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人質生活98日目-2

ドラゴンを退治したその日の夕方。

巨穴が埋められた元王城の跡地には、大量の瓦礫や家具が散らばるままになっていた。


そこから少し離れた王都では、もうすぐ夜だというのに緊急で議会が開かれていた。

王城はぶっ壊されてしまったので、城下町で一番大きなホテルを丸ごと貸し切り議会が運営されている。


複製された手紙を回しながら、参加する全員が唸っていた。

ブレンダンがレジナルド宛てに送った手紙を覗き見たフィリップが内容の重大さに驚き、母親に報告したのだ。

「アリディンバリスの第一王子直筆の手紙です。深刻な問題なのでしょう」

「”いとこに王座を乗っ取られるかも知れない”か…」


宰相は間者からの報告文章を配った。

「合わせてこちらもご確認ください。モルリヴァール復帰派の動向についてですが…やはりアリディンバリス国内で陰ながら勢力を増しているという報告は本当のようです」

「しかしモルリヴァール国内からの働きかけは見られないとの報告ですから、なんとも不気味です。まるっきりアリディンバリスから出た動きなのでしょう」

「モルリヴァール復帰などと笑わせてくれますね。国家転覆のために勢力を集める必要があり、その誘い文句のひとつに過ぎないのでしょう。他にも様々な理由をばら撒き、賛同者を増やしている、そう考えて間違いないのでは?」


皮肉な事に当事者であるアリディンバリス王国の王家よりも、隣国トーラティカの方が謀反の兆しを的確に拾っていた。

今回送られた第一王子からの手紙によって、その危険性が確定した、という流れだ。

「誘い文句のひとつだったとしても、実際に王座に着く者が変われば国交の風向きも変わる可能性がある、という話です」

「ええ。アリディンバリスの新王がモルリヴァールと手を組み、両国が結託してトーラティカに攻め入る可能性もございます。そうなれば我々に勝ち目は…無いでしょう」

「アリディンバリスの軍事力は舐められません。もし大陸の再統一を目指しているなら、抵抗する手段はあるでしょうか?」

「個々の国同士でも戦力は拮抗していました。3すくみで拮抗が取れていたのですから、そのうち2国が手を取り合えば…」


目に見える国家存続の危機だ。

議会に参加していたフィリップは意見を述べる。

「…レジナルド第二王子様はアリディンバリスへ一度でいいから帰りたいと仰られていました。どうでしょう、ドラゴンを倒してくれた礼という名目で、里帰りをしていただいては」

「!!」

フィリップは話を続ける。

「私も同行します。実際にアリディンバリスへ赴き王城内を観察し、そして…必要なら先王様の安全を確保し、トーラティカへ連れ帰ることも視野に入れて行動しようかと」


国王がパンと手を叩いた。

「素晴らしい案だフィリップ、そうこなくては。あわや王都がドラゴンに滅ぼされるところだったのだから、それを防いでくれたレジナルド第二王子様には最大限の礼をしなくてはならない」

国王は”どう思う?”と言いながらぐるりと並べられたテーブルに座る大臣と議員に目をやった。

提案は議会の満場一致の拍手で正式に許可される。


国王はフィリップの目を見る。

「この手紙を読む限り、事態は急を要するのだろう。急いで。ブレンダン第一王子に直接会い、もし謀反の予兆があるのなら我が国も反乱を抑えるのに手を貸したい、と伝えて」

「はい。しかし、先触れもなく急に馬で私が押しかけても受け入れて頂けるでしょうか?」

「馬?何を呑気なことを言っている。お父さ…先王様のお命がかかっているというのに」


国王は立ち上がり、宰相を見た。

宰相も頷く。


――――――――――


夜。

日中たっぷりと眠ったレジナルドは目を覚まし、ビルを呼んで茶を飲んでいた。

「目が覚めましたか?」

「ああ。俺は馬車の中で眠ってしまったのか」

「ハインリヒさんいわく、気絶するように眠ったとか。完全に意識を失っているレジナルド様をどうやって寝室にお運びしたと思います?」

レジナルドはキョロキョロと周囲を見た。

「運んでないだろ?」

「正解です!ここは1階、つまりベッドを用意してエントランスで眠っていただいたわけです。レジナルド様を3階に上げるのは早々に諦めました」

「なんて機転の利く使用人たちなんだろうか…もちろん皮肉だぞ?次からは気合いを入れて寝室へ運べ!」

「そう何度も気絶するように眠られては困りますよ…」

「セーラとシャルロッテは?」

「ご安心ください、兵士の方々がオービター牧場まで送り届けてくださったそうです。ハインリヒさんも自室で休まれているので」

「そうか…」

「…レジナルド様たちが帰ってきた後、ベヴァリーが王城まで状況を確認しに行ってくれたのですが…トーラティカの城が崩れてめちゃくちゃになっていたと………」

「ああ。残念だったな」

「建国以来、ずっと建っていた城なんです」

「諦めろ。ドラゴンはわざと城を壊すように降りてきたんだ」

「ハァ…」

「まあ、アレだ、また建て直して次の数百年を耐えられるような頑丈な城にすればいい。俺もちょっとだけ破壊活動に加わってしまったから、罪滅ぼしの意味を込めて再建には協力をしようと思う」

