人質生活98日目
トーラティカのカントリーハウス。
「!?」
空気がビリビリと揺れるのを感じたレジナルドは、慌てて外へ飛び出した。
空を見上げると、謎の低音が聞こえてくる。
「どうされたんですかぁ?」
ビルの間の抜けた質問の後、屋敷の上を、巨大なドラゴンが巨大な影を落としながら過ぎ去っていった。
鼓膜が破れそうな爆音に皆耳を押さえる。
「うわああぁ!?レ、レジナルド様…!」
「今のは…旅客ドラゴンか?いや違うよな!?こんな低い高度で飛ぶはずが無いし…」
2人の後に続き、ベヴァリーが転がりそうな勢いでエントランスから出てきた。
「野良の、野生のドラゴンです!羽に緑と赤の魔法ランプがついていませんでした!!」
「何だと!?」
ドラゴンはぐんぐん飛んでいく。
山々の向こうは王城だ。
「え!?」
「…王城を目指している…馬を出せ!!」
「レジナルド様、何を!?」
レジナルドは馬係を待たず、自分で発酵焙煎チョコレート号に頭絡を付け、腹帯を締め、サドルを乗せた。
モグラがバタバタと走ってきて、連れて行って欲しいと懇願する。
「じゃあ、小っちゃくなって俺の頭に乗っていろ、落ちるなよ!」
「お待ちくださいレジナルド様!ドラゴンを追いかけるのは危険です!」
「いいかビル、野良ドラゴンは国の滅亡のシンボルだ!方角からして王城へ向かっているに違いない!姫がさらわれるぞ!」
「姫って誰です?」
「…この国に来て、最初に国王様に謁見をした時」
「はい」
「隣に座っていた王配の顔が良すぎてびっくりしたんだ。多分、さらわれるなら王配だと思う」
「納得です」
「フィリップのお父さまを、ドラゴンに誘拐なんてさせるものか!」
レジナルドは発進の合図を発酵焙煎チョコレート号に出した。
「お待ちください、もう少しでセーラ様がいらっしゃいますので…」
「セーラにはオービター牧場へ戻り、シャルロッテを呼べと伝えろ!」
「!!」
「魔法無効のユニークスキルはモンスターにこそ有効だ!いいな!セーラにそう伝えろ!!」
ハインリヒが大量のバタフライナイフを身に着けて出てきた。
「国の危機に屋敷を守っていても仕方がございません、お供します」
「…逆に逮捕されないかその恰好?」
2人は馬を飛ばした。
――――――――――
「!?」
「!!」
風魔法を使える人間は飛び跳ねた。
巨大な空を飛ぶ生き物の殺気を感じる。
遅れて轟音が聞こえた。
大きな翼が空気を押す音だ。
「何だ!?」
「お逃げください国王様!王配陛下!!」
王城に巨大な影が落ちる。
真上でドラゴン羽ばたく。
レンガが飛び、城が揺れた。
屋上で見張りについていた兵士数人が飛ばされる。
朝食を終えたばかりのトーラティカ国王は、夫、そして息子と共に外へ逃げ出た。
「キャーーーーーッ!!!!」
「うわあーーーっ!!」
侍女や兵士の悲鳴が聞こえる。
ゴゴゴゴゴゴゴ、ガラガラガラガラと鈍い音を立てながら、ドラゴンはゆっくりと王城の中心へ降り立った。
国王は茫然とした顔でそれを見つめた。
「…ば、バカな…我がジョシュア一族の王城が…」
「国王様、ここは危険です!離れましょう!!」
大勢の兵士と侍女たちに囲まれ、国王は渋々後退させられた。
「ドラゴンは何故城を潰したんだ!?」
「ゴールドを探しているのでしょう、ドラゴンは金銀財宝を好むと伝えられています」
「つまり…国庫が荒らされるということか!?ドラゴンを倒せ!!」
フィリップはただ動揺し、母と父に付き従うしかなかった。
その間にもドラゴンは巨大生物らしい緩慢な動きで暴れまくっている。
兵士たちは大揺れの中、使用人や国王の臣下の貴族、それに人質も逃がした。
ガラガラと大きな音を立てて、歴史ある王城は石の山へと変わる。
王城で働いている人間が避難している間に兵隊たちは城の周りに集まり、ドラゴンを魔法で退治しようと陣形を組んでいた。
「おおかた避難させ終わりました!みな城の外へ出たので、後は離れるだけです」
「よし、やるぞ!」
混乱を避けるため国王や王族は城下町側ではなく、反対側のタフタフリッチへ続く道へと避難していた。
