は金銀財宝、宝物庫の中か。で、俺たち兵士じゃレジナルド様の部屋にたんまり眠ってる貴重品に手を付けられないって訳だ」

「…いや、どうだろうな。見張りの俺らだけでも計画的に動けばイケるかもしれない。他の兵士にも話をつけて、目撃者をゼロにすればやりたい放題だろ」

「でもそれじゃ儲けを何分割すればいいんだ?10人で分けるのか?20人で分けるのか?」


兵士たちの顔が曇った。

「やっぱり盗みは無理か?」

「諦めるのは早い。何かいい案が出ればな…」


――――――――――


諦めていない男が居た。

アリディンバリスの王城、親族が住む離れの塔を堂々と歩く第一王子ブレンダン…と、なぜか侍従長のエイデン。

彼の身分では”侍従長には侍従長の仕事があるのですが”とも言えず、ただただ王子の命令に従い、彼の後ろを付いて歩くしかなった。

「先触れが来ていただろう!通してくれ」


今日の王子はいとこの部屋を訪ねていた。

王城で発生した窃盗事件などの犯人が親族ではないかと疑っていたからだ。

私が直々に捜査しよう!と有言実行、ある意味行動力の塊である。

しかし、数日に渡る捜査も空しく収穫はゼロだった。

「まさか!盗みだなんてとんでもない!」


驚くいとこに王子は冷や水を浴びせる。

「親族の誰かが、私たち王位継承権のある身分の人間に嫌がらせをした可能性がある。第二王子の所有物を盗み、我々を混乱させるという犯行動機があるだろう」

「そもそも盗難事件があった事すら初耳だ!第一、何を盗むって?私がレジナルド様に呼ばれてコレクションを見せられた時、どう反応してよいのか困るぐらいにはガラクタばかりだったことを覚えている!もしこれが奇跡の名品揃いなら私も下心が出たかもしれないが、自信満々に”白と金、もしくは青と黒にも見える夜会服”を見せられて、欲しいと騒ぐ人間が居ると思うのか?」

「…」


エイデンは手のひらで顔面を覆った。

「ああ、あのしょうもない夜会服ですね。ロングコートだけにしてくださいとお願いしたのに聞き入れていただけず、揃いで300万ゴールドの…」

「エイデン、今はレジナルドへの愚痴はよせ」

「も、申し訳ございません」


いとこは居心地が悪そうに足を揺らす。

「夜会でも音楽会でも、しょうもないアクセサリーを自慢してばかりで…王族にアイツの所有物を盗んでまで欲しがる人間は居ない!タダでもいらないようなヘンテコなモノばかりで…」

「アイツとは何だ、私の弟の第二王子だぞ。それに混乱させることが目的だって言っただろう。本当にあんなしょうもないゴミみたいなオモチャを欲しがる人が居ない事はこっちだって理解している」


口論が始まってしまい、従者達はあわてて2人を引き離した。

廊下に出ると流石にエイデンがたしなめる。

「王子様!!あんまりですよ!いとこさまとは言え、国王様の弟の息子です、問題になりますよ!」

「わかっている!クソっ、まあ、こいつが犯人で無い事は確かめられた。じゃあ、次の部屋にいこう」

「この部屋で終わりです。王城に住む親族の部屋を全て回りました」


第一王子は唖然とする。

「何だと…じゃあ…」

「………」


エイデンの心臓がドクドクと鼓動する。

第一王子の口がゆっくり動いた。

「2周目だな」


侍従長がヒザから崩れ落ちたのは言うまでもない。


――――――――――


「レジナルド様、乗馬、お疲れさまでした」

「ああ…」


元気のないレジナルドに、マシューが新聞記事の切り抜きを見せる。

「”パスタの木、豊作”」

「今年もパスタが豊作で良かったです。パスタはお好きですか?」

「うむ、チーズマカロニで作られた船を持っている」


レジナルドの顔が急に明るくなり始めた。

「そうか…俺は全てを失ったような気持ちになっていたが、そうじゃない!確かに持ってきたコレクションは没収されてしまったが、アリディンバリスの自室に仕舞い切れないほどの宝物があるんだ!」