「本当ですか!?それは心強いで…んっ?ちょっと待ってください、破壊活動に加わってしまったとは?ハインリヒさんは”レジナルド様がドラゴンを倒してくださった”と…」

「違うぞ。トープが穴を掘って、その穴にドラゴンを落としてくれただけだ。俺はドラゴンの体力を奪いはしたが、トープが…いや、シャルロッテもハインリヒも、それに大勢の兵士も市民も、みんなが協力していた。ドラゴンは全員で退治したんだ」

「退治できたんですよね?」

「違うと言っているだろう。穴に落としただけだぞ」

「…」

「おっと、そういえばトープは?」

トープは現在地球の裏側だ。


その時、ゴオオオン…という低音がカントリーハウスを細かく揺らし始めた。

「何の音だ?」

「もうドラゴンは沢山ですよ!!」


エントランスから庭に出てみると、なんと本当にドラゴンが降下していた。

羽先に赤と緑の魔法ランプが見えるので旅客ドラゴンで間違いない。

着地する頃には、屋敷から使用人たちが全員出てきて庭に大集合していた。


「どうされたんですか!?」

「一体何事で!?」

フィリップがドラゴンの上からひらりと降りてきて、風魔法でフワッと着地する。

「レジナルド第二王子様。あなたは今日、世界でもっとも繁栄した我がトーラティカの古王都を、ドラゴンの侵略から守った。そうだな?」

「…ああ」

「その功績に感謝し、故郷、アリディンバリスへの里帰りを認める」

「!?」

急すぎる話に理解が追い付かない、が、このチャンスを逃す手はない。

「それはありがたい話だ、1日あれば自分の部屋を確認することができる!!コレクションの無事を…」

「…家族に会いたいとか、先に述べるべき事項があるだろうが。まったく…」

フィリップはレジナルドの手を取り、浮けるか?と尋ねる。

任せろと元気に答えてレジナルドは空中に舞い上がり、ドラゴンの背に括りつけられた座席に座った。

下から声が聞こえる。

「レジナルド様!従者は必要ございませんか?」

「ないない!俺は自分のことは自分でできるぞ!!」

「嘘おっしゃい!それはともかく旅のご無事を!」

「ああ!」

「気を付けられてください、フィリップ様も!!」

「ドラゴンを出せ!」

「王子様、レジナルド様~!!」


旅客ドラゴンはその場で大きく羽ばたき、使用人数名を風圧で倒れされた。

垂直離着陸においてはドラゴンの右に出るモンスターはいない。

魔法の羽ばたきによるテイクオフで空高く舞い上がり、地形を無視して真っすぐにアリディンバリスへ向かった。


――――――――――


後ろに乗っていた魔法使いが、フィリップとレジナルドの前に曲面の風のシールドを作った。

とんでもない風圧を風魔法のシールドで避けてもらいながら、フィリップは一通の手紙をレジナルドに差し出す。

「王家からの手紙じゃないか」

「開けて読んでみろ」

「…」

「なんて書いてあった?」

「お兄さまからだ。いとこのバーナビーが出しゃばってきてウザい、このままでは彼が国王になってしまいそうだ、と」

「うわぁ~それは深刻な内容じゃないか?じゃあ里帰りついでに私はおじいさまを保護せねばなぁ~」

「ハッ、なぜフィリップ様が先に手紙の中身を知っていたんだ?」

「今レジナルド様に聞いて知ったが?」

「嘘をつけ。まあそれはいい。ところで、里帰りさせてもらえるなら馬車でも良かったのだが…」

「馬車だと日数がかかる。トーラティカへ来たときも休み休み1週間かかっただろう?そもそも単騎駆けでも3日かかるんだぞ。親族が下剋上を起こそうとしているのに、のんびり移動するなんてあんまりじゃないか?」

「まさか、そんなことが起こるわけがない。まずお兄さまは誰よりも努力家で謙虚な人間だ。王になるための自己研磨に日々励んでいる。国王になるのは絶対にお兄さまだ。まあアデレートとイザベラも優秀だから妹が国王になる可能性もあるが。優秀なきょうだい達に比べたら、いとこのバーナビーはおどおどしていて、いつも自信なさげだ。あんなヤツが謀反を起こすなんて考えられない。ところで…」


レジナルドは体と首を後ろに回した。

「急ぎの用があるのはトーラティカ側なんだろう?先触れは出してあるんだろうな?いきなり王城に戻ったら人質の役目を務められなかったのかと勘違いされてしまう」

兵士は否定した。

「ノットサスピシャスバードを飛ばしてあります。ご安心を」

「そうか。それなら安心してスピードを上げることができるな」

フィリップは笑う。

「モンスターテイマーにはこれ以上急げないぐらい急げと伝えてある。どうやってスピードを上げるつもりだ?まさか追い風でバフをかけるつもりか?」


レジナルドは手を軽く前に出した。

「朝にたっぷりと魔力を使ったからな。エコでいこう」

「エコ?」

ドラゴンの前に大きく、それでいて厚みが薄い三角の風のシールドが現れた。

その瞬間、ドン!という大きな音がする。

兵士や魔法使い達が叫ぶ。

「うわっ!!」

「ぐ…耳が…」

「クソっ、知らなかった…スピードを上げ過ぎると大きな音が鳴るのか?」

レジナルドは旅客ドラゴンの上で全員に回復魔法をかけた。

「はぁ…鼓膜が…おいレジナルド様、一体何をしたんだ!?」

「ご、ごめんな?でもほら、スピードは上がっただろ?」


空気抵抗が少なくなったドラゴンはぐんぐん速度を上げ、あっという間に山脈を越えていく。

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