馬車と馬も用意され、より遠くに逃げられるように準備がされる。
「国王様、この場から離れましょう…」
「今退くわけにはいかない…とにかく、あのドラゴンを倒さなければ!」
王都の方角から馬やモンスターの鳴き声が聞こえてきた。
たまたま近くに居た冒険者や市民が駆けつけてきてくれたようだ。
「なぜ急に野良のドラゴンが!?」
「それが分からないんです…」
「不吉だ、本物のドラゴンじゃないか…それも王城よりデカいぞ!!」
兵士と魔法使いはそれぞれ魔法を使い、ドラゴンを攻撃した。
冒険者や市民もそれに続く。
「いいぞ!これだけの人数で力を合わせれば…」
「……!?」
打ち出された攻撃魔法は、透明なボールのようなものに当たり、飛散した。
「どうなってる!?」
「…巨大なバリアだ」
「バリアだって…?嘘だろ、あんなに大きく張れるはずがない!」
空も一緒に閉じ込めているかのような、巨大な球がドラゴンを守っている。
兵士たちはさらに攻撃を加えるが、バリアはびくともしなかった。
普段は議員として働いている貴族も、国の危機とあっては全力で魔法を使うしかない。
火、水、風、光、土…どの魔法も、バリアの前ではただ散らされるだけだ。
「ぐっ…」
「おい!無駄打ちはやめろ!魔力が尽きるぞ!!」
「魔法がダメなら、物理で叩くまでだ!いくぞ!」
魔力切れで倒れ始めた人間の横を、剣を抜いた冒険者が走っていく。
最初に走り出した冒険者に続き、兵士や他の冒険者も後に続く。
大勢がドラゴンに向かって走った。
がれきや大きな家具を乗り越え、ドラゴンの足を切りつけようとしたその時。
パッ、とバリアが解かれた。
「何っ…!?」
ドラゴンは間を置かずに火を吹き、大勢を一度に業火の中に閉じ込めた。
「ぐああああああああああっっっ!!」
「マズいぞ!水魔法で消火しろ!」
後から駆け付けた市民も救助に入り、ドラゴンに向かっていった人間はなんとか助けられた。
「バリアが解けた今がチャンスだ!」
モンスターテイマーが笛を吹いた。
多くの調教されたモンスターがドラゴンに向かっていく。
しかし、ドラゴン以外がドラゴンに勝てるわけもなく、翼で叩き落とされたり、口から吹く炎で焼かれたりして落ちていく。
国王は顔をそむけた。
「クソっ…助けを呼べ!近隣の領主の助けを…!」
「もう向かわせています。半日後には援軍が到着するでしょう。国王様、この場は危険です」
ドラゴンは口をバクバク開けている。
「また炎を吹くつもりだぞ!この辺り一帯が焼かれてしまう!!」
「いや、待て…!?」
ドラゴンは雄叫びを上げたが、だんだんとそのモンスターらしい咆哮が、人間の言葉になっていく。
「…!?」
「な、何かを喋ろうとしている?」
低音が空気を震わせる。
空が暗く、濁った色になった。
「グオオオ…ったしを…わたしを…バカにして………」
「!?」
「…こうかい…しても…もうおそい…んだから………」
低く、恐ろしい声になってはいるが、聞き覚えのある王族の声だ。
「キャーッ!!!!」
「そんな…まさか…!?」
「クローイ様!?!?」
「どうして、あなたは死んだはず…」
「叔母さまが…」
空は太陽が出ている時間帯にも関わらず、濁った灰色へと変わる。
国王の顔は空よりも色を無くした。
冒険者や市民は混乱し、ドラゴンから離れだす。
「どういう事だ!?先日亡くなられたクローイ様が…?」
「クローイ様!?嘘でしょ、どうしてあのお方がドラゴンの姿になっているの!?」
「王族が王城を破壊した…?」
ひとりの市民が兵士に突っかかった。
「どういう事だ!!説明しろ!」
兵士が目線を下げる。
「…ドラゴンに、クローイ様の魂が取り憑いているのでしょう…」
「何だと…まさか、王族が国に害をなすような真似をするはずがない!!」
「そうだよ、我々市民をお守りくださるのが王族だろう!?」
「…っ!!」
その場に蹄の音が響く。
「!?」
「どけどけぇ!人質のお出ましだぞ!!」
「あのデブ…!!」
レジナルドは目ざとく国王たちを見つけた。
馬を近づける。
「お~い!フィリップ様!あれは伝説に聞く野良のドラゴンじゃないか!!すごいなぁ、いくつもの国を破滅に導いてきた伝説のモンスターだぞ!」
