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人質生活35日目

アリディンバリスから”のがあり”を上演すべく、演者やメイク、衣装係に通訳など、40名が出発した。

馬車で隊列を組み、まったりと隣国を目指す。

それを見送るひとりの老人…彼はトーラティカの前国王だ。

「皆によろしくな~~~!!!!感想は400文字以上で取りまとめてきてくれ!!」


手を振り見送る。

演者たちも馬車から腕を出し、手を振り返した。


――――――――――


「レジナルド様は今回、城下町にある劇場の支配人にお手紙を出されました。こちらは個人的な内容だそうなので、王家や議会を介さず直接お渡しください」


そう言われ手紙を渡されたが、アリディンバリスの使者は迷っていた。

トーラティカ側から渡された手紙はすべて一度城に持ってくるように言われていたからだ。

しかし。

「どうせ演劇が懐かしいとか、お気に入りの演者が恋しいとか、そういう下らない内容だろう…」


結局、盗んだ指輪も高く売れず、少しやさぐれていた使者は仕事の量を減らそうと考えた。

「直接持って行くか」


王城のかなり手前にある劇場に寄り、支配人を呼ばせる。

「これはトーラティカにいらっしゃるレジナルド第二王子様からのお手紙だ。明日の朝、またここへ寄る。返事を書きたい場合はそれまでに用意しておくように」

「ははっ!」

支配人は頭を下げて手紙を受け取った。

使者の馬を見送り、慌てて封を開ける。

「何だって!?レジナルド様から………!?」


劇の内容が隣国トーラティカで問題視されているので、国同士の揉め事に発展する前に脚本を変えるように、という内容の手紙だった。

「そ、そんな…!かなり客入りも良くて、この前は国王や臣下のみなさままで見に来てくれたって言うのに…!!」


劇場の支配人は慌てて脚本家を呼んだ。

「どうする?」

「まあ、正直…トーラティカを悪役にしていることは事実で、言い逃れできません。このまま上演を続ければ、我々は牢屋行きでしょう」

「そうか、そうだな。潮時か…」

支配人はガッカリしたように、腕を組んだり腰に当てたりを繰り返している。

脚本家は封筒にまだ手紙が入っているのを見つけた。

「しかし、まだ救いはあるようです」

「…!」


そこには、隣国で嫌がらせを受けるのではなく、モグラを率いて地下帝国を建設するという別のプロットが書かれていた。

「”日中は大人しく人質として母国のために過ごす。しかし陽が落ちれば、地下でモグラ文明の発展に尽力するという主人公で…”」

「う~ん…」

「生産系と領地経営は舞台化で一番映えないジャンルですよ…」

「アイディアはあるか?」

「ミュージカル風にしましょうか?いい感じの音楽と歌唱とダンスでごまかせば何とかなります」

「俳優にモグラの着ぐるみを着せて踊らせるかぁ」

「案外イケるかも知れませんね」


とりあえず、現在午前中に上演されている”ぽっちゃり王子~財力カンストで自重してと言われてももう遅い!暗黒と光明のパラドックス最強神魔法の使い手に転生!?妖精999人に愛されチート生産スローライフ実況~”はそのままに。

午後からの”ふとっちょ王子、隣国で虐げられてもう限界!まさかの女神に愛されわがままボディ、ざまあする気なんて無かったのですが!?”は、2週間後が最終興行になるとポスターを掲示した。

