人質生活99日目-4
「急ぐぞ!!」
離宮が見える窓までたどり着く。
地面を見ると、離宮の1階から大量の人間が出てきていた。
みな、腕にユニコーン色の布を巻いている。
「どういう事だ!?離れにあれほどの反乱兵が隠れていたのか!?」
「…ポータルが出現したと…」
「!?」
「私もにわかには信じられないのですが、兵士の報告によると、城内の敷地にポータルが出現したらしいのです。高低差のない場所でポータルが使えるはずがないのですが…もしかしたら他国で開発された新型の魔法道具なのかも知れません。あくまで予測ではございますが」
「なるほどな、その魔法道具を破壊しにいこう!あれ程までに追加の兵が来れば、王城を守る兵士も耐えるのが難しくなる。加勢のために階下へ戻って…」
「優先順位を見誤ってはなりせん」
「!」
「国王陛下亡き今、ブレンダン第一王子様の救命が最優先です。それに、我が兵はそう簡単には倒れませんよ」
レジナルドは隊長の目を見て深呼吸した。
「離宮から大勢の人間が湧いて出てきているんだ…1階からな。しかしここは最上階だ。廊下を渡って離宮へ潜入しよう」
レジナルドと隊長は廊下を渡ろうとした。
が…。
「廊下が…壊されている!?」
石のアーチは崩され、建物と建物がぽっかり口を開けている。
「…レジナルド様、申し訳ございません。私の魔力がまだ残っていれば、ここに氷の橋を架けることができたのですが…」
「何!?なんてロマンチックな…!」
「風魔法でレジナルド様だけでも渡ってください。私はロープを探して…」
「よく考えればお前はエントランスホールを氷河期に戻したわけだ。魔力も尽きるはずだな!しかし、魔力切れでもそんなに動けるのか。日ごろの訓練のたまものだろう」
「あ、ありがとうございます」
「氷の橋とは素晴らしいアイディアだ。後でボーナスを支給しないとな?」
レジナルドは風魔法と水魔法で主城と離宮の間に橋を架ける。
ゆっくりと、しかし確実に氷の橋が伸びていく。
「レ、レジナルド様………魔力切れは大丈夫でしょうか?レジナルド様もあの演者を倒すため、かなり魔力を消費したはずです」
「実はな、ちょっとだけ心配なんだ」
「ええ」
「アリディンバリスに帰ってくる前に、ドラゴンを退治してきたからな」
「ええ?」
――――――――――
近隣の領地まで飛ばしたノットサスピシャスバードのおかげで、国の危機が速やかに伝わった。
旅客ドラゴンが味方の兵士を連れて次々に王城に降りてくる。
焦るのはバーナビーに賛同した裏切り者たちだ。
「このままでは、反乱兵がみな倒されてしまいます!」
「モルリヴァール復帰のために一致団結しろ!!数は少なくとも、信念で対抗するんだ!!」
城下町からの増援の一団から声が上がる。
「モルリヴァール復帰だってぇ!?こっちはカネのためにやってるんだ!命までかけられるか!!話が違うだろ!!」
「ハァ!?この戦いに加われば貴族になれるって聞いたんだ!平民にもチャンスがあるって…」
「私は冒険者だ!モルリヴァールなんてどうでもいい!!賃料がかからない土地をやるって言われて、来てみればこのザマだ!!無料の土地が約束されているってのは本当なんだろうな!?」
「俺も冒険者だが、ここで倒した兵の数だけ酒樽を貰えるって…」
「王城には宝物庫があるだろ!!どこだ宝物庫は!?あぁ!?!?!?私たちから奪った税で散々贅沢して!!王族なんてみんなぶっ殺してやる!」
「バーナビー様は転生させ女神様のお言葉を受け、聖なる反乱を起こしたんだ!ここに居る抵抗者は、みな転生させ女神様の御加護を受けている!死なない無敵の兵士だ!!突っ込むぞ!!」
有象無象の集団は崩壊を迎えつつあった。
しかしその事態を見通していたかのように、城の離宮から謀反側の増援軍が湧き出てくる。
彼ら彼女らも適当なでっち上げの甘言に釣られてやってきた愚か者ではあったが、それでも戦闘経験のある兵士、冒険者、魔法使いだった。
戦いは激しさを増していく。
――――――――――
「それ以上橋を伸ばさないでください!!」
「バーナビー様!」
「ば、バーナビー!!お前…!!!!」
暗い通路から、いとこが出てくる。
久々に会った彼の服には、赤黒い血がべっとりと付いていた。
「お兄さまを殺されたくなければ、これ以上、離宮に近づかないでください」
バーナビーの隣には部下が2人立っており、体の大きな方が縛られた第一王子を担いでいた。
