聖女の裁き(2)
ミアのアホな言葉に場の空気が凍りつき、ミアの侍従たちすら動揺を……と言うか、ルニィが額を手で押さえてクリマーテが笑いを堪えてヒルグラッセが冷や汗を流している。流石の侍従たちもここまでミアがアホだとは思わなかったようだ。と言うか、服を着ずに下着だけで謝罪に行けとか、この聖女発想が最低である。
「ミア……? 下着だけの姿で謝罪……ですか?」
「うむ! もちろんなのじゃ!」
「…………」
ミアがあまりにも自信満々に答えるので、ネモフィラは口を閉じ、とりあえず考えるのをやめる。すると、今度はアンスリウムがため息を吐き出して、呆れた表情でミアを見た。
「それのどこが罰なんだ? もっと真面目に考えてくれないか? 聖女の発言として考えても酷いものと言える。死刑が嫌だと言う君の考えは分かるけど、せめて国外に追放するとかあるだろう? 君はこの女に散々酷い事をされてきたんだぞ」
「アンスリウム殿下は何も分かっとらんのう」
「何?」
「そもそもワシは死刑や国外追放なんて軽い罰は認めぬ。これでもワシは今までの事に内心は怒っておったのじゃ。別に怒っていなかったわけでも許したわけでも無いのじゃ」
「……君が内心では怒っていた事には少し驚いたけど、それよりも聞き捨てならないな。君の言う“半裸で謝罪”のどこが“死刑”や“国外追放”より重い罰だと言うのか説明してくれないか?」
アンスリウムは相手が聖女であるミアだから感情を抑えてはいるが、かなり怒りを感じていた。と言っても、アンスリウムは元々聖女に対して丁寧な言葉を使っていたので、ため口になっている時点でかなり我を忘れてしまっている。まあ、ミアがアホな事を言うから仕方が無いだろうが。
「そうじゃなあ。ならば、第三者に聞いてみれば一目瞭然なのじゃ」
「第三者? どう言う意味だ? 俺は君に聞いているんだぞ?」
「良いから黙っとれ。グラッセさん、ちょいと寮長のジャスミン先生を連れて来てはくれぬかのう? もう寮におるはずじゃろう?」
「承知しました」
返事をするなりヒルグラッセが直ぐに会議室を出て行き、アンスリウムが遂に不機嫌な顔でミアに視線を向けた。
「馬鹿馬鹿しい。父さんも何か言ってやってくれよ。こんなくだらない事にジャスミン先生まで巻き込むのは馬鹿げている」
「……気持ちは分かる。だが、その前にだ。アンスリウム。ここはチェラズスフロウレスの家族会議室では無い。その意味は分かるな?」
「――っ! 失礼いたしました。取り乱しが過ぎていた様です。聖女様にも失言の数々をしてしまい申し訳ございません。しかし、本心からの言葉であり、前言を撤回するつもりはございません」
「それは良いのじゃが、この流れはワシも敬語を使わねばならぬのか? ですのじゃ」
「ミアは聖女ですから、そのままで良いのではないですか?」
ネモフィラが質問に答えると、ミアがホッと安堵の息を吐き出した。因みに、ミアは意識していても全然敬語が出来ていないのだが、それをツッコミする者は誰もいない。唯一ルニィだけが何か言いたそうな顔をするだけだ。と、そこで、意外と早くヒルグラッセがジャスミンを連れてやって来た。
「お待たせー。このお姉さんに来てほしいって言われたんだけど、どうしたの?」
会議室に入って来るなりニコニコな笑顔で元気な声を上げるお子さま先生ジャスミンを、ミアもニコニコな笑顔で出迎える。
「来てくれてありがとうなのじゃ。ちょいと質問があってのう。素直な感想を聞きたいのじゃ」
「オッケー。なんでも聞いてよ」
まるで幼女たちの楽し気な会話。サンビタリアの処罰を考えている場とは思えない雰囲気に、誰もが動揺を隠せない。尚、やはりと言うか、ルニィは額を手で押さえてクリマーテが笑いを堪えてヒルグラッセは冷や汗を流している。
「下着だけの姿で全校生徒や先生に会いに行けと言われたら、ジャスミン先生はどうするのじゃ?」
「えーっ!? 怖! 絶対嫌に決まってるよ!? 急に何言ってるの!?」
大袈裟すぎるのではと思う程のナイスなリアクション。ジャスミンはこれでもかと言うくらいに驚き嫌がって、顔を真っ青にさせてブルリと震えた。
「実はのう。下着だけの姿で今回の事件に関わった関係者全員に面と向かって謝罪をと、サンビタリア殿下の罰に考えておるのじゃが、皆が軽いと言うのじゃ」
皆ではないが、まあ、それはどうでもいい事。ミアが説明すると、ジャスミンがサンビタリアに視線を向けて、まるで自分がやれと言われたのかと思うくらいに泣きそうな顔になる。
「もっと酷い事しろって言うの!? 可哀想だよ!」
「じゃ、ジャスミン先生……。いくらなんでも大袈裟すぎないですか? 別に死ぬわけでもあるまいし。俺としては軽すぎるくらいだと思っているんですが」
「何言ってるの!? これだから男子は! 下着だけで謝罪なんだよ!? 死んだ方がマシだよ! あんまりだよ!」
「死んだ方がマシ……だと?」
ジャスミンの思いもよらぬ返答に、アンスリウムは驚きのあまり目を見張った。




