人質生活16日目
「やあレジナルド様!久しぶりだね~。今日は城下町をご案内するよ」
「上級使者様、そこまで久しぶりでもないぞ。というか1週間前に夕食をご一緒したではないか。ああ、酒に酔ってその日の事を忘れてしまったのか?」
「…っ!!!!」
フィリップ王子は馬車にレジナルドとマシューを乗り込ませた。
王子の護衛もついているので、4人が車内にいる。
御者の両脇にも護衛が乗っているので7人もの男性が1台の馬車に乗っているわけだ。
4頭立ての豪華な馬車が土の道を走る。
馬の足音と車輪がかなりうるさいので、大き目の声を出して会話する。
「最近の暮らしはどうかな?」
「おかげさまで、快適に過ごさせてもらっている」
「そうか。でも娯楽もなくて、楽しみは食べることぐらいだよね?」
「いや、トーラティカ語の勉強に忙しいんだ。今日は本屋へ寄ってもらえると嬉しいんだが」
「!」
本屋、というワードが出て来て内心フィリップは驚く。
「(勉強や教養からは無縁な人間だと聞いていたんだが…)えっと、それは通訳のアイディアかな?」
「ああそうだ。マシューが、語学の勉強には本が必要だと教えてくれてな」
「フフッ!やっぱり、なるほどね。いやぁ大変だ」
マシューは微笑んだ。
「レジナルド様は天才ですから、教えたことをすぐに覚えられて実践なされるんです。テキストとして本を購入することを許していただければ、トーラティカの素晴らしい文化、歴史も学べますし」
「うんうん、それはもちろん許可するよ」
「文房具店にも…」
「うんうん。勉強は大事だしね。でもその前に、ぜひレジナルド様にご案内したい店があるんだ」
王城を横目に通り過ぎていく。
住宅や商店が密集している場所を通る。
「ここは王都の中でも旧市街地と呼ばれる地域なんだ。今は王城から少し離れたところに、整備された商店街が作られているんだよ」
「ほー!古い町並みがそのままでいいな!」
「それでいて、ちょっと行けば緑を残すように整備された近代的な中心部もあるからね。環境都市工学のたまものだよ」
「か、かんきょう…とし…こうがく?」
「ハッハッハッハ!王城の周辺はどうしても巨大都市になるからね!侵略や自然災害に強い都市の設計には、積極的に国が関わっていかないといけないんだ。苦労の連続だよ!」
「…上級使者様は大変だな。王家と、土地の管理者との間で親書をやり取りしたり、契約に立ち会ったりするのか?まるで自分が王都の整備に携わっているような口ぶりだものな」
「えっ?あっ…いや…」
勝手にレジナルドが使者としての仕事を妄想してくれたから助かった。
「も、もうすぐ案内したい店に着くよ!本屋や文房具店の前に、乗馬用品店に連れていきたくてね。聞くところによると、すごく熱心に習っているそうじゃないか」
「うっ…」
まさか、昨日インストラクターに怒られて、辞める!と騒いでいたとは言えない。
「あ、ああ…乗馬用グローブだけはもう買ったんだ」
「グローブは一番に必要になるものだからね。でも、ブーツやチャップス、キュロット、ヘルメットなんかはまだでしょ?」
「気遣い感謝する…ハハ…」
さすがに初めて2週間程度で音を上げたとは格好が悪い。
まだ乗馬やってます、という体で乗馬用品店に入った。
店内は広く、輝いている。
マシューも思わず感嘆した。
「おおっ、すごい店ですね」
「そうでしょうそうでしょう?店主!」
店の主人が微笑みながら挨拶した。
「では早速だが、レジナルド様に良い品はないだろうか?」
「まずはブーツなどいかがでしょう?」
全て話はついているので、高額で、レジナルドでも履ける大きなサイズのブーツしかない。
マシューは慌てた。
「お、王…じゃなかった、上級使者様!ここに並べられたブーツ、どれも相当なお値段に見えますが…」
「黙っていろ」
「えっ?」
「一流の人間には一流の品が必要なんだ。ねっ?そうですよねレジナルド様~?」
「…う~ん…いや、どうかな…」
「(あれっ?思ったより反応が悪いな…?)」
商人が揉み手で喋り出す。
「ご説明いたしましょう。このブーツは黒鉄シープの黒鉄ウールで編まれており、大変貴重なものなのです」
レジナルドは商人の言葉に食い気味に答えた。
「そうだな。見た目も綾織りで美しい。黒鉄ウールは軽く丈夫で、薬品耐性、熱膨張、振動減衰、耐凍性、耐UV性、電磁波遮蔽性に優れている。しかしなぁ…」
