人質生活28日目
深夜。
空腹で目覚めたレジナルドは、テーブルの上にあったパンやフルーツを食べた。
手紙の内容を思い出して泣く。
指輪が送られてこない。
要求を拒否されたのも悲しかったが、自分が王家と切り離されたと再確認してしまった事の方が、ずっと辛かった。
「…いや、思えばずっと前から切り離されていたのかもな…」
――――――――――
早朝のアリディンバリス、王城。
使用人のアンは兵士に絵画の山を渡していた。
そして兵士はアンに140万ゴールドを渡す。
「一緒に副業をしたヤツと分けてくれ。ひとり70万ゴールドだ」
「ありがとう…あのね、もうひとり増えたの。だって、私は疑われているからレジナルド様の部屋に入らないに越したことはないでしょう?だから稼ぎを4等分にしたいんだけど」
「何だって!?それはそっちの都合だろ!?俺は今まで通り、3分の1貰う。残りの3分の2をそっちで分け合えばいい」
「…それなら、あなたに渡さずに私が直接古物店に持ってくだけ。あるいは他の兵士に話をつけて通してもらえるようにすればいいんだから、その兵士とあらためてカネを4等分するね」
「ぐっ…」
ゼロになるよりは、4分の1でもカネが入ってきた方がいいに決まっている。
「わかったよ…チッ!」
絵画は乱暴に荷車に乗せられた。
「…それにしても凄い量だな?」
――――――――――
マシューはいつもと変わらない笑顔で挨拶した。
「おはようございます、レジナルド様」
「うむ…」
「上級使者様からのお手紙です。先に読ませていただきました」
「ああ!あいつの手紙なんて目に入れたくない!これからはお前か執事が全部読め!」
「そんな事おっしゃらずに。いいですか、明後日、上級使者様が屋敷に来られて、レジナルド様の魔法の能力を確認されるそうです」
「…へえ。でも昨日、聖職者長のルイスが来てくれたじゃないか?」
「そのことなんですが…教会へ行った後、私なりに調べてみたのです。どうやらレジナルド様のように5つの魔法の適性を持つ人物は、とんでもなく珍しいようで」
「んん?俺の祖母も5つ使えたぞ?ディヴィーナ先王様だ」
「そうだったんですね。確かに我々一般人…貴族の端くれではありますが。私からすれば、王家ともなれば4つ5つの適性があるのは当たり前のように思えます。我が国トーラティカの国王様、王子様も、4つの魔法適性があるそうなので。わざわざ確認に来られるとは、ご足労をおかけいたしますね」
後ろに立っている執事のハインリヒも頷いた。
「単純に、5つの適性が珍しいというだけなんでしょう。あまり深く考える必要はございませんよ」
レジナルドは頬の肉を引き締めた。
「…あの上級使者様は俺が王族だってことを忘れているんじゃないのか?」
マシューは咳をひとつして話を切り替える。
「毎日真面目に乗馬や語学の練習も良いですが、今日ぐらいは気晴らしをされてはいかがでしょう?」
「ほう?」
「天気も良いですし、朝食は軽めにとって、ランチを丘の上で食べませんか?夏らしい天気ですよ」
「ピクニックか!良いぞ!」
「セーラさんはもちろんお誘いするとして、従者をひとり…ビル、頼めますか?」
「もちろんです、喜んで御同行させていただきます」
レジナルドの心がパァっと晴れた。
――――――――――
アリディンバリスの王城、ダイニングルーム。
第一王子のブレンダンは朝食をとりながら、妹たちと会話をする。
「それでお兄さま、なにか手がかりはありましたか?」
昨日はエイデンと共に、アンダーソン宝石店に聞き込みに行っていた。
得られた情報を共有したい気持ちになったが、ダイニングルームにはきょうだいだけではなく、彼女たちの侍女も居る。
万が一ではあるが、”悪の組織”と繋がっている事も考えられるので、全てを話すわけにはいかない。
アデレートが反応する。
「上のお兄さまはお忙しいんだから、余計なことに気を回させないで!」
「いやいや、問題はない。それに誰かが何かを仕組んでいるなら絶対に推理…じゃなかった、解決したいという気持があるんだ」
イザベラは頷いた。
「叔父さまや叔母さま、いとこたちの仕業なら、最悪血が流れますね…」
