人質生活99日目-5
ズドーーーン!と雷が落ち、大地が揺れた。
「!?」
その場にいる全員の体に強烈な電流が走り、方々に吹っ飛ぶ。
レジナルドは心臓が止まりかけるのを感じたが、瞬時に自分に回復魔法をかけてなんとかした。
「な、なんだ…!?」
聞いたことのある笑い声が聞こえる。
フィリップが人質の先王と共に走ってきた。
「食らったか!」
レジナルドは兄のブレンダン、兵隊長に回復魔法をかけながら叫ぶ。
「一体どういう魔法だ!?」
「我がトーラティカ王家に伝わる禁断の雷魔法だ!火魔法と水魔法で雲を激しくかき回し、雷電を呼ぶ!」
先王も高笑いした。
「法と文明の国家、トーラティカでは禁じられている魔法だが、ここは野蛮な隣国アリディンバリスだ!禁制魔法も使い放題だな?」
「そんな理屈が通用するかぁ~!!」
ズドン!ズドン!と容赦なく落雷が地面に流れる。
近くに生えている大木が裂けて飛び散り、炎を上げた。
すでに敵の数名はまったく動かない。
「もういい!止めろ!!」
「うググ…」
「いやフィリップにも電流が流れてるだろ!?お前ら王家はどうなってるんだ!?」
先王も何か喋ろうとしているようだが、結局痺れているのか、四つん這いになってブルブル震えている。
同じタイミングで、後方から竜巻のような旋風が近づいて来た。
「また敵が…!?」
しかし覚えのあるアトモスフィアだ。
風には多くのユニコーン色の布が散っている。
「お兄さま!!ご無事で!!」
「イザベラ!?逃げたんじゃ…」
また後方で大きな音がした。
プールをひっくり返したような大波だ。
「イザベラ!上のお兄さま!下のお兄さま!!」
「アデレートまで!?」
「逃げてなどいられないもの!やられてばっかりは性には合わなくて!」
「そうそう、あのイトコをぶっ飛ばさずに逃げるなんて、王女の名が泣くでしょ!!」
きょうだい4人は力を合わせて反乱者を次々に倒していく。
いつの間にか朝日が昇り、辺りを照らした。
――――――――――
王城の近くの領地から飛ばされたノットサスピシャスバードは、さらに隣の領地、隣の領地へと飛ばされ、夜明け頃には全国に情報が伝わっていた。
「兵を挙げる!」
ゾーフ国境沿いの屋敷の庭では、領主が剣を抜き、挙兵の宣言をしていた。
ムーア家に仕える大勢の私兵が怒声を上げ、また同じように剣を抜く。
その場には国に仕える兵士も大勢いた。
砂漠から戻っていたジェフも剣を抜く。
「バーナビー様が何を考えているのか全く理解できません。栄華の去ったモルリヴァールに復帰しようとは」
隣りに立っている姉は答えた。
「アリディンバリスは若い国だから、世間知らずの王族や貴族にとっては、自国がくだらなく、小さいものに思えてしまうこともあるんでしょう。確かにモルリヴァールは千年の歴史を有している」
姉は掲げた両手剣を仕舞った。
「でも、私は成長を続けるこの国が好きなの。モルリヴァールの古い建築、古い言葉、古い文化…それを好むならモルリヴァールに住めばいいじゃない。ここはアリディンバリス、転生させ女神様に愛されし俗っぽい半島、そこが良いの」
「同感です。それに利益創出と自己拡張は人間の本能ですよ」
「う~ん、あなたにはもうちょっと貴族らしさがあってもいいと思うけど」
「権力欲ならございます」
「それでこそ上流階級、見直した!」
――――――――――
早朝、トーラティカのカントリーハウス。
マシューはオービター牧場側から馬車を走らせ、巨人のヒザのポータルに飛び込んだ。
見慣れた屋敷が目に映り、ほっとする。
馬車から降りていると、使用人たちが出て来た。
ベヴァリーが真っ先に出迎える。
「マシュー様!お帰りなさいませ!」
「ただいま。王城がドラゴンに襲われたと泊まった宿屋で聞いて、馬車を飛ばしてきました。本当ですか?」
「…本当です。王城は礫塊となってしまいました」
「事実だとは…信じられません」
馬車からは見覚えの顔が降りてくる。
「エロイーズ様!キャサリン様!」
「学校を卒業したんです、妻側の実家にも挨拶に来ませんとね。レジナルド様はお部屋ですか?」
「…レジナルド様はアリディンバリスに里帰りされています」
「!?」
ベヴァリーは、フィリップ王子とレジナルドが旅客ドラゴンに乗り、急にアリディンバリスへ向かった事を説明した。
マシューは言葉が出ない。
エロイーズとキャサリンも驚いて互いの表情を確認する。
――――――――――
「ドラゴンを集めろ!」
ワーグマン家は大騒ぎだ。
「私兵を全て集め、王城へ向かわせる。国の兵隊にも向かってもらおう」
「でも、向こうには平地ポータルが設置されているとかで…我が領地の兵士が数日かけて王城へ向かっても間に会うと思う!?」
