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人質生活36日目

アリディンバリスの王城。

臣下が国王に上申していた。

「アデレート第一王女様についてですが、教師たちから”最近あまり勉強に身が入っていないようだ”との報告が上がっております。以前は好んでいた法律、歴史の学習中にボーっとする様子が見られ、魔法の授業だけは熱心に受けられているようです」

「もう夏だ。暑いからな。部屋を冷やす魔法が使える使用人を傍に置かせるように」

「既に指示し、実行させております。問題はそれだけでなく、最近は食事をわずかしか取らなくなってしまったそうなのです」

「ああ、昨晩の食卓でも一口食べて部屋に戻っていたが」

「侍女からの話では、もっと痩せたいと仰っていられるようで…。しかしこのままの食事量では栄養失調になってしまう恐れがございます。厨房のシェフやコックは、下げられた皿を毎回確認しており…」

「年頃なのだろう。放っておけ」

「わかりました。では、続いてイザベラ第二王女様のお話です」


国王はため息をついた。

「レジナルドが居なくなってから、娘たちの悪い点が目に入るようになったな」

「…恐れながら。どうやら貴金属職人たちに酷く当たり、反抗した1名を投獄していたとのことです」

「…何だと?」


あまりに意味不明な報告で、国王は固まってしまった。

「聞き間違いか?ジュエリー職人を投獄?何故そんな事を?」

「侍女の報告によりますと…」


指輪を作らせる、ただそれだけのために裁判なしで牢屋に数日間閉じ込めたのだという。

「そいつは今どこにいる?国王が直接謝罪の意を表すと伝えろ!ここに連れて来てくれ!」

「それが…職人は工房から居なくなりました」

「!?」

「正確には、職人”たち”です」


国王は玉座から立ち上がる。


――――――――――


トーラティカのカントリーハウス。

「おはよう。気持ちのいい朝とは言えないがな」


曇天で薄暗く、こんな日は朝から魔法道具のランプが部屋に灯りをともしている。

マシューはソワソワした感じの声で返した。

「そ、そうですね…」


明日はいよいよ王子が直接、レジナルドの部屋の監査に来る。

そう思うと不安だ。

一方で、それを知らないレジナルドはいつものように笑っている。

「乗馬の練習がある午前中だけ雨が降らないでいてくれたらそれでいい」


マシューはぎこちなく微笑みを返した。

レジナルドが好物を見つけてフォークをのばす。

「アコーディオンブタのハムだ!」


バチッ!と音がして火花が飛び散った。

「うおっ!痛っ!!」

「口に電気リンゴを咥えさせて加熱したのでしょう。静電気が帯電しているのでお気を付けください」

「言うのが遅いぞ!!ハァ…食べるのは一切れだけにしておくか…」

「ところで、今日の分の新聞の切り抜きです」

「おお!朝イチで届けてくれたんだな!どれどれ…”砂漠にある三角錐の墓を守る聖獣 なぞなぞ本を出版”…う~ん、海外のオモシロニュース枠じゃないか!せめてトーラティカ国内のニュースにしてくれ!!」

「これなら地方記事の方がまだマシですね笑」

「笑い事じゃない!」


――――――――――


アリディンバリス。

国王は自らの足でジュエリー工房を訪れた。

第二王女のせいで貴金属職人が一人も居ない。

「…これは、どういう事だ!」


臣下のひとりが暗い声色で話す。

「ここで働いていたのは、国内の貴金属加工工房から選ばれた一流の職人たちでした。彼ら彼女らは、元所属していた工房など帰る場所がございますし、王宮の工房で働いていたとあれば再就職も引く手あまたでしょう」