「その可能性も大いにある…従者や侍女は、屋敷内のどこを歩いていても怪しまれないからな。自分の侍従に指示を出して、盗みを働かせているのかもしれない」
イザベラが険しい顔をした。
「ねえ…それなら…全部に納得がいくよね?だって盗まれた宝石は売り値が高いわけじゃないんでしょう?お金が目当てじゃなく、盗んで混乱させて、お互いを疑心暗鬼にさせることが目的だったりして…」
「仮定の話だが、もしそうだとしたら…カネ目当ての窃盗の何十倍も問題があるな」
アデレートは調子に乗る。
「じゃあ、私が指輪を無くしたのも策略のうちのひとつだったということ?ああ恐ろしい!」
「そういえば、お前が失くしたのは”ジャンプスケア・リング”という指輪らしい。驚かせることが目的のジョークグッズのような指輪だと調べはついた。レジナルドは居ても居なくてもトラブルメーカーなのだな」
「!」
このチャンスを逃す手筈はない。
「ど、どんな工程で作られていたのでしょう?失くしてしまった指輪だから、余計に気になるの」
第一王子はこれぐらいならいいだろうと、指輪にかけられている魔法の仕組みを説明してしまった。
「禁じられている魔法だからな。本には”呪い”とも書いてあった。指輪ごときに使ったから冗談で済んだが、まったく、その魔法を鏡にかけさせていたとしたら…!今頃、レジナルドのヤツは大変な目に合っていたかもしれないな!」
――――――――――
アリディンバリスの古物屋。
店主の老婆は、兵士を睨みながら大きくため息をついた。
「こちらとしても、細く長くビジネスを続けてくれるパートナーであって欲しいのですが…」
「いや、流石にこの量は…と俺も思ったんだ。でも、受け取らない訳にもいかないだろ?」
「まさかとは思いますが、壁に掛けてある絵画を外して持ってくるような真似はしておりませんよね?」
「…」
「しておりませんよね!?即刻バレてしまうでしょう????」
「い、いや、いくら何でもそこまで大胆にはやっていないだろう!」
「まったく…しかもオブジェの方を優先してくれと頼んだではありませんか」
「とりあえず落ち着けって!一旦コレを査定してくれ!」
不服そうに鑑定を始める。
「ふむ…ほお!」
「どうだ?」
「アリディンバリスで名を上げ始めた若手の画家の絵画でしょう。しかし最近のものではなく、数年前に購入されたようですね」
老女は額装を外す。
「ご丁寧にキャンバスの裏に購入の日付が書かれていますよ。しかし逆算しますと、レジナルド様がこれを購入なされたのは彼が10歳、11歳、12歳の頃だという事になりますが…先見の明があったのか、それともレジナルド様が購入されたことがきっかけで有名になられたのか…どちらにせよ青田買いは大成功でしたね」
「じゃあ…!」
「そんな幼いうちから見る目があったなんて、恐ろしいとは思いませんか?わが国は貴重な人材を他国へとやってしまったようで」
「いくらになる?」
「量も量ですから、ひとり75万ゴールド、掛ける3して225万ゴールドをお渡しいたしますよ」
「やった!………いや、待ってくれ」
兵士はガッ!と絵画を掴む。
「何をなさるんですか!」
「掛ける4しろ」
「!?」
当然、それはできない、売り値の225万ゴールドを分け合ってくれと店主は突っぱねた。
兵士は札束2つと25万ゴールドを胸に帰り道へ着く。
――――――――――
マシュー、セーラ、従者のビルと、そしてレジナルドは馬に乗って丘にやって来た。
木が並んだ場所に一頭ずつ馬を繋ぐ。
「ロープは余裕を持った長さに繋いであげてくださいね」
セーラは馬の背に括りつけてあったタライを降ろし、水を入れた。
ニンジンを近い場所に置く。
「うーん!本当に気持ちの良い天気だな!」
レジナルドは大きく伸びをして、腕をブンブン振り回した。
風が吹き、カラっとした暑さは清々しい。
顔を上げるとどこまでも水色の空に、白い雲が流れていた。
マシューも背中を反らせる。
「本当に気分が良いですね。この丘の芝生は丁寧に管理されているし、乗馬の練習だけに使うのは勿体ないですよ!」
セーラは笑う。
「レジナルド様がいらっしゃるまでは王家の方が使う避暑地でしたから」
「…王城に住まわせて貰えないと聞いたときは、人質なのに酷い扱いだと思ったが、まあ、住めば都だな」