喜びのあまりその場でバレエのアンデダン・ピルエットのように回転し出した。

モグラも駆け寄ってきて一緒に回転する。

「俺の宝物がまだアリディンバリスにはある!そう考えると…寂しくなんかない!ワハハハハ!!」


――――――――――


第一王子は頭をワシワシとかいていた。

一日付き合わされたエイデンはヘトヘトで、思わずソファーに座っていいですかと要求する。

しかし、内心のどこにも文句はなく、むしろ喜んで声を上げたいぐらいだった。

第一王子は否定されればされるほど、窃盗の犯人を親族の誰かだとする思い込みを深めていっている。

エイデンにとっては、どんどん自分から遠のいていく犯人像に微笑みを隠すのが難しいぐらいだ。

とは言え、まだ犯行計画手帳は返してもらえていないのだが…。


部屋に従者が入ってきた。

「緊急でお耳に入れたいことが」

「話せ」

「やはり、レジナルド様への手紙を運ばせていた使者が…アリディンバリス側に戻って来ません。国境沿いで張っていたのですが」

「ノットサスピシャスバードで追いかけられたか?」

「モンスターテイマーの話だと、トーラティカから回って山脈を避け、平地からモルリヴァール側に逃げたようです」

「使者の両親はモルリヴァールに引っ越していると資料にあったな。予想通りの逃げ方だ」

「ブレンダン様…我々がモルリヴァールに住んでいる人間に手を出すことはできません」

「何を言っている、王家の封蝋が偽装されていたんだぞ。これは国家の存亡に関わる話だ。兵士を集めてモルリヴァールの両親の元に向かわせろ」


第一王子の眼光が鋭く光った。

エイデンは思わず息をのむ。

従者は頷いた。

「国王様にもお伝えします」

「そうしてくれ。細かい作戦は兵隊長の方で本部を立ててやってもらえたら助かる。外国に逃げた犯罪者への対応例が豊富だろう」

「捉える事に成功した場合、拷問しますか?」

「もちろんだ。裏にいる人物や組織を吐くまでは絶対に許さない。必ず連れ戻せ」

従者は頷いた。

王子も頷き返す。

「もし国外の諜報機関が、我々王族の混乱を目的にやっていた事だとしたら…手に余るな。まあ、真実を知った後の事はまた考えよう」


従者は一礼して去って行った。

「ブレンダン様、これは…」

「そうだなエイデン。お前が言いたいことは判る。しかし、使者は忙しい身でほとんど王城にも居なかった。窃盗の犯人が使者だと決めつけるのはシンプルすぎる考えだ」


いや、そんな事を口にするつもりはなかったのですが、とは言えない。

「さ、流石です…!私が間違っておりました」


第一王子はニヤリと口角を上げた。

そろそろ推理ショーを開催したいところだが、なかなかトラブルも犯人も見つけられない。

その鬱憤を、少しは晴らせたようだ。


――――――――――


お茶の時間。

天気がいいので、今日は庭のガゼボでお茶をしましょうとハインリヒが提案してきた。

レジナルドはモグラと共に外へ出る。

「ご気分はどうですか?」


ハインリヒがレジナルドの顔を覗き込む。

「良くなった。お前たちが俺の事を気にかけてくれているからだ。ありがとう」

「そうですか…もし可能なら私のバタフライナイフコレクションをお渡ししたいところですが、流石に人質が武器を所有しているところを見つけられたらシャレになりませんからね。残念です」