「つまり…辞めたという事か?」


臣下は大量の封筒を見せた。

全てに”退職願”と書かれている。

国王の頭に血が上っていく。

高まる感情そのままに命令した。

「全員を捕えて、裁判にかけろ!!」


――――――――――


乗馬インストラクターのセーラはにっこり笑いながら提案した。

「障害競技にご興味はありませんか?」

「うわ~~~っ!!」


レジナルドは頭を抱える。

「バーをジャンプさせるヤツだろ…興味は無いぞ!!!!」

「ではさっそく、地上横木ちじょうおうぼくから始めましょう」

「あっ、無いのは拒否権か…」


セーラは馬係を呼び、カラフルなバーを地面に置かせた。

「障害競技で一番重要なのは、障害を跨ぐことを恐れない馬を使うことです」

「ほう」

「臆病すぎる馬は、落ちている枝も避けますからね。騎乗者の指示の通りに動くのは大前提として、見慣れないモノにも向かっていく勇気が必要なのです」

「発酵焙煎チョコレート号は軍馬だったな?」

「ええ。もう引退していますが、度胸はバッチリですよ。戦場で死体や武器を踏みつけたり、飛び越えたりするのをためらうような馬では困りますからね」

「…従軍経験が?」

「ホホホ。アリディンバリスとの戦争には参加しておりませんから、ご安心ください」

「そうか」

「といいますか、互いの国土に攻撃していたとはいえ、アリディンバリスが独立した最初の数年を除き、現在では無人の山中に魔法を撃ち合うだけのダラダラとした戦争でしたから。どの馬も人も、残虐行為には加担しておりませんでしょう」

「一日数回、威嚇魔法射撃をするためだけに山中に住まわされていた兵士の身になると…王族として申し訳なく思うな。トーラティカの先王が戦争中止の英断をしてくれなければ、今も国境を挟んでダラダラと戦争が続いていた訳か…」

「…閑話休題、さぁ、馬を発進させてください」

「ん?どうやってバーを跨がせる指示を出すんだ?」

「馬には目がついておりますから何の指示もいりません。常歩なみあし速歩はやあしで、そのまま歩かせてください」


発酵焙煎チョコレート号は、特に問題なく地上横木を”ヒョイ”と跨いで直進する。

「う~~~~ん!味気あじけないな!とは言え2本足より4本足でモノを跨ぐ方が複雑な気もするが」

「乗り手も緊張感を持って挑むことが大切ですよ!さあ、逆回りもしましょう!」


そうして、地上横木が2本、3本と増やされる。

「なるほど、これは跨ぐ馬側で歩度ほどを詰めたり伸ばしたりしてもらわないとな」

「何をおっしゃいます、乗り手も指示を出しませんとね。詰める時はゆっくりと手綱を引いて、伸ばす時は逆に手綱を緩めてみてください」

「むむう…」


――――――――――


アリディンバリスの使者は、王都にある劇場の支配人から手紙を受け取り、ぼちぼち町から出るとこまで来ていた。

「(………)」


背後に視線を感じる。

それなりに人馬、モンスターの往来もある道だが、いつもと違う何かを覚えた。

「(つけられている、か?)」


馬の足を速める。

彼の後をつけていた兵士は、慌てて使者を追いかけだす。

「(…!)」


後ろを振り向くまでも無く、かなり遠くから自分の馬と同じぐらいの歩様の振動と音が届く。

「(第六感もバカに出来ないな!)」


道には他の馬や引き車、モンスターも居るので、使者はそこまでのスピードを出せない。

それが逆に好都合だった。

手綱を素早く引いて急停止させ、ひらりと馬体を回転させる。

馬が大きくいな鳴いた。

見つかった兵士は大慌てだ。

「!!!!」

「お前、何故私をつけている!答えろ!!」

「…」

「私は王家からの手紙を運ぶ使者だ。その後をつけているという事は、それなりの理由があるんだろうな?!」

「た、ただ同じ方向に用があっただけだ!勘違いするな!」

「なら先に行け。私は後から歩く」

「ぐっ…」


兵士は無意味に隣町まで行き、そこで使者と別れざるおえなかった。


――――――――――


レジナルドはエントランスにある体重計に、久々に乗っていた。

「うーん…155kg????」


前回の計測では160kgだったので、さらに5kgも痩せたことになる。

「…モグラの体重がマイナス10kgだったわけじゃないのか…俺は…俺は痩せつつある…」


現状を把握したレジナルドは、マシューを呼んだ。

「マシュー、絶望だ。俺は痩せつつある」

「そうですね。まだひと月ほどしか一緒に暮らしていませんが、確かにお会いした時よりも痩せたような気がします」

「何故だ!?」

「暴飲暴食を避け、乗馬で適度に運動されているからでは?」

「…」

「あと、朝に起きて夜はきちんと眠っているのも体にいいと思いますし」

「…」

「お酒をがぶ飲みされていないのも…」

「痩せていると貧相じゃないか?」

「は?」

「俺は痩せているとイマイチだが、太れば見栄えが良くなるとお兄さまに言われてきた。なるべくふくよかな状態を維持したいんだ!」

「いえ、それは間違っていると思いますよ」

「どうしてだ!?お兄さまが間違っていると言うのか!?」

「肖像画でしかお見かけしたことはございませんが、第一王子のブレンダン様も、第二王子のレジナルド様も、現国王のお父さまにお顔がそっくりではありませんか」

「ああ。でも、それが何だ?」

「アリディンバリスの国王様も第一王子様も普通体型ですが、肖像画からは凛々しさや頼もしさ、王族らしい風格が伝わってきたのを覚えています。レジナルド様も同じお顔なのですから、別に痩せていても貧相ではないでしょう。むしろ…太っていては見栄えが悪いですよ?」

