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人質生活99日目

夕食も終わった夜。

完全に気を抜いている国王は、部屋から人を払い、バーナビーとチェスの対局をしていた。

呼吸をするのと同じように、隙だらけの王の首を落とすのはタイミングさえ見誤らなければ必ず成功する。

計画通りに国王を殺したバーナビーは、部下に命じ、反乱の合図の花火を打ち上げさせた。

王城と3本の廊下で繋がっているだけの冷たい離宮が、見事に上がった花火によって虹色に照らされる。

バーナビーと部下は大きな音と振動を感じた。

光と炎、それを数秒見つめて窓に背を向ける。

「権力を持つことが許されず、飼い殺しにされているだけの人生が終わるんです。めでたいですね」

国王の部屋に慌てて入ろうとする臣下を、部屋の見張りの兵士たちが殺す。

重要な兵士たちは既に謀反勢力側に引き入れてあった。

美しく打ち上がる花火を合図に、反乱の賛同者は腕にユニコーン色の布を巻き、魔法封じのロープを持って次々に同僚や仲間を縛り上げていく。


――――――――――


バーナビーに説得されたロジャーも反乱に参加し、何だかんだ暴れまくっていた。

ロジャーの腕にはユニコーン色の布が輝いている。


「なんだあの演者は!魔法が通じないぞ!?」

「ユニークスキル持ちだったのか!」

実際には体が頑丈なだけなのだ。

魔法を蹴散らし、向かってくる警備兵も同じように蹴散らす。

ロジャーの前に多くの兵士が倒れていった。


寝込んでいるふりをしていた大叔父も戦闘に参加し、王城は火の海に変わる。

離宮は反逆者と、それに抵抗する王族や侍従との戦いでめちゃくちゃな騒ぎになった。

肉親同士で殺し合い、多くの血が流れる。


――――――――――


一生分のゴールドという得られもしない報酬のために街のゴロツキ共も城下町から王城へ押し寄せてくる。

命を懸けて兵士と戦う、が。

魔法が使えない人間は兵士たちの足を一瞬止めるためのデコイに過ぎなかった。

それに気付いたときには撤退もできない状況で、悪党とはいえ散々な最期を迎えていた。

ある者は味方に肉の盾にされ、ある者は兵士に剣で勝てず、炎に巻かれて水に溺れ、ゴロツキ共は死体の山へと姿を変えていく。


「兵隊長!報告します!ポータルです!!王城の領地内に…」

「こんな平地でポータルが使えるわけないだろう!!街から援軍が来たに違いない!」

「街からも来ているのですが、実際にポータルから次々と反乱兵が押し寄せてくるんです。どうやら地方と繋がっているらしく…」

「クソっ、全ての馬とモンスターを出せ!」


厩舎とモンスター舎が共に焼け落ちる。

王城を守るはずの堀からも水があふれ出した。

兵隊長は苦しい決断をする。

「ここにいる10名に特別任務を与える。王城から脱出し、状況を伝えるノットサスピシャスバードを飛ばせ。城下町からでは落とされる。隣の領地まで馬を走らせて、そこから出せ。増援も頼んでくれ」

「兵隊長は!?」

「最後まで戦う」


水晶で作られた透明な両手剣が抜かれた。


――――――――――


第一王子ブレンダン、第一王女アデレート、そして末っ子の第二王女イザベラも捕えられた。

反抗した従者や侍女は死体となって床に転がっている。

「どういうことだ…?」

後ろ手を縛られたブレンダンは、歯を食いしばってバーナビーを見た。

頭と鼻から垂れてくる血が顎まで伝っている。

バーナビーは上から言い放った。

「これ以上暴れないでください。ロープで全身縛られて、逃げられるわけないんですから」

「お、お父さまに手を出してみろ…!お前を…」

「国王陛下は殺害いたしました。私が国王の座に就くためには必要不可欠な工程でしたので」

「…いつからこの計画を…!!」

「10年以上前からですよ。それほど多い数ではございませんが、信頼できる臣下数名を引き入れられましたし、決行するならこのタイミングでした」

「信頼できる臣下…!?裏切り者が貴族の中にいたのか…」

「ええ、例えば…チェスの教師など」

「ぐっ…!!!!」

「それにしてもブレンダン様。魔法を封じてしまえばどうという事はないですね。やはり体術は私の方が上でしたか」


ブレンダンは血が混じった咳をしながら、妹たちをどうしたんだと聞く。

「あなたと同じで人質ですよ。3人を押さえれば臣下の皆さまには、大人しく従っていただけるのですから。効率的ですよね?」

「クソっ…人質に落ちるなど王族の恥だ…」

「議員はともかく、魔法使い達は厄介ですので。何としてでも魔法封じのロープで拘束しなければなりませんし。人質作戦が最も成功率の高い作戦で…」

「…いずれ殺すなら今殺せ!」

「ハァ?」


バーナビーはブレンダンの背に回り、ロープを掴んだ。

「このロープの厄介なところは、近くにいる人間の魔法も吸い取られる事ですね」

「放せ…!ゴホッゴホッ!!」

「あなた方ごきょうだいは、明日から離宮暮らしですよ」

「!?」

「王城とは名ばかり。隅に追いやられている血族の住む場所です。国王のきょうだいは結婚が許され、子も残せますが、その子どもには結婚の権利が無いんです。婚姻の自由も、居住の自由も無い。まるで奴隷のようですね?おっと、我が国では奴隷制度は認められておりませんから、奴隷そのものでしょうか?」