「…お母さま。今から人質を殺すので揉み消していただけますか?」
「この混乱に乗じてやってしまいなさい。私のざまあ臓を満たして?」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!!」
「何だデブ、最後の言葉か?」
「あのドラゴン、魔法を使うだろう」
「モンスターなんだから魔法が使えるのは当たり前だ…クソっ!兵士たちの魔法も全部バリアで防がれてしまう…そしてあの強力な火…どうすれば…」
「シャルロッテを呼んだ。オービター牧場の装蹄師だ。ホースシューズの世界チャンピオンで…」
ハインリヒが止める。
「魔法無効のユニークスキルを持っております。私は参じませんでしたが、訓練場でフィリップ様とレジナルド様が剣術の試合をした時、近くに小山のような女性がおりませんでしたか?」
「………あ!」
フィリップは、セーラの隣に見知らぬ女性が居たことを思い出す。
「ま、魔法無効のユニークスキルだと!?チッ、おいレジナルド様!よくもインチキをしてくれたな?」
「バカなヤツ。インチキしようとしていたのはそっちだろ、魔法を禁止にしたのは誰だ?」
「わ、私は使う気がなかったが、私を慕っている魔法使いや兵士が勝手に回復魔法をかけてしまうような予感がしていたんだ。それを阻害されたと考えると、あの敗北には不満がある!」
王子以外の全員が額を押さえる。
その時、乗馬インストラクターの声が聞こえた。
「レジナルド様~!!」
「もう着いたのか!?早すぎるだろ!!」
どうやって飛ばしてきたのかは謎で、さらにいうとシャルロッテの馬がどうやって彼女の重量に耐えているのか謎ではあるが、とにかくセーラとシャルロッテが到着した。
「オホホ!伊達に馬の訓練で食っているわけではございません」
「簡単に説明するぞ!ドラゴンはバリアを張れる。無効にできるか?」
「近づいてみましょう」
「行くぞ!」
レジナルド達は馬を走らせた。
「あ、あいつら…」
フィリップはその背中を見守るしかない。
――――――――――
ズシン、ズシンと地面が揺れる。
ドラゴンは崩れずに残った王城の壁を壊し、さらには辺りにいる人間を踏み潰そうと、足を上げたり下げたりしていた。
「もっと近くへ!」
「これ以上近づくと踏まれてしまいます!」
「ハインリヒさん、シャルロッテを舐めないでください!」
「それにしてもデカすぎるなぁ、王城の2倍、3倍…いやそれ以上あるか…!?」
「家畜化されたドラゴンとは別の種類の生き物ですね」
見上げるほどの高さとはこの事だ。
馬4頭がつかず離れず、足場の悪い中、見事に道を選びドラゴンへと近づいた。
「見ろ!バリアが!!」
幸運なことに作戦は成功し、バリアがハラハラと消えていく。
「グオオォゥッ…どうして………にくい…おねえさま…にくい…しろ…めちゃくちゃに…してやる………」
「いいぞ!ギリギリまで近づいた甲斐があったな!」
バリアを壊して喜んでいたその時、ドラゴンが強烈な炎を吹いた。
瓦礫の山に火が点くほど高温のファイアブレスだ。
レジナルド達は偶然にもドラゴンの横に移動しており、直撃を免れた。
しかしそれでも熱波が肌をじりじりと焼く。
「どういう事だ!?炎の息は魔法じゃないのか!?」
「あれはドラゴンの体内で作っている火なのでしょう!魔法ではない、という事です」
レジナルドはハッとして、胸から雨を呼ぶ笛を出した。
「火には水、子供でも思いつくな」
今までに鳴らしたことがない大きな音で笛を吹く。
すぐに空から大粒の雨が降ってきた。
兵士や冒険者も驚く。
「…どうして急に雨が!?」
レジナルドは頭の上からトープの声を聞いた。
「ん!?降りて戦いたい?正気か!?」
レジナルドは馬を止め、トープをゆっくりと地面に降ろす。
「苦しくなったら地面に穴を掘って逃げろよ?」
トープは頷き、ぐんぐん体のサイズを大きくしていく。
「凄いぞ!そこまで大きくなれるなんて………いや、あのサイズの転生させ女神様と触れ合うなら必須の能力だな?」