「さて、2週間でどこまで準備できるかだ」

「そういえば午後から、役者のオーディションを受けたいって人が来る予定ですね…」


――――――――――


「”マンドラゴラの収穫はじまる。葉に紐を括りつけ、悲鳴が聞こえない距離から引っ張り、根茎を土から引き抜く。引き抜いた際は逃走に注意”」


新聞の切り抜きを見て、レジナルドは満足そうだ。

一面に載るような重大ニュースで無い事は、もはや気にしていない。

「マンドラゴラの収穫かぁ。夏真っ盛りだな!」


マシューは紅茶を飲みながら話す。

「ご存じですか?マンドラゴラはナス科の植物ですから、トマトやエッグプラントとの連作を避けなければならないんですよ。意外と繊細な野菜なんです」

「へえ、植えたことがあるのか?…貧乏貴族っぽいとは思っていたが、屋敷の裏で畑を耕すような困窮ぐあいだったんだな…」

「違いますよ!家族の趣味の園芸を手伝っていただけです!!」


マシューは咳払いをして続けた。

「引き抜いた後は走り回って逃げるので、飼っていた犬の遊び相手にもなりましたよ。懐かしいです」

「叫び声をうっかり聞いて気絶しなかったのか?」

「耳当てをつけるんですよ。コットンキャンディ花をたっぷり使ったクッションがついた耳当てをつければ、多少の叫び声はくぐもって聞こえるので気絶まではしません」

「おお!賢いな」

「農家はたくさんのマンドラゴラに紐を括りつけて、一気に引っ張るそうです。すると、お互いの叫び声でマンドラゴラが気絶するので、逃走固体も少なくて済むらしいですね」

「やっぱり本業でやってる人たちの知恵は違うなぁ~!」


感心しながら席を立ち、乗馬の練習に向かった。


――――――――――


封蝋に王家の紋章を押す道具、シーリングスタンプ。

それを複製したという悪事がバレていることを知らない使者は門をくぐり、アリディンバリスの王城を歩く。

心なしか、すれ違う従者や使用人たちの視線が、自分に向けられているような気分になる。

「(…?)」


いつものようにエイデンの下へ駆けつけた。

「レジナルド様からのお手紙をお預かりしております」

「ご苦労さまです!さっそくブレンダン様に報告いたしますので、先にレジナルド様の部屋で待機していて下さい」

「はい」


なんとなく嫌な予感がして、レジナルドの部屋に行く前に自室へ戻る。

盗難防止センサーの魔法道具を魔力で停止させてから引き出しを開けると、中にはちゃんと複製シーリングスタンプが入っていた。

「(…不安になり過ぎだな。もっと正々堂々振舞わないと、逆に怪しまれることになるぞ)」


使者は第一王子とエイデンを待ち、3人が揃うと早速手紙が開封された。

封蝋を砕き、使者が手紙を読み上げる。

「”指輪はこちらの手元にあった。荷物の中に混ざって持ってきていた。今後、荷物を送ってくれとの要求はしないようにする”」

「…!」


王子はこぶしをグッと握った。

「ほらな!弟はうっかり者なんだ。指輪を持っていて、それを忘れていた。私の推理は大当たりだ!イミテーションを作らせようと、アンダーソン宝石店に持って行かせたことを忘れてたんだな」


エイデンは別の意味で驚いていた。

彼は封筒にコットンキャンディ花が埋め込まれていないリングを入れたので、それをレジナルドが受け取った上で、このような文章を送り返して来たと思っている。

「しっかりと手紙の内容にご納得していただけたようですね。これ以上要求しないでくれというメッセージを理解し、さらに我々に気を使わせないように、このような文章で返信してくださったのです…あのワガママ放題が?やはりレジナルド様は死んでいて、トーラティカ側の影武者のような人間が人質を演じている可能性はありませんか?」


さすがの第一王子もちょっと引っかかった。

「失礼だな?」

「…申し訳ございません」


使者も頷いた。

「いえ、失礼ですが、てっきり文句を書いて返信されるかと思っていました。”指輪はこちらの手元にあった。もう荷物を送ってくれと要求しない”とは、ずいぶん物分かりが良い上に、気遣いまでしている訳です。ご本人が返事を書かれたかどうか怪しいですね」


そんな使者を、王子はぎこちない微笑みで見つめていた。

「(…こいつは王家の紋章のシーリングスタンプを偽装したわけだが…よくも堂々としていられるな。さっさと尻尾を出せ。捕えてボコボコにしてやる…)」


昨日の騒ぎを知らされていないエイデンは、使者に同意する。

「レジナルド様も、人質として隣国へ渡られ…成長する機会に恵まれたのでしょう。ブレンダン様、返信はいかがいたしましょう?」

「…そうだな。ああ、朝にウチの演者たちがトーラティカに向けて出発したんじゃなかったか?それを書けばいいだろう。確か、トーラティカの先王がわざわざ”アリディンバリスの第二王子様にもご観覧していただけるように手配しろ”と短い手紙を託したはずだ」