「なん…だと…?」

「ちょっとぽっちゃりぐらいならいいでしょうが、正直、今のレジナルド様ではまだ太り過ぎです」

「えっ?155kgなのに太り過ぎ?」

「そ、そうでしょう…一般的には」


レジナルドは自分の足元を見た。

実際には太り過ぎていて、腹が邪魔で足元が見えない。

「…一般的には?」

「デブです」

「正直者め!失礼だろ!?通訳のクセに語彙が少ないぞ!」

「肥満体です」

「頼むからデブって言ってくれ?」


――――――――――


アリディンバリス、王城。

兵士が頭を下げていた。

第一王子は呆れたような声を出す。

「使者に気付かれた、だと?」

「…申し訳ございません」

「お前はもっと仕事ができるヤツだと思っていたのだが」

「…」

「こんな事なら初めから飛行型のモンスターで追わせるべきだった…クソっ!」

「今から追いかけて逮捕しますか?」

「いや、国境沿いで待って”戻ってきたら”捕まえろ。まあ、怪しまれている事に気付いたのなら、彼はもう帰ってこないかも知れないがな」

「そ、そのまま国外逃亡してしまう可能性もあるでしょうか?」

「充分に考えられる。とにかく、10名程度を連れていけ。帰って来たなら即、捕まえろ」

「なぜ追わないのですか?」

「逃がして泳がせたほうが良いかも知れない。黒幕が誰なのかはわからないが、何らかのアクションは取るだろうからな。あいつ自身を取り調べるより、そちらのほうが得られる情報が多くなりそうだ。プロのスパイなら折檻しても何も吐かないだろうし…」

「了解しました!」


兵士が慌てて去っていくのを見て、第一王子と従者はため息をついた。

「尾行も満足にできませんとは…我が国にもスパイ養成所が必要がございますね」

「いや、馬での尾行ほど難しい事はない。この命令を出した私が間違っていたのだろう」

「王子様…」


その時。

部屋の扉をノックして、従者が入ってきた。

「ブレンダン様のお耳に入れておきたい事がございます」


第二王女イザベラが勝手に城で働く職人を投獄し、ジュエリー職人全員が退職したこと。

それを知った国王が激昂し、職人を追わせている事を王子は知った。

「なぜそんな事態に!?」


――――――――――


勉強をする気が起きないレジナルドは、自室のベッドに転がりモグラと会話していた。

土魔法を使うと、地面に足をつけて生きている動物と会話できる。

ちなみに羽が生えている動物は風魔法、海に住んでいる生物には水魔法を使うと会話できる。

ドラゴンなど一部のモンスターと会話するのには火魔法が必要だ。

「なあ…俺って太っていると思うか?」


モグラは”もっと円筒形えんとうけいの体型になった方がいい”と返事をしてきた。

「モグラはモグラ基準しか持ち合わせていないから、聞くだけ無駄かぁ…」


モグラは”アザラシは素晴らしい体型だ”と話す。

「それって基準が円筒形かどうかだろ?別にトンネルを通って生活してるわけじゃないし」


考えても仕方ないので、レジナルドは体を起こして執事を探した。


――――――――――


アリディンバリス。

第一王子は下の妹、イザベラの部屋を訪れていた。

「今からでもお父さまに謝罪し、職人たちを捕えるのを中止していただけるよう説得してみないか?私も一緒に行こう」

「何故!?お父さまが不敬な職人たちを逮捕させる命令を下されたのは、王家の名誉を守るためにも当然のことでしょ!」

「いいか…?彼らが捕えられて裁判にかけられれば、決まりとして元々働いていた職場や、家族に知らせがいく。王城で働かせていた職人たちは、みな一流の技術を持った人間だ…コネクションも広いだろう。知人や友人、家族、職場を通じてこの話が広がるんだ。理不尽な仕事を強いられ、抗議のために退職しただけの者を逮捕するなんて、我ら王家の評判が落ちるとは思わないのか?」