「オホホ。王族のカントリーハウスはトーラティカのあちこちにございますが、どの屋敷もここより広く、庭も丘どころか見渡す限りの土地が敷地だったりします。レジナルド様は一番小さい屋敷をあてがわれましたね」
「ぐむむ…!!!やっぱり王城か王都に住まわせてほしいと、今からでも文句を言うべきだろうか!?」
従者のビルが広げたラグに、マシューが座る。
「まあまあ!ここは森一つ抜ければ王都なので便利な場所ですよ。ポータルも複数設置されていますし、町も小さいですが近いですし」
ビルはバスケットから水筒を出した。
3人分のカップにお茶を入れる。
「使用人が離れていたら用事を言いつけられないだろ!あの離れた場所に敷いた、お前用のラグをくっつけて、カップをもう1つ出して一緒に座れ!」
「わ、わかりました…!ありがとうございます」
4人は一緒のラグに座り、茶を飲んだ。
マシューが眉を下げながらレジナルドに言う。
「…さっきの話の続きですが」
「うむ」
「他国と交換している人質が王城に住んでいるのは事実です」
「ふん!知ってるぞ。ここへ来る前に習ってきたからな、まったく。交流に支障がないよう、名前まで覚えさせられたっていうのに。お前らの王は、俺を他国の人質と関わらせたくなかったようだな?」
「その通りです。アリディンバリス王国に勢いがあるのは事実なので…レジナルド様と交流を持つことを避けたかったのでしょう」
「…とんだ見込み違いだったな!俺にそこまでの影響力は無いぞ!ワハハ!」
「腐っても第二王子ですから」
「腐ってないが?俺はゾンビか?」
セーラが軽食のサンドイッチをつまむ。
「王族なのに、王城に住まわれていないのを見ると…少し心苦しいですね」
「少し?沢山苦しがってくれてもいいんだぞ?」
「実際、不満ですか?」
「…」
レジナルドはサンドイッチを一度に2つ取った。
「レジナルド様、お行儀が悪いですよ」
「チッ」
「ひとつずつ食べましょう」
「ああ…最初は不満だったし、当然、侮辱されているとも感じた。だがまあ納得は出来る。今マシューが言った国同士の兼ね合いもあるだろうし、何より俺の評判が悪いことを俺自身が知っていたからな。万が一、王城でトラブルを起こされたらかなわないと考えたんだろ」
「…」
「言っておくけどな!俺がアリディンバリスの劇場や街で起こした騒ぎは、従者が持ってきた問題を解決するためだったり、気に入っている店から嫌な客を追い出すためにやったことだったり、ちゃんと理由があるんだぞ!勝手に用心棒を名乗って、みかじめ料を取ろうとするバカ共の拠点に乗りこんだこともあった。それなりに………いや、暴れてケガ人を出したり店をぶっ壊したこともあるが…俺自身もケガが絶えなかったし…でも、それなりに正しい事だったと考えている!」
セーラは腕を組んだ。
「お父上の国王様は、さぞかし胸を痛められていたでしょうね?」
「ふん!繁華街を汚らわしいものだと決めつけて兵士を常駐させないものだから、ぼったくりの店が出たり、盗品を捌く店が固まって勝手にその地域を支配したり、誘拐された人間を働かせていたり、とにかくめちゃくちゃだったんだ。国が大きくなって人が増えても、統治のシステムが100年前と変わらないなんて愚かだろ!」
マシューは首を振った。
「平民は転生させ女神様から愛されていないんですよ。どうしようもない者達を助けていると際限がありません」
セーラも悲しげな顔だ。
「お気持ちはわかりますが、第二王子様が直接出向かれるべき場所ではなかったでしょう。身分を考えると、”もしも”のことがあった場合…」
「ハッ、お前らも臣下やお父さまと同じことを言うんだな。俺の理解者はお兄さまだけだ!お兄さまだけは、後先考えず思いっきりやりたいことをやって、どんな危険な場所でも首を突っ込み見識を広げて来いと俺の背中を押してくれた」
マシューは少し首を傾げた。
「…お兄さまの第一王子様は、ご自分が王位を継承するから、弟のレジナルド様には思うままに生きてほしかったのでしょうか」
「いや、役割分担というヤツだ」
「ほう」
「お兄さまは王になり、政治をやる。つまり厳しい部分を担当するわけだ。そして俺は国民の目線に立って楽しいことをやる。子供の頃から何度も聞かされていた計画だ」
