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人質生活99日目-3

演劇団体の職員を装う女、ソフィーは第一王女アデレートの部屋に居た。

彼女を見張るとバーナビーに申し出たがのだが、その思惑は別の所にあった。

「お前の宝石箱はどこにある?」

「このっ…恥知らずのモルリヴァール人!」

アデレートの反抗を的な態度を前に、ソフィーはナイフを取り出した。

「死にたいか?素直に教えたほうが痛い目見ずに済むんだが?」

「だ、誰があんたなんかに…」

ソフィーはナイフを見せびらかすようにヒラヒラさせながらアデレートに近づく。

「お前が生きているのは利用価値があるからだ。侍女たちのように殺されたくなければ…答えろ」

ニヤニヤと笑う表情とは裏腹に、目の奥に光が無い。

観念したアデレートは悔しそうな声を出す。

「…その飾り棚の上から…2番目」

「おお、豪華なジュエリーボックスだ。これだけで数十万ゴールドはしそうだな?」


ソフィーは目的の物を見つけ、床の上に座らされているアデレートの前でわざわざそれを広げる。

アデレートは後ろで縛られているロープを解こうと手を動かすが、まったく緩まず、むしろ体に深く食い込む。

「くっ…このロープのせいで…魔法が使えないじゃない…!」

「その通り。お前ら魔法に長けた王族や貴族を捕えるのにはピッタリな魔法道具だな」

ソフィーはリングやネックレス、ブローチ、髪飾りなどの貴金属を取り出し、小袋に詰め替えていく。


その最中、大ぶりな手鏡を見つけた。

裏面に付いた大きな宝石を触り、感心したようにため息をつく。

「素晴らしい品だ。高く売れることだろう。やはり王族の手元にある宝石は別格だな…」

悔しがるアデレートを目の前にし、ソフィーは手鏡を裏返して鏡面を覗き込む。

ただの鏡…なら良かったのだが、それは相貌を変える魔法がかけられた手鏡だった。

3倍増しに美しい自分の顔が映る。

「変だな…私ってこんなに…美人だっただろうか…?」

「…」

アデレートは口から出まかせを言った。

「本当に悔しいのは、宝石箱を取られた事なんかじゃない」

「何?」

「王女でもないあなたが、そんな美しい顔をしているからなの。本当に、転生させ女神様でもそこまで美しくないでしょうに。何故あなたはそんなに美人なの?」

「………」

ソフィーは顔を左右にぐりんぐりんと動かし、自分の顔を手鏡いっぱいに映す。

満更でもない様子だ。

アデレートはなるべく相手を怒らせない口調を選ぶ。

「もう反抗する気なんか無いから、手を解いてちょうだい」

「ふん、そんなバカなことをするものか」

「どういう理屈かわからないけど、このロープが私の力を奪っているんでしょう?なら、手を解いて、体に巻き付けても効果は同じじゃない?」

「手を自由にしてどうする気だ?ナイフで勝負でもするつもりじゃあるまいし?」

「顔だけじゃなく、あなたってスタイルまでいいんだもの。姿見を持ってきてあげる」

「…どこにある?場所だけ言え」

「隣のドレッシングルームに」


ソフィーはまんまとドレッシングルームへ行き、全身鏡にかかっている布を払ってしまった。

当然その姿見には禁じられた魔法がかけられており、ソフィーはキラキラと輝く自分の姿を見ることになる。

「…今まで意識したことなどなかったが…私はこんなにスタイルが良かったのか…手足もスラリと長く、まるで…貴族や王族のようだ…いや、それ以上か………?」

空気の読める魔法道具のランプが怪しい光で彼女を照らした。


見張りのクセに、迂闊にもターゲットから目を離す。

その隙にアデレートは立ち上がり、部屋から逃げ出した。


――――――――――


レジナルドたちは血痕があちこちに飛ぶ廊下を慎重に、しかし迅速に進んでいた。

後から上階に登ってくる味方の兵士たちの手を借りながら、次々と敵を倒し、王族の住む最上階へとたどり着く。

向こうからよろよろと歩いて来る女性が見えた。

「あれは…!?アデレート!無事だったか!!」


この国には居ないはずの下の兄の姿が目に入り、アデレートは困惑と安心で廊下に倒れる。