「…許可なく仕事を辞めていいはずがないでしょう?」

「普通ならな。しかし、お前は何をした?」

「…下のお兄さまが持っていた指輪と同じものを作らせただけなのに」


王子はため息をつきながら頭を左右に振った。

「いいか?どの業界の職人も、上級になればなるほど他人とそっくりなものを作れという依頼は断る」

「わかってる!私が恥知らずだとおっしゃりたいのでしょう?でも、下のお兄さまに”同じものを作らせて良いでしょうか?”といちいち許可を取るのは、私のプライドが傷つくの!」

「気持ちは理解できる。が、職人には職人のやり方があるんだ。特に装飾品は、作らせた客との間で、他人に作り方を公開しないという守秘義務が…」

「だからわかってるって!知識はあるんだから!」

「じゃあどうして」

「…指輪が欲しかっただけなのに。まさか、ちょっと脅して作らせただけで、こんな大ごとになるなんて…」

「私も一緒にお父さまの所へ行く。今からでも遅くない、謝罪しよう」

「…」

「長期的に考えろ。私たちだけが王族じゃないんだ。過去の先祖も、私たちの子供の代も笑われることになるんだぞ?」

「…嫌」


王子の説得は失敗に終わった。

仕方なく、自分だけでもと国王の下へ向かう。


――――――――――


カチャカチャと安っぽい音がする。

レジナルドは、執事の部屋でバタフライナイフのアクションの練習をしていた。

「空中に投げて、キャッチしてからまたブレードを出します」

「おお!カッコいいぞ!!」


完全に良くない道に逸れつつある。

「なぁ…俺の体型についてだが」


ハインリヒは気まずそうな顔をした。

「お前は、俺が太っていると思うか?痩せたほうが良いだろうか?」

「…健康は何より大切ですよ」

「そういう遠回しな物言いはよせ」

「では。ダイエットしましょう」

「しかしな。お兄さまは、俺が太っていると王族らしいと褒めてくれたんだ」

「ああ、それは昔の話です」

「何?」


バタフライナイフをカチャカチャ回す手を止める。

「トーラティカでも同じです。レジナルド様のおじい様のそのまたおじい様ぐらいの時代には、王族はどっしりと太っているのが美しさの基準だったんです。なにせ、貴族や王族など、税を徴収している層しか太る事ができませんでしたからね。昔の肖像画に書かれている貴族は、みな丸く太っているでしょう?」

「ああ…」

「でもそれは昔の話です。もちろん、健康的にぽっちゃりしている分には構わないでしょうが、昔のように朝から夜までずっと食べて飲んででは…長生きできるものもできませんよ。もっと昔になると、モルリヴァールでは食べる喜びを何度でも味わうために、わざわざ吐いてまで食事していたそうで。でも今は、食事以外に楽しい娯楽が沢山あります。位が高い人間だからと言って、無理に食べなくてもよろしいのでは?」

「そうか、それは気付かなかった…大昔の王たちの肖像画に囲まれて暮らしてきたから、無意識のうちに太っている事が美徳のように刷り込まれていた可能性があるな?」

「その通りです。むしろ、歴史の勉強に熱心で、偉大な先王たちを尊敬しているからこそ起こった勘違いとも言えるんじゃないですか?レジナルド様のお兄さまは特に優しく、レジナルド様に王族らしい恰好になってもらいたいと、思いやりの心から太れとアドバイスされたのかも知れません…。しかし現代では、自身の欲望を律して、体型に気を付けている方が賢い人間として評価されるかと」

