表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/109

人質生活33日目

朝からレジナルドは屋敷の中の飾りを片付けて歩いていた。

気付いた使用人たちが慌てて駆け寄る。

「夏を迎える祝いの飾りを外してしまうんですか?」

「ああ。あれは美果の月の1日目から10日目までの祭りなんだ。今日は片付けないとな」


使用人はバスケットを持ってきて、壁や窓にかけていた布をクルクル巻いて片付けるのを手伝った。

「せっかく綺麗な飾りで気に入ってましたのに」

「片付けなければならないなんて残念です」

「でもな、10日を過ぎて片付けないと鎖骨を骨折するという言い伝えがあるんだ」

「なんて?」

「”夏の精霊はチョップで骨を折ってくる”って言うだろ?」

「言いませんよ…」

「トーラティカとアリディンバリスは隣国なのにだいぶ文化が違うなぁ~?」

「”春の精霊はキックでコケさせてくる”ならおばあちゃん世代から聞いたことがありますが」

「う~ん、逆に割と似ているのか?」

「いろんな言い伝えがあって楽しいですね!私の地元では春にパンを集めます」

「みんなで食べるのか?いい祭りだな~」

「いえ、お皿と交換するんです」

「交換?食べないならパンはどこへ行くんだ?」

「パンは生贄です。お皿と等価交換なので」

「それって駄目な魔法じゃ…」

「はい。古代に禁止された呪いの一種です。昔は必ず人体を用意していたみたいですが、無い場合は人肉の代わりにパンとウニ葡萄のワインを使うようになったそうで。禁じられた魔法を使っている秘密の祭りなので、因習ビレッジの人間以外に口外してはいけないのですが」

