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人質生活31日目

早朝のアリディンバリス、王城。

真っ青な顔のアンと、”副業”繋がりの使用人たちがコソコソと話している。

「レジナルド様の部屋の前に兵士が立っているの、見た?」

「なんで気付かれたんだろう…」

「誰か、話を聞かれたりした?」

「まだだけど、私たちが疑われてるのは間違いないでしょ?いい、みんな…」


ぐるりと円になって顔を近づけ、低いトーンで話す。

血液を緊張が駆け巡る。

「これから聞き取り調査があるかも知れないけど、絶対にシラを切る事。仲間を売らない事。約束して?」


――――――――――


「おはよう!気持ちの良い朝だな!」


レジナルドは、自分のコレクションがあっちこっちに流出しまくっている事は露も知らない。

先にダイニングルームにいたマシューは挨拶を返した。

「おはようございますレジナルド様。よく寝られましたか?」

「ああ。明け方に降った通り雨で目が覚めたが、まあ、日の出を見られていい気分だったな。少し体を動かしたいと思い、屋敷の外に出てホースシューズをして遊んだんだ」


マシューは笑い、1回も杭に蹄鉄が当たらなかったんですね、と言った。

「なぜそう考えたんだ?」

「蹄鉄が杭にぶつかるカランカランという音が聞こえませんでしたから」

「フフッ…!さっさと朝メシを済ませろ、外へ出るぞ!」


飲み物と少しのチーズ、パン、奇数本のトゲのウニ葡萄をつまむと、さっそく外へ出た。

すっかりペットとして懐いるモグラも、ばたばたと手足を動かしレジナルドについていく。

「いいかマシュー、俺の腕前に驚けよ!」


レジナルドが蹄鉄を杭に向かって投げると、ふわっと蹄鉄が持ち上がり、音もなく杭にかかった。

「ちょっと!ずるいじゃないですか!風魔法を使うだなんて!!」

「ワーーーーッハッハッハッハ!!!!」

レジナルドは歯を見せて大笑いした。

そこへセーラがやって来る。

「あら、ホースシューズの真っ最中でしたか」

「丁度いいタイミングで来たなセーラ!オービター牧場には山の精霊…じゃなかった、ホースシューズの世界チャンピオンがいるだろう!」

「まさか彼女と戦いたいというわけではないですよね?」

「そのまさかだ!」


セーラはマシューの方を見た。

マシューは視線の意味を察する。

「…セーラさん、まさか、これからレジナルド様を牧場へ連れて行かれるおつもりじゃありませんよね?」

「帰り道をレジナルド様おひとりでは不安ですから、マシューさんもご一緒に。速歩で遠乗りする練習にもなりますし。行きに2時間、帰りに2時間ですから、昼食を牧場で取るようにしましょう」