フィリップは口を押えた。
「(コイツ、オタクだ…!)」
「修理が困難なんだ。層と層が剥離してしまうともう全部ダメだし、革のように応急処置で縫い合わせたり、一部だけを交換修理するというわけにはいかない。そもそも破断した繊維が足や馬を傷つける可能性についてはどうなっているんだ?」
商人は話を変えようとした。
「こちらのブーツも素晴らしい品ですよ。この装飾をご覧ください…」
「黒鉄ウールは接着性が低い事でも有名だろ?」
レジナルドはブーツをひっくり返したり、中敷きを引っ張り出して色々観察する。
「そうだよな。ラバー底とブーツ本体を固定するための釘だが、これが平織の黒鉄ウールを傷つける要因になっている。でも釘で留めるしかないもんな?接着剤だと黒鉄ウールは…」
マシューは肩を震わせ笑っている。
商人はレジナルドのオタクトークを遮るように喋りを被せた。
「エンチャントされたブーツはどうでしょうか。”あぶみの恋人”魔法は、あなたの足をあぶみから引き抜かせませんよ?」
「危険すぎるだろ、常識的に考えて」
「………では、ヘルメットをご覧ください」
「ふむ」
「こちら、モルリヴァールで11代続く馬具職人の家系の、グラス氏が手掛けたヘルメットでございます」
フィリップが激怒した。
「何だと!?!?!?超貴重な限定商品で今買い逃すと二度と手に入らないと言っていたではないか!?!?!?」
「し、新作が手に入ったのです!」
「…そうか、ならいい」
「…それでは気を取り直して。このヘルメットは…」
「おーっ、金剛アルマジロの殻だな!ということは、置き物か。これは立派だ。買ってやってもいいぞ。専用の置き台も欲しいな」
「ま、待ってくれレジナルド様!おい店主、置き物とはどういう事だ!?」
「何をおっしゃいますやら、実用面も大変優れておりますよ!」
レジナルドは店主の手からヘルメットをひったくる。
「そうか?俺は乗馬のことはよく知らんが、ヘルメットはたくさん見てきた。装飾目的のヘルメットでなければ、どれも頭部への物理ダメージ、魔法ダメージを軽減するために緩衝材が入っているものだ。しかし、金剛アルマジロの殻はめちゃくちゃ重いうえに剛性がないし、ただ硬いだけで、肝心の頭部にはダイレクトに衝撃が伝わってしまうだろ?だから置き物かと思ったんだ」
レジナルドはヘルメットをひっくり返した。
「ほら見ろ、裏もカッチカチの透明樹脂で作られている…うん?」
商人は慌てる。
「あ、あちらのジャケットにご注目!やめて中を見ないで…」
「おお~フェニックスもどきニワトリの羽か」
フィリップは叫んだ。
「店主!!!!!!!!!!!!」
商人の胸ぐらに掴みかかる。
護衛が止めに入った。
「王子様!落ち着いてください!おい店主、お前にはしかるべき罰を与えるからその心積もりをしておけ!」
「ヒッ…」
マシューはレジナルドの背中を押し、店の外へ出た。
ぶ厚い木の扉越しに怒鳴り声が聞こえる。
「王子って?」
「ちょっとよく聞こえませんでしたね~?何かの言い間違えでしょう…ところで、フェニックスもどきニワトリの羽に、なぜあんなに上級使者様が反応されたのでしょうね?」
「ああ。フェニックスの羽と偽って売りつける輩が多いからな。もしかしたら騙されたのかもしれん」
「えぇ…」
「恥じることはない。騙されて、フェイクを掴まないと本物を見分ける目も育たないからな」
「…」
「服オタへの道のりは厳しいんだぞ?」
「はぁ…」
――――――――――
本屋では無事、古典劇を書籍化したものを手に入れられた。
文房具店では高級なレターセットを購入したので、マシューが上級使者に確認する。
「かなりの金額になりますが、本当に良いのですか?」
「う、うん…”人質の唯一の気晴らしは手紙”という慣用句もあるじゃないか…」
「元気が無いようにお見受けされます…」
「いやちょっとね。こっちの…完全にこっちの都合なんだけど…」
「…王子様」
マシューがささやいた。
「(クーリングオフと言って、数日間は契約を解除できる仕組みがあるようですが…?)」
「(さっき護衛から教えてもらったから大丈夫だ。虚偽の商品説明で購入してしまった場合、返品さえすれば全額返金されるらしい)」
「(よかったですね)」
「(ああ…しかし…泣きそうだ!!!!!!)」