「帰ってきてしまったのですね、レジナルド様。なんとタイミングの悪い」
「どうしてこんな事を…お父さまをよくも…!お兄さまを放して、代わりに俺を縛れ!!」
ブレンダンはジタバタと体を動かしているが、がっちりと担がれているらしく抵抗は無意味なようだった。
顔だけ上げて、弟と久々の再会を果たす。
「レジナルド!逃げろ!!お前だけでもっ…!いや、やっぱり私と代わってくれ!」
バーナビーは笑った。
「それは許可できません。なぜなら人質は多い方が良いですから」
バーナビーはアゴで部下に命令を出した。
もう少しで繋がるはずだった橋と橋の間をひらりとジャンプして、部下がひとりレジナルド側に渡ってくる。
「くっ…」
「抵抗すればブレンダン様をここから放り投げます。動かないでくださいね。さぁ、兵隊長とレジナルド様に魔法封じのロープを!」
バーナビーの部下がロープを持って近付く。
レジナルドは火魔法を使おうと熱を集め、部下にぶつけた。
が。
部下は素早く魔法封じのロープを体の前に出した。
火魔法はロープの前に散り散りになる。
「!!」
レジナルドは直接攻撃を諦め、氷の橋に火魔法を使った。
バーナビーの部下が立っている手前がボロッと崩れ落ち、叫びながら地面に落ちていく。
長い絶叫が、落ちるまでの数秒を永遠に変えた。
「何を………!?!?!?信じられない、反抗したのですか!?ブレンダン様がどうなってもよろしいと!?」
「よろしいはずないが、お兄さまは自分の命とお前の討伐を天秤にかけ、お父さまのかたき討ちのためならご自身を犠牲にすることを選ばれる。そういう人間なのだ!」
「そうなんですか?」
バーナビーはブレンダンを見た。
「そ、そ…その選択をするかどうかを考える時間をくれ…」
「いいんですよ、誰だって自分の命が一番大切ですから」
バーナビーは笑いながらブレンダンの首にナイフを当てた。
皮膚が切れたのか、血が滴る。
ブレンダンは震えた。
「うっ、ぐううっ…や、やめてくれ…頼む…」
「さて、薄情な第二王子様。私が第一王子様を殺さないとでも思っておられるのでしょうが…」
「殺してもいい」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
兵隊長もブレンダンもバーナビーも、思わず声が重なる。
「アデレートとイザベラが逃げたからな。それに…」
バーナビーはブレンダンの首からナイフを離した。
「ああ、信じられない、そういえばクズでしたね。あなたという人は」
「…お兄さまが亡くなれば、俺にもチャンスが巡ってくるだろう?」
いとこが先回りしてしまう程、第二王子には信頼も人望も無かった。
闇夜に細く光るその目の奥には、噓偽りがない本音だけが輝く。
「この国の予算が使いたい放題………最高だぁ!!さぁ、いとこ!俺を王座に近づけてくれ!!」
流石のバーナビーもドン引きである。
「これほどまでに身勝手だったとは…少なくとも兄弟の情はあるものかと…」
「情よりも王座だ!俺の発言に間違いがあるか?なぁ!?」
後ろに立つ兵隊長は頭を下げながら話す。
「だ、第一王子様が亡くなれば…もちろん平等に、第二王子であるレジナルド様にも王位継承権がございますので…」
「お兄さまを殺した敵を討てば、より王座が近くなるだろう?」
「…」
「答えろ無礼者ォ!!」
何を思ったか、レジナルドは風魔法で兵隊長を氷の橋から突き落とした。
先に落ちたバーナビーの部下と同じように、秒数の叫び声が聞こえ、鈍い落下音がズドンと続く。
わずかな沈黙の後、バーナビーは思わず後ずさりした。
「真正の悪人だ、あなたは…まさかそこまでの…」
「俺の身勝手さをナメるな!さぁ、さっさとお兄さまを地面に向かって投げろ!」
「ひ、人質を殺すような真似をするわけがないでしょう!!」
ブレンダンも怯えた。
「バーナビー!私を連れて逃げろ!!早く!!」
レジナルドは間髪入れずに風魔法を使い、ウィンドカッターをブレンダンにぶつける。
幸いにも、魔法封じのロープに埋め込まれた魔法石が魔力を吸収した。
「チッ!」
「こ、殺される!!」
「実の兄に何という仕打ちを!!」
バーナビーの部下もバーナビー自身も、魔法を使おうにも魔法封じのロープがすぐ近くにあるので反撃できずにいる。
「さっさとお兄さまを投げ捨てろ!さもなくば俺が殺す!!」
レジナルドはウィンドカッターを送り続ける。
ブレンダンは半狂乱になって叫んだ!!