マシューはため息をついて、着替えてきます、あと執事さんへの報告も、と言って小走りで屋敷へ入って行った。

セーラは馬から降りて、厩舎の使用人に声をかけ状況を説明し、馬の用意をさせる。

「なあセーラ、屋敷から出て大丈夫か?」

「大きなヒザのふもとにオービター牧場があるので、ウニ葡萄畑や裏手の丘と同じく、カントリーハウスの敷地内のようなものですよ。街からは距離があるので大丈夫でしょう」

「そうか!牧場に興味があったんだ!ところで、他の客や貴族も居るはずだが…」

「なるべく人目に付かないようにいたしますよ」


セーラのウインクにレジナルドは安心する。

屋敷から逃げ出して来たと思われてはかなわない。

「ところで、ペットのモグラも連れて行っていいか?」

「あら、子犬を飼われているんですね。バスケットに入れて馬の背中にくくり付けてあげましょう」

「子犬じゃないぞ」

「そんなに大きなモグラがいるわけないでしょう?」


セーラがモグラを持ち上げて見ると、たしかにモグラらしいボディをしていた。

「…モグラってヘルメットを被ってサングラスをかけてツルハシやスコップを担いでいるものだとばかり…」

「これだから高齢者は困る!そのモグラのパブリックイメージは今では差別的だと問題視されているんだぞ!?」

「あら、用意ができましたね。私の馬はここまで乗って来たばかりですから、馬を替えさせてください」


使用人のビルとマシューは馬車を出し、4人と4頭は牧場を目指して出発した。


――――――――――


トーラティカの王城。

フィリップの前には国王と、運の悪いことに宰相も居た。

嘘もつけず、ただただ真実を報告するしかない。

国王は傍目にもブチ切れている。

「なるほど、魔法を使い始めて数日の人間に敗北した、と」

「…」

「そうなの!?」

「はい」


国王からチラリと視線を向けられた宰相は、王子様の言葉に嘘はございません、と呟く。

「…手を抜いたの?それともあなたには魔法の才能が無かったの?」

「油断していました」

「まったく…どう?我が王家をバカにするような言動はあった?」

「私と接した限りではありませんでした。彼の祖母も5つの魔法適性があったとかで…周囲の使用人達もそれほど大ごととして捉えていないようでした」

「そう。偉そうにしていないならまだマシか」

「さらに、ふもとの町の聖職者、ルイスも”魔力が少なく、強力な魔法は使えないだろう”と報告しておりましたので、トーラティカの王家を敬い、不遜な言動は避けるように指導すればよいでしょう。望ましくない言動に繋がるなら、不服を申し入れて、向こうの王家にもその旨を伝えればよいかと」

「フッ…あの王子の自尊心の大きさからすると、アリディンバリスの王家と自分を自慢してばかりで、毎日トーラティカ側に文句ばかり言っているかと思ったが、そうでもないようだな?」


宰相も頷いた。

「繰り返しになりますが、王子様の言葉に嘘はございません。屋敷の使用人たちに聞いたところ、今日まで我らの王国と王家を強く否定した場面はないそうです。また、聖職者長も魔法の指導という名目で直接レジナルド様の魔力量を確認したそうです。魔力が少ないのも確かかと」


国王は尋ねる。

「流石に人質という立場をわきまえ大人しくしていると。あいつが使うライトはどれほどの大きさだったんだ?」

宰相は答える。

「ルイスの報告によれば、手のひらサイズの光球が精一杯だったようで…」


アッハッハ!という豪快な笑い声が響いた。

「ああ、フィリップの太陽のごとき光球とは比べ物にならないな?なるほど、適性があるのはいいが魔力は少ないのか。それなら放っておいてもイキることはないだろう」


――――――――――


フィリップは自室に戻り、悔しさで震える。

「そんなに魔力量が少ない奴に私は負けたのか…!?」


敗北した自分が信じられないというように城から飛び出し、訓練場で剣を構える。

「誰でもいいから、かかってこい!!稽古をつけてやる!2人まとめてでもいいぞ!」


哀れな兵士たちは機嫌の悪い彼に焦がされたり投げられたり、甲冑がへこむほど模擬剣でぶん殴られたりした。

若い王子の表情には焦りが見え始める。


――――――――――


アリディンバリス、王城。

メンズ設定カフェにハマっている使用人クリスティーナが、昨晩の”売り上げ”を共犯の使用人と分けた。

「私たちのせいでバレちゃったのかな?」

「ううん、絶対にそんなことない。私も他の使用人から”副業”を持ちかけられたんだよ?みんなちょっとずつヤッてるんだから、万が一バレるようなことがあっても連帯責任でしょ」


