聖女は結婚したくない
「話が違う? 聖女である事を隠すと言う話か? だが、こうなってしまえば仕方が無いだろう。それに次期国王の后になる人物は、それ相応の者でなければならない。だからこそ君を俺が選んだ」
「お主がワシを……?」
「ああ。そうだ」
(と言う事は、国王が言いだしたわけでは……って、今はそんなのどうでも良いのじゃ。それよりも)
「答えになっておらん。そもそもワシはそんな話は初耳なのじゃ」
「それは意外だな。君と父上で君の正体を何人かの貴族に教えたんだろ? その理由は俺の婚約者になる為だと噂になっているぞ」
「なんでじゃあ!?」
再びミアは驚き、ルニィ達に視線を向けた。だが、驚いていたのはルニィ達も同じで、状況が全く分からないと言う表情をしていた。
「心配はいらない。噂と言っても、今は聖女であると明かした者達の間だけだ」
「ぬぬう。しかし、それと婚約は別件じゃろう? ワシはさっきも言った通り初耳なのじゃ。それに、普通は先にワシに相談するものではないか? 婚約の話はいつ決まったのじゃ?」
「つい先ほどだ。俺が暴動を抑える抑止力として提案した。父上も聖女様であればと喜んでいたぞ」
(と言っても、説得できるのであればとも言っていたが。まあ、言う必要は無いだろう。たかが子供だ。簡単にものにしてやるさ)
などとアンスリウムは考えているが、相手はミア。上手くいくわけがない。と言うか、国王の言葉を最後まで言わないから、あらぬ誤解を招いていた。
(おのれえ。国王めえ。子の事を考えよとは言ったが、こう言うのはワシ抜きでお願いしたいのじゃ! それに、国王としても国の事を思えば正しい判断かもしれぬが大迷惑なのじゃ。ぐぬぬう。って、今はそれよりもじゃ)
「お主、噂がどうのと今言ったではないか。さっき決まった事が、もう噂になっておるのか?」
「それとこれは別だ。噂は聖女と明かした直後から流れ始めていた。偶然にも、俺が元々の婚約者と婚約解消した時期にな」
「む? お主、ふられたのじゃ?」
「ふったんだよ! 何故俺がフラれなければならないんだ!?」
「それは……」
(束縛してきそうだからと言いたいのじゃが、黙っておくのじゃ)
ミアが本音を隠して黙り乍ら視線を侍従たちに移したが、流石は侍従だ。ミアの考えはお見通しである。クリマーテは目が合った瞬間に横を向いて笑いを堪え、ルニィは何か言いたげに額を押さえ、ヒルグラッセは冷や汗を流していた。
「ふん。まあいい。話を戻す。いいか? よく聞け。ランタナが自ら候補を降りた事で、暴動の恐れがあった。丁度良く俺は婚約者がいなくなっていた。全てを丸く収める為にも、俺が聖女と婚約する。実に理に適っていると思わないか?」
「だからワシの事を教えると言う話がでたのじゃな?」
「その通りだ。と言っても、今のミアはそれだけじゃない。ヘルスターからネモフィラを救い、サンビタリア姉さんを服従させた。君が聖女だと知らなくとも、今では君を称賛し高く評価している者がたくさんいる。派閥間の争いは君の活躍で終止符が打たれた。そんな君が聖女だったと知れば、誰もが納得し疑う者などいないだろう。最後は王太子の俺と聖女のミアが婚約し、そして、完璧なチェラズスフロウレスが完成するんだ」
ミアはがっくりと項垂れる。このままでは“引きこもり計画”が出来ないどころか、したくもない結婚までさせられてしまう。
(ぬぬう。じゃが、ワシも諦めるわけにはいかぬのじゃ)
ミアは心を奮い立たせて考えた。どうにかこの難関を乗り越える手段を。そして、一度心を落ち着かせ、冷静に疑問をぶつける事にした。
「ランタナ殿下は何故王太子候補から降りたのかのう?」
「最近チェラズスフロウレスでは、知っての通り過激派や二重で派閥に入っている者が事件を起こしている。ランタナはこのままだとリベイアが派閥争いに巻き込まれるかもしれないと恐れたのだ」
「なるほどなのじゃ」
隠れアネモネ派のヘルスター。サンビタリア派の親を持つネモフィラ派のルッキリューナ。ヘルスターは更に言うとアンスリウム派であったが、それはミアの知らない事。しかし、それは関係無い。どちらにしても、二人とも表向きの顔と裏の顔があった。ランタナはそれを警戒している。
「自分の派閥の者を疑うわけでは無いが、どこで裏切られリベイアを危険な目に合わせるか分からない。だが、目に見える暴動であれば話し合える。ランタナはそう考えたようだな」
「ぬう。気持ちは分かるのじゃ」
(じゃが、裏で動く者は何をしても無意味なのじゃ。しかし、ランタナ殿下はまだ七歳じゃし、そこまでは頭が回らんかったのじゃろうな)
結局のところ、ランタナは自分の考えられる限りの安全策をとった。それはランタナがリベイアを巻き込みたくないからであり、王太子に元々興味が無かったから出来た。リベイアも将来は国王のお后様に。なんて事を考えていないので、ある意味ではこれで良かったのかもしれないとも言える。
(ランタナ殿下を説得して、また王太子候補にとも思ったんじゃが……やめておくのじゃ。ワシだってリベイアは大事な友人なのじゃ。リスクのある手段はさせたくないのじゃ)
ミアは目を閉じて腕を組み、深く考えた。全ては“引きこもり計画”の為に。
「どうした? 王妃になる事が不安なのか?」
ミアは考える。深く。海よりも……いや。海よりは言いすぎた。とにかく深く考える。
「不安であるなら、サンビタリア姉さんを相談役にすれば良い。あれでも仮とは言え天翼会にいた身だ。改心した今なら、それなりに使えるはずだ」
その時、ミアの脳裏に電流……いや。稲妻が落ちる。
「ワシは、サンビタリア殿下を王太子に推薦するのじゃあ!」
「……は?」
ミアのとんでも発言に、アンスリウムが一拍遅れて凍り付いた。