「いえ!結局、劇にレジナルド様をお呼びするかしないかは、向こうの王族や王国議会の決定にかかっているはずです。無駄に期待させるのは可哀想ですよ」

「そうか…なら、無難に季節の挨拶をモリモリにした返信にしよう」


ガバ推理が本物となったと思い込んでいる王子は、めちゃくちゃ喜んでいた。

エイデンはその場で手紙を書きあげ、使者に渡す。

使者は手紙をしっかりと懐に入れた。

「では、取って返してトーラティカにお手紙を届けます」


第一王子は少し引きつった笑顔で見送った。

「…ああ。いつものように頼んだぞ」


使者は部屋を出た。

その使者が廊下を歩き、角を曲がれば、隠れて待機していた兵士も顔を出す。

王子がアイコンタクトを取ると兵士は頭を小さく下げて反応した。

交代交代に使者を見張らせ、追わせる計画だ。

全てが白日の下に晒されるだろうと王子は胸を張った。

「(誰が裏に居るのか、必ず突き止めてやる!)」


――――――――――


乗馬の練習前。

「セーラ!カッコいいものを見せてやろう!」

レジナルドはふところからバタフライナイフを取り出し、カチャカチャカチャッ!とフリップさせて、刃を見せた。


「あら、もうイキって可愛らしい歳でもありませんのに」

「違う!刃物を取り扱う練習だ!」

「なろう小説でバタフライナイフはあまりお見かけしませんよ。せいぜい町のゴロツキが使う描写が思い浮かぶぐらいです」

「それは俺も同感だが…ただやはり、人質が剣を持たせてくれとせがむのも、こう、図々しい気がしてな?」

「なるほど。しかし、木剣での練習ぐらいは許可していただけるかと」

「いいや、もう俺はバタフライナイフの達人になると決めたんだ!ちょっとだけアクションも上手くなってきたし、まだ続けるぞ」

「何にせよ継続は良い事ですね。まあ、そのカナブンみたいにビカビカぎらついている塗装はどうかと思いますが…」

「なんでだ!?カッコいいだろ!!あと暗闇で光る蓄光素材のバタフライナイフもあるぞ?」

「危険だから規制するのではなく、ダサすぎるから規制したいですね?」

「グリップが連続したドクロになってるバタフライナイフを見せてやろう。どうだ?」

「これがカッコいい世界線になったら私は内臓を体外に晒して皮膚を内側に収納して暮らしますよ」

「皮膚の表面積は結構デカいから、折り紙センスが試されそうだな」


――――――――――


アリディンバリス。

怪しい商人…今は旅の占い師と名乗っている。

彼と共に、古物屋の孫のロジャーが劇場に来ていた。

「おお、役者のオーディションを受けたいというのは…キミか?」


劇場の支配人は感動していた。

「なんて体型だ…!!」

「や、やっぱり太り過ぎですか?」

「いいや!!今!我々が求めている役者そのものだ!早速だが、この短い文章を読んでくれ」

「はい…」


ロジャーはじっくりとセリフを読み、演じるキャラクターの特徴をイメージしていく。

「”わがまま、大声で文句を言う、子供っぽく、身勝手”ですか…」

「ああ!とびきりの暴君、史上最低のバカ王子とでも言おうか」

「…わかりました。では!」


古物屋の孫は最高の演技を見せた。

付けてもいないスポットライトが彼を照らし、自然と周囲の明度が下がる。

劇場の支配人は感動し、地面に膝をついた。

「こ、こんな逸材が埋もれていたとは…!!!!」


――――――――――


「これです、レジナルド様…」


使用人が白い皿を見せた。

不自然なまでに軽く、薄く、丈夫そうな皿だ。

「…いくらでも払うぞ。どれだけ欲しい?」


使用人は自分の祖先の遺体を黒魔術で皿にしたものをしげしげと眺める。

「今のレジナルド様は自由にお金を使えないでしょう?」

「まあ…そうだが…」

「無償で差し上げますよ」

「そんな!何かと交換させてくれ。例えば…ちょっと待っていろ。それ相応の品と交換しないと、俺の気が済まない」


レジナルドは応接セットがある部屋から寝室へ行き、ベッドの下にあるチェストを引っ張り出した。

「レジナルド様~?」

「うわっ!覗くな!!」

「それ、大したものは入ってないから勝手に触るなって言いつけていたチェストじゃないですか」

「ああそうだ…」

「結局何が入っているんですか?」


使用人はチェストを覗き込む。

「ステキな雑貨!」

「雑貨…雑貨って…」

「アリディンバリスから持ってこられたのなら、飾ればよいじゃないですか」

「貴重な品ばかりだ。宝と言っていい。誰彼触れられては困るんだ」

「なるほど。でも、宝なら…飾らないのは勿体ないですよ」

「何っ!?だ、だって、盗まれるかもしれないだろ!!」

「でも、素晴らしい雑貨なら飾っておいた方が雑貨も喜ぶでしょう?」

「だから雑貨じゃない!」


熱心な説得もあり、レジナルドは宝物なら飾った方がいいという言葉に納得した。

使用人と共に、部屋の棚やベッドの枕元に、骨董品やオブジェを飾っていく。

「ふぅ!かなり点数がありましたから大変でしたが、やっぱり飾った方がいいですね。お気に入りの品なのでしょう?」

「…ああ」


寝る前にこっそり見るより、飾っておいていつでも眺められる方がずっといい。

それに。

「”俺の部屋”に、なったな」

「?」

「やっと俺の部屋になった。好きなものに囲まれていると気分が良い」

「それは何よりです」

「実際のところ、トーラティカに来るのは嫌だった。でも、こうして、自分で部屋を飾ってみると…もう、ここで暮らすしかないって決心がつくな」

「気持ちよくお住まいできるように、私たち使用人も尽力します。そして…」


白い皿が差し出される。

「これも仲間に入れていただけませんか?私が持っているより、レジナルド様のコレクションに加えていただける方が誇らしいです。名誉をいただけるなら、モノやおカネをいただくよりも嬉しいので」

「…ありがとう。皿立てを探さないとな」


使用人は恥ずかしそうに照れた。

「肩の荷が降りたように感じます。私が生まれ育った因習ビレッジでは、どの家にも寸分たがわず同じ皿が沢山あって嫌だったんですよ。でもこれで、やっと故郷との縁を切ることが出来ます。皿の所有者が移動した今、私の祖先の霊はレジナルド様の右肩に乗っています」

