人質生活32日目
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アリディンバリスの王国議会メンバーである貴族にも、市民の声が伝わり始めた。
「音楽家の間で、レジナルド様が帰ってこないのを嘆く声が上がっているとか」
「いやぁ、まったく悲しさや寂しさは感じませんが、帰ってこない事に驚きを感じるのは我々も同じですよ。どうせ1ヶ月もしないうちにわがまま放題か逃げ出すかして送り返されるか、不審な死を遂げる事になると予想していたのに」
「ご親族にも、”代わりに人質として送られるご用意を”と根回ししてありますが…トーラティカからの苦情もなく、間者の報告も”大人しく過ごされている”というものですから、意外なものです」
「まだ1ヶ月ですよ。1年我慢できるほうに財産を賭けられる方はいらっしゃらないでしょう?」
笑いが巻き起こる。
「しかし、美術界にそれなりの影響力を持っていた事も確かですからね。レジナルド様のように自由にやられては困りますが、ある程度芸術に予算を付けなければ国力の物差しである文化面を強くすることが出来ません。私たちも、貴族らしい格調を保つ必要がありますしね」
「文化振興と言えば聞こえが良いですが、あまり市民のモノになってしまうのも考えものです。我々の祖父母の時代には、貴族の屋敷や王城で囲っていたものだけが”芸術家”でした…商人や農家、漁港主の力が強くなり、街にアトリエや工房を抱えるアーティストが増えた今は、すっかり商売のひとつになってしまい格式が失われたように思えます。芸術家は”お抱え”することに意味があるのですから、我が物顔で商売をされるのは困りますな」
「未だに抱えておくメリットはありますよ。この前、肖像画の仕事を頼んだのですが、”順番で受けているので半年後になる”と後回しにされて驚きました。王宮のように専属の画家が居ればなぁと従者に愚痴りましたから」
国王が会議室に入って来て、臣下達は笑うのをやめて姿勢を正した。
「なんだ、肖像画の話をしていたのか?」
「はい。今年は何枚の肖像画を描かせているのですか?」
別の臣下が答える。
「国内の教会や貴族たちの屋敷に配る分を50枚、一般販売分が100枚です」
おお~と声が上がる。
こういうタイプの飾らせる肖像画は、1枚目は本人をモデルにして描き、残りはコピー&ペーストするように模写の模写で量産していくのだ。
プロパガンダに芸術性があるかどうかの議論は別として、宮廷画家たちの苦労が伺える。
――――――――――
アリディンバリスの第一王女、アデレートの部屋。
光魔法の適性があった彼女は、部屋にこもって練習を続けていた。
少しずつだが、鏡に映った自分の姿を歪められるようになっていき、トレーニングにも力が入る。
扉をノックする音が響き、仕方なく侍女を招いた。
「アデレート様、お茶のお時間です」
「…そう」
「魔法の鍛錬は素晴らしいことです。しかし、部屋の中で一日を過ごされるのはお体に障りますよ」
「ねえ、理想の自分を見てみたくない?」
「理想と言いますと…?」
アデレートは使用人が茶と菓子を運んでくる間に、侍女をドレッシングルームに移動させた。
侍女を全身鏡の前に立たせると、背が高くスラリとした、ウエストの細い女性が映る。
「こ、これは…!?」
「面白いでしょう?ちょっとした”お遊び”だから、みんなには内緒にしてね?」
侍女は返事も忘れて鏡に近寄り、顔をアップで映す。
「目の下のクマが無い…ほうれい線も、首のしわも無い!」
第一王女は口に手を当てて笑った。
「光をちょっとだけ捻じ曲げて、鏡に映る姿を変えられる魔法なの。もちろん本人の姿が変わるわけじゃないけど…」
「なんて素晴らしい!これは雲を地上に降ろす魔法と同じぐらいに価値があります!!」
「シーッ!あまり大声を出したら使用人達に聞かれてしまうでしょう?」
みんなには内緒に、を自分で守れたのは、この数分だけだった。
愉快な気分になった彼女はお茶に集まった侍女たちみんなに話してしまう。
魔法をエンチャントした手鏡を覗きながらお茶を飲む、不思議な空間が出来上がった。
――――――――――
「レジナルド様!上級使者様からのお手紙ですよ!」