「化けて出るぞ!!ゴーストになって、お前を呪い殺すまで憑りついてやる!!恨むぞレジナルド!!」
「うるさい!死ねぇ!!!!」
「なんという…なんだこの状況は!?」
魔法封じのロープに埋め込まれた魔法石は、レジナルドの魔力を吸収し続ける。
レジナルドは氷の橋から石橋へ、渾身のジャンプを見せた。
「ひっ…!!」
「死ねぇ!!!!!!」
「こ、殺されては困るんですよ!!」
ウォータースプラッシュもファイアボールも、魔法封じのロープに吸収され続ける。
バーナビーと部下は後退し、離宮に入ろうとする。
「絶対に逃がさん!!」
とうとうレジナルドは土魔法を使い、石のアーチ橋の根元を崩した。
バーナビーのメガネがフワッと軽くなり、叫ぶ。
「この気狂いめ!!!!」
バーナビーは落下の最中にブレンダンから離れた。
それにより魔法が使えるようになる。
彼の部下と共に風魔法で落下のスピードを抑え、なんとか着地した。
一方のブレンダンは。
「(死んだ…私はきちんと悪霊になれただろうか…?)」
そう思っている最中、ロープが何者かによって切られる。
「!?」
「ご無事で、ブレンダン様」
「へ、兵隊長…!?」
兵隊長は片手剣でブレンダンの魔法封じのロープを切り、遠くへ放り投げた。
「な、何だこの草は!?」
「レジナルド様がクッションの代わりにスプリング蔦を生やしてくださったんです」
「!?」
そのレジナルド本人は遅れてフンワリ着地した。
「お兄さま!!」
「…っ!?」
レジナルドは巨大な火球をブレンダンに向けて撃った。
ゴオオオッとものすごい勢いで向かっていく。
「お前っ…やはり私を殺そうと…!?」
その火球はブレンダンの顔の真横を通り、彼のすぐ後ろまで飛んできていた水球と正面衝突し、飛び散った。
「油断なさらずに!」
「!?」
バーナビーが少し離れた場所から水魔法で水球を撃ったのだ。
「フン、まさか演技だったとは。トーラティカへの”留学”で、少しは賢くなられたようですね、レジナルド様」
「そういうバーナビーも、まるで別人じゃないか」
レジナルドは兄の体を茂みの中から引き起こす。
「戦えますか?」
「…ああ」
バーナビーは大声で部下数名の名前を叫んだ。
彼の声を聞き、直属の部下と、反乱兵が集まってくる。
「これは…」
「苦しいな」
「レジナルド様、ブレンダン様、3人互いに背を合わせ、それぞれの前方の敵のみに集中されてください」
「兵隊長、お兄さまを連れて逃げてくれ」
「…ここまで囲まれていては無理です」
「万事休すか…」
ユニコーン色の布がチラチラと光を虹色に反射し、最後に目に入るものがこれか、と落胆しかけた。
その時。




