裁きの時(1)
ミアの負け宣言でエントランスホールに集まる全員が驚いていると、ミアはニコッと笑顔を見せる。
「何を驚いておるのじゃ。これはルッキリューナの魔装がどう言うものか皆に見てもらう為の戦で、勝つ必要なんぞこれっぽっちもないのじゃ」
「あ。ホントです。ミアの言う通りです」
実際にミアの言った通りで、この戦いに勝敗の意味は無かった。そして、指摘され今更気がついたルッキリューナは顔を強張らせて、ごくりと唾を飲み込んだ。
「あ、あれ? じゃあ、じゃあ私は……」
「うむ。消せるのは武器だけでなく、服や魔石などの装備しておる物じゃと、お主自身が証明したのじゃ」
他の誰でも無い自分自身で犯人である事を証明したと完膚なきまでに理解して、ルッキリューナががっくりと項垂れて放心する。すると、サンビタリアがニヤリと笑みを浮かべて「私の言った通りだったでしょう!」と声を上げ、子供たちがサンビタリアに注目した。
「だから言ったじゃない! 私はその子にハメられた被害者なの! チェラズスフロウレスの第一王女であるこの私をこんな目に合わせたルッキリューナ。そして、私を犯人扱いした全員に裁きを与えるわ! 覚悟しなさい!」
サンビタリアの声がエントランスホールに充満し、何人もの子供たちが顔を真っ青にさせて動揺し震える。すると、それを聞いて見ていたラテールが、ネモフィラの頭をペチリと叩いた。
「あんな事言ってるけど、止めなくて良いんです?」
「…………」
「おい。聞いてるで――って、あれ? 立ったまま気を失ってるです」
この一大事にネモフィラの身に何が起きたのか? それは、きっと言うまでもない事だが、あえて言おう。
「おーい。大丈夫です~? ん。目がハートです。これは大丈夫なやつですね」
そう。ミアがパンツのみの姿で動き回っていたので、ネモフィラはミアのセクシーボディ(幼児体型)に魅了されて気絶したのだ! とまあ、そんなアホな事は置いておいて、そんなわけでネモフィラは役に立たない状態。ラテールは面倒なので寝転がって様子を見る事にした。
サンビタリアは近くにいる者に縄を解かせて立ち上がると、自分に非難の声を上げたものや暴力を振るった者達を睨んでいく。
「どうやって罰を与えようかしら? 少なくとも、一家まとめて罪を背負ってもらわないと私の気が治まらないわ」
「そこまでにせんか。みっともない」
「なんですって?」
調子に乗ったサンビタリアを止めたのは、未だにパンツ一丁で堂々と胸を張るミアだった。絵面的にはマヌケな事になっているが、二人の間を漂う空気はただならぬもの。
「ミア。みっともないと言ったかしら? あなたも不敬罪になりたいの?」
「言うとくが、事が大きくなりすぎておる。流石に今回ばかりは見逃してやれぬのじゃ」
「はあ? 見逃してやれない? 何を偉そうに。自分の立場が分かっているの?」
「十分わかっておる。お主が首謀者だと言う事ものう」
ミアの言葉で周囲が騒めきを取り戻し、全員が動揺を隠せない。サンビタリアも一瞬だけ動揺し、直ぐに自信満々な表情になった。
「私が首謀者? 聞き捨てならないわね。何の証拠があって言ってるの?」
「そんなものはそこにおるルッキリューナに聞けば分かるじゃろう」
「は? その女は私を罠にかけて犯人にしようとしていたのよ。そんなもの聞き入れるわけがないじゃない。これだからお子様は」
「別にお主が聞き入れる必要は無いのじゃ」
「なんですって? 私に対して無礼なあなたを、今ここで裁いてあげてもいいのよ?」
「それはお主には出来ぬのじゃ。見届け人を呼んだからのう」
「は? 見届け人……?」
「この馬鹿者があああああ!!」
「――っえ? お父……様…………?」
不意に聞こえた怒鳴り声は、ここにいない筈の昨日帰ったばかりのチェラズスフロウレス王のもので、その顔は怒りに満ちていた。そしてその背後には、ミアの侍従たちの姿もある。
「ミアお嬢様。遅くなり申し訳ございません」
ルニィがミアの側までやって来ると、自分の服を一枚脱いで羽織らせた。
「ミアお嬢様がまさか脱がされるような事態になっていたなんて……」
「うう。ミアお嬢様。本当にごめんなさい。酷い目に合わされたんですね」
「今直ぐミア様にこの様な無礼をした者をお聞かせ下さい。この場で斬り捨てます」
「しなくてええのじゃ。それより丁度良いタイミングで来たのう。国王を連れて来てくれてありがとうなのじゃ」
今まで侍従たちの姿が無かったのは、国王を連れてくるため。ミアがラテールに頼んで、国王一人なら連れて来ていいとなったから。だから、ミアが国王の護衛を付ける為にルニィ達を行かせたのだ。
国王を呼んだのは、サンビタリアの暴走を止める為と、サンビタリアを裁く為。ミアは国王の登場で驚くサンビタリアの前まで歩き、ラテールに視線を向けた。
「ラテール先生。お願いするのじゃ」
「仕方が無いです」
ラテールは起き上がり、床に大きな魔法陣を展開する。すると、魔法陣から大きな壁が生えてドーム状になり、ミアとミアの侍従と国王とサンビタリアとネモフィラとラテールだけを閉じ込めた。
「な、なによこれ……?」
サンビタリアが恐怖し、震えながら周囲を見回す。だけど、見えるのは壁だけだ。完全に周囲から隔離されている。
「ミア。本当にいいです?」
「覚悟は決まったのじゃ」
「なんなのよ? なんの覚悟だって言うのよ!」
サンビタリアが震えながらも怒鳴ると国王が怒りに震え、そして、悲しむような視線を向けた。
「この愚か者め。お前を裁く覚悟に決まっているだろう。サンビタリア。お前は聖女様の優しさに甘え過ぎたのだ」
「何言ってるの? お父様。私はチェラズスフロウレスの第一王女なのよ!」
「本当にお前は……」
「まだ分からないです? 聖女とたかが一国の王女のどっちの立場が上かなんて、お披露目会を終えたばかりの子供でも分かるですよ?」
「――っ! ぁあっ……ああああああっっ!!」
本当に今まで分からなかったのか? それとも忘れてしまっていたのか? どちらにしても愚かな事に今更それを理解して、サンビタリアは大声を上げて頭を抱えて蹲った。