遅れてやって来たマシューが、何が残念なものですか!当然でしょう!と執事に苦言を呈した。

「使用人たちも一休みか?」

「ええ、町へ行った者以外は屋内でお茶を飲んでいますよ」

「せっかくだから、庭にラグを敷いてみんなで日光浴しないか?」

「ステキですね。今日は真夏の日差しをたっぷり浴びる日にしましょう」


大勢で地面に座って茶菓子を食べた。

暖かさが気持ちいいのか、モグラはへそ天で寝ている。


――――――――――


トーラティカの王城、フィリップ王子の部屋の床には、ガラクタ…あくまでも他人の目から見ればだが、それが大量に並べられていた。

「ほほお、これはまた特殊なコレクションですね」


高齢の従者がフェニックスの羽で作られたフェニックスのフィギュアを持ち上げる。

「ご覧ください、貴重なフェニックスの羽がふんだんに使われておりますよ」

「何だと!?フェニックスもどきニワトリの羽だとばかり…」

「どうしても見分けがつかないときは、こうすればよいのです」


従者は火魔法で火の玉を作り、フィギュアを焼く。

「そんなことしたら燃えてしまうだろ!貴重だと言っておきながら…!!!!」

「大丈夫です、ほら、焦げ目ひとつついていないでしょう」

「お、おお…!何故だ…!?」

「フェニックスは常に燃えています。羽がこの程度の火に焼かれるわけがないんですよ」

「なるほどなぁ…じゃあこっちは?」

「これは、こちらを眺めている時は4本足で、たまに手足を収納し、宙に浮いて回転するネコのオブジェです。エイシェント・レリクス・シリーズをまとめた本で見たことがありますよ。西の大陸のダンジョンで見つかった宝物だったかと記憶していますが…」


フィリップは興味を示す。

「で、これにはどんな価値があるんだ?」

「大変珍しく、取引するとしたら1億ゴールドはくだらないでしょうね」

「は?????????????」

「しかしまあ、レジナルド様、いえアリディンバリスの王家にそんな大金を動かせるほどの余裕はございませんでしょうから…」

「ま、まさか薄暗い方法で手に入れたんじゃあるまいな?」

「本人からお聞きになっては?まあ、好事家として名を馳せられておりましたので、様々な物品が集まってくるのでしょう」

「…」


気が重かった。

祖父の事をバカにされてつい強奪してしまったが、この事件が表沙汰になるか、アリディンバリスの王家にレジナルドが手紙で言いつければ、フィリップの行為は間違いなく問題になるだろう。

「爆弾を抱えている気分だ。こんなことすべきじゃなかった」

「やってしまったことは仕方がありません。あなたはこの国の王子なのですから、多少の狼藉は議会や宰相、国王様に揉み消していただけるでしょう」

「今、狼藉って言ったな?」

「あなたを落馬させたという事実だけでかなり重みがありますからね。レジナルド様の行動をさらに制限できる材料にもなり得たでしょう。しかし、議会で取り上げるには清廉潔白さが必要です。怒りのあまり、その場で過剰に財産を没収したとあれば、逆に自分で自分にケチをつけたようなものですよ」

「ううっ…怒りに身を任せてあんなことをすべきではなかった…少額の財産没収だけならば完璧な被害者の身でいられたのに…」


フィリップは自分の失敗に恥ずかしさを覚え、右こぶしを振り上げようとしたが、僅かに重みを感じた。

「…上級の光魔法が使える者は居ないか?右肩が重いんだ」

「ちょっとした悪霊でしょう。大方、この骨董品のどれかに憑りついていたに違いありません」


解像度の低い猫のような物体が宙に浮き、回転した。


――――――――――


「浄化することが出来ないだと!?何故だ!?」


魔法使いは興味深そうにフィリップ王子の肩を眺めた。

「最近、呪われたアイテムを手に入れませんでしたか?」

「…ここに大量にあるが」


部屋の一角に謎のオブジェ群がある。

魔法使いは原因を探り当てた。

「………この皿、これですね」

「呪われた皿なんてさっさと割ってしまえ!まったく、なんて品をトーラティカに持ち込んでくれたんだ…!」

「いえ、この霊魂はトーラティカ出身のようです。それにこの皿は純粋な皿ではなく、遺体の骨と血肉から作られたアイテムのようですね」

「怖っ」

「死骸を元にした召喚術はトーラティカ国内では禁止されておりますが、どこかの因習ビレッジで細々と続けられているのでしょう。まあ、どうせ山の中の謎集落とかの話ですから、王子様が気になさることはないですよ」