「俺はお前に秘密の話をするのはやめておくな?」

「本当に素晴らしい春祭りなんです。亡くなった家族をお皿にすればずっと一緒に居られるんですよ?」


レジナルドの眼の色が変わった。

「その皿を持っているか?!」

「え?」

「俺は!そういう品が!!大好きなんだ!!!!いくらでも出す、譲ってくれ!」


――――――――――


そんなカントリーハウスの下にある町では。

「巨大なヒザのカントリーハウスに引っ越してきた、アリディンバリスの第二王子レジナルド様からの贈り物です」


そう言いながら、執事は”砂糖を熱して糸状の結晶にした菓子”を町民に配っている。

ビルは改造ミルクセパレーターで一生懸命その菓子を作り、執事に渡す。

菓子を食べた人々はその甘さとくちどけに驚き、喜んだ。

人が人を呼び、広場は賑わっている。

そんな中、菓子を笑顔で口にしている子供の親が、ハインリヒを見ながら呟く。

「やっぱり屋台やっている人って平均してああいう風貌なのかな?」


――――――――――


アリディンバリス、王城。

使用人は総出で夏を迎える祝いの飾りつけを撤収している。

木で出来たコンテナに、青や白の布がキレイに畳まれて、仕舞われていく。

そのかん、クリスティーナは”副業仲間”に、自分たちの知見を広めまくっていた。

「別にレジナルド様のお部屋からじゃなくてもいいでしょ。盗めるならどこからでも盗めばいいの」

「なるほどねぇ…」


もうひとりの使用人がボソッと呟く。

「でも、あの元締めには言わないほうがいいかも。彼女、今は疑われてるから盗みは止めようってうるさいでしょ?」

「誰?」

「アン!」

「そう言えば、レジナルド様のお部屋から指輪が無くなった事に気付いたのも彼女と…誰だっけ?とにかく、アンがやったんでしょ?」

「メリンダね。だからアンとメリンダには秘密」

「うんうん…」


――――――――――


トーラティカ。

夜中に雨が降ったこともあり、空気が澄んでいる。

ウォーミングアップで屋敷の周りをゆっくりと馬に乗って歩く。

インストラクターのセーラが提案した。

「今日の乗馬は、丘の上まで行きましょうか?」

「それは気持ちいいだろうな。でも…前にマクデブルク一角獣が出ただろ?」

「レジナルド様がいらっしゃれば何とかなりますでしょう。私の風魔法でもスライムや山ヒトデぐらいなら追っ払えますよ」

「…何かあった時、自分や周囲の人間を守れるように、剣の練習をしたいと思っているんだ」

「あら。私の人脈を生かす時でしょうか?」

「いや…それがな。執事が少し、覚えがあるらしくて…」

「ハインリヒさんに教えていただけるなら、わざわざ剣の講師を呼ばずに済みますから。そのほうがよろしいでしょう」

「…ハインリヒって、めちゃくちゃ怪しいんだよなぁ」


セーラは噴き出して笑いそうになるのを堪えた。

「人を見かけで判断するのはよろしくないかと…」

「お前が想像する100倍ぐらい怪しいんだ。アイツから剣を習って、俺は無事でいられるだろうか…?」


――――――――――


アリディンバリスの王城の地下。

牢獄にジュエリー職人が閉じ込められていた。

「………このようなことをすれば、いずれ国王様に見つかります」

「見つかりません。お父さままで話が上がらないように口止めしてありますから」

「………」

「それにぃ~?」

左手に輝くリングを見せる。

「残念だったね~?あなたが口を割らなくてももういいの。人質として役目を果たしてくれたんだから」

「そんな…」


第二王女イザベラの指には、本当の製作方法で作られたコットンキャンディ花が埋め込まれていないリングが輝いていた。

「あなたの命を奪うかもって脅して、他の職人に作らせたの。どう?」


プライドを汚されたジュエリー職人は泣き出した。

イザベラは大笑いだ。

「彼を牢から出して、貴金属の工房に連れて行ってあげて!職人たちに、私が約束を守って開放してやったと伝えなさいね?」


侍女達がジュエリー職人の両脇を抱え、ずるずると引きずるように連れていく。

それを見ながらイザベラは満足気に笑い、クルクルと回転した。

「この貴重な指輪を見て!そんじょそこらの宝石なんかより、よっぽど珍しいんだから!」


――――――――――


午後。

レジナルドは使用人と共にドレッシングルームにいた。

コットンキャンディ花が埋め込まれていないリングを指にはめ、大きさがピッタリな事を確認する。

「…我ながら素晴らしい出来だ。安い水晶で出来ているとは思えないな!それに、あの装身具店の店主も良い仕事をする。今後、この指輪の量産品が彼女の収入になればよいが」


レジナルドは”部屋が湿っぽい”と言って窓を開けさせる。

「うおっ、窓を開けても湿気が入って来るな!?」

「夏ですからね。服にとっては最悪の環境ですが、仕方ありませんよ」

「…待て、アリディンバリスでは、部屋の湿度が一年を通じて丁度良い感じになっていたんだよな。あれはどうしてだったんだ?」

「お城が水捌けの良い場所に立っていたのでしょうか?」

「…いや、天然の川を引っぱってきた水堀りに囲まれていて、一歩廊下に出れば空気がジメッとして、いかにも石造りの城という気持の悪さだったんだ。どうして俺の部屋だけイイ感じの湿度だったのだろう………?」


――――――――――


「町人を喜ばせるために菓子を配る。その菓子を作る機械の購入&改造費で100万ゴールド!?!?!?」


トーラティカの王城。

フィリップは部屋から飛び出し、議論の真っ最中の部屋の扉を叩く。

「王子様!どうなされましたか?」

「お母さまに合わせてくれ!緊急だ!!」


護衛の従者も追いかけたが、寸前のところで彼を止められなかった。

議会場に通されたフィリップは大声で叫ぶ。

「この予算利用申請書を見てくれ!人質のレジナルド様はワガママにも程がある!100万ゴールドもする菓子作りの機械を購入したんだ!これは人質として不適切な行動なのでは!?常軌を逸した出費だろう?!」


議会はザワついた。

が…、それは一瞬だった。

宰相が利用申請の文章を読み上げる。

「”賢く慈しみあるトーラティカの国王が統治する、美しい国、美しい町とその町人に、感謝の意を込めて菓子を配りたい。人質として丁重にもてなされていることに感動を覚え、それを何らかの形で還元したいと考えている”とレジナルド様がおっしゃったので、ご本人は屋敷から出られない代わりに、執事と使用人でその役を果たし、町人に菓子を配ってきました。原材料はザラメ砂糖のみなので安く、また、機械は何度でも利用でき、町人からの要望があればいつでも貸し出す用意が出来ています。機材と改造代は高額ですが、必ずペイできる量の幸せを作り出せると信じています」


臣下たちも”それならば問題ないのではないか”と口々に言い始めた。

フィリップは顔を赤くしたり青くしたりして、護衛に肩を抱かれて議会場を退場した。


――――――――――


古物商に運び込まれた大量の絵画は、緩衝材の白いポヤポヤコーンに守られて国境を越え、トーラティカに来ていた。

国内で売るのはマズいと判断した店主が、まとめて国外に流したのだ。

「う~ん、マズいね」


こちらもマズいと判断した、トーラティカの商人。

訳ありの絵画があると聞いて宿屋で取引、のはずだったのだが…。

「このサイン、アリディンバリスの王家のモノじゃないか。万が一バレたら、せっかく終戦したばかりの隣国との火種になっちゃうよ。見つかれば、そちらの国の兵士も、トーラティカ側の兵士も、死にモノ狂いで盗難ルートを洗い出そうとするだろうし、捕まったら秒で極刑だ。リスクが高くてヤダね」

「もっと遠くの国へ売ればいい」

「この作家が有名なのはここ3ごくで、やっぱりアリディンバリス国内で高く取引されてるでしょ?ウチは無理だね」

「…なら、他を当たらせてもらおう」


そう言い宿を出たが、そこまで盗品の取引ができる相手が居るわけでもない。

ここで決まってくれと願いながら別の証人に見せる。

「おぉ~、この作家は…!ちょっと前の作品もオークションで470万ゴールドだっけ?記録帳…ああ、最近発表された新作は500万ゴールドの大台に乗ったんでしょ。とてもじゃないけど手が出せないよ」