ひとり50万ゴールドの札束は厚みがある。

しかし、満足はしていないようだ。

「…一番最後に副業をはじめたから、稼ぎが少ないよね」

「最初に始めた人は100万ゴールドも200万ゴールドも稼いだみたいだよ?」

「やっぱり!そうなんだ…でも兵士が立ってるならもうあそこの部屋からは無理だね」

「でも、私たちは使用人でしょ?いろんな人の部屋に入れる。まだチャンスはある!」


侍従長のエイデンは藪をつついて蛇を出す事を恐れ、犯人を捜せないでいた。

アン達は盗みのことを聞かれると思い込んでいたので、ずっと不安なままでいる。


――――――――――


「おおっ!牧場と呼ぶにはあまりに広大過ぎないか!?なんだこの土地は!」


レジナルドが感嘆の声をあげた。

気持の良い夏空に、緑の下草が風になびいて波立っている。

「素晴らしいでしょう。毎日見ていますが、飽きる事はありませんよ!」


マシューとビルも感動し、風景を褒める。

4人は無事オービター牧場の敷地内に入り、長い長い道を駈歩かけあしで駆けていく。

力強く馬が地面を蹴り、ぎゅんぎゅん進む。

「まったく、いつの間にか駈歩が出来るようになってしまったぞ!」


厩舎に到着し、馬から降りるとフラフラだ。

発酵焙煎チョコレート号を飼育員に任せ、背中からバスケットを降ろした。

約3時間ぶりの地面にモグラが喜ぶ。

「オホホ。帰りは3頭立ての馬車でお帰り下さい。ビルさん、あなた御者の訓練もしていますね?」

「もちろんです。いずれは執事免許を取得するつもりなので」


マシューはそれを聞いて話に割り込んだ。

「そうなんですね。今すぐ試験を受けて、ハインリヒさんと交代してくれてもいいんですよ?」

「まさかですよ!ハインリヒさんほど誠実な執事は見たことがありません。自分の仕事に間違いがないか常に疑っているそうで、消費税について私に質問してきたぐらい真面目な執事です」


レジナルドの顔がゆがむ。

「そ、そうか…まさか税金の事を何も知らないとか、そういうわけじゃないよな?」

「ちなみに私は計算が出来ないので質問に答えられませんでした」

「数字に強い執事に来てほしいぞ」


急な来訪にもかかわらず、牧場の職員はレジナルド達を丁寧にもてなしてくれた。

乾燥した服に着替えた後、少し早い昼食のサブマリンサンドウィッチにレジナルドはかぶりつく。

「よく俺のサイズの服の替えがあったな!」

「レジナルド様ぐらい恰幅の良い紳士やご婦人はそれなりに居らっしゃいますよ。着替えも乗馬服も種類を揃えてございます」


モグラはビルから食用昆虫を貰っている。

マシューが茶々を入れた。

「じゃあ、以前オーダーメイドのグローブを作らせようとしたのは、やっぱりサイズが無かったからではなく…」

「おっほん!ビジネスですから、まあ、もうムリをすることもございませんが」

「ああそうだ!俺は乗馬を続けるからな、無理して商品を売りつけようとしなくてもいい。だから、いい感じの乗馬パンツを作ってくれ!」


食事が終わると、どこからか仕立て職人が出てきて、風のようにレジナルドの体を採寸して戻っていった。

「さて。我がオービター牧場が誇る最強の装蹄師そうていし、シャルロッテをご紹介しましょう」


山の精霊のような女性が姿を現した。

待ってました!とばかりにレジナルドはチェアから飛び降り、対戦を申し込む。

「ホースシューズの世界チャンピオン!俺と戦ってくれ!」

「そのホースシューズバトル、受けて立ちます!」


マシューがメガネを拭きながら疑問を呈した。

「こんなホビーマンガみたいな世界観な事ってあります?」


――――――――――


「お互い、ルールは把握しておりますね?」

「ああ!」

「はい!」

「それでは、ゲームスタート!」


レジナルドは勝った!と言わんばかりの笑みを浮かべ、手に風を集め………集め………集め………。

「ちょ、ちょっと待て!」


カラン!

「手に風が集まらないんだ!」


カラン!

「オホホ!先にシャルロッテが得点を重ねているようですが?」


カラン!

「クソっ…こうなったら卑劣ではあるが、土魔法で相手の杭を倒してやろう…」


カラン!

「どういう事だ!?土魔法も使えないぞ!」


カラン!

「シャルロッテは魔法無効のユニークスキルを所有しているのですよ!」


カラン!

「なんだソレ~~~~!!!!」


レジナルドは仕方なく実力で蹄鉄を投げるが、もちろん杭にはかすりもしない。

カラン! カラン! カラン! カラン!