「原材料は人体、もしくはパンとワインか」

「詳しく調べるとケイ素だそうです」

「なるほど…ところでなんだか右肩が重いな?」

「ご安心ください。魂の重さは21gしかございませんから」

「ならそのうち慣れるか。とにかく、貴重な品を本当にありがとう!」


――――――――――


アリディンバリスの王都のはずれにある古物屋。

今日は休みの看板が出ている。

「………ああっ!!!!何てことだ!!!!信じられないよ…!!!!」


今まで言いなりだった気の弱い孫が、急に”役者のオーディションを受けてくる”と言って店を飛び出してしまったのだ。

老婆は力の強い孫を用心棒にしていたので、彼が居なければ店を開ける事はためらわれる。

「どうして急に…!あの子が演劇に興味があるなんて知らなかった!一体誰の入れ知恵だ!!」


警戒心の強い老婆は、食料品や日用品など、生活に必要な物品さえ近所の店に配達させ、自分が店から離れる事は決してなかった。

また、孫にも同じ生活をさせ、半ば軟禁状態だったのだが…。

実際は店主が寝入った際に、孫は店から抜け出していたのだ。

夜の町を歩き回り、酒を飲んで他の酔っぱらいと話したり、何度も劇場へ足を運び舞台を見ていた。

「クソっ…あの子、帰ってきたらタダじゃ置かないんだから…!!」


孫の反抗にうろたえる店主は、この商売からさっさと足を洗って、早く田舎に引っ越してしまおうと考えた。


――――――――――


レジナルドはエントランスに大きな茶色いホコリを見つけた。

「掃除が行き届いていないな。どれどれ、俺が手伝ってやるか…」


埃をつまみ上げると、モグラだった。

「お前、勝手に抜け出して散歩してたのか!庭を荒らしていないだろうなぁ?」

モグラは空中に汗を出して焦っている。

コミック的表現である。

「器用なヤツ。ま、俺に付き合え!」


そう言いながらモグラを小脇に挟み、キッチンへ乗り込んだ。

「皿立てが欲しいんだ。なるべく高価そうな、できればシルバーかゴールドのがいいな」

「皿立てをどうなされるおつもりで?」

「皿を立てるに決まっているだろ?????????????皿立てなんだからな????????????」

「そんな急にブチ切れないでくださいよ…木製のモノしかございません」

「そうか…金属製がいいな。最悪、無ければ自分で作ろうと思ってるんだ。材料の金属をくれ!」

「鉄や銅なら倉庫にあるでしょう。ハインリヒさんに言ってみてください」


レジナルドは執事を探し、金属のインゴットを貰った。

「工作なされるおつもりですか?レジナルド様が土魔法を使えるとしても、金属加工は土魔法の上位も上位、かなり難しいですよ?」

レジナルドはエッヘンという感じのポーズをとった。

「俺は火魔法も使える。そこでだ、土魔法の足りない部分は火魔法を使い、金属を加工しようと思うんだ」

「なるほど!炉の代わりというわけですね。しかし、金属を溶かすのにも高度な火魔法が必要です。かなりの高温でなければなりませんからね」

「まぁ、やるだけやってみるさ」


レジナルドは屋敷の外へ出て、庭師が石捨て場にしている場所に移動した。

「ここなら火を使っても延焼しないだろう」


金属に熱を加えながら土魔法をかける。

モグラに見守ってもらいながら、熱心に色々な方法で魔法を試した。

金属のインゴットが赤く光りはじめる。


――――――――――


そんなレジナルドを窓から見ていたマシューは、こっそりとレジナルドの書斎へ侵入した。