セーラは笑った。
「それは”あっちへ行ってろ、重要な事は私が決める”というメッセージですよ」
マシューは慌てる。
「セーラさん!」
「いや、いいんだ。実際その通りだし、やはり兄は賢い。歴史を少し学べば、きょうだいが王座を争って血を流した前例をいくつも習うだろう?家族なのにお互い疑いあって、毒殺を心配しなければならないなんて嫌だからな。だからお兄さまは俺に”降りろ”と提案してきたし、俺はそれを呑んだ。優しいから楽しいことをやる方を与えてくれたわけだ。感謝している…」
レジナルドの頭に、昨日の手紙の文面が浮かぶ。
兄からの追伸だ。
”できないこと、無いものではなく、そこにあるモノを数えて、増やしていってほしい。これは私たちがお前にしてやれる精一杯のことで、これ以上に求めてこないでほしい”
マシューがリンゴをレジナルドに渡した。
「レジナルド様、甘いものをどうぞ」
「…なあマシュー」
「はい」
「昨日の手紙についてだが…結局、指輪は…いや、指輪だけでなく、他のモノも、もうアリディンバリスは送ってはくれないだろう」
「あの文面ですと、そうですね」
「だから、新しい指輪を作らせようと思うんだ。予算使用の許可は下りるか?」
「高額でなければ問題ないかと」
「なら、考えがあるのだが…」
その時。かなり離れた森の方から、白い何かが飛び出した。
「あれは!?」
「マクデブルク一角獣です!!」
皆が恐怖で立ち上がった。
茶の入ったカップが地面に落ちて割れる。
マクデブルク一角獣はユニコーンの一種で、穏やかだったり凶暴だったり性格は色々だ。
ちなみに我々が住んでいる地球にも復元骨格標本があり、ドイツのマクデブルク(偶然にも名前が同じ!)に展示されている。
気になる方はインターネットで検索してみてほしい。
このモンスターは普段は森から出ることはないが、気まぐれな個体がいたのだろう。
「みなさん!下がってください!」
マシューが護身用に持ってきていた剣を鞘から出した。
「お前、剣術なんて習っていたのか!?」
「これでも貴族ですよ!セーラさん、レジナルド様を馬へ!」
「レジナルド様、早く!」
「待て!マシューが強いわけないだろ!メガネをかけた中年の通訳だぞ!?モンスターなんて倒せるのか!?」
ビルが走って発酵焙煎チョコレート号の手綱を引いてきた。
「屋敷へお戻りください!さあ乗って!」
ワタワタしている間にマクデブルク一角獣は近づいてくる。
マシューは剣を構えるが、腰が引けていて、いかにも素人の格好だ。
セーラが前に出て風魔法のウィンドカッターをモンスターにぶち当てる。
が、あまり効いていないようだ。
レジナルドは焦った。
「ビル!お前が使えるのは…ライトだけか?」
「赤いライトも使えます」
「…っ!」
レジナルドは発酵焙煎チョコレート号の手綱をビルに渡し、ドスドスと走ってモンスターに近づき、土魔法を使った。
「レジナルド様!危ないですよ!」
「俺が足を止める!動かなくなったら剣を振るえ!」
「!」
セーラは後ろに下がり、マシューは道をあけた。
レジナルドはマクデブルク一角獣が走って来る場所の地面をぬかるませ、足を地中に沈めさせる。
モンスターは空気を震わせるような大声でいな鳴いた。
木に繋げてある3頭の馬が暴れ、その場で大きくジャンプする。
発酵焙煎チョコレート号も、手綱を握るビルをブンブンと振り回した。
「どうだ!もっと沈みたいか!?」
レジナルドは水魔法と土魔法を組み合わせられることを発見し、広範囲の地面を柔らかくする。
マクデブルク一角獣は足だけでなく、体までズブズブと土の中へ沈んでいく。
他のユニコーンと違い二足歩行+大きな筋肉の塊の尾でバランスをとっているので、泥から体を出すのは難しいようだ。
必死に暴れるのであちこちに泥が飛び散る。
「ありがとうございますレジナルド様!地面を固めていただければ、私がとどめを刺しま…」
「待て!危険だ!」
モンスターは動かせる首をブンブンと振り、頭部のツノで攻撃しようと頑張っている。
「あの鋭いツノに刺されば死ぬぞ!近付くのは危険だ!!」
レジナルドは両手に炎を灯した。