「と、とにかく私の肩を軽くしてくれ!皿なら似た品を作らせて、あのデブに返却する場合はそれを渡せばいい。とにかく、その皿を割るんだ!」

「王子様、この1枚の皿を割ったり、1つの悪霊を浄化したりすれば、10の地上にとどまった魂を相手にすることになります。”消せば増える”呪いのエンチャントが付与されています」

「そんなぁ…ならどうすればいいんだ?」

「簡単ですよ。古今東西、呪いは誰かに擦り付けるのがセオリーです」

「…」


ならば皿だけでも返してしまおうか、とも考えたが、笑顔で返却された皿を受け取るレジナルドのまん丸い顔が浮かんできて、フィリップは頭をブンブン振った。

「い、いや、いい…。一国の王子たるもの、呪いのひとつやふたつ平気だ!」


――――――――――


「レジナルド様は、もしかして回復魔法を使えるのではありませんか?」


馬番はレジナルドを厩舎に案内した。

「ご覧ください、もうかさぶたすら見えません。さすがに毛は生えていませんが、皮膚の切れた部分はすっかりくっついております」

「…おお!本当だなぁ」


発酵焙煎チョコレート号はレジナルドに尻を撫でられている。

うざいから触らないで欲しいという感じで尻尾がブンブン揺れた。

「もしかしたら、そうなのか?俺に回復魔法を使える力が…?」

「なぜ疑問形なのでしょう…」

「考えてもみなかったからだ。魔法が使える事に気付いたのすら最近なんだぞ」


レジナルドは屋敷に戻り、書斎へ入った。

引き出しから小さなナイフを取り出す。

「…」


腕をちょっとだけ切って、その上から手を当てた。

「…何ということだ、本当に傷が治っている!!!!」


レジナルドは色々な事を思い出していた。

「アリディンバリスの繁華街で騒ぎを起こしたり、あくどい商売をする店に乗り込んだ時、傷ついた従者たちを励ますと彼らの骨折や裂傷が回復していたが…あれは俺の魔法のためだったのか」


それと同時に反省の念も浮かんでくる。

「ああ、どうりで従者がバタバタと変わるはずだ。結局、俺に呆れながらもついてきてくれたのは第一従者のエイデンだけだった。彼らには申し訳ない事をしたな…俺の今の状況は、確かに俺がしてきた事への罰だ…」


自室に戻り、空っぽな棚やテーブルを眺めた。

「寂しいな。こんな気持ちになるのなら、飾らなければよかった」


部屋に使用人のビルとサイモンが入って来る。

「レジナルド様、お茶の時間ですよ。もうすぐマシュー様も来ます。それに嬉しいニュースがありますよ」

「何だ?」

サイモンがはにかんだ笑顔で報告する。

「雑貨屋の主人が木工職人と話をつけてくださって、ミニ馬車キットを増産してくださる事になりました!塗料などは大きな缶や瓶で販売するのではなく、小さな容器で販売するように考えてくださって」