「投機目的で持っててくれる口の堅い買い手はいないのか?」

「…トーラティカも、そこまで国内政治が安定しているわけじゃないんだ。一部貴族と王家の対立があって、もしこれが貴族側に渡れば、王家が盗難を仕組んだとしてまたアリディンバリスと一悶着起こせるって気分になるかも知れない。かなり危険な代物だ」

「ハァ、直接貿易派と迂回貿易派で争ってるのは面倒だな。国内で捌くしかないか」

「そっちの方が危険じゃないか?窃盗犯を国へ突き出せば、貴族なら家名に箔がつくし、商人なら商家としての活躍が約束されるようなもの…」

「貴金属と違って絵画は出所がハッキリしてるから困るな。買い手も売り手もある程度クリーンだし…」

「そうそう。こっそり所有して楽しむよりも、飾ったり贈ったり投機のために所有するものだからね。売るなら素直にモルリヴァールだな」

「…別の仕事もあるし、これ以上持ち運びたくない」


買い手の商人はため息をついた。

「…1点75万ゴールドで買おう。6点で450万ゴールド、どうだ」

「う~~~~ん、買い叩かれている気もするが、まあ、仕事は付き合いだな」

「そこまで言うなら80万ゴールドで買うよ。480万ゴールドだ」

「助かる。額縁だけでも20万ゴールドはするぞ!」

そう。

良い絵は一点一点木工作家に額縁を作らせたりするので、軽く20万とかするのだ。

というか言い値の世界なので、150万とか300万ぐらいの額縁も存在するらしい。

こわいね。


――――――――――


「あのな、ハインリヒ…俺に剣術を教えてくれないか…?」


ハインリヒは眉間にしわを寄せ、なぜか眉を上げひたいにもしわを寄せ、レジナルドを見た。

「顔怖っ」

「そのお話はマシュー様から頂いております。しかしですよ、私が教えられるのは剣術という立派なものではありません。ちょっとした刃物の扱いです。それでもよろしいでしょうか…?」

「あ、ああ…。俺はもう、貴族が剣術を習うような歳は越えている。王道から外れていようが習えるだけマシだ」

「では、私の部屋へ参りましょう…」


執事の後をついて彼の部屋に入る。

ハインリヒはレザートランクをテーブルに置き、開けた。

中には、グレーのスポンジに埋まった金属の何かが沢山入っている。

「???????????????????????」


レジナルドは既にキャパシティオーバー気味だ。

ハインリヒは金属でできた何かを取り出すと、片手でカチャカチャカチャッ!と回転させた。

グリップからブレードが飛び出す。

「………いやこれバタフライナイフだろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!?!!?!?!??!???!?普通、なろう小説のナーロッパモノに出てくる刃物って、腰に下げた長剣か、背中に背負う剣か、稀に日本刀だろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!?!?!?!?!バタフライナイフって全然メジャーじゃないだろ~~~~~~~~~~????????????ええ~~~~っ??????」

「落ち着いてください」

「ごめん」

「バタフライナイフはメジャーな刃物です」

「…」

「肯定してください」

「バ、バタフライナイフはメジャーな刃物です…」

「よろしい。これをどうぞ」

「ど、どうすればいいんだ?」


カチャカチャカチャッ!

「こうやって片手で開閉できるように練習してください」

「わかった…」

「いいですか、バタフライナイフはさやがありません。つまり、引き抜く必要がなく、鞘が邪魔になる事もない、素晴らしいナイフなんです」

「なるほど…」

「レジナルド様にお渡しした品は、ブレードが刃物ではありません。練習用の金属板がついているだけなので、安心して練習してください」

「おお!」

「でも、いざとなれば練習用の金属板でも、”切る”ことは出来なくても、”押して突き刺す”ことは出来ます。そこがバタフライナイフのいいところなんですよ」

「いいところの概念が変わるな?」

「例え練習用でも街中では持ち歩かず、兵士は可能な限り遠くから察知して、向こうから発見される前にUターンして、ジョブクエスチョンを避けてください」

「なんで?」


カチャカチャカチャッ!

カチャカチャカチャッ!

カチャカチャカチャッ!

カチャカチャカチャッ!


練習を続けていると段々ゾーンに入ってくる。

あっという間に時間が過ぎ、気付けば夕食に呼ばれていた。

「…うまくできるとカッコいいな!」

「そうでしょう?ちなみにバタフライナイフはデザインも格好いいんですよ?」


ハインリヒは再びレザートランクを開け、ナイフのコレクションを見せた。

「おお~!青少年に悪影響を与えそうなギラギラしたメタリックカラー!」

「こっちは蓄光素材で暗闇でめちゃくちゃ光ります」

「ダセェーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


使用人がもう一度夕食に呼びに来て、今日の練習は終了になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