「(今なら部屋へは戻ってこないはず…)」


手当たり次第に日記や自習用のノートを覗き読む。

「(………よかった、日々の出来事を綴ってあるだけで、本当にトーラティカの悪口は書いていないようだ)」

人質としてカントリーハウスで暮らす事への不満、待遇への文句のひとつも無く、それどころか使用人たちへの感謝の言葉が書いてあった。

中でも通訳であるマシューは多く登場し、”彼には助けられっぱなしだ”との一文があった。

マシューは目頭の熱さを覚えて、メガネを外して目を押さえる。

ギリギリ涙をこらえ、作業を再開した。


引き出しを全部調べたが、特に国家反逆罪に問われそうな文章は出てこない。

「(これなら大丈夫だろう)」


マシューは書斎を出て、今度はレジナルドの部屋に向かう。

部屋の中に置いてあったノートには、よくわからない魔法道具についてのメモや、使用人たちの名前のメモが書いてあった。

「(部屋の湿度を下げる道具か。問題ないだろう)」


部屋を見回すと、いつの間にかアリディンバリスから持ってきたオブジェが飾られていた。

「(さすが、王族らしい逸品ばかりですね)」


あからさまに武器や殺傷能力のありそうなアイテムでなければ問題ない。

そう思い、チェストの引き出しを開けると…。

「?」

燃えあがる炎のダっっサい模様が刻まれた金属が出てきた。

「(これは何だろう?アリディンバリスから持ってこられたのだろうか?)」


マシューが持ち上げると、カチャ…というちゃっちい音と共に、持ち手の間からブレードが出てきた。

「!?!?!?!?」

めちゃくちゃビビって床に落としてしまう。

絨毯に大きめの穴が開いた。

慌てて拾ってチェストに戻す。

「(…え?????バタフライナイフ?????王族がバタフライナイフ?????)」


――――――――――


「完成だ!」


ふにゃっとはしているが、3本の金属が皿立てらしく配置された何かが出来上がった。

レジナルドは立ち上がり、モグラに円柱状の金属を渡す。

「これは余った金属で作ったメタル・ミニモグラだ。巣のどこかに飾っておけ」


モグラは意味が分かっていないようで、前歯でかじり出した。

「ダイナミック鉄分補給やめろ?」


屋敷へ戻り、自分の部屋に戻ろうとすると…3階にマシューが居た。

「おおマシュー、見ろ!皿立てを自分で作ったんだ…あっ」


通訳の手には、隠してあったバタフライナイフがあった。

「ちょっと掃除していたら見つけちゃったんですよ」

「ママみたいな事やめろ」

「これは武器です。人質が武器を所有していて良い訳がありませんよね?」

「俺のモノじゃない!ハインリヒに貸してもらってるんだ」

「は????」


執事を交えてプチ会議になった。

「”多少、刃物の扱いなら心得ています”と仰ってたのは、てっきり剣の事かと…」

「いえ、バタフライナイフです」


レジナルドは爆笑した。

マシューは今にも血管が切れそうな顔でハインリヒを見つめる。

「とにかく、これは没収です!」

「そんなぁ!!!!後生だ!!!!」

「これならまだ私が木剣で稽古をつけて差し上げたほうがマシですよ!!!!」

「待て…頼む…!!!!」

「ハインリヒさんも反省してくださいね?」


執事は色付きレンズのメガネをクイッと上げて答えた。

「…わかりました。ではこうしましょう。レジナルド様がバタフライナイフのアクションの練習をされたい場合は、私の部屋で行います。レジナルド様のお部屋に刃物は置かないように気をつけましょう」