「鼻の周りに、火をまとわりつかせて窒息死させる。動かなくなったら接近してくれ!」
「…わ、わかりました…でも、そんな事…」
マシューが”できるのですか?”と聞く前に、レジナルドはファイアボールをマクデブルク一角獣の顔に向けて撃っていた。
最初は顔面にだけまとわりついていたが、彼がせっせとファイアボールを追い打ちするので、やがてモンスターの体全体が火に包まれた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………
「…」
3人が立ち尽くして見守り、さっきまで暴れていた馬も、じっと動かなくなる。
レジナルドは火炎放射器のように火を連続して手から出すことを覚え、マクデブルク一角獣を火柱に閉じ込めていた。
夏の晴れた青空に、火の柱が高く燃える。
――――――――――
「黒焦げだなぁ…」
「とどめを刺す必要、ありませんでしたね…」
すっかり炭と化した燃えがらを見つめて、4人は腕を組んでいた。
「レジナルド様、いつの間にこのような技術を習得されたのですか?」
「やってみたら出来た」
セーラがオホホ!と笑い、ビルはため息をつきながら手綱をレジナルドに渡した。
「本来なら私のような従者が身を捨てても主人を守らなくてはならないのですが…逆に、レジナルド様に救われてしまいました。ありがとうございます」
それまで、ちょっとだけ主人を舐めたような態度を取っていた発酵焙煎チョコレート号が急に”撫でてください、ボス!”と言わんばかりに長い首を差し出してきた。
マシューも汚れたメガネを外しながら喋る。
「レジナルド様にお怪我が無くて本当によかったです。ちょっとこの剣の柄を握ってみてください」
「おお、ホカホカだな」
「剣に火をまとわせてモンスターを切ってやろうと考えたのですが、柄を温める事しかできませんでした」
「そう落ち込むな…冬場に最適じゃないか、特許を取っておけ?」
喋りながらレジナルドが剣に魔力を込めると、刃に炎が登って燃える剣になった。
――――――――――
4人は屋敷に戻る。
クタクタに疲れたレジナルド達を見て、執事と使用人たちは驚く。
セーラは「土産話が出来ました」と笑いながら帰路についた。
流石に全ての魔力を使い切り、レジナルドはぐっすりと昼寝をしていた。
しかしそれも3時ごろに起こされる。
「町から仕立て職人が来てくださいましたよ!」
使用人の言葉にぴょーんと飛び起きて、元気いっぱいで仕立て職人を出迎える。
応接間のテーブルには、サイズが小さく直された夜会服が広げられた。
「試着前に、刺繍をご確認ください」
パープルの裏地にあしらわれたカラフルな刺繍を見て、レジナルドはニヤっっっとニヤつく。
「………うむ!初回と考えると納得できるだろう」
「えっ!?」
「この紋章を小さくして、使用カラーを1色に落としたパターンも作っておいた!」
「ヒエッ…」
単色&ロゴ化されたシンボルが職人の手に有無を言わさず渡される。
ビルが着替えを手伝い、レジナルドはサイズを直した夜会服とコートに身を包む。
「なるほど、頼んだ仕事をこなせる腕はあるようだな」
「ありがとうございます」
「…パジャマを頼みたいのだが。いいだろうか?」
「パジャマですか?」
「うむ。アリディンバリスから持ってきたパジャマの生地が伸びてしまい、今の体とは合わないんだ」
レジナルドは種類の違う素材を使い、同じ寸法のパジャマを5セット作るように命じた。
「わかりました。採寸は前回いお会いしたときにしましたから、合うように作らせていただきます。ところで、なぜ素材を変えるのでしょうか?」
「より良いものを探すためだ。ああ、単色&ロゴ化したシンボルを胸とパンツの足元に刺繍するように」
「わかりました」
見積もりを出させ、ビルにそれを執事に渡してくれと言いつけた。
「…ところで。この町にはジュエリー職人は居るか?」
「それが、小さな町ですので専業の者はおりません」
「サイズの直しはどうしている?」
「簡単な仕事なら魔法道具を扱っている店か、金物屋、装身具屋で出来るはずですが」
「専業の職人は諦めるとして、イチからリングを作らせるとしたらどこだ?」