しょうもない会話のすぐ近くで、レジナルドは黄金の鍵付き日記帳を手にしていた。
文字消失エンチャントが付与されており、透明インクもセットで付いている。
「”ハイパーシークレット・ダイアリー”…これも欲しいぞ!」
――――――――――
帰りの馬車の中。
マシューがサンドイッチの入ったバスケットを出した。
いつの間にか街で買ってくれていたらしい。
「もうお昼ですし、軽く食べませんか?」
「おおっ!ちょうど腹が減っていたところだ!気が利くな」
レジナルドはフィリップと彼の従者にも勧めた。
「上級使者様もどうだ?」
「もちろんいただくよ。小腹が減っていたんだ」
そうは言ったが上級使者ではなく、護衛である従者がサンドイッチを受け取った。
半分に分け、食べる。
それを数秒見てから受け取り、上級使者もサンドイッチを食べる。
「まるで毒見をしているようだな?王城で暮らしていた頃を思い出すが…まさかお前、トーラティカの王子だったりしないか?」
「!!!!」
フィリップは喉にパンを詰まらせてしまい、激しくむせた。
「そ、そんなわけないじゃない!」
「ハハ!そうだな。どんなに暇な国の王子でも、人質を週一で訪ねてきて、ちょっかいをかけるような品の無い真似をするわけがないからな!」
咳をしながら、フィリップはマシューに飲み物はないか尋ねた。
――――――――――
アリディンバリスの劇場。
「今日も昨日に引き続き、気合い入れてヤルぞ!」
「おう!」「おー!」「おう!」「おー!」「おう!」「おー!」
興行主は満足気だ。
前日に初公演を迎えた”ふとっちょ王子、隣国で虐げられてもう限界!”は大盛況だった。
このままの人入りが続けば、公演の延長もあるかもしれない。
同じ劇場で午前中は”ぽっちゃり王子~財力カンストで自重してと言われてももう遅い!暗黒と光明のパラドックス最強神魔法の使い手の転生妖精999人に愛されチート生産スローライフ実況~”を上演し、午後からは”ふとっちょ王子、隣国で虐げられてもう限界!”を演じるという二毛作だ。
舞台監督が紙の束を持ってきた。
「支配人!客の感想をまとめました」
「よしよし、これを参考にブラッシュアップしていけば、もっといい劇になるからな…”タイトルが短すぎる”…ああ、これは指摘されると思ってたんだ!」
脚本家は頷いた。
「”~まさかの女神に愛されわがままボディ!ざまあする気なんて無かったのですが!?”と付け足しましょうか?」
「それだ!!やはりお前は才能があるな。これからも期待しているぞ!この劇団はお前無しではやっていけないからな!100人の従業員とその家族の生活を背負っているわけだ。ますます仕事に励んでくれ!おっと、臨時手当を付けとかないとな!ワハハ!」
転職し辛くなってしまった。
脚本家が眉間にしわを寄せているその横で、舞台監督もまた渋い表情だ。
「支配人、主人公のルックスについてですが。やはり服の下に詰め物をしているのは見栄えが良くありませんね。180kgとまでは言わないものの、もう少し恰幅の良い演者をスカウトできないでしょうか?」
――――――――――
同じく、アリディンバリスの宝石店。
店の奥にはジュエリー職人の工房がある。
女性の職人と、キャリアを積んでいそうな白髪交じりの男性の職人が居た。
「…これ、何が埋め込まれているかわかりますか?」
「いやそれより…このサイン、王宮工房の職人のものだ」
「…職人は口を出さず、どんな仕事にも寡黙に向き合うこと。でしょう?」
「まあな」
本物を盗まれたら困るので、そっくりな贋作を作ってほしい。
そうオーダーされたのはいいが。
「贋作は普通、それを作った工房に頼むものだ。その方が話が早いし、そもそも他の職人に頼むのは指輪の持ち主の信用問題にもかかわる」
「…城の職人に頼めない事情があるんでしょう。それより、水晶の中に何が埋め込まれていると思います?」
「うーん、ピンク色の繊維だな」
「毛、髪、植物?」
「いろいろ試してみるか」
贋作作りで一番大切なことは、贋作作りを成功させることではない。
本物のジュエリーを傷つけないようにすることだ。
分解して詳しく調べたりすれば、職人がどれだけ慎重に元に戻したとしても、必ず以前と違う部分が出来てしまう。
そして持ち主はその些細な違いに気付く。