レジナルドは彼女の縄を剣で切り、そのロープを遠くへ投げた。

「大丈夫かアデレート?お兄さまは?イザベラは?」

「その前に…私の部屋の奥に反乱者がおります…彼女を倒してください…」

話し終わる前に隊長がアデレートの部屋に向かって走った。

甲冑がガチャガチャ鳴る音を聞いて、途中にあるイザベラの部屋から見張りの反逆者が出てくる。

いつもおとなしく議会に出席していた議員だった。

互いに顔を知っている仲で、2人は一瞬怯む。


「どうやってここまで上がってきた!」

「お前らのような裏切り者を倒してきたのだ!」

折れている隊長の剣は一瞬で光魔法のアトモスフィアに満ちた。

鋭い光を放ち、敵対する議員の目を焼く。

「ぐわあああああああああっっっ!!!!」

議員も無我夢中で反撃を繰り出そうとするが、視力を失った状態で撃つウォータースプラッシュが当たるはずもない。

激しい水魔法の攻撃で、城の壁がボロボロと壊れていく。

イザベラが捉えられてる部屋の扉にも魔法が当たった。

「イザベラ様に危険が及んだらどうするつもりだ!?」

隊長は腰に付けていた片手剣を素早く鞘から抜き、議員の体に突き立てた。

断末魔の悲鳴を上げ、裏切り者の議員は床に倒れる。

血の染みが絨毯に広がっていく。

レジナルドは後ろから走ってきた。

「俺はアデレートの部屋へ行く!イザベラを頼んだぞ!」

「お任せください!」


隊長は死体から片手剣を抜いて鞘に戻すと、部屋に飛び込んだ。

中には部下だったはずの兵士が3人いた。


「お前ら…!!!!」

「隊長。この状況を見て飛び掛かってくるほど脳筋じゃありませんよね?」

イザベラの体には魔法封じのロープが巻かれている。

首には長剣が当てられており、第二王女イザベラは青い顔で震えていた。

兵士は同僚に指示を出す。

「これだけ魔法封じのロープに近いところに居ちゃ、魔法が使えないだろ。お前らは離れて隊長を挟み込め」

「わかった」

「ああ」

両隣に立っていた2人の元兵士がゆっくりと移動し始める。

イザベラの首に刃を当てている兵士は動かないままだ。

「我々はあなたがどれだけ強いか知っています、隊長。剣を捨ててください」

「待て…話をしようじゃないか。イザベラ様は王族とはいえまだ子供だ。このような血なまぐさい真似は…」

「キャーッ!」

元兵士がイザベラの髪を掴み、引き上げる。

「いくら王家に奉仕しようと、私は一生、一介の貴族のままなんです。でも、ここで王家の血筋を絶てば王族として国を治める未来も…」

「バカ者!!」


隊長の怒鳴り声に、3人の元部下は少し震える。

「折れた剣が怖いならいくらでも捨ててやろう」

隊長は剣をゆっくりと床に置きながら、3人の元兵士の目を見る。

「バーナビー様が国王にすげ変わるなら王家の血族のままだろうが。そもそも、お前たちは権力欲のために謀反を起こしたのか…?なんてくだらない…」

別の兵士が口を出す。

「わ、私は違います!むしろバーナビー様が国王に相応しいと考え、譲位して下さればと…」

「陛下を殺しておいて何が譲位だ!!」

「転生させ女神様の御意志なんです!」

「…何だと?」

「バーナビー様は転生させ女神様から、この国の長に相応しいと啓示を受けられたのです。いとこだとしても王になる器だと…」

「我が国は誰が治めても大して変わらん」

「…」

「議会制を採用しているだろ。大勢で議論をし、一番マシな案を採用し、全ての領地の意見を取り入れている。モルリヴァールのように国王と身近な臣下の意志が優先される国家ならともかく、トーラティカから政治体制を引き継いでいるんだ。長も何も、王家なんてただのシンボルにすぎない。国をまとめるためのな。で、なぜそんなお飾りの王座に、この世界の管理者である転生させ女神様が執着されていらっしゃるんだ?」

「そ、それは…転生させ女神様のお考えは誰にも理解できません」

「その通り、転生させ女神様のお考えは誰にも理解できない」

「な…!?」

「夏の積乱雲を粘土のようにこねて塑像する女神だ。政治になんて口を出すはずがない。それに、転生させ女神様なら”そうなるべきだ”と思った瞬間にそれを為されているだろう」