「おおっ!それは間違いなく嬉しいニュースだ!ありがとうサイモン」

「まだあります、魔法道具屋が除湿冷房装置を沢山作ってくださいました。午後からカントリーハウスに設置しに来るようです」

「!!!」


レジナルドはサイモンとビルの手を取り、ブンブン振った。


――――――――――


「へえ!こんなにたくさんですか!?」


夕食の席にレジナルドが持ってきたノートには、レジナルドが所有している…と本人は思っている絵画、オブジェ、アクセサリーが書き連ねてあった。

「リストを作ってみた!俺の趣味の良さをこのリストを通して皆に伝えようと思う。そこで、トーラティカ語に直してほしいのだが…」

「いいでしょう。しかし、説明文はもっと細かく書かれてもよろしいのでは?」

「ああ、文章を書き慣れていなくて、説明文を書くのが難しいんだ」

「なら絵で表現するという方法もございますよ」


マシューは食後、自分の仕事部屋に戻り、色鉛筆を持ってきてレジナルドに手渡した。

「これはお前の道具だろ、貰ってもいいのか?」

「ご心配なく。色鉛筆を使う機会に恵まれませんでしたので、何なら欲しい人物を探していたぐらいですよ」

「…ありがとう」


レジナルドは自室に戻り、コレクションのリストにちょっとしたイラストを付け加える作業を始めた。


――――――――――


アリディンバリスの郊外。

「こんな危険な家に居られるか!タダで住めるって聞いたときは嬉しかったが、死の呪いがかけられた家なんてまっぴらごめんだ!」

「また仕事があったら呼んでくれボス。ここには住めないからな」


仲間たちが家を出て行く。

犯罪集団のボスは頭を抱えた。

シーツもかかっていないマットレスには死んだ仲間たちの遺体がそのままだ。

「クソっ、あのばあさん、やってくれたな…」


酒場に顔を出し、有名な魔法使いにカネを渡す。

「呪いの浄化?まあ、報酬がいいから乗るが、ただあまりに強力な怨念なら無理だぞ?」

強力な怨念、という単語に心当たりが無いわけではないボスは表情をひきつらせたが、それでも頼むしかない。

元古物屋にやってきた魔法使いは、さっそく死んだ人間の遺体を確認する。

「…こりゃ呪いじゃない、ただの毒だな。ほら、回復魔法で肌の色が戻っていくだろ」

「毒だって!?」

「食い物は?」

「いや、買ってきた普通の…食い物は絶対に汚染されていないぞ、みんなで同じ店の肉を食べてたんだ………待てよ?」


ボスは酒瓶を持ち上げる。

「俺たちは酒しか飲んでないが、あいつらは水も飲んでたな」

「井戸はどこだ?」


キッチンへ移動し、魔法使いは井戸の底に光魔法のライトを投げ込む。

「あんたみたいな汚い仕事を山ほど受けてきた魔法使いが、光魔法と回復魔法の名手というのも皮肉だよな」

「無駄口を叩いてる場合か…この水はダメだ。無色透明だが、光魔法を通して見ると邪悪な気配がする」

「罠か!クソっ、あのばあさん、呪いをかけたんじゃなくて水に何か仕掛けてたんだ…!」

「賢い事だ。この店をやってた盗品商のばあさんは、買った水を飲んでたんだろう。ああ、孫も居たか。山のようにデカくて強いことで有名な用心棒の孫だ。まあ、アイツならこの水ぐらい平気で飲みそうだが」


ボスは唸った。

「さっさと死体を埋めなきゃな。原因さえ判れば仲間の何人かは戻ってきてくれそうだ」

「埋めるって、土魔法が使えるのか?さっき庭を覗いたら、土魔法のアトモスフィアを感じたぞ。もう何体か埋まってんだろ?」

「ああ、なんだかんだ土魔法は便利だよ…まあ、俺は水魔法と光魔法も使えるんだが」

「3つの魔法適性!?お前貴族か?」

「ほっとけ」


魔法使いはため息をつきながら室内を見回す。

「チラッと見た感じでは低級なモンスターの霊しかいなかったな。呪いは感じられない。天井がキシキシ鳴ってるのは怖いが、それは建築上の問題だろうし…おっと、キッチンは立ち入り禁止にしておけよ?」

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