マシューと共に封筒を開ける。
新聞の切り抜きが出てきた。
「”虹の根元の宝、フラスムースの牧場で掘り起こされる、金塊、約550kg”」
「さっそく新聞の切り抜きを送ってくださったんですね」
「ああ…あからさまに地方欄のどうでもいいニュースだが、ちょっとだけ時代にキャッチアップできた感じがして嬉しいな」
さっそくニュースを読み、音読し、トーラティカ語の勉強に役立てる。
使用人達との会話もスムーズだ。
「虹の根元から金塊が見つかった記事を読んだぞ、どう思う?」
「牧場で雇用されている小作人と、牧場主は違いますからねぇ…金塊はボスが持っていってお終いでしょう」
「そ、そんなこと言うなよ…」
「ええそうですよ!牧場経営者だって国王様に税金を納めなければならないんですから、10分の1の金も手元には残りません」
「最終的に王族への悪口になるのはやめろ?それならまだ雇用主を恨んどけ?」
乗馬の練習の時間になると、セーラとも金塊の話をした。
「大陸の東には金で出来た屋敷があると聞きます。550kgの金塊は重量がありますが、実際の量でいえばちょっとしかありませんから、100回虹の根元を掘って、やっと建てられるぐらいでしょうね」
レジナルドはガハハと大口で笑った。
「ダイアモンド宮やエメラルドの城より弱いだろうな。金の硬度は最低だぞ!金で作られたカトラリーは肉に負けるんだ!」
「スプーンの柄を簡単に捻れるから手品には向いているそうですよ?」
レジナルドはまた大口で笑った。
地方欄のニュースでも新しく話題が生まれ、話が弾む。
――――――――――
アリディンバリスの王城では、メンズ設定カフェにハマっている使用人…名前をクリスティーナという。
彼女が盗みの機会を得ていた。
王国議会の議員たちは、領地から王都に出てきて城下町に屋敷を構える者も居れば、城で寝泊まりしている者も居る。
そして王城にある彼ら彼女らの部屋を清掃するのも、使用人の仕事だ。
クリスティーナと副業を共にする女性は、清掃中も小声でコミュニケーションを取っていた。
「このブローチ、埃を被ってる」
「そんな堂々と飾られているのは無理だよ」
そう言いながらクリスティーナは仕事机の引き出しを勝手に開ける。
「見て、ゴールドだ」
「一度にたくさん盗るのはマズいからね?」
2人は数枚のコインを取り出し、ソックスに詰め込んだ。
――――――――――
トーラティカのカントリーハウス。
ライブラリには30冊ほどの本が置かれていた。
「この図書室を使用人にも開放しようと思うんだ」
「おや、よろしいんですか?」
レジナルドは魔法の本をめくって読んでいる。
「ああ、まだ冊数は少ないがな。やはり直接会話したほうがトーラティカ語の練習にもなるし、本を読んでいてわからない部分があれば、すぐに質問する事ができるだろ」
「すばらしい姿勢です。ところで、さっきから何をお探しで?」
「ユニークスキルについてだ。シャルロッテは魔物の討伐にもよく呼ばれると言っていただろう?」
「ああ、魔法無効のスキルですね。世界的に有名な冒険者の中にも、魔法無効のスキルを持った人がいたはずです。モンスターが使う魔法も取り消せるはずですから、そう考えると…かなり強力なユニークスキルですね…なぜ装蹄師をしているのでしょう?」
「プロのホースシューズプレイヤーになるためだな…普段から蹄鉄に触れられる仕事を選んだのだろう」
「えぇ…?」
――――――――――
「弟の部屋に警備の兵士をつけたと報告があったが?」
エイデンは、第一王子ブレンダンから質問されている。
額に汗をかきながら答えた。
「はい」
「もう宝石箱は宝物庫の中だ。何を恐れている?」
「…」
「エイデン、正直に話してくれ」
「………”成仏できぬ水筒”という貴重なアイテムが無くなっているのを確認しました。犯人は間違いなく使用人でしょう。清掃に入ったタイミングで盗みを働いていると思われます…」
「!!」
第一王子は満面の笑みでウィングチェアから立ち上がった。
「現場検証だ!!!!行くぞ!」
――――――――――
マシューとビルは町へ来ていた。
コットンキャンディ花を模した”砂糖を熱して糸状の結晶にした菓子”を埋め込んだ水晶を運ぶ。
「いらっしゃい!」