接待ホースシューズなんてできない真面目なプレイヤーのシャルロッテは得点を重ねていく。

「ま、まいった!俺の負けだ!!」


カラン! カラン! カラン! カラン!

その時、シャルロッテの杭が地中に沈んだ。

「!?」


さらに、レジナルドの杭がずずずーーーーっと彼の側に近づいてくる。

「まさか!?モグラ!!ありがとうな!」


卑劣なレジナルドはここぞとばかりに蹄鉄を投げまくる。

カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン! カラン!

「俺の勝ちだオラッ!!!!!!!!!!!!!」


地中から飛び出したモグラとハイファイブ。


――――――――――


その頃、カントリーハウスに改造ミルクセパレーターが届いていた。

「もう完成したんですか!?」


金物屋の女性が胸をドン!と叩いた。

「仕事が無くて暇なので、ずっとこの仕事に付きっきりでした!」


シェフがザラメ糖を中央の穴に入れた。

セパレーターの真下に埋め込まれている火の魔法石で加熱しながら回転させる。

遠心力によって回転窯から糸状になった砂糖が飛び出した。

「棒をください!」


フワフワと飛び出した砂糖の結晶は棒に巻きつけられ、見事な糸状の結晶が完成した。

「すぐに湿気ってベタベタになってしまうので、マシューさんがお帰りになられたらまた作ってくださいね」

「わかりました。ありがとうございます。それで、お代なのですが…」


執事がミルクセパレーター代の50万ゴールドに、加工代の50万ゴールドを上乗せした100万ゴールドを渡した。


馬車で帰っていく金物屋を見送りながら、さて、フィリップ王子もとい上級使者に、どうやってこの金額を請求しようかと悩む。

「ハインリヒさん、ちょといいですか?」


シェフとコックが、棒にまとわりついたフワフワの砂糖を口へ運んでいる。

「これ、くちどけ最高で美味しいですよ!」

「まさか、加熱されてフワフワになった砂糖が美味しいわけ………ムシャムシャ」

「甘くてすぐに唾液に溶けてしまいますね。こんなの食べたことがありませんよ」


執事のハインリヒにアイディアが浮かんだ。


――――――――――


アリディンバリスの郊外にある骨董屋。

相変わらず天井が軋んでキイキイと音を鳴らしている。

怪しげな商人がやって来て、珍しい品物はないかと尋ねた。

「非売品ですが、ございますよ」


老いた女性の店主が見せたのは”成仏できぬ水筒”だ。

「おお!これは…」

「貴族のユージェニー様が所有していたもので、レジナルド様にお譲りされたようですね」

「…人質となった今は、コレクションをこうやって末場の盗品商に持ち込まれているというわけか」

「盗品商とは人聞きの悪い。これでも骨董屋の端くれ、明るい場所に出向くときには美術商を名乗っておりますので」


商人の男は”成仏できぬ水筒”を手に取り、しげしげと眺めた。

「確かに”底なし”だな。はじめて見るが…噂通りの呪われた品だ。素晴らしい」

「数人にお見せしましたが、最高9000万ゴールドで売って欲しいと頼まれました」

「断ったのか!?」

「金じゃ売れない物もあるんですよ。一滴の水を求めて砂漠で死んでいった者達の、乾ききった魂が空気を乾燥させるのです。何とも言えないゾワゾワとした雰囲気を醸し出してくれる逸品で、1億ゴールド詰まれたって売るつもりはございませんね。私も色々見てきましたが、その中でも最も呪われた品です。間違いありません」

「しかしそれにしても、9000万の取引を断っただと!?バカな、商売人だろうが!」

「最後にはロマンを取ります。この歳ですしね。奥には用心棒の孫が控えておりますが、この仕事を任せられるほど目も頭も優れておりませんゆえ…いいだけ稼ぎましたし、ぼちぼち引退しようかと考えているところです」