「そもそも平地ポータルなんて信じられん。西側の小国のオモチャだろう。昔からポータルは高低差を利用して移動距離を縮めるアイテムだった。おおかた、原理を良く分かっていない魔法道具職人がたまたま作り上げた、まぐれの品か何かだ。そんなものよりドラゴンで向かった方が良いに決まっている。さぁ、早く用意さるんだ!」
ヴァージルが、皆の集まるダイニングルームの扉を大きく開けた。
甲冑を身にまとい、剣を腰に下げている。
「おじいさま、私も参戦いたします」
「流石だヴァージル。頼もしいな」
「隣のロウトン家の領主が蜂起に加わっただなんて、未だに信じられません。倒された国王様のためにも力を尽くしてきます」
父親はヴァージルの肩に手を置く。
「…この戦いで活躍し、さらに国王陛下のお子様方が王座を取り戻した暁には、お前にも、我が領地にも、大きなメリットが生まれるだろう」
「はい!!」
「活躍してきてくれ、全てはお前にかかっている」
「もちろんです、家名のために!」
騒ぎの中、ぶわっと熱い風が吹く。
カツカツとヒールの音が暗闇から聞こえてきた。
「武勲を立てれば、ワーグマン家は益々名家として名を馳せることでしょう。私も参じます」
スカーレットが部屋に入ってきた。
「い、いかん…お前はまだ休んでいろ、これは内戦なんだ!遊びじゃない!!」
「本当の闘いだからこそ、です、おじいさま。我がワーグマン家の始祖は炎騎士ワーグマン・ゾフ。独立に際して北方トーラティカの田舎者と戦い、大きな功績を上げました。そうですね?」
「それは…」
「私もお兄さまに同行いたします。さらに、推薦したい女性がひとり」
「…誰だ?」
「ゴブルミドルで私と同じだけの強さを持った火魔法使い、ゴールディです」
――――――――――
ネイ家にもやっと情報が伝わった。
「蜂起した貴族はどれぐらいの数なんだ?こんな遠い場所からじゃ駆けつけるのに7日以上かかってしまう…」
「情報が錯綜しているが、どうも簡単には数えられないみたいだ。一家の中から造反するヤツが出て、従わない家族を殺したり、逆に兵士に殺されたり…クソっ、人質に取られている領主もいるらしい…」
ノットサスピシャスバードが届けまくった紙やスクロールを、テーブルに広げている。
「だから一族で丸ごとモルリヴァール復帰派かと言えば、そういう訳じゃないんだ。もちろん意見が統一されている家もあるだろうが、そうじゃないほうが多いらしい。こう…ややこしいな!!どうなってんだ!!」
「…もし、王城へ俺たちが手助けに行くとする。で、バーナビー様派かどうかは、どうやって見分けるんだ?」
「………」
翼竜が大きく開け放った窓から飛び込んでくる。
「ノットサスピシャスバードです!」
従者がスクロールを開いた。
慌てて乱暴に巻かれた、ボロボロの巻物を読み上げる。
「ヤ、ヤング家からのスクロールでございます」
「内容は!?」
「腕にユニコーン色の布を巻いているのが、モルリヴァール王国への復帰を目指している兵士、使用人達だと」
「よし、今すぐ王城に向かって…」
「お待ちください。スクロールには…ヤング家のご領主が反乱兵の手に掛けられたとございます」
「…何だと………?」
ヤング家の領主は気のいい老婦人だった。
隣りの領主にもかかわらず、マイケルが幼い頃は実の子供のようにかわいがってもらっていた。
「そんな」
「こ、このスクロールはご家族からの救助の求めです!」
震える従者の手からスクロールを受け取り、読み返す。
「…今すぐ助けに行くぞ!!」
領主マイケルは家族、私兵を館に集めた。
パートナーの水グマも馬に跨る。
熊に跨られた馬の気持ちは察するに余りあるが。
その時。
「マイケル様!!町で兵隊同士が戦っています!どうやら、造反した兵士が同僚を攻撃しているようで…」
「嘘だろ…!?」
「調停所で暴れていた兵士は冒険者が倒したと報告がありましたが、建物が倒壊し多数の犠牲者が…」
町で警備に当たっている兵士は、国の軍隊に所属しているものの、王城で働く兵士のように貴族ではない。
その地方で部隊が編成されるので、その土地に住む平民が兵士として就職するのだ。
もちろん地域の平和を守りたいという動機で職に就く真っ当な人物がほとんどだが、中には荒くれ者や、引退した冒険者もいる。
借金がチャラになるだとか、領主が倒れれば誰にでも貴族になれるチャンスが来るだとか、適当な甘言で騙されているのだろう。
あるいは単に、日ごろの鬱憤を晴らすために暴れたり、混乱に乗じて窃盗を働くつもりの悪党もいるのかもしれない。
調停所で暴れた兵士に至っては、都合の悪い調停文章を破き捨てることが目的だった。
「クソっ…愚かな平民共が…みんなぶっ殺してやる!」
「時間がない、こうしている間にもヤング家は…」
「行くぞ!!まずは我が領地が先だ!」
馬に跨ったマイケルは先頭を切って町へ駆け下りていった。
後ろから私兵と家族も続く。
どの領地にも反乱の報告が伝わり、五月雨式に増援が増えていく。