拡大鏡を近づけたり、様々な色の光を当てて様子を伺う。
「…透明水晶の中に、ピンク色の繊維が埋め込まれているので間違いない」
もうひとりの職人が材料棚から該当しそうな素材を出し、水晶の下に置いてみる。
「…コットンキャンディ花の綿毛に似ていますね」
「少し違うように見えるな…?」
「コットンキャンディ花の近縁の種類の綿毛を集めてみましょう」
「国中、いや大陸中から手配するとしたら、それだけで3か月はかかるぞ」
「一旦指輪は持ち主ににお返ししましょう。確か”3週間以上かかりそうなら返却しろ”と備忘欄に書いてありましたから」
――――――――――
アリディンバリスの王城、レジナルドの部屋。
本当なら隣の部屋の掃除をしなければならない使用人2人が、人目を気にしてこっそり忍び込む。
「今回は”ユニコーンの滴”って書かれたキラキラの瓶だよね?」
「これだ…すごくギラギラしてるけど、シーツに包んでも光りが漏れちゃうんじゃない?」
「まずいな、どうしよう。今日は別のオブジェを盗んで、明日、厚手の布を持ってきた方が…」
「…」
「…?」
もうひとりの使用人が固まっている。
「どうしたの?」
「宝石箱、指輪がひとつ無い」
「えっ!?」
恐ろしい事に、中央にあったはずの指輪が抜かれていた。
上面がガラス張りの宝石箱なので、すぐに違いに気付ける。
「…こんな事って…!!!!」
「どうしよう、泥棒がいるんだ!」
どの口が。
「けど、城で働いてるヤツじゃないね。侍従長が貴金属を月に一度、リストと照らし合わせている事を知らないんだから。すぐにバレるってのに…」
「単発の犯行なんでしょ。私たちみたいに城の内情に詳しくないから、バレるとかバレないとかどうでも良かったんだよ」
「…それならもっとゴッソリ持ってかない?」
「うーん、気が小さかったのかも」
「どうしよう。指輪がひとつ無くなってたら、絶対に真っ先に私たちが疑われるよね?」
「だよね。第一王子様が部屋の掃除を命じて、その仕事が私たちに割り振られたんだから…あっ!閃いた!」
「?」
「自主的に清掃に来て、そこで指輪が無くなっている事に気付く。それで報告しました。ってのはどう?」
「それだ!」
確かに彼女たちは指輪泥棒ではない。
大ごとにならないようにひっそりと使用人長に伝え、使用人長は侍従長にひっそりと伝える。
侍従長と…”その補佐官”…が部屋に入り、宝石を確認していく。
騒ぎが大きくならないように配慮したが、コソコソ動いたのが逆に怪しかったのか数名の臣下が気付き、第一王子と共に部屋に入ってきた。
話は大ごとになってしまった。
「確かに、ひとつ足りませんね」
「これに気付いた使用人はいるか?」
その使用人の2人はひざを折り床に付け、祈るようなポーズで潔白を主張した。
「信じてください!第一王子様から従者、従者から使用人へと、”第二王子様のお部屋の清掃”が命じられ、ただ自分の仕事をしただけなんです」
「誓って宝石箱に手を付けてはいません。数日前に清掃に入り、今日は時間に余裕が出来たので、自主的に掃除しようと思い、第二王子様のお部屋に来ただけなんです…」
侍従長は第一王子に尋ねる。
「王子様、本当ですか?」
「ああ。主がいない部屋だからといって、埃が積もっているのはあんまりじゃないか。それに手紙交換はここを指定されているしな。確かに私がこの部屋の清掃を命じた。従者が使用人に命令してくれたんだろう。そこでたまたま声をかけられたのが彼女たちだったんだな」
「なるほど…申し訳ございませんでした。侍従長である私が、週に一度、清掃に入らせると取り決めておけばよかったのですが」
「いや、お父さまはレジナルドに関する事柄に労力を払うのを嫌う。誰も介さずに私が頼んだからこそ、スムーズに指示が伝わったのだろう」
侍従長は王子に向かって深く頭を下げた。
補佐官であるエイデンも同じ姿勢を取る。
第一王子は誠意のある表情でみなに語りかけた。
「…このことは、国王様の耳に入らないように内密にできないだろうか?」
第一王子の言葉に、部屋の中にいる誰もが驚いた。
「そ、それはどういう…」
「レジナルドが悪いわけじゃない。当たり前だ。しかし、このことをお父さまに報告すれば、本人が居ないにも関わらず息子のために頭を痛めなければならないのかと、レジナルドの事をさらに疎ましく思うはずだ。違うか?」