「…」


兵士たちは顔を見合わせる。

「今ならまだ逃げられる」

「た、隊長…」

「この混乱の最中だ。どこか、遠くへ逃げればいい。死ななければ人生はやり直せる」

「…っ!」

隊長の横にいた兵士2人が、出口に向かって走る。

イザベラを掴んでいる兵士は慌てた。

「お、お前ら!裏切る気か!!」

「元々裏切り者だ!!」


ユニコーン色の布を捨て、部屋から出て行った。

「ぐっ…!」

「さぁ、イザベラ様を放してくれ。あいつらの後を追って、王城から去ればいい」

「私には…実力があるんです…国王として国を統治し、アリディンバリスをより豊かにできる実力が…」

兵士が動揺した一瞬の隙をつき、隊長は腰の片手剣を投げた。

回転する飛翔物を見た瞬間、兵士は反射的にイザベラから離れる。

「キャアアアアッッ!!!!」

イザベラに剣がぶつかったが、革で作られたホルダーに収められたままだったので大きなケガにはならない。

隊長は素早く折れた剣を拾い、兵士に向かっていった。

「うわあああああっっっっ!!!!」

立派な長剣も震える手で握られては真価を発揮できない。

風魔法を使った防御も空しく、兵士は体を叩き切られた。

「弱いな…!」

自分が直接剣術を指導していたのにも関わらず、ここぞという場面で一撃も返せなかった元部下に少しだけ失望を感じながら、隊長はイザベラを保護した。


――――――――――


その少し前。

「何の音だ!?」

廊下での格闘の音に気付いたときにはもう遅かった。

応接間にはアデレートの姿が無い。

「クソっ…!!しくじった!!」

床に置きっぱなしだったジュエリー入りの小袋を取り、窓を大きく開け、指笛を吹いた。

戦場と化した城に、ピイイイーーーーーーーーッ………と甲高い音が響く。

すぐに、バサバサと羽音をさせ、屋根で待機していたグリフォンが降りてくる。

グリフォンが窓にしがみつき、それを操縦するモンスターテイマーが叫ぶ。

「飛び移ってください!」


ソフィーはためらいなく窓からグリフォンに飛び乗った。

グリフォンは背に操縦者とソフィーを乗せたまま上昇していく。

「すぐに移動すれば魔法で撃たれてしまうため、まずは充分に縦方向の距離をとります」

「頼んだぞ、ウィンドカッターが当たらない位置まで昇ろう」

「はい!闇に姿を隠せるまで上昇しましょう」

その時、誰かが部屋に突っ込んでくる音がした。

「(もう一足遅れていたら危なかったな…)」


ソフィーが部屋から脱出したその数十秒後、レジナルドが突入したのだが…。

「遅かったか!!」

風がびゅうびゅうと窓から吹き込んでいる。

部屋はもぬけの空だ。

ドレッシングルームにも寝室にも敵の姿は無かった。

「飛び降りて逃げるとはな…」

その時、かすかな音と共に床が細かく振動した。

「!?」

廊下に出てみると、遠くから大勢の足音が聞こえる。

隊長がイザベラを抱きかかえながら彼女の部屋から出てきた。

「レジナルド様!!」

「イザベラ!無事か!」

イザベラは鼻血を流している。

よく見ると顔面の中央が赤い。

「へ、兵隊長が投げた鞘がぶつかって…この無礼者っ!!後で処刑してやるんだからっ!!」

「何を言っているんだイザベラ。隊長の助けが無ければお前が処刑されていたかも知れないんだぞ?違うか?」

「ううっ…!!」

「それよりこの振動、大勢の足音です」

「敵か!?どこから…」


レジナルドと兵隊長は、それぞれアデレートとイザベラを抱きかかえて階下へ降りようとした。

「…お兄さまの部屋の扉が開け放たれている…お兄さまはどこへ行ったんだ!?」

アデレートは震える声で答える。

「バーナビーと一緒なのかも…」


階下から大勢の兵士が登ってきた。

「兵隊長!!ご無事で!」

「お前たちに任務を与える!アデレート様とイザベラ様を、各5名のチームで保護し、他に何を置いても最優先で王城から脱出させるように!命に代えても王族を守り抜いてくれ!!」

「了解いたしました!」


アデレートとイザベラの妹2人は、今度は兵士に抱きかかえられて階段を降りていく。

その様子を見ながらレジナルドは呟いた。

「…離れだ」

「!!」

「離宮が揺れているんだ。離れに大勢が居る。しかしなぜ、どこから来た!?一体どうやって…!?」

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