チェラズスフロウレス寮の決戦
チェラズスフロウレス寮のエントランスホールで向かい合うミアとルッキリューナ。そしてその中心にはネモフィラが立っていて、その頭の上にラテールが眠気眼で座っている。周囲には学生や各々の従者などもいたが、騒めきはなく、しんと静まり緊張した空気がこの場を支配していた。
(ぬぬう。ジェティから火の魔石を貰って正解じゃったなあ。使用制限が五回までとは言え、こいつを使えばなんとか戦えるのじゃ。と言っても、さっき使ったから残り四回なのじゃが……)
スカートのポケットに入れていた魔石を握り締め、ミアはこれから始まる戦いに不安を感じた。何故なら、相手は魔装を使えて、しかも十歳くらいも年上だからだ。自分の魔装や魔法を使えない状況の今のミアには、ルッキリューナがとんでもなく脅威な相手に見えた。とは言え、覚悟を決めるしかない。
(母上の言っていた通り、女は覚悟が大事なのじゃ。やるからには全力でやってやるのじゃ)
「ルールは学園のルールでやるです。ミアの為にもう一度簡単に説明すると、殺しと第三者の介入は違反行為です。その他は基本は何でもありで、魔装の使用も許可するです」
ラテが説明すると、ルッキリューナがミアをニヤニヤしながら見つめて「わかりました」と頷いた。その視線は寒気がするくらいには気持ちが悪く、ミアはゾワッとした感覚を背筋に感じながら同じく頷く。
「二人とも準備はいいです?」
ミアとルッキリューナが頷くとネモフィラが少しだけ後ろに下がり、そして、ラテールが手を上げた。
「試合開始です」
開始の合図と同時に、ルッキリューナが魔装を宙に浮かばせる。
「ネモフィラ様の腰巾着。貴女は気に入らないけれど、その容姿だけは褒めてあげる。だから、私の大脱装で生まれたままの姿にしてあげるわ!」
ルッキリューナの魔装が宙を舞い、一瞬でミアとの距離を詰める……いや。それだけでは無い。ミアは開始するなり直ぐにルッキリューナに向かって駆け出していた。と言うか、いきなり自分から犯人だと言っているような言葉を口にしている。しかし、何故か皆が気付かない。気付いているのはミアだけだった。
「馬鹿ね!」
おまバカな感じだが、今はそれは置いておこう。ルッキリューナがニヤリと笑みを浮かべ声を上げると、魔装の力を発動する。直後にミアの服が溶けるように消え去り、ミアはパンツだけの姿になった。
「うへへへへ! もう身動きが取れないでしょ! 後はじっくりいたぶって――」
「お主はアホか! これでは自分から犯人と言っておるようなもんじゃ!」
ミアが大声でツッコミを入れ乍ら炎の玉を放つ。
「――うご……っ!」
炎の玉はルッキリューナの喉に直撃して、ルッキリューナは呼吸困難に陥って首を抑えた。
ミアはその隙にルッキリューナとの距離を詰めて、跳躍。ルッキリューナの顔に前から肩車をするような態勢で勢いよく座り、ルッキリューナは突然の事に混乱してよろめく。そしてその直後にミアは炎の縄を出現させ、ルッキリューナの足に絡めて後ろに引いて、ルッキリューナから飛び降りる。
「うへ……っえ?」
ルッキリューナが視界が明けて見た最初の景色。それは、自分が顔から床に倒れていく床の景色だった。足を引っ張られる事でルッキリューナは顔から床に倒れて、エントランスホールにゴツンと鈍い音を響かせた。
「これでお終いなのじゃ!」
ミアが今度は炎で出来たハンマーを出現させて、ルッキリューナに殴りかかろうとした。でも、ルッキリューナもやられてばかりではない。
「い……っだあ。腰巾着のぐぜにいっ!」
ルッキリューナが立ち上がらずにそのままミアに向かって手をかざす。すると、炎のハンマーが消えてしまった。そして、ルッキリューナが魔法で風の弓矢を出現させて、それを掴んで笑みを浮かべた。
「どう! 恐れ入った!? 炎の魔石を使って攻撃していたみたいだけど、私の魔装大脱装は魔装以外の装備と見なした物は何でも消せるのよ!」
「ほう。魔装以外は、なのじゃな。しかし、これでハッキリしたのう。お主の魔装の秘密が分かったのじゃ」
「私の魔装の秘密……?」
ミアが口角を上げ、ルッキリューナが驚きで目を見張る。
「お主の魔装が先程からワシではなくお主の側におる。最初はワシに向かって飛ばしたが、それはダミーと言う事じゃ。本物は予めここの何処かに隠しておるのじゃろう」
「――っ!」
ミアが言った事は図星で、ルッキリューナが更に目を見張った。そして、ミアはそれ以外にも気づいている事がある。
(と言っても、ルッキリューナの魔装は設置型で効果範囲が広いと、ラテール先生から先に聞いておったから分かった事なのじゃ。それからエントランスホール全体にこ奴の魔装の魔力が充満しておるが、それは言わない方が良いじゃろうな。しかも、あの浮いておるダミーにも魔力を感じるのじゃ。本当によく出来たダミーじゃなあ。しかし、ここ等が潮時かのう)
ミアは風の弓矢を一瞥し、未だに驚いているルッキリューナと目を合わせて手を上げる。
「魔石まで取られてしまっては、もうどうしようもないのじゃ。攻撃手段が無くなったから降参なのじゃ」
「……え?」
ルッキリューナの驚きは更に増す。まさかこの流れで降参なんて言葉を聞くとは思わなかったからだ。そして、それはここにいる全員も同じ。戦いを見ていた全員が、そして、ラテールすらも眠気眼を見開いた。
「ワシの負けなのじゃ」
「「「えええええええええええええっっっ!!??」」」
ミアの完全な負け宣言で、エントランスホールに子供たちの驚きの声が響き渡った。