「当然です。それにしてもハインリヒさん…なぜバタフライナイフなんて扱えるんですか?」

「私は狭い場所で育ったので」

「えっ…?」


はしゃいでいたレジナルドもぴたっと動きを止めた。

「あまり自由に身動きができない場所で育ったので。天井が低く、左右にも腕を振れないような場所では、長剣を振り回すよりもバタフライナイフの方が有利なんですよ」


マシューとレジナルドは気まずい思いで謝罪した。

「えっと…すいませんでした」

「ごめんな?」


さらに執事に対する疑念が深まったのは言うまでもない。


――――――――――


アリディンバリス。

「…役者にスカウトされた?」


古物屋の高齢の店主は、深くため息をついた。

「う、うん…!自分を試してみたいんだ…役者になって、どこまでできるのか…」

「バカバカしい!!!!!」

激昂した祖母はカウンターの上の物を床に叩きつけた。

「お前みたいなヤツは、好き放題こき使われて、満足にカネも貰えずに、体を壊したら打ち捨てられるのがオチだよ!」

ロジャーは祖母の口ぶりに怯える。

「だいたい、演劇なんてくだらない貴族のお遊びだってのに!演者なんて何の能力もない人間がやる仕事なんだ!!いいかい?私は数日中に店を畳むから。お前も荷造りしておくんだよ!」

「でも…」

「でももだってもあるか!!!!絶対に!私に!付いて!来るんだ!わかったか!!」


ガラスで出来た花瓶が飛んできて、孫の体にぶつかった。

孫は相当頑丈な体をしているのか、花瓶は粉々に砕け散ったが全く問題ないように振舞っている。

「いいかい?誰がお前の面倒を見てきたと思ってるんだ!!むすめも、その婿むこも、ケチな詐欺で足がついて今じゃ魔法石の採掘場だ。で、恩知らずにも、お前は育てて貰った私に逆らおうとしている!!違うか!?」

「………」

「ち・が・う・の・か!?!?!?」

「…ご、ごめんなさい」

「フン!判ればいいんだよ!さあ、さっさと荷物をまとめて、引っ越しの準備だよ!」


――――――――――


アリディンバリスの王都。

どこからともなくゾロゾロと人がやってきて、宿屋で落ち合っていた。

その中心には自称占い師の男が居た。

仲間たちが疑念を口にする。

「あのばあさんも、それなりに同業者との繋がりがある。揉め事になればオレらの盗品販売にも支障が出るぞ」

「大丈夫だ。あの店以外にも販路はたくさんある。それに問題は屈強な孫だけだからな」

「ロジャーとかいう頭が悪そうなヤツ!あいつはマジでヤバいぞ!!」

「ああ…前に裏のスミス通りで、10人がかりで襲ったんだ。覚えてるよな?」

「ちょっと酒代をいただくつもりだったんだけどな。剣やナイフが体に刺さらなくてビビった…あの用心棒が居るんじゃ無理だ」

「逆にオレらが返り討ちにあって、首根っこ捻られてお終いだろう。っていうか何人かヤられてるだろ?何故か魔法も効かねぇしな?オレは死にたくない」

「魔法が効かないというより体が頑丈なんだと思う。素手で氷魔法のつららを粉砕しているのを見たことがあるぞ。ばあさんひとりで店をやってられるのはあいつが店奥に居るからだな」


男は微笑んだ。

「”押してダメなら引いてみろ”ってな。正攻法で仲良くなったら、あっさり解決したよ」


ボスは凄いな、と仲間が口々に褒める。

「とにかく、孫とばあさんを引き離せれば簡単に仕事は済むさ。魔法部隊と荒事屋の2つにチームを分けて、店を襲う準備をしておけ」

「待て待て、あのばあさんは火魔法の使い手だったはずだ。それも高レベルの。ロジャーとかいうデカブツを引き離せても、ばあさんはどうする気だ!?」


中心に居る自称占い師…名も無き犯罪集団のボスは不敵な笑みを浮かべた。

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