「そ、そうか…なら前向きにダイエットしてみようかな?」

「ええ」

「服に着痩せのエンチャントを付与できる魔法使いは居ないか?」


ハインリヒはバタフライナイフを落とした。

「もっと本質的に行きましょう!わらや木で出来た家では呼吸量が大きいオオカミに吹き飛ばされてしまうというのが普通の考えです。ハリボテはすぐに崩れてしまうのですよ」

「そんな!俺はカロリーを愛し、カロリーに愛されてきたと言うのに…」

「地獄行きの共依存ですね?」

「特に、バターは俺の体重増加に最も献身的だった…」

「肥満への道は油脂で舗装されていると言いますが、本当だったんですね」

「そういえばアスファルトも油分だな?食べられるだろうか?」

「原油をそんな目で見つめないでください」


――――――――――


アリディンバリスの王城では、第一王子ブレンダンと、父である国王が話をしていた。

「今からでもジュエリー職人の逮捕を取り消せないでしょうか。どうかお願いします」

「…」

国王はヒゲを撫で、臣下に”職人たちを追わせることを中止しろ”と命令を出した。

正直、あの場で怒って退職した者を捕えろと命令したことを後悔していたが、自分の指示が間違っていたとは言えないので、王子がそう懇願してくれたことは渡りに船だった。

「ありがとうございます。これで王家の名誉に傷がつくことが避けられるでしょう」

「…うむ。お前の考えをたまには尊重してやらないとな」


国王は内心ほっと胸をなでおろした。

王子が感謝を述べた後、言葉を続ける。

「ところで、イザベラの事ですが」

「ああ」

「彼女の違法行為を咎められるように侍女たちを再教育しましょう。その上で、あまりわがままにするようなら、すこし強めにしかった方が良いかも知れません」

「…しかしな。まだ14だ。一番身勝手な頃だろう」

「それでも王族としての模範的な振る舞いをしなければ。罪のない者を投獄し、所有者の許可なしに模造品のジュエリーを作らせたのです!あの愚かなレジナルドでさえそんな事はしませんでした。せいぜい泣きわめいてモノに当たり散らすぐらいが関の山だったと」

「思い返してみれば確かにな。要求が通らなければ従者達に大声で叫んだりもして、うんざりだと思っていたが…それでも裁判なしで人を投獄するような真似はしなかった」

「彼女を怒らせないように、文章で伝えてはいかがでしょうか」

「お前の説得に不機嫌になるのだから、私の小言なんか読みたくないに決まっている。従者に行かせることにしよう」

「…」


王子は了承して部屋を出た。


――――――――――


その日の夜。

飾ったオブジェや骨董品を眺めたり触ったりキスしたりした後、レジナルドはベッドに入った。

足元ではモグラも丸くなって、一緒に眠る。

そして夢を見た。


どこまでも続く空間に、大きな石壁が反り立っている。

「…?」

目線を上げていくと、5mはあろうかという巨大な人だと気付き、うわっ!と声を出して尻もちをついた。

「何を驚く。私の彫像を見たことがないとは言わせないぞ」

「あ、ああ…あわわ…!」


全身を、頭からつま先まで長い布で覆っている女性は、口元と手以外のどこも露出しておらず、神聖な雰囲気だ。

両肩には聖獣のブタが乗っている。

「て、転生させ女神様?」

「そうだ。モグラについて話がある」

「俺は馬車に引かれて死んでしまったのだろう?魔法のない世界へ連れていかれ、そこで無双するというわけだ?任せておけ!まずは衛生観念のない世界に手洗いを普及させ、石鹸を発明して…ちょっと待ってくれ、石鹸って何から作られているんだ?」

「いや、モグラについて話がある」

「えっ…」


レジナルドの妄想は石鹸の泡のようにパチンと弾けた。

「お前が育てているモグラは特別な存在だ」

「えっ…」

「この地面の下で、イースト・モグラとウエスト・モグラの縄張り争いが繰り広げられている。いいか、お前はイースト・モグラ、ウエスト・モグラのどちらの勢力にも加担してはならない」


レジナルドはゴクッと息をのんだ。

「えっと…さすがにその一線を超えようと考えたことはないが?動物にも動物の暮らしがあるだろうし、生態系をめちゃくちゃにして喜ぶほど混乱に飢えてはいない。というか俺の人生は混乱で腹いっぱいだ!」

転生させ女神はそれを聞いて満足そうに頷いた。

「私は今、第3の勢力を育てている。2つの大きな勢力がぶつかり合っているところにダークホースをぶつけようと考えているのだ!!!!」

「…は?」

「三つどもえが一番見ていて面白いからな?わかるだろ?」

「…は?介入してはならないと自分で言っておきながら…」

「私はこの世界を創造した女神だからOK」

「酷すぎ」


そこで目が覚めた。

「………!!」


慌てて足元で寝ているモグラを起こす。

「おい!俺は夢の中で転生させ女神と会話したぞ!お前が特別な存在ってどういうことだ!?」

魔法によって何らかの制限がかけられているらしく、詳しい素性や来歴などは話せないようだった。しかし特別な存在であることに間違いはないらしい。


レジナルドはバスルームに行った後、再びベッドに潜った。

足元に居たモグラを上に引っ張ってきて、ブランケットをかけて添い寝する。

「特別な存在ということは、だ。もしかして、お前、王族だったりするのか?」

「…」

「誰に魔法をかけられたのか知らないが、会話制限は辛そうだな。…というかモグラも魔法を使えるのか?まあいい。明日、お前専用のベッドを使用人に作らせよう………」


レジナルドは眠りに落ちていく。

モグラは過去を思い出して目…出来立てのブラックホールのように小さな黒い点から、涙をこぼした。

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