裁きの時(2)
サンビタリアが悲痛な叫びを上げ蹲ると、ラテールが大きなあくびを一つする。そして、呆れた視線をサンビタリアに向けて、魔法を使って強制的に顔を上げさせた。
「何悲劇のヒロインぶってるです? ミアから聞いたです。お前が幼稚舎に来た時に、クレラと相談して授業を何とかしたと言っていたそうですね? つまりお前は学園にいた筈なのに、学園でも同じ事件が起きているのを知らずに授業があったと思い込んでいたわけです。それなのにお前は幼稚舎で事件があった事を知っていたです。なら、お前は誰からそれを聞いたんです? 同時に起きた事件でその場にいた筈のお前が、その場の事件に気付かずに違う事件だけを知っていた説明を、お前がこの事件に関わっていないなら理由を言えです。普通はその場の事件の方が騒がれると思うですけど、ラテの考えは間違っているです?」
サンビタリアは自らの言葉で墓穴を掘っていた事に気付かされ絶望する。言い逃れなんて出来ない。すると、このタイミングでネモフィラが目を覚ました。
「あれ? ここは……っ。お父様? 何故お父様が――」
「煩いです。ネモフィラは黙ってるです」
「――え? はい。ごめんなさい」
驚いた直後にラテールに怒られて落ち込むネモフィラ。理不尽で可哀想である。すると、ルニィが状況を理解して、ネモフィラの側に行ってコソコソと事情を説明してあげた。
「サンビタリア殿下。何故、ワシが見逃さないと思ったのか分かるか?」
「そんなの知るわけないじゃない。なんで今更こんな事するのよ。私が憎いなら、もっと早く罰を与えればよかったでしょ? あなたのせいで私は……」
サンビタリアは怒るでもなく、泣きそうな目をして告げた。だけど、同情する者はこの場にいない。しかし、唯一一人だけいた。それは、他でも無いずっと被害を受けていたミアだった。
「そうじゃな。ワシが来なければ、お主はここまで酷い事はせんかったじゃろう」
「私に同情してるつもり? 笑わせないで! あなたに何が分かるって言うの! 選ばれた者のあなたなんかに!」
「サンビタリア! これ以上聖女様に無礼な事を――」
「国王は黙っとれ」
「――っ。聖女様……?」
国王が驚いて視線をミアに向けると、ミアが国王を睨んだ。何故自分が睨まれたのか分からず、国王は更に驚き黙り込む。
「ワシはなあ、国王よ。お主にこそ腹を立てておるのじゃぞ」
「わ、私にですか?」
「そうじゃ」
ミアの言葉にラテール以外の全員が驚いて耳を疑った。
「ミア? それはどうしてでしょうか? お父様もミアに酷い事をしていたのですか?」
「そう言うわけでは無いのじゃ」
ミアは答えると、サンビタリアに申し訳なさそうな表情を見せる。
「すまぬ。先に謝っておくのじゃ」
「何を言って……」
「昔、この国の第一子の女の子が誕生し、次期国王になる為に王太子として育てられたのじゃ」
「ミア? それはまさかお姉様の……」
「少女は王になる為に頑張ったのじゃ。でも、才能が無かったのじゃ。だから、寝る間も惜しんで頑張ったのじゃ。国の為に、父と母の為に立派になるんだと、少女はひたすらに努力を重ねたのじゃ」
いつの間にかラテールの魔法が解けていて、サンビタリアは俯いた。その表情は暗く、遠い過去を思い出すかのようだった。
「そんなある日、初めての男の子が生まれたのじゃ。国王は大いに喜び、国で盛大にお祭りをして、王子の誕生を祝ったのじゃ。でも、男の子の誕生で少女の努力が全部無くなったのじゃ。何故なら」
「何故なら、男の子が王太子になったからよ。少女は……私はアンスリウムが生まれて直ぐにいらない子になった」
ミアの言葉に続いてサンビタリアが話し、そして顔を上げる。
「それで? だから何だって言うの? そんなの皆知っている事よ。今更そんな話をして何がしたいの?」
「そうじゃろうか?」
ミアはネモフィラに視線を向ける。すると、ネモフィラは首を横に振った。
「知りませんでした。王太子だったと言うのは知っていました。でも、お姉様が子供の頃に、そんな風に努力をしていたなんて初めて知りました。だって、お姉様は優秀で学園でも成績がよく、だから教育実習生としてここにいますもの」
「そう言う事じゃ。ワシはサンビタリア殿下が見えない所で努力しておる事は知っておったがのう」
「そうなのですか?」
「うむ。過去に王太子だった事が気になって色々調べたのじゃ。昔から城に勤めておる者に聞けば、案外簡単に聞き出せるものじゃぞ」
ミアがイタズラっぽい笑みを浮かべて、ネモフィラが目を丸くして驚き、そして微笑んだ。
「まあ、なんじゃ。ワシが言いたいのは、国王が男の子が生まれたと浮かれたのが全ての発端だと言う事じゃ」
「し、しかし、国を継ぐ者として私はアンスリウムを――」
「言い訳無用じゃ。情けない」
「な、情けない? こうしてサンビタリアの現状を見れば、私の判断は正しかったと言えます」
「なんじゃと? まだ分からぬのか? 男なら最初に決めた事は貫かんか! お主のその優柔不断な態度と判断で、どれだけ子が苦しんだのか理解せい! お主はサンビタリアの父親じゃろう! 国王である前に父親として娘の事を考えんか! サンビタリアは国の為ではない、父親であるお主に認めてもらいたくて、昔も今も必死に頑張っておったのじゃぞ! 父親の癖にそんな事も分からぬのか!? 恥を知れ! この馬鹿者が!」
「「「――――っ!?」」」
転生者であり前世を八十まで生きたミアだからこそ、そして、同じ父親としての経験があるミアだからこそ言える言葉。ミアは誰よりも国王に怒りを覚えていた。そして、父の為にと頑張っていたサンビタリアを、誰よりも本気で憂いていた。
ミアには分かっていたのだ。最初から。サンビタリアがミアやネモフィラにぶつけていた感情が、ただの嫉妬だったと言う事に。だからこそ、ミアはその感情を全て受け止めてあげていた。そんなミアの言葉がこの場にいる全員を驚かせ、そして、サンビタリアに変化をもたらした。
「ごめんなさい、聖女様。ごめんなさい。ごめんなさい……」
サンビタリアが大粒の涙を流してミアに謝り続けた。本当の自分の気持ちを、初めて誰かに認められたのを感じたから。




