人質生活99日目-2
レジナルドと隊長は凍り付いたエントランスホール内を、氷の刃で滑っている。
「ところで、氷漬けにされているのは敵か?」
「ええ、一人で立ち向かうと言って味方の兵を退避させ、その上でホールを凍らせました。ご安心ください!」
ドスドスドスドス!と、とんでもない足音をさせてロジャーがレジナルド達を追いかける。
「クソっ、何故アイツは氷の上を転ばずに動けるんだ…んっ!?」
よく見ると一歩一歩、足を氷の中に押し込めながら走っているようだ。
「なんてパワーだ…あんな怪力男に一発でも殴られたら、体がぐちゃぐちゃになって死んでしまうだろう!」
「気をつけてください!素手で私の剣を折ったんです!!」
「そんじょそこらのモンスターより強いな、確実に…」
「うおおおっ!!ちょこまかと!!止まれっ!!」
ロジャーは凍り付いたエントランスホール内の兵士にタックルをかました。
氷漬けになった体が砕け散り、レジナルド達に鋭利なトゲとなって向かう。
「ギャアア~~~~ッッッ!!凍っているとは言え死体だぞ!!キモイ!!!!」
「レジナルド様!」
なんとか氷塊をかわせたと安心したのもつかの間、次から次へとロジャーは氷塊にタックルをぶちかまし、氷の塊を銃弾レベルの速度でぶっ飛ばしてくる。
ドカァン、ドカァン!と大砲を撃っているような音に怯えながら逃げ回るしかない。
「レジナルド様!滑り続けてください!あの氷礫に当たれば体に穴が開いてしまいます!」
「ちょっと待て…なんだアレは…見覚えがあるぞ…!?」
レジナルドは見覚えのある甲冑がホールの端に放置されているのを発見した。
「あ、あれは俺のコレクション、”主人を守ることのなかった甲冑”じゃないか!俺の宝物だ!なぜこんな場所に!?」
「レジナルド様!!集中してください!」
「わかった、とにかく…アイツの動きを封じ込めるぞ!天井に大きな氷を作れ!」
「了解しました!」
レジナルドと隊長は協力し、吹き抜けの高い天井に水を吹き付ける。
風魔法で熱を奪えば、それはあっという間に先のとがったツララになった。
「天井が落ちてきます!!」
重量に耐えきれなくなった天井が、凶器のようなツララと共に落下してくる。
ロジャーは上を見ながら絶叫した。
門から逃げようと慌てて走るが、レジナルドが分厚い氷で門の隙間を塞ぎ、逃亡を阻止する。
「レジナルド様、ご一緒できて光栄でした。国の守護のために殉死できるとは…」
「は?勝手に王族を殺そうとするなよ?」
レジナルドは火魔法で氷に穴を開け飛び込んだ。
「さっさと来い!」
石でできた床にも土魔法で穴を開け、エントランスホールの真下に落ちる。
レジナルドの後から隊長がドカッと落ちてきた。
「第二王子をクッションにする奴があるか!!給料のゴールドを減らすぞ!!」
「も、申し訳ございませ…」
言い終わらないタイミングで、今まで聞いたことがない程の大きな音と振動が体を揺らした。
城全体がズシーーーーンと揺れ、少しの間平衡感覚を失う。
「天井が落ちたようです!!」
その時、離れた場所にロジャーが氷の塊と共に落ちてきた。
「な…!?」
「あ、アイツ、どうやって…!?」
バケモノじみた男の両こぶしは真っ赤だ。
「素手で殴って氷の床と石畳を砕いたのか…なんてヤツだ!!」
隊長が後退する。
「レジナルド様…やはりここでお別れのようで」
「何故だ!?まだ俺は戦える!」
「エントランスホールの真下は…地下牢です」
「!?」
壁の中に埋め込まれた魔法石がキラキラと輝いている。
「魔法石が!これじゃ魔法が吸収されてしまう!」
「お守りできずに申し訳ございません…」
ロジャーはゼエゼエと息を切らしながらも、ゆっくりと、しかし着実にレジナルド達に近づく。
レジナルドは怯えること無く、彼と共に落ちてきた”コレクション”を指さした。
