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人質生活7日目

朝。

アリディンバリスで自由に暮らして居た頃は一日のリズムが乱れまくっていた彼だが、それが嘘のように規則正しい生活をしている。

もちろんアリディンバリスで3か月間かけて調整した成果ではあるが、イヤオヤ寝てイヤイヤ起きていた時とは気分が違った。

「おはよう!」


1週間がこれより長かったことはないというように、レジナルドは大きく伸びをした。

トーラティカ語で挨拶すると、使用人は少し驚いた顔をして返事を返してくれる。

それが楽しくてまたトーラティカ語の勉強が進んだ。

乗馬の訓練も順調で、今日は馬の動かし方、止め方を習う。

「足で馬の胴体を挟んで、合図を送ってあげるんです」

「…こうか?」

「ああ、レジナルド様が乗ると常に挟まれる感じになるのか、あまり反応しないですね…もっと足を広げて、閉じて、わかりやすく、叩くように合図を出してあげましょう」

「こうか!動けっ!!」

両足を胴体にぶつけると歩き出した。

自分で馬をコントロールできたことに喜びを感じる。

「では止めましょう。手綱を引いてあげてください」

「おおっ、これはわかりやすいな!」


馬は大人しく止まる。

「たくさん撫でて褒めてあげてくださいね」

「よ~しよし!ヨシヨシ!!」

「名前を呼んで褒めましょう」

「…馬に名前なんてあるのか?」

「もちろんですよ!今まで発酵焙煎はっこうばいせんチョコレート号と呼び続けていたではありませんか!」

「ああ、そうか名前だったのか。トーラティカ語か、そういう単語を口にしてしまう発作ほっさか何かだと思っていた。ではあらためて。発酵焙煎チョコレート号、ヨシヨシ!」

発酵焙煎チョコレート号はヒヒーンといなないた。

発進と停止を我が物にし、馬を自由に歩かせられるようになると楽しい。

インストラクターも乗馬し、2頭の馬が並んで屋敷を回った。


――――――――――


通訳のメガネが少し曇る。

「レジナルド様…」

「そんな風に様子を伺いながら話しかけてくるとは、よっぽど悪い何かなんだろうな?」

「い、いえ…!上級使者様が、明後日あさっての夕食をご一緒したいと…したい、という聞き方にはなっておりますが………断ることはできません」

「だろうな」


明後日あさっての予定は決まった。

「来るだろうなぁ、とは思っていたんだ。俺の誕生日だしな」

「お祝いに駆けつけてくださるわけですね」

「違うだろ、人質らしく、大人しくしているかを視察するんだ」


誕生日だからと理由を付けて、羽目を外して非常識なことをしでかさないか。

監視に来るのだろうとレジナルドは考えた。

「それにしてもめでたいですね、18歳でご成人なされるわけですから。シェフとコックも張り切って、夕食はレジナルド様のお好きなものをお出ししようと…」

「なあ、俺のテーブルマナーはトーラティカの礼儀に沿ったものか?」

「えっ?」

「お前も貴族だろう?ああ…発酵焙煎チョコレート号と同じで名前があるはずだ。そうだな、聞いたはずなのに覚えていなくてすまない。何事もまず名前を覚えなくては。通訳、名前は?」

「マシューです。気軽にマシューとお呼びください」

「自己紹介でその言い方は略称や愛称がある時だけにしろ?」


――――――――――


昼食と夕食、そしてお茶の時間も勉強にあてられた。

礼儀作法に詳しいマシューが隣に座り、トーラティカ語でマナーを伝える。

レジナルドは言葉が分からなくても、見ながら真似をして覚える。

幸運なことに、テーブルマナーもお茶のマナーも、ほぼアリディンバリスと同じだった。

3か月みっちり叩き込まれた礼儀作法も無駄ではなかったというわけだ。

「どうだ、客観的に見て俺の所作は洗練されているか?」

マシューは目線を右に逸らす。

「お食事とお茶に関しては完璧です」

「それ以外は?」


目線を左に逸らした。

明日1日、猶予があることが救いだ。


――――――――――


一方、アリディンバリスの王城。

レジナルドがきちんともてなされ、不快な事は何ひとつなくトーラティカで過ごしている。

また、人質として大人しく、王族らしい振る舞いをしている、という発表が外国交渉大臣からあった。

記者たちはその情報を持ち帰り新聞にして街で売る。

市民は”どうせあのお騒がせ第二王子の事だ、さっさと帰って来るだろう”と噂をしていた。

音楽家はレジナルドを偲んで(亡くなってはいないのだが…)曲作りを始める。

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