「レジナルド様!トープはモグラです、モンスターではございません、戦えないでしょう!」
「大丈夫だ、見ていろ!それより、セーラはシャルロッテをドラゴンから離さないように誘導してくれ!炎が直撃しない位置に動くんだ!」
「お任せを!」
レジナルドは笛を吹き続けた。
雨は強まる。
その間にもぐんぐんトープは大きくなる。
「おい、何だあの茶色い毛玉は!?」
「ポーチやペンケースに付ける茶色いアクセサリー?」
「別のモンスターか!?こんな時に…」
「…グオオォ………!?」
とうとうドラゴンに気付かれるほどのサイズになった。
「いいかトープ!デカい生き物は動きがスローモーションなんだ!雰囲気重視で動けよ!!」
ドラゴンは相手にぶつけようと尻尾を振ったが、トープは大きな手でズシィィン!と尻尾を受け止めた。
トープはそのシッポをゆっくりと持ち上げ、強い2本の前歯で噛みつく。
「ッギイイイイヤアアァァァーーーー………!!!!」
よほど痛かったのだろう。
空気どころが地面が震え、聞いた人間の全身の毛が逆立つほどのドラゴンの咆哮は、広い城下町にまで届いた。
その城下町から、次から次へと人が来る。
「街から来ました!手伝えることはございますか?」
「回復魔法を使える人を呼んできてください!」
「魔力切れを起こした人は避難を!手を貸して、動けない人を運んでください!」
「馬と馬車を貸してください、冒険者はケガ人を街へ!!」
トープはドラゴンと同じだけ大きくなった。
手には強力な爪があり、それでドラゴンをひっかく。
その度にドラゴンは不愉快な叫び声を上げた。
ドラゴンが反撃で炎を吹こうと口を開いたその時。
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、と何かがドラゴンの口へ放り込まれる。
「ハインリヒさん、何を!?」
「セーラさん、誰にも言わないと約束してください。私はチョコチップ・フロッグの毒を肌身離さず持っています。モンスターにも毒の効果はあるはずでしょう?」
「チョコチップ・フロッグ!?…あら、電波が悪いみたいですね。聞こえませんでした」
「リアル会話でそれをやられると気恥ずかしいですね。というか、なろう世界に電波ってあるのでしょうか?」
ハインリヒは猛毒を塗ったバタフライナイフをドラゴンの口や鼻の穴めがけてどんどん投げ込む。
毒はドラゴンの口内に悪影響を与えた。
うまく炎を吹けなくなり、たまに火を吐けても、強まってきた雨により威力は弱まってしまう。
ドラゴンの皮膚は所々壊死し、チョコチップのような巨大な黒い塊ができ始めた。
レジナルドは休まずに雨を呼ぶ笛を吹き続ける。
ズシィィンンン!と大きな音をさせ、巨大トープとドラゴンは取っ組み合う体勢になった。
そんな中、兵士や冒険者たちも拳を上げる。
「俺たちも加勢するぞ!」
「いや何だあの巨大モグラは…?ドラゴンよりも恐怖を感じるが?」
ハインリヒがバタフライナイフを投げたのを観察していたのだろう。
バリアが崩れたことを理解して、兵士も弓や投てき武器でドラゴンの体をチクチクと攻撃してくれる。
「ダメだ!魔法は届かない!!」
「いい考えがある!風魔法で城壁やレンガを持ち上げて、ドラゴンの頭に落とそう!」
風魔法を使える人間が協力をし、周囲にある物をなんでも持ち上げ、ドラゴンの真上に運んだ。
魔法が消えても自由落下でドラゴンにダメージを与えることが出来る。
「手の空いているヤツは近づいて剣を投げろ!」
「近づきすぎるなよ!踏まれて死ぬぞ!!」
ワーワーと総力戦でドラゴンにダメージを与える。
それを見ていたフィリップも思わず前に出た。
従者が止めようとする。
「フィリップ様!危険です!」
「あのドラゴンを…クローイ叔母さまを放って置くほうが危険だろう!」
その言葉を聞き、国王と王配も互いの顔を見て、走り出した。
「いけません国王様!王配陛下!もしものことがあれば…」
「家族の不始末だ、そうだろう!?私たちが動かなくてどうするんだ!!」
その国王の発言を聞いた他の王族も進み出た。
風魔法が使えるものは風魔法で攻撃に、回復魔法が使えるものは兵士たちの回復に参加する。
