動揺する王族たち
「……え? 私を王太子に推薦? それは本当なの? お父様」
「本当だ。本来であれば聞き入れるわけにはいかないが、相手が聖女様となれば話が別だ。無下にするわけにもいかん。しかし、聖女様はいったい何を考えていらっしゃるのだ……」
ここはチェラズスフロウレス城の家族会議室。今この場には国王と王妃とサンビタリアとアネモネしかおらず、微妙な空気が流れていた。しかし、それもその筈で、つい先ほど天翼学園のチェラズスフロウレス寮から届いた手紙を読んだから。内容はもちろん、ミアがサンビタリアを王太子に推薦したと言う事。国王が頭を抱えるのも頷ける。
「きっと何かお考えがあるのでは?」
アネモネが微笑みながら話し、王妃が何とも言えない表情で頷いた。
「そうですね。ただ、これはアンスリウムが聖女様を婚約者にと申し出た事よりも……驚いてしまいますね」
「ランタナが自ら候補から外れ、暴動を抑える為にアンスリウムが聖女様を婚約者にと提案し、私も本心では可能であればそれが一番だと思ったが……。やはり説得は失敗したか」
「だから言ったじゃない。聖女様は拒むだろうって。あんな性悪男で束縛してきそうなアンスリウムと婚約なんて、絶対に嫌がると思ったのよ」
「サンビタリア。心を入れ替えたと思ったら、全然変わらないのだな……」
「嫌だわお父様ったら。私は聖女様の忠実な信仰者になっただけよ。娘の事を何にも分かってないお父様より、よっぽど信頼に値するお方だわ」
「…………」
結局いつも通りのサンビタリア。と言っても、あの時見せた涙に嘘は無い。ミアのおかげで今までの努力を理解してもらえて報われた気持ちになれたサンビタリアは、見事に父親には冷たい娘に成長した。まあ、国王の自業自得なので、そこは諦めろとしか言えない。
「それより困ったわね。聖女様が私を推してくれるのは嬉しいし、とても光栄なのだけれど、流石に気が引けるわ。それに暴動が起きそうで怖いし」
「姉さんは今では国民から笑い者になってるし、派閥関係なく暴動が起きそうよね。派閥内でも色々あったんでしょう?」
「今はその話はよしてよ」
アネモネの言葉にサンビタリアがため息を吐き出す。“自国民と事件の関係者全員に下着姿で謝罪訪問”を実行中のサンビタリアは、毎日城下町を一軒一軒回っては、大人から子供まで指をさされて笑われている。そして、ついたあだ名が“裸の王女様”。実際には裸では無く半裸だが、まあ、似たようなものだ。派閥内でも色々あり、本当に色んな意味で忙しく、精神がすり減っていくような毎日を過ごしていた。
「まさか、聖女様があの様な罰をサンビタリアに与えるなんて……」
「お母様はショックのあまり数日間寝込みましたからね」
「今はもう考えないようにしています」
「お母様は大袈裟なのよ。これは聖女様が私に与えて下さった罰であり試練なのよ」
「お姉様も最初は帰って来るなり一日中泣いていたじゃない。私、お姉様が泣いた所を初めて見たわ」
「煩いわね。あなた本当に最近生意気よ。ネモフィラもそうだけど、前までもっと大人しくて静かだったのに」
「お姉様と同じで私も変わったのよ」
「ふふふ。母としては、二人が……いいえ。ネモフィラも入れて三人が聖女様のおかげで良い成長をしていってくれて、とても喜ばしく感じています」
「ふん。まあ良いわ。それよりも、王太子候補の事よ」
「……そうね」
女三人寄れば姦しいと言うが、ここでも同じ。男一人の国王は三人の話に入っていけず、気まずそうに聞くだけだ。だけど、話題が王太子候補の話に戻り、満を持して話に乗り出す。
「サンビタリア。お前はどうしたい? 聖女様の推薦とは言え、候補除外の元々の原因がある。それに再び派閥間の争いを生む事になる恐れもある。信頼を無くしたお前では、民がそれを許すとも思えない。私は聖女様が自ら名乗らないのであれば、お前を聖女様が推薦したと言うつもりは無いぞ」
「分かっているわ。でも、一先ずは保留にしようと思うの」
「保留……?」
「ええ。保留よ。正直に言うなら、王太子候補から外れた事には未練があるわ。でも、それが理由なわけでは無いの。手紙では無く、聖女様に直接会って真意を聞きたいだけ。決めるのはそれからでも遅くは無いでしょう? どうせ王太子の決定は、元々ランタナが学園に入学して問題無く卒業してからの予定だったのだもの。それに、今は謝罪に行く毎日で忙しいの。王太子の事を考えている余裕は無いわ」
以前のサンビタリアであれば、きっとこの答えに誰もが疑念を抱いた事だろう。保留にしたのは、王太子になる為に何か悪い事を考えているからかもしれないと。だけど、今は違う。サンビタリアの言葉に嘘はなく、そこには何の企みも無いのだと分かる。だから、国王はその答えに満足し、微笑を浮かべて頷いた。
「分かった。では、その様に聖女様にも伝えよう」