臣下はうなずいた。
第一王子は続ける。
「お父さまにはこれ以上、弟のことを嫌ってほしくないんだ。宝石のことだが、盗まれないよう…まあ、本当に盗まれたかどうかは怪しいが。宝物庫に移動させるといい。あそこなら兵士が24時間見張っている。盗難の心配はない」
「王子様!」
補佐官エイデンは声をあげた。
「”本当に盗まれたかどうか怪しい”とは、一体どのような…!?」
「…父の手前では言えなかったが、侍従長」
「はい」
「お前が国に、そして私たち王家に尽くしてくれた事は良くわかる。しかし客観的に見て、もう満足に働ける状態ではない」
「その通りでございます」
「リストの文字もよく読めないのではないか?」
「…」
「後進を育てると言っていたが…エイデンだったな。まだ侍従長の仕事を学び始めてひと月も立っていないだろう」
「はい。至らぬ点ばかりでございます」
「この2人が貴金属保管を担当しているわけだ。見逃しもあるだろう。つまり…レジナルド本人が指輪を持ち出したんじゃないのか?」
「!」
部屋に居た全員が驚いた。
「あまり弟の悪口は言いたくないが、人質らしい質素な格好を心掛けろと言っても無駄な性格をしている。逆に、宝石箱ごと持っていかなかったのが不思議なぐらいだ。つまり、指輪は盗まれたわけではなく、本人が持っていった。さらに目の悪い侍従長と、仕事に不慣れ補佐官が、指輪が無いことを見逃した。最後に使用人が異変に気付き、報告した。この推理、どうかな?」
エイデンは必死に第一王子を褒める。
「…さすがです王子様!そう考えれば何の不思議もありません!私の仕事の不始末が、こんな結果を迎えてしまうとは…皆さま、お騒がせしてしまい申し訳ございません!!!!」
”王子の推理が正しいんだ!”という流れを推す。
もちろん証拠は何ひとつないガバ推理である。
しかし、肝心の侍従長も自分の仕事に不安を抱えていたので、王子のガバ推理に乗っかってしまう。
「そうなのでしょう…いつかは失敗してしまう日が来ると思っていました。王子様、どうか私にお暇をください。国王様にお許しを得ていただけないでしょうか…もうこの役職を名乗る資格はございません」
「わかった。お父さまを説得してみよう。しかし、ひとつの間違いで過去の栄光すべてが泥にまみれるわけもない。今までご苦労だった、侍従長」
自然に家臣や使用人から拍手が沸き起こる。
一番熱心に拍手しているのはエイデンだ。
――――――――――
部屋に戻った第一王子ブレンダンは、人を払った。
ひとりきりで手足を伸ばし、ソファーでぐったりと姿勢を崩す。
かと思うと、急にギュっと手足を縮めて喜びに悶えた。
「(あ~~~~~~~~~!!!!気持ち良すぎる!!!!推理がバッチリ決まった瞬間ってあんなに気持ち良いものなのか~~~~~~~~????)」
王子は自分の推理に酔っていた。
「(トラブルが起きた時に、ビッ!と推理を決めてみたい妄想はしていたが、まさかなぁ~~~~~~あんなに気持ちよく決まるものかぁ普通!?あの使用人たちが私に向けた視線は、救世主を見るような眼差しだったな。それにエイデンとかいう従者も、私の推理に感服し、声が震えていたじゃないか。あ~~~~~~~こんなに楽しい事ってあるだろうか????)」
王子は嬉しすぎて、部屋の中をうろうろ練り歩いた。
あまりの興奮に座っていられない。
「(なんかこう…ビッ!って来たんだよなぁ、直感が。推理力って言うのかな。それが私にはあるんだろう…論理的に物事を組み立てられる知的な能力が!あ~~~~~~~また事件おこらないかなぁ…推理して解決したいなぁ~~~~~~~………起こらないかな、大事件)」
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同時刻、同じようにウロウロ部屋の中を練り歩いている人物がいた。
腹を立てている邪悪な元従者エイデンだ。
「(宝石を宝物庫に移動!?なんてことだ…もう二度と盗みは働けないだろう…!)」
エイデンは、主人が持っている全ての宝石を贋作にすり替え、本物を闇マーケットに流す計画を立てていた。
しかしそれも無に帰し、深くため息をついている。
「(…仕方がない。宝石ほどの価値はないが、あのガラクタや絵画を少しずつ売っていくか…)」