トープとドラゴンは相撲を取る様な体制で、互いの胴体に手を回している。
胸を密着させ合い、押し合ったり、左右に投げようとしたり、バタバタ暴れていた。
どちらも巨大なのでスローモーションのような動きだ。
「投げ終わったなハインリヒ!」
「手持ちは尽きました!」
「潔癖症か?他人が吹いた笛を吹きたいと思ったことは?」
「ございませんが、緊急事態です。シャツの端っこで吹き口を拭いて我慢しますよ」
「よく言った!マシューなら断っていただろう。頼んだぞ!」
レジナルドは馬上から雨を呼ぶ笛をハインリヒに投げた。
「セーラとシャルロッテに、地面が揺れたら逃げろと伝えてくれ!そうなったらお前も逃げろ!」
「わかりました!」
レジナルドは魔法無効のユニークスキルが利かなくなる場所まで離れていく。
ハインリヒは笛を吹きつつセーラたちと合流して、伝言を伝えた。
「あら、どんな作戦でしょう。トープにとって危険じゃないと良いのですが」
その瞬間、地面が揺れ出す。
「フラグを立ててしまったでしょうか?」
「言ってる場合ですか!逃げますよ!」
シャルロッテが叫んだ。
「しかし私が離れては、再びドラゴンがバリアを取り戻してしまいます!」
「レジナルド様を信じましょう!」
ドラゴンとトープは両者譲らず、力比べをしているままだ。
その時、地面がぐにゃりと動き、巨体が地中にめり込んだ。
しかしどちらも相手を自由にさせる事なく、がっちりと組み合ったまま体をギチギチと押し合っている。
地面は柔らかくなり続けているようで、崩れた王城の瓦礫もろともズブズブと地面に沈んでいく。
まるで流砂に落ちたラクダのように、もがけばもがくほど沈んでいくようだ。
「みなさ~~~ん!!お逃げください!!地面が柔らかくなっています!!すべてが飲み込まれますよ!!」
それを聞いた兵士や市民はパニックだ。
冒険者だけが”流砂は仰向けになれば沈まないぞ!人は軽いし浮力があるからな!”と叫んでいる。
大勢がバタバタと城下町へ避難していく中、反対側の小丘では、レジナルドは発酵焙煎チョコレート号から降りていた。
手と足を地面を付け、ありったけの魔力を地面に注ぎ込む。
「広くしたら危険だ…狭く、その代わり深く…」
とうとうドラゴンの体を地中の半分まで埋めてしまった。
ドラゴンも苦しいのか、ジタバタともがいている。
一方のトープは、ちゅるちゅるの毛並みを活かし、キュッ!!!!と体を丸めて玉になって抜け出してしまった。
抜け出た場所から少し移動して、大きな手を使い別の穴を掘り始める。
兵士と冒険者が歓喜した。
「いいぞ!ドラゴンの体が地面埋まってる!あれなら殴りたい放題だ!!」
「ここから反撃だな!」
「待て!顔が出ているなら口から火を吹かれるぞ!!むやみに近づくな!」
「腕も自由じゃないか!ドラゴンには鋭い爪もあるんだ!」
ドラゴンの力もさるもの。
バリアが使えるようになった事にすぐさま気付き、全身に再びバリアを張り、土を押しのけてなんとか這い出してしまった。
その様子を遠くから見ながら、レジナルドはさらに土に魔力を込める。
額から汗が流れ落ちた。
「体が熱いな。ドラゴン退治ダイエットか?」
地面から草が生え、その草が成長してツタになった。
ツタは、完全に倒壊して石の山になった王城に絡みつく。
「おい、何だありゃ…」
ツタが石と石を結び付け、瓦礫を巨大なロボットのように立ち上がらせる。
ゆっくりと、もったいぶった動きでドラゴンに向かっていった。
「ゴーレムだ!!」
「植物が絡まってるぞ、どうなってるんだ…?」
「デカいぞ!さっきのモグラと同じだけある!!」
王城という世界一贅沢な部材で作られたゴーレムは、ドラゴンのバリアを緩慢な動きで殴った。
ズシーン………と残響が響く。
反対の拳を大きく振りかぶってもう一撃殴る。
ズシーン………音は重いのだが、肝心のバリアには全く影響がないように見られた。
が、やられてばかりじゃドラゴンの名に傷がつくのだろう。
ドラゴンはバリアを解除して口を開け、火を噴く動作をした。
その時。
ガッ!