「そ、それは…」

「それは?」

「…今に始まった事じゃなく、む、昔から………お父さまが決めた制度じゃない!!お父さまには何の罪も、落ち度も無かった!」

「明日からは逆転の生活が始まるんですよ。バックアップのためだけに生きてみてください。きっと、国王とその子どもの自由さを恨めしく思うようになりますよ?」

「…っ!!!!!!」

ブレンダンは返す言葉が見つからなかった。


その時。

「ご報告いたします!」

「どうしました!?」

バーナビーは掴んでいたロープを離し、ブレンダンの体は床に崩れる。

「それが、トーラティカ側の山脈からドラゴンが飛来して…」

「全ての飛行物体は落とせと魔法使いに命令してあるはずです!それに、このスピードで報告が届くはずがありません」

「と、とにかく王城の庭にドラゴンが着地し…そこからトーラティカの王子を名乗る男と兵士、更に魔法使いが降りてきて…」

「バカな…!?何故…!?」

「レジナルド様を名乗る男もおり、現在、城下町から突撃させている部隊と交戦中です」

「名乗る男、とは?トーラティカの王子様はお顔を存じ上げませんが、レジナルド様なら見慣れているでしょう?」

「お、お顔はレジナルド様なのですが、体型が痩せていて…」

「!?」

「!?」

何故か兄のブレンダンも驚いている。

「…本人と確証が持てません。とにかく、魔法でこちらの陣営の兵士や、雇った荒事師を倒し続けており、計画に狂いが生じています。このままでは城内で抵抗する兵士たちがこの階まで上がってくるのも時間の問題です」

「こちらには人質が居ます」

「ですが、レジナルド様がご存命なら国王様の直系の血筋は保たれますし、一か八かでここまで攻めてくるかもしれません」

「…」


バーナビーは少しだけ悩み、指示を出した。

「離宮へ戻りましょう。ブレンダン様を運んでください」

「!!」

部下はブレンダンを担ぎ上げ、部屋から出る。

「平地ポータルは離宮に多く設置してあります。応援が駆けつければ我らの優位は揺るがないものになるでしょう」

「アデレート様とイザベラ様は?」

「最悪、ブレンダン第一王子様だけでも人質として成立します。見張りは付けておいて、ここに残していきましょう」


――――――――――


フィリップとトーラティカの兵士、魔法使いたちは、町から来た暴徒と戦っていた。

モンスターテイマーの的確な指示もあり、旅客ドラゴンまで参戦している。

「レジナルド様!ここは任せて王城へ急げ!」

「大丈夫なのか!?」

「アリディンバリスとは歴史の長さが違うんだ!舐めるなよ!!」

「…隣国トーラティカの王子が我が国で死なれては国際問題だ、危険になったら絶対に逃げろよ!」


そう言い、道々で倒れている兵士を回復させながら走って王城へ飛び込んだ。

燃えている正門の扉からは冷気が流れてくる。

「…っ!?これは…!?!?!?」


エントランスホールは北極か南極かというように凍り付いている。

兵士も大勢凍り付いていた。

ギィィン!と何かが砕ける音がして、高速で回転する何かが飛んでくる。

「危ない!!!!うおっ!?」

レジナルドの足元に刺さったそれは水晶で出来た剣先だ。

ついでに大きな体もズドンと飛んできた。

「!?」

レジナルドは風魔法を使い、その人間を柔らかく着地させてやった。

「ぐぅっ…た、助かった…」

「おい、兵隊長じゃないか!!エントランスホールを魔法で凍り付かせて敵の足止めをしたのか?流石だ!」

「そ、そういう貴方は…レジナルド様!?」

「久しいな」

「ご病気で?」

「何故そう思うんだ?」

「こんなに痩せて…」

「正当なダイエットの結果だ~!!」


しょうも無いやり取りの最中だが、誰かがドスドスと走ってくる。

「あれは…俺!?」

「いいえ!レジナルド様にそっくりな演者ですよ…バーナビー様側の人間です!」

「死ねえええうおおおっ…お…あ…」

「おお…」

「あっ…れ、レジナルド様っ…!?」


一瞬、2人の間に気まずい空気が流れる。

「演者だって!?俺の姿を真似て演劇をやってくれているのか!それは嬉しいな!!」

「あ…」

「お願いだ、反乱なんてやめて、演劇の世界に戻ってくれ!今ならまだ誤魔化して逃がしてやることができる!俺は演者には甘いからな、任せておけ!」

「それは…それは出来ないんです…!!」

「どうしてだ!?」

「…て、転生させ女神様のご意志だからです」

「!?」

「うおおおっ!」

ロジャーは大きく腕を振り上げ、隊長を殴り殺そうとした。

「危ない!!」

レジナルドは水魔法と風魔法で隊長の体を滑らせた。

隊長はスケートリンクの上を移動するように、ツツーーーッと滑って危機から脱する。

「戦うしかないようだな…俺にそっくりな演者を失うのは惜しいが…」

「れ、レジナルド様!!魔法が使えたのですか!?」

「うむ。俺はおばあ様と同じで全ての魔法が使えるらしい。つい最近知ったんだ」

「では、靴の裏に氷のトゲを出して移動してください。そうすれば転ばずに戦えます!」

「…それもいいが…お前を風魔法で押した時、素早く移動できただろ?どうせなら、エントランスホールを凍らせた事を活かそうじゃないか!」

レジナルドは自分と隊長の靴に、スケート靴の刃のようなモノを出現させた。

「ちょっ…!?」

「二手に分かれて滑るぞ!!」

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