「巨大なヒザのカントリーハウスで働いているマシューです。今日は…」
「もう加工が完成したんですか?!」
装身具店の店主はカウンターから出て、水晶を受け取りまじまじと観察した。
「…なんて綺麗なんでしょう。まさに美が閉じ込められているようです。この加工をレジナルド様がなされたのですか?」
「ええ。魔法の応用力がなかなかあるようで、羨ましいですよ」
「訓練次第では金属の加工もできるようになるかも知れませんね?」
「はい。今はまだそこまでの練度はないのですが、いずれはその領域まで達することが出来るでしょう」
マシューの息子を見守る様な微笑みに、思わず店主は笑ってしまう。
「フフッ、追加で水晶を発注しました。かなりの数を注文したのですが、届いたらレジナルド様には同じ作業をやってもらいたいんです。大丈夫でしょうか?」
「レジナルド様なら喜んで引き受けてくださるでしょう。魔法の修練にもなりますし」
量産体制はバッチリというわけだ。
彼女はリング台の枠を小型の魔法道具のバーナーを使い、熱する。
ペンチで水晶をつまみ、リング台に置き、枠をペンチで狭め、水晶を固定した。
「フーッ…完成です」
「お見事!美しいリングですね。では、10万ゴールドで購入させていただきます」
「ありがとうございます。でも、これは量産する予定の既製品です。本当に市販品を王族が付けられてもよろしいのですか?」
マシューは笑い返した。
「まだひとつしか製作されていないのに市販品とは、オーダーの語意が揺らぎますね!このように素晴らしい品なら、王族が付けるに相応しいと私は思いますよ」
――――――――――
アリディンバリスの王城、レジナルドの部屋。
「この棚にありました」
ブレンダンはアゴを撫でた。
「もちろん覚えているぞ。お前と、手紙を運ぶ使者、そして私の3人がいた。部屋が乾燥しているという話になって、そこで説明してもらったんだよな?」
「はい。次の日から、器を用意して水を入れてもらうことにしたんです」
「うむ」
「水の器が空になっていないかをチェックしに来たのですが…そこで気付きました」
「残念だ。お前の見立て通り、犯人は使用人だろう」
「なら私も共に裁かれます。しかしブレンダン様。わたくし侍従長に罪はあっても、使用人長のコーラに罪はありません。彼女のことはどうか…」
「…」
「ブレンダン様?」
「…使用人がやったとしたら、なぜそんな呪われたアイテムを盗んだんだ?」
「さあ…?」
「高価なものなのか?」
「誰かからお譲りされた古物だったと記憶しておりますが」
「何かと交換したか?」
「いえ、無償です」
「タダで譲ってもらうぐらいなんだから、金銭的価値はないのだろう」
「ですね」
「…そうか。私は思い違いをしていたんだ!」
王子は部屋をぐるりと見まわした。
「…レジナルドの大ファンがいるんじゃないか?」
「へえェっ!?」
エイデンは上ずって裏返ったような変な声を出してしまう。
「お言葉ですが、ぶっちゃけ、レジナルド様は誰からも嫌われておりました…」
「アイツのファンなんか居ないか?」
「居ませんよ」
「そうかぁ…」
推理は振り出しに戻ってしまった。
――――――――――
レジナルドが庭に出てモグラを散歩させていると、庭師が花壇に罠を仕掛けていた。
「花壇が荒らされたのか?」
「ええ、ジャッカロープが来て、花の食えるところを全部食ってしまうんですよ。中には食用の植物もございますから、なおさらでしょう」
あらためて花壇の様子を観察すると、草花に詳しくないレジナルドの眼にも、緑がズタズタに食い千切られているのがわかった。
「確かにこれは酷いな。でもお前は土魔法が使えただろ?確か、土を栄養豊かにしたり、植物の育成を早められるのも土魔法の一種だそうだが?」
「そんな中位や上位の土魔法は使えませんよ!土に足をつけて生きている動植物と会話するのがやっとです。動物は犬猫の大きさの生き物までしか話せませんし」
「なんだ、じゃあ馬とは話せないのか?」
「厩舎の管理をする馬係はわずかに話せるはずですが、私には無理です」
「じゃあ今のところ、モグラとの会話専用の土魔法だなぁ…」
「い、一応陸で暮らす節足動物とも会話できますが?!」
