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聖女の裁き(3)

「ミアちゃん! 考え直してあげて! 下着だけで謝罪に行かせるなんてあんまりだよ!」

「駄目なのじゃ。寧《むし》ろ全裸でない事を感謝しながら苦しむがいいのじゃあ!」

(うむうむ。やはりジャスミン先生を選んで正解だったのじゃ)


 ジャスミンの大袈裟な反応に、ミアが内心でほくそ笑む。この聖女、最低である。


「酷すぎるよ! 鬼! 悪魔! 堕《だ》聖女!」

「はっはっはっはっ! ワシは聖女では無いのじゃあ!」


 なんだこれ? ってな感じの会話だが、周囲の反応が徐々に変わっていく。とくに女性陣は冷静になってその恐ろしさに恐怖して身を震わせた。関係者全員に下着姿で謝罪に行くと言うのは、想像以上の恐怖なのだ。

 まず、下着姿の時点で女には難易度が高い。しかも、それをまとめてではなく面と向かってなので、わざわざ一人一人と対面しなければならない。全員を集めて前に立って謝罪なんて許されず、下着姿で一人一人に会いに行く必要があるのだ。それだけでも女であれば、いや、男であってもとてつもない苦痛になるだろう。そして、関係者全員と会って謝罪なので、絶対に一日二日じゃ終わらない。天翼学園に通う生徒だけでも、間違いなく月単位……いや。年単位の時間がかかる可能性だってあった。しかし、アンスリウムはまだ納得していなかった。


「しかし、例えそれが死よりも辛い事だとしても、関係者は全員学園内にいるんですよ? 呼び出せば直ぐに終わってしまうじゃないですか」

「アンスリウム。お前はまだ分からないのか……?」


 国王が重々しい声色で告げ、アンスリウムが眉を寄せて国王に視線を移した。そして国王の顔を見て、その迫力にごくりと唾を飲み込む。


「父上……?」

「事件の首謀者の呼び出しを聞く者などいるわけがないだろう。それどころか、面会すら難しいとは思わないか?」

「あ……」

「それにサンビタリアは学園から追放される身だ。まさか、被害者や関係者に向かって、謝るからチェラズスフロウレスに来いとでも言うつもりか?」


 そんな事が出来る筈がない。アンスリウムはミアがサンビタリアに与えた罰の大変さに漸く気がついた。


「そうか。謝罪の為に他国に行かなければならないって事か。しかも、関係者全員となると、全ての国に行く必要がある」

「その通りだ。それに、サンビタリアは学園にいられる内に、学園でしか会えない天翼会の会員に謝罪する必要がある。この機会を逃がせば、更に困難な罰へと変わるだろうな」


 アンスリウムは罰の過酷《かこく》さに目を見張った。実際によくよく考えれば下着がどうのはともかくとして、一人一人の許に謝罪に行くと言うのは、サンビタリアが学園に来る事が出来なくなるのだからかなり大変な事だった。しかも、被害者の全員が簡単に会ってくれるとは考えられないし、他国に行けば危険だって伴《ともな》うだろう。事件の首謀者であるサンビタリアを快く受け入れてくれるわけがないのだから。


「とんでもないな。確かに俺の考えの方が甘かったようです」


 アンスリウムが自分の甘さを認めたわけだが、周囲の者達も下着がどうのに気を取られて、他国に行かなければならなくなる事を見落としていたのだろう。この場にいる全員が動揺し、ミアの提案した罰の過酷さに戦慄《せんりつ》する。

 そう。この場にいる全員が動揺したのだ!


(え? ワシ、下着で謝りに行くのが悲惨じゃと思っただけなのじゃが? あれ? これ結構とんでもない事なのじゃ?)


 おい。って感じで、やはりミアはアホだった。いや。ホントのマジにお前が驚いて動揺するんかいって感じである。


「ミアちゃん。考えなおそ?」

「え? あ。そ、そうじゃなあ。確かに考え――」


 ナイスなタイミングでジャスミンがミアに救いの手を差し伸べた。だから、ミアは考え直そうと言おうと思った。だけど、悲しいかな現実は。それを直ぐに国王が遮《さえぎ》ってしまう。


「寮長。これは我が国の問題で口出しは無用です。聖女様が心を痛めてまで出したこの罰を、サンビタリアは背負うべきなのです」

(なんて事を言うのじゃ! そんなん言われたらやめようと言えんのじゃあ!)


 いや。言えよ。って感じだが、ミアはチキンハートなので言えない。まったくもって情けない聖女である。


「サンビタリア。お前が今回の事件を引き起こしたきっかけを作った事により、我がチェラズスフロウレスは危機に陥っている。誰の目から見ても他国を敵にしてしまったのは明らかだ。今後、あらゆる事で自国民を危険に晒す事になるだろう」


 国王が静かに告げて、サンビタリアは真剣な面持ちで国王と目を合わせる。ただならぬ空気がこの場を支配して、周囲が緊張に包まれた。


「聖女様の与えて下さった罰は、学園の生徒が長期休みに入って自国に帰った後でしか出来ない。だから、お前にはその前に、国内の民への謝罪も要求する。出来るな?」

(な、なんじゃとおおおおおお!?)


 驚きすぎて声も出ず、心の中でだけ叫んだアホ。じゃなくてミア。開いた口が塞《ふさ》がらないミアは、自分の考えた罰がこんな大規模になるなんて考えもしなかったのだろう。なんせ、下着姿で謝罪は女であれば死んだ方がいいくらいに死ぬほど恥ずかしい筈としか思っておらず、ここまで大事な事だなんて想像もしていなかったからだ。

 いったいどれだけの時間がかかるのか、誰にも想像できない膨大な罰。国王が追加でサンビタリアに与えようとしている罰も含めて、誰もが出来るはずが無いと考える程で、ラテールが懸念《けねん》していた甘さとは無縁のものだった。だけど、誰もが無理だと思う中でも、サンビタリアだけは違っていた。

 サンビタリアは真っ直ぐと真剣な面持ちをミアに向けて、ゆっくりと告げる。


「自国の民を含め、全ての関係者への謝罪。必ずやり遂げてみせます。聖女様」

「――――っ!?」


 サンビタリアから出た言葉に誰もが耳を疑った。そして、その決意に満ちた目を見て、本気なのだと誰もが認めて驚いた。サンビタリアは自分の犯した罪を少しでも償《つぐな》う為に決心したのだと。


「……うむ。頑張るのじゃぞ」


 もう止める事は出来ない。いや。止めるなんて野暮な事は出来ない。サンビタリアの真剣さに心を打たれたミアは、そう言って柔らかく……ではなく、やけくそに微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪い子育てと良い支配者がこのように衝突するのは本当に悲劇的です。 少なくとも償還はまだあります。 また、ミアさんが聖女様である以上、思い込みがガチガチになるコメディも満載です。
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