「装身具を扱っている店なら多少のノウハウはあるでしょう。確か手作りの髪飾りやブローチを販売しています」
レジナルドは仕立て職人に町の事を詳しく聞いた。
「俺はこの屋敷から自由に離れられないんだ。しかし、どうしても美果の月の31日の舞踏会までにアクセサリーが欲しい」
「作らせることは可能でしょうね。有り物の中から選べば早いでしょうが」
「なら、在庫も持ってくるように伝えてくれ。早ければ早いほどいい。明日の午後はどうだろうかと聞いてくれ」
「可能だと思いますが、もし他に予定が入っていると言われたらならお屋敷に戻り、その旨を使用人のどなたかに報告します。明日来ることが可能なら、町に帰ったままで居ます」
レジナルドはよしよしと紙にメモを書いた。
明日の午後、屋敷に来て欲しいこと。
明日が無理なら一番早く来られる日に来て欲しいこと。
指輪の製作を頼みたいが、無理でもいい、それとは別にジュエリーの在庫を持ってきてもらいたいこと。
同じメモを2枚作って1枚を仕立て屋に渡した。
――――――――――
「パジャマですか?」
マシューは意外だという声色で尋ねた。
「予算が下りないか?」
「まさか!夜会服の何倍も安いですからね」
「そういえばな、明日、装身具を扱っている店に来てもらうようにした」
「おおっ、指輪を買われるのですか?………アリディンバリスの王家からのお手紙をお返ししますよ」
「捨てろと言っただろ?」
「そんな事ができるわけないでしょう。隣国がレジナルド様の返信をお待ちになっているんです。絶対に返事を書いて送ってください」
「今はそんな気分になれない」
「…わかりました。素敵な指輪が見つかるといいですね」
レジナルドは胴体の横に手を当て、えっへんとしている。
「その指輪のことなんだがな、いいアイディアがある!コットンキャンディ花が埋め込まれていないリングの作り方を知っているから、作らせればいいんだ!」
――――――――――
マシューは問答無用でキッチンへ連れてこられた。
「ミルクセパレーターはあるか?」
シェフとコックは振り向く。
「ございますよ」
「これをぶっ壊して、ふわふわの砂糖を作るマシーンに改造してもいいか?いいな?」
「ぶっ壊すと、牛乳を生クリームとスキムミルクに分離することが出来なくなり、生クリームからバターを作ることが出来なくなりますが、よろしいのですか?」
「バターを作れなくなるとかデブへの死刑宣告だろ!?何とかしろ!」
ハンドルがついた手動の遠心分離機を眺めて、マシューはため息をついた。
「そもそもが、ここは王城ではないのですから金属を扱える鍛冶工房はありません。職人も居ません」
「じゃあ…どうすればいいんだ!?」
「調理器具を売っている金物屋に行って、特別な道具を作らせればいいんですよ」
「…予算が下りるか?」
「事前に許可を求めればダメと言われるかもしれませんし、その前の判断にも時間がかかるでしょう。作らせてから後出しで請求すれば何とでもなりますよ」
「あっ、大人の嫌な部分だ」
レジナルドはマシューに、コットンキャンディ花が埋め込まれていないリングの作り方をあらためて説明した。
破られたノートにびっしり文字やら絵やらが描かれている。
「…水晶を溶かして、コットンキャンディ花を模した砂糖を埋め込み、また固めるんですよね?」
「そうやって王城の職人たちは作っていた」
「土魔法は低レベルで土や砂を、中レベルで石を、高レベルで金属を操ることが出来ます」
「うむ」
「水晶、つまり石ですが…中レベルの土魔法を扱えるものがこの町に居るかどうかわかりません。能力を持ったジュエリー職人を探すのに時間がかかるでしょう」
「そうか…」
「金属やガラスなら、高温になる炉や、火の魔法石がついたバーナーで炙って加工できます。魔法の適性がない者でも扱えるということです。しかし、石は難しいですね」
レジナルドは両手を広げた。
「俺が使えるようになればいい!」
「えっ!?」
「そこら辺の石を溶かせるようになったら水晶を加工することも出来るよな?早速練習だ!エントランスに丁度良く茶色い円筒形の石が落ちているからこれを使うぞ!」
「それモグラですよ?」
握られたモグラはつぶらな瞳でレジナルドと見つめ合った。