「演者よ。どうせ殺すのなら最後に…俺の愛しいコレクションに触れさせてくれ」
隊長が驚く。
「何ですって!?あなたという人は最後まで…」
ロジャーは歩みを止めた。
「…コレクション?」
「ああ。その薄汚れた甲冑は俺のコレクションの中でも指折りの珍しい品だ。大切に自室に保管していたはずだが、なぜこんな所に…そもそも、この甲冑を身に付けられる人間はいないはず」
それを聞いたロジャーは興味深そうに尋ねる。
「なぜ身に付けられる人間が居ないのですか?」
レジナルドは数秒黙り、答えた。
「その甲冑は呪われている。主人を守らないことに定評のある甲冑なんだ。めちゃ重いしな。そんな品、身に付けられる人間は俺ぐらいしか居ないだろう?」
ロジャーの眉がピクッと動く。
「あなたが身に付けられるのなら、私でも身に付けられます」
彼は振り向き、甲冑に手を伸ばした。
大きなチェストプレートを拾い上げ、体に合わせてみる。
「ふん、重いと言ってもこの程度ですか。この甲冑は私が頂くとしましょう」
チェストプレートに付いているベルトがまるで生き物のようにシュルシュルと伸び、誰の手も借りずロジャーの体にぴったりとくっつく。
「!?」
その瞬間、立ち上がれなくなる程の負荷が彼の体にかかった。
今までの人生で”重さ”を感じたことのないロジャーはうろたえる。
「ぐっ…なんだ…これが呪い…!?」
気付いたときにはもう遅い。
ただ重量があるだけではなく、それは呪わたアイテムなのだ。
体を震わせながら、なんとか立っているロジャーの前に隊長が走ってきた。
「うおおおおおおーーーーっっっ!!」
「ま、待て…!!!!」
グラグラと揺れ、倒れないようにバランスをとることに精一杯の今、反撃など不可能だ。
青い顔で命乞いをしてももう遅い。
隊長は叫ぶ。
「殺された部下たちの恨みだ!」
折られた水晶の剣に残されたわずかな刃が、ロジャーの首を切った。
――――――――――
「レジナルド様、大丈夫ですか!?」
地下牢に落ちたレジナルドは引き上げられた。
凍り付いたままのエントランスホール内には、次々に味方の兵士や市民が流れ込んでくる。
「ああ…ありがとう。だが、休んではいられないな」
魔法石から遠い場所で自分に回復魔法をかけ、レジナルドは立ち上がった。
「お父さまは今どこにいる?お兄さまは?アデレートとイザベラは?」
兵士はぎゅっと目をつぶる。
「ご存じなかったとは…国王陛下は…バーナビー様に討たれました」
「………」
レジナルドは無言のまま、疲れ果てている兵士達に回復魔法をかけた。
兵士が言葉を続ける。
「ごきょうだいは最上階のご自身のお部屋に捕えられていると思われます。議員の皆さまは議会室に…」
「大臣や議員たちには申し訳ないが、お兄さまの救出を最優先にさせてもらうぞ」
「正しいご判断です」
「だから、お前たち兵士は議員を救ってやってくれ」
「!!」
「議会室へ向かって同郷の親族を救え。俺は俺の家族を助ける」
レジナルドは遅れて地下から引き上げられた隊長を回復させ、自身の護衛に付かせた。
「レジナルド様、造反の兵士は腕にユニコーン色の布を巻いております」
「そうか。敵か味方か、気を付けて判断しないとな」
「おい!私も行くぞ!!」
フィリップが護衛の兵士たちと共にズンズン近づいてくる。
「庭の奇妙なポータルから、無限にユニコーン色の布を巻いたアリディンバリス人が湧いてきてキリがない!あの場は近隣から来たと申す領主に任せた」
「危険だ。この場を離れてくれ」
「勘違いするな!先王であるおじいさまを救い出すだけだ!!」
こういう発言は主人公を手助けする照れ隠しとして発せられることが多いが、フィリップの場合、本当に祖父を助けたいだけなのだ。
そんなわけで、フィリップはさっさと上階でレジナルド達と別れた。
「薄情なヤツ!!!!」