「他のガラクタはともかく、”成仏できぬ水筒”はどうするつもりだ。国宝になってもおかしくないアイテムだぞ。今までは所有者がゾーフ国境沿いの有力貴族だとはっきりしていたから世界中のコレクターは大人しくしていた。しかし、一介の老婆が持っていると知られれば、身に危険が及ぶこともあるだろう」

「今、私を脅しましたね?」

「…そんなつもりはない。しかし、退職金があるに越したことはないだろう?俺にも少しのカネならある」

「いえ、本当にこの品を手放す気はございません。私も来世では、ユージェニー様のように馬に跨り、砂漠の盗賊共と戦ってみたいものです。この品を自慢できて楽しかったですよ。どうぞ他の商品を見て行ってください」


――――――――――


午後。

疲れ果てたレジナルドは馬車の中で眠っている。


ビルは御者として馬車の前に乗り、マシューはそんなビルの隣に座って彼を補助した。

なぜか先頭の馬の背中には、いっちょ前にモグラが座っている。

屋敷の門をくぐると、みながエントランスから出てきた。

「お帰りなさい!」


レジナルドが目覚めて馬車から降りると、甘い香りが鼻をくすぐった。

出迎えてくれた使用人たちはフワフワした綿のようなものを口にしている。

執事のハインリヒが経緯を説明した。

「おお!もう砂糖を熱して糸状にする機械に改造してくれたのか!金物屋は仕事が早いな!」

「甘くてフワフワで美味しいですよ。おひとついかがですか?」

「熱した砂糖を食べるぐらいならそのままボリボリ食ったほうが効率よく太れるぞ?」

「別に効率よく太りたいわけではありませんが?」


レジナルドがそれを口に含むと、ふわ~っと溶けて、何とも言えない夢見心地な味わいだ。

「ふむ、すばらしいな…」

「この砂糖を熱して糸状にしたものを何と呼びましょうか?」

「ううむ…コットンキャンディ花に似たものを作らせたくて開発したからな…」

「…」

「…」

「…」

「”砂糖を熱して糸状の結晶にした菓子”で良いんじゃないか?」


――――――――――


再び、アリディンバリスの古物屋の近く。

男は粘り強く、その店から店主の孫らしき人物が出てこないか待っていた。

夜の12時を回った頃、巨漢の男がのっしのっしと左右に体を揺らしながら、店の裏手から出てきた。

気付かれぬように後をつけ、酒場へ入った彼の傍に座る。

酒を運ぶサーバーの女性にビールを2つ頼み、店主の孫が座るカウンターの隣に移動した。

「一杯おごらせてくれ!私は旅の占い師なんだ!」


手相を見たり、タロットカードを並べたり、とにかく会話して相手の生活を聞き出し、同情して慰めるふりをした。

「サーバーさん、追加の酒だ」


コインを渡すと店員は喜んで酒を運んできた。

飲ませて、喋らせて、飲ませて、喋らせて、飲ませて、喋らせて…。

「そうか。自分のやりたいことと、実際に稼げる仕事が違うってのは悲しいよなぁ?」

「うん…」

消え入るような声で店主の孫は囁いた。

どうも演劇の世界への憧れがあるらしい。

が。

「骨董や美術品の世界は陰気で、覚える事もたくさんあるし、よくわからない世界だものなぁ?」

「うん…」

「気が弱くて用心棒なんて向いていないのに、体つきだけで判断されて、怒鳴る客の相手をしなくちゃならないなんて…同情するよ本当!」

「うん…ありがとう…」

「そういう繊細な心の持ち主なら、演技の仕事の方が向いているのは明白なのに、もったいないなぁ!」

「うん…舞台に憧れてて…」

「どうも祖母に囚われている気がするな。というか、そろそろ祖母も高齢だろう?古物屋の仕事を引退したいと言ってるんじゃないか?」


大男はコクコクとうなずいた。

「でも…田舎に引っ越すからついてこいって言われて…」

「なんだって!?!?!?君は夢を追いかけるべきだと占いの結果も出ている!もっと深い話をしよう。君の人生を良くすることに協力したいんだよ!」

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