目にも止まらぬスピードでドラゴンの喉が押さえられた。
「こんな簡単なミスリードにテンポを合わせやがって、ドラゴンの高い知性も問題だなぁ!?」
最初のゆっくりした動作はどこへやら、ゴーレムの動きはだまし討ちへの準備だったようだ。
喉を押さえた手をそのままに、ゴーレムは空ている手でドラゴンの顔を殴りまくる。
拳が残像に見えるほどの滅多打ちだ。
「あ、あの大きさのゴーレムが、そのスピード出せるのかぁ…?」
「モグラですらゆっくりだったのにな?」
ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ………。
ドラゴンは自分の体に接触されているのでバリアを張れない。
張れても敵がバリアの中に入ってしまうだろう。
ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ………。
「もう限界だぁ~~~~~!!!!」
レジナルドは気持ちだけ絶叫して倒れた。
実際には叫ぶだけの気力は無い。
ドラゴンも同じようにふらつき倒れる。
兵士のひとりが言った。
「やったか!?」
「「「「バカ!!」」」」
やったか兵士は、そこにいる全員から責められた。
やったか!?からフィクション構造エネルギーを与えられたドラゴンは再び動き出し、体を起こそうとしている。
「無尽蔵の体力じゃないか…もうダメだ!」
「トーラティカはドラゴンに滅ぼされるのか…!?」
ドラゴンは相当ダメージを受けているようだが、よろめきながらもなんとか立ち上がる。
力を振り絞るように口から火を吹き、ゴーレムを焼き尽くしていく。
遠くから見守るハインリヒは悔しそうだ。
「もう毒の効果が無くなってしまったのでしょうか、世界一の猛毒でも一瞬しか効き目がないとは…!!」
ゴーレムは火に包まれ、石と石を繋いでいたツタもブチブチと切れていく。
無情にもゴーレムは瓦礫の山へと戻っていった。
光景を見守っている全員が落胆する。
「そんな…」
「ああ………もうダメだ」
その時、再びドラゴンの体が地中に沈んだ。
「無意味だ…バリアを張られて、また地面から出てくるだけじゃないか!?」
「いいや!!最後のチャンスだ、追い打ちをかけるぞ!火魔法を使えるヤツ、ついてこい!」
攻勢に転じようと、わーっと人が集まってくる。
しかし。
「………何だこの穴」
「おい、押すなよ!落ちたらどうするんだ!?」
「これって…さっきのモグラが掘ったのか?てっきり逃げたと思ってたんだが…」
巨大な底なし穴が空いている。
「ドラゴンが出てくるかもしれないぞ!ここで待機しようじゃないか」
「いや、埋めたほうがいいだろ」
「…えっ!?」
「ドラゴンが出てくるかもしれない穴なんて埋めたほうがいいだろ」
「!?」
国王の”とりあえず埋めとけ!”の一言で、土魔法使い達はとりあえず穴を埋めた。
土魔法が使えないフィリップもシャベルを持って埋め戻しに参加する。
ナーロッパ地球の反対側に急にドラゴンが現れて大騒ぎになったのは、また別のお話だ。
――――――――――
「レジナルド様!今、回復魔法をおかけいたします」
「その声は…ルイス様じゃないか!聖職者長まで駆けつけてくださるとは。”国の危機”の看板に偽りはなかったようだな」
レジナルドはハインリヒに支えられながら体を起こした。
「クタクタなんだ、これが魔力切れってヤツだろう。ものすごく怠いな」
「…いえ、私の見立てだと、レジナルド様の体内にはまだ魔力が残ってございますよ」
「じゃあなんでこんなに疲れているんだ?息だって切れているし、汗もかいた!」
「有酸素運動をされたのでしょう」




