薄っぺらい鋼の精神
「はい。新しい火の魔石」
「ありがとうなのじゃ」
ここはチェラズスフロウレス寮の保健室。サンビタリアへの罰を下した後に、ミアは侍従たちを連れてジェンティーレに会いに来ていた。目的はもちろん今貰った火の属性の魔法が出せる魔石である。そして、ネモフィラの要望で、ネモフィラとメイクーも一緒だ。
「ミアが使っていた魔石はとても珍しい種類の物だったのですね」
ネモフィラが魔石を覗き見て、ジェンティーレが嬉しそうに笑みを浮かべる。
「流石はチェラズスフロウレスの第三王女様。お目がお高い。仰る通り、この魔石は私の特別製よ。ちょっと改良を加えてあるの」
「普通は魔石一つにつき魔法は一回しか出せませんからね~」
ジェンティーレの言葉に続いたのはクリマーテだ。クリマーテも興味津々に魔石を見て目を輝かせている。
「クリマさんは魔石に興味があるのじゃ?」
「もちろんです。だって、とっても綺麗じゃないですか。装飾品としても使えますし、便利だと思いませんか?」
「なるほどのう。確かにそう考えると便利かもしれぬ。普段はアクセサリーとして身につけて、必要な時に使えば良いのじゃ」
ミアの答えにクリマーテは満足して嬉しそうに微笑む。すると、二人の話を聞いてネモフィラも「あっ」と声を上げて、音を立てずに両手を叩くように合わせた。
「そう言えば、結婚式でアネモネお姉様が着る予定のドレスは、魔石を装飾として使う予定のようです」
「ほう」
「良いですねえ。きっとお綺麗に違いないですよお」
クリマーテが目を更に輝かす。が、ルニィがジト目で見つめて、肩を掴んで後ろに下がらせた。
「ミアお嬢様とネモフィラ様の会話に割って入らないようになさい」
「ええええっ。ルニィ固いよ。ミアお嬢様が今いる顔ぶれなら好きに発言して良いって言ってくれてるのにい」
「ジェンティーレ様の前と言う事を忘れているの?」
「あ……」
クリマーテがしまったと言う顔でジェンティーレに視線を向けると、ジェンティーレはニコニコと楽しそうな笑顔を向けた。
「大丈夫みたいよ」
「何も仰っていないでしょ」
「言ってるようなものじゃない」
ミアやネモフィラ達はルニィとクリマーテが言い争いを始めたので、一先ずそれを放っておく事にした。それよりも、ネモフィラは魔石を見ていたら気絶していて見れなかった戦いの事を思いだしてしまい、眉根を下げて肩を落とした。
「わたくしもミアの戦いを見たかったです」
「途中で気絶しておったようじゃな」
「はい。ミアがあまりにも……」
ミアのパンツ一丁な姿を思い出し、ネモフィラが頬を染めて言葉を詰まらせる。そして、慌てるように話題を変える。
「そ、それよりも、天翼会の方々は、生徒の魔装が何かと言うのを知っているのですか?」
ネモフィラが尋ねると、ジェンティーレは「よくぞ聞いてくれました」とでも言いたげな顔になる。そして、机の引き出しから棒の付いた飴を取り出して、それをネモフィラに差し出した。ネモフィラがそれをお礼を言って受け取ると、自分も飴を一つ銜えてから話しだす。
「魔装の概要からまず説明したい所だけど、それは置いておくとして、質問に答えましょう。一言で言えば、魔装を分析し解説する手段が我々天翼会にはあるのよ」
「ルッキリューナはそれなのに魔装を悪事に使ったのですね……」
「その件については本人も言っておったが、先生等が寮を離れておる間に犯人をサンビタリア殿下にすれば、自分は安全じゃと思っておったのじゃ」
「バカで愚かな事をしたよねえ。彼女も」
ジェンティーレは辛辣に告げると、冷やかな目を見せた。その目は完全に呆れていて軽蔑が籠められた目で、その目を見て、ネモフィラは非難を浴びていた姉を思い出す。そして、ミアの言葉で泣いていた時の事も。
「わたくし……サンビタリアお姉様が泣いている所を初めて見ました」
ネモフィラの言葉に、そして、曇った表情に場が静まる。全員がネモフィラに注目した。
「きっと、わたくしの知らない辛い事がたくさんあったのだと思います。あんなにも大嫌いだったお姉様なのに、今では不思議とそうでもないのです。お姉様に向けていた怒りはどこかに消えてしまいました。だけど、可哀想……とは思えないのです。わたくしは酷い子なのでしょうか? とても複雑な気持ちです」
「ネモフィラ様……」
メイクーが目を潤ませて名を呼ぶと、ネモフィラは振り向いて「可笑しいでしょう?」と苦笑する。でも、全然可笑しくなんてない。この場にいる誰もがそう思った。だけど、一人だけ的外れな者もいる。何を隠そうミアである。
「フィーラは偉いのう。ワシは泣いても許す気が起きなかったのじゃ。涙には屈しない鋼の精神なのじゃ」
最低である。とは言え、まあ、色々と嫌がらせを受けてきたのだ。寧ろ当然と言えば当然で、ネモフィラが優しすぎるくらいに優しいだけ。だいたい普通はこんなものだろう。とは言え、今の流れで言う事でも無いのは事実。ルニィが額を押さえて、クリマーテが笑いを堪えて、ヒルグラッセが冷や汗を流す。そして、ミアの親友ジェンティーレは「あはははははっ!」と豪快に笑った。
「それで出した恨みの結果が“関係者全員と自国民に下着姿で謝罪訪問”なわけ? あはははははっ! 他にもっと何かあったでしょ? あはははははっ! ダメ。お腹痛い」
「笑いすぎじゃ! と言うか、自国民はワシではなく国王の提案なのじゃ!」
「同じようなもんでしょ。あはははははっ!」
「ぬ、ぬぬう……」
悔しいけど言い返せない。と言うか、この件に関しては、思った以上に大変な事になりミアはやり過ぎたと反省している。だから、余計に罪悪感を刺激されて言い返せなかった。
「ま。とにかく、ネモフィラ王女は元気だしなさい。ミアなんてこんななのよ? 真剣に悩むのが馬鹿みたいでしょう?」
「……うふふ。そうですね」
「フィーラまで酷いのじゃあ」
ネモフィラが微笑みを見せて同意すると、薄っぺらい鋼の精神を持つミアが肩を落としてしょんぼりする。それを見て、ネモフィラとジェンティーレが顔を合わせて、楽しそうに笑みを零した。