「おおっ、そっちは庭師の仕事に役立ちそうだな。ミミズやクモや蜂みたいな虫に指示を出せるだろ?」
庭師はすっくと立ち上がった。
「たまに間違う人がいるんですがミミズやクモは虫じゃないんです。確かにクモと蜂は節足動物の仲間ですが、クモは鋏角類というサソリやダニ、カブトガニの仲間で、蜂は六脚類という蝶やトンボ、アリの仲間なんです。ですから蜂は虫ですね。そしてミミズは環形動物というヒルやユムシ、ゴカイの仲間…」
「待て待て待て!畑が荒らされた話に戻るぞ!」
レジナルドは地面に手のひらを置く。
魔力を込めると…。
「!!」
庭師の目の前で、枯れた草花が力を取り戻していく。
「おお…!」
さらにバラやペチュニア、カラミンサなどがぐんぐん成長して、ボロボロになった花壇があっという間に花だらけになる。
「素晴らしいです!ありがとうございますレジナルド様!」
チューリップやアジサイなど、季節外れの花までモリモリ咲き出した。
「レジナルド様?もういいです!レジナルド様!!!!」
「楽しくてうっかりやり過ぎてしまった。すまんな」
その時。
ボコッ!という物音に2人が振り返ると、モグラが芝生を掘りまくり、巨大な穴を開けていた。
庭師がショックで情けない声を出す。
「そ、そんなぁ~!!!!」
レジナルドは怒鳴り、足から地面に魔力を送った。
「コラっ!何イタズラしてるんだ!!ダメだろう!!!!」
植物の根やツタが伸びて来て、モグラをぐるぐる巻きにして捕える。
モグラは空中に持ち上げられ、哀れなほど手足をバタつかせ、必死に謝罪した。
「もうやらないと言え!」
バタバタバタ…
「よし!」
レジナルドはモグラを地上に降ろした。
ツタを動かして穴を埋め、芝生もきれいに生やした。
モグラも自分のイタズラを申し訳なく思っているのか、どこかから芝刈り機を持ってきて多めに伸びた芝の先端を切り、芝を元通りに戻す手伝いをした。
あっという間にピカピカの芝生になる。
「これでどうだ?」
「私が手入れした芝より良い状態ですよ!」
庭師は感動して芝生にゴロゴロ寝転んでいる。
レジナルドは腕を組んだ。
「ふむ。ペットの不始末をごまかすためにも、土魔法をもっと練習しておかないとな?」
――――――――――
アリディンバリス、王城。
めちゃくちゃ重要な会議中だが、第一王子ブレンダンは上の空だ。
「回復魔法は使い手の熟練度により………西側の小国では、国家が運営する魔法学校で、専門の………」
「(なら逆に、アンチが盗んだって可能性はないだろうか?あり得るな。レジナルドが城に居た頃は彼に悪さをすることが出来なかった。しかし、本人が居なくなった今、やっと憂さを晴らすことが出来る…そう考え、レジナルドの所有物を盗んだり、壊したりしている…いやあり得る!これか!?これなのか!?だとしたら脈絡の無い犯行も理由がつく!指輪と呪われたアイテム、同じ人間が欲しがるようには思えない…)」
国王は大臣に向かって”それな”という風に両手で指をさした。
「まさに、医療体制の組織化は国家運営の急務と言えるだろう。気に食わんが、他国の体制を真似るというのが最も効率的に思える…」
臣下たちは議論を進める。
「医療魔法の使い手が国外流失しているという報告もあります」
「きちんとした統計がない以上、いきなり高給を支払う案はどうかと思いますが」
「回復魔法とは別に医療の技術向上を…」
「予算はダムの建造、川の氾濫防止工事など割り当てるべきだと考えますが。特に土木関連事業の遅れは結果的に大災害を引き起こし、病人や怪我人を増やすことに繋がります。なぜ回復魔法の使い手が必要になるのかの、原因をお考え下さい。大規模災害が無ければ…」
国王は第一王子を指さした。
「ブレンダン、お前はどう思う?」
「(…なら、罠を仕掛けられる。ダミーのレジナルド人形を作って置いておけばいい。それを殴った者が犯人だ!)」
「王子?」
「え?は、はい。この議題はあまりに複雑で、多くの要素が混在しており、全ての情報が出揃うまで迂闊に決定を下さないほうがいい可能性もあるかと。それに現状は刻一刻と変化しており、深く注視していきたい問題であるという認識を共有していきたいです」
「…空っぽだからな?」
「!?」
