裁きの時(3)
「わたくしは……」
サンビタリアが泣きながら謝り続けて暫らくが経つ頃。ネモフィラは姉に同情出来ず、それでも悲しくて、複雑な気持ちを抱えていた。国王は漸く自分の行動がサンビタリアを傷つけた事に気がついて、なんの言葉も思いつかずに黙っている。
ミアはサンビタリアが落ち着きを取り戻して泣き止むと、今度は真剣な面持ちを向けた。
「お主の境遇には同情しておる。じゃが、それはそれじゃ。今までは黙っておったが、今回ばかりはそうはいかんのじゃ」
「私が利用しようと考えたルッキリューナの魔装が、天翼学園に通う他国の子供や天翼会に害を及ぼしたからですね」
「うむ……うむ? サンビタリア殿下? その通りなのじゃが、何故急に敬語なのじゃ?」
「聖女様のおかげで自分の間違いに漸く気が付いたからです。それよりも聖女様。私は……私は、この命を絶つ事で罪を償いたいと存じます。それが今まで聖女様にしてしまった事への罪滅ぼしと――」
「サンビタリア! 何を言いだすのだ! 馬鹿な事を言うな!」
サンビタリアの言葉を遮り国王が怒鳴ったが、サンビタリアは首を横に振る。
「お父様。これは当然の事よ。私の事を理解してくれたのは聖女様だけだった。私を気にかけてくれたあのクレラ先生でも、気の毒ではあるけど国としては当然と言っていたもの。私だって、それが当然の事だと思ってるわ。でも、聖女様は違った。私の為に怒ってくれた。それがとても嬉しかったのよ。それなのに、私はそんな慈悲深くお優しい聖女様を今まで……。だから、けじめをつけたいの。お願い。ちゃんと償いをさせて?」
「サンビタリア。私は……」
「そこまでじゃ。命は大事にせんか。そもそもワシは別に許したわけでは無いし慈悲深くも無いから、しっかりと罰を与えるつもりなのじゃ」
「聖女様が私に直接罰を与えて下さるのですか?」
「うむ……うむ?」
(罰って言うておるのに“与えて下さる”はおかしくないかのう……? いやいや。今はそれよりもなのじゃ)
まるで褒美でも貰えるかのようにサンビタリアが言うので、ミアは若干考えてしまったが、一先ずそれは置いておく事にした。
「それはそうと先に聞きたい事があるのじゃ。今回の事件の首謀者はお主なのじゃろう? 仲間割れしておったが、どうなる予定だったのじゃ?」
「もちろん全てお話します」
そう言って真剣な面持ちで説明したサンビタリアの計画は、冷静になったサンビタリア本人も馬鹿げていると言ってしまえる程度にはくだらないものだった。
まず、学生たちが使う魔装の力は、各国の寮で全て記録されている。寮長たちが学園で忙しくしていたのは、なんの魔装が使われたのか調べる為だったのだ。それを前提としての説明になるが、ルッキリューナは自分の魔装の力を引き出せていなかった。そしてその事を同じチェラズスフロウレス寮にいる教育実習生としてサンビタリアは知っていた。
元々ルッキリューナは装備を外す力が武器だけだと思っていたわけだ。サンビタリアはクレラの信頼を取り戻す為に、手柄ほしさにルッキリューナに犯罪をさせて捕まえる為に呼び出し、本来の力を教えた。しかし、それが計画が狂う原因となる。ルッキリューナは最初こそ計画通りに動いたが、サンビタリアを裏切り計画に無い行動をした。その結果が今だ。
何故こんな計画を立てたのか、今のサンビタリアもため息が出る程に謎だった。
「だいたい分かったのじゃ。じゃが、そうなると幼稚舎以外の、児童舎と学園での事件はルッキリューナに聞かんと分からぬのう」
「はい。……でも、聖女様。私の言葉を信じてしまってもよいのですか?」
「当然なのじゃ」
「――っ。ありがとう存じます」
「なんだか、お姉様がお姉様じゃないみたいです」
「ああ。私も夢を見ているようだ」
サンビタリアが本当に別人のようで、ネモフィラと国王だけでなく侍従たちも驚いていた。とは言え、だからと言って何かが変わるわけでも無い。
今まで話を聞いていたラテールが、大きくあくびをしてから話しだす。
「サンビタリアの考えは分かったです。サンビタリアは学園から追放になると思うです。もちろん教員免許なんて与えないし、魔装にも使用制限をかけるです。国際問題は自分の国に帰ってから考えるといいです」
「分かりました」
「もう魔法を解くから、全員気持ちを切り替えるです。分かったです?」
「ちょっと待つのじゃ。先にサンビタリア殿下に与える罰を言い渡すのじゃ」
「さっきから話が長すぎて眠いから嫌です。外の連中は重力で逃げないように押さえてあるから、次はルッキリューナの処罰をするです」
「それではワシが意を決して覚悟を決めた意味がないのじゃ。それにそれでは皆を先に隔離して、サンビタリア殿下を裁こうとした意味だって無いではないか。後少しだけ待ってほしいのじゃ」
「嫌です。ラテは眠いんです。これ以上茶番には付き合ってられないです。話が長いお前等が悪いです。覚悟なんて、そんなのはゴミ箱に捨てておけばいいです」
「ひ、酷いのじゃ……」
まさかのお預けにミアががっくりと項垂れて、ネモフィラがミアの頭を撫でて励ます。そんな二人の姿は、ミアには悪いが微笑ましい光景になっていた。と、それはともかくとして、ラテールは待つつもりが微塵も無いようで直ぐに魔法を解いてしまう。結局サンビタリアの処罰は場所を変えて与える必要が出来てしまった。
ドーム状に作られた壁が床へ戻るように解かれていくと、重力で押さえ付けられ動けなかった子供たちと再会する。と言うわけで、こうなってしまえば仕方が無い。ミアは諦めて気持ちを切り替える事にした。