「今!お前が言ったことは無言と同じレベルで空っぽだからな!?私は!議会からそういうモノの言いまわしをする臣下を…母の代にはそういうタイプの議員しかいなかったからマジで苦労して…苦労して追い出したんだぞ!?」
国王が暴れ出したので周りの臣下や従者たちが止める。
「落ち着いてください!」
「ブレンダン様は何か考え事をされていたご様子なので…!」
父である国王の怒りは収まらない。
「何かを言ってるようで全く何も言ってないヤツが許せん!それとな、”Aを対象にした政策を実行しよう!”って方向性が決まった後に、”もっと視野を広く、B、C、D、EFGHIJなどの人々も対象にしたほうがいいんじゃないですか?”ってヤツ!!!許せんからな????国王の権力をどこで使うのかって、ちゃぶ台返しをして今までコツコツ詰めてきた議論を全否定するアホを極刑にすることに権力を行使するからな????」
「落ち着いてください!国王様!」
「陛下!落ち着いてください!」
「ウワーーーーーーン!!!!あと資料をゆっくり、一言一句書いてあることと同じ文章を読み上げるヤツ!!!!議会の時間を引きのばすために生まれてきた生命体か何かか????あと質問と言いつつメッチャ否定してくるヤツ!!!!あと質問ついでに無関係なのに”国王もそう思いますよね~?”とか、”これ前は国王が担当してませんでしたっけ~?自分がやってた頃と比較してどう思います~?”みたいな感じで巻き込んでくるヤツ!!!!あと…」
「落ち着いてください!国王様!」
「陛下!落ち着いてください!」
国王の何らかのトラウマに触れたらしく、今日の議会はお開きになった。
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トーラティカの王城。
日が暮れてからはザーザーと雨が降ってきた。
魔法道具に埋め込まれた光の魔法石を動作させても手元しか照らせない程、暗い闇夜が外を包む。
フィリップは焦っていた。
今日、従者が持ってきた封筒の中身を開けて彼の焦りは強まったのだ。
「あのデブ、こんな気遣いに満ちた返信が書けるとは…」
母国アリディンバリスに対し、”宝石はこちらの手元にあった。すまない”という、指輪を送って貰えなかった事に対する文句が一文も無い、自制が前面に出た内容の手紙を。
さらに”ふとっちょ王子”を上演している劇場の支配人には、代案の脚本を送るというスマートな解決方法を。
想像よりもレジナルドは”デキる”人間だったらしい。
しかし、フィリップには祖父を国に連れ戻すという目標があるのだ。
「レジナルドの前評判が悪かったことはお前も知っているだろう?」
フィリップ王子の護衛で、当初は使者をやるはずだった男性は頷いた。
「酷いものだとお聞きしていました」
彼は、2日前にフィリップがレジナルドに魔法を使った戦いを申し込み…敗北してしまった所を見ている。
「鼻を明かしてやりたい気持ちはわかります。しかし、使者を演じている以上…」
「あいつも王族の端くれというわけだ」
「?」
「表面を取り繕う事ぐらいは出来る。トーラティカの悪口は言わず、己を過剰に賛美せず、一応教会へ行くぐらいの良識は持っている」
「…」
「つまりな、ネコを被ってるんじゃないか?私はあのデブが信用できないんだ。油断させておいて逃げ出すかもしれないだろ?何とかして我々に恥をかかせようと作戦を練っているかもしれない」
護衛は頷いた。
「なるほど。表面上の態度と内心は全くの別物ですからね」
「その通りだ。私はレジナルドの企みが知りたい。なぜあんなに大人しくしているんだ?従者を殴って町に連れ出すように騒いで暴れて欲しいのに…」
「えっ?」
「えっ?あっ、いや…今のは言い間違えだ!」
「…フィリップ様、それなら王族の権限を利用し、レジナルド様の書斎へ探りを入れましょう」
「!!」
「彼は母国との手紙のやり取りでもボロを出しません。案外慎重な性格をしているようです。しかし、自室でこっそり悪だくみをしている可能性はございます。証拠さえ掴めれば…」
フィリップはハッとした。
「…なるほど、そういう事か!何も出てこなかったら、こっちから仕込めばいいんだ!」
「えっ?」
「えっ?あっ、いや…今のは言い間違えだ!」




