おっかない連中
「サンビタリア。君の報告では、聖女は性格が大人しく利用されても刃向う勇気すら無い可哀想な少女。だったな? 失礼な言い方になるが、この聖女のどこが大人しく刃向う勇気すら無い可哀想な少女なのか教えてもらいたいな。それに、とても利用されているようには見えない。どう言う事か説明しろ」
「そ、それは……。その……」
指摘を受けると、サンビタリアは言い淀んでクレラから視線を逸らして目を泳がせ、悔しそうにミアを睨んで俯いた。
「なんだ? その目は……? まさか、君は我々だけでなく、聖女までもをハメようとしたのか?」
「ち、違うわ! 私は聖女をこの天翼会に引き渡せば、クレラ先生が喜んで下さると思って!」
「言い訳の理由に私の名前を使わないでもらいたいな」
「ご、ごめんなさい……」
「失望したよ。サンビタリア。君の目を見て全てが分かった。まさか君が聖女に敵意を向けていたなんてね」
クレラがサンビタリアに失望の眼差しを向けると、サンビタリアは歯を食いしばって再び俯く。
「クレラ先生はサンビタリア殿下からなんと聞いておったのじゃ?」
「君が最初に出した条件を国王が利用して首を縦に振り、聖女を独占しようとしているから助けてほしいと頼まれた。聖女の登場で欲に目がくらんだ父親を元に戻してほしいと。まだ幼い君は、きっと話に流されてしまうだろうから、代わりに導いてあげてほしいとね」
これは、いつも嫌がらせに抵抗もせず黙って流しているからこそ起きたサンビタリアの勘違い。サンビタリアは気が弱く逆らう事も出来ない弱虫なミアは話に流されるだろうと、浅はかにも考えていたのだ。だけど、もちろんそうはならなかった。
ミアは別に流されているわけでは無いし、気が弱いわけでも無い。ただアホなだけで、言う時は言うのだ。
「でも、お主はさっき聖女の頼みを聞く必要は無いと説教をしたではないか」
「私が言いたかったのは、間違った事までは聞く必要が無いと言う事だ。君はまだ子供なのだから、時には間違った判断を下すだろう。その良い例が、侍従にまで内緒にしている現状ではないか。そしてそれを国王が利用していると聞けば、何とかしなければと思うだろう?」
「ぬぬう。それもそうなのじゃ。怒ってしまってすまぬのじゃ」
ミアは素直なので自分の非を認めて謝った。
実際にミアに仕える侍従にまで内緒と言うのは異常だろう。普通であれば、そのくらいは話しておくべきなのだ。それはヒルグラッセにバレた時に既に分かる筈の事で、正直今更な事。だから、今更ではあるが、指摘されて漸くミアは深く反省した。と言うか、前世で八十まで生きていた癖に、そんな単純な事も気付けない自分が恥ずかしいとさえ思った。
(穴があったら入りたいのじゃ)
「こちらも誤解が生まれるような説明ですまなかった。しかし、そうだな……。虚偽を報告したサンビタリアには十分な説明を求めたいな」
クレラがサンビタリアを再び睨み、サンビタリアは体を強張らせる。するとその時だ。突然勢いよく扉が開かれ……いや。豪快に蹴り壊されて、この場に勢いよくリリィが現れた。
「クレラ! これはいったいどう言うつもり!? 事と次第によっては制裁を与えるわよ!」
「り、リリィ……っ?」
「ミア! 無事ですか!?」
「フィーラ?」
リリィに続いてネモフィラが現れて、ミアが驚きながらもネモフィラに駆け寄った。すると、その後直ぐに職員室の前で待機していたルニィも駆けつけて、ミアが無事と分かると安堵のため息を吐き出した。
「ラテから聞いたわよ! あんた、ミアを監禁して飼いならそうとしているそうじゃない!」
「は?」
「な、なんじゃとお!?」
どうしてそうなったのか。何故かミアが監禁される事になっていて、クレラだけでなくミアまで……いや。この場にいた者達は全員が驚いて困惑した。
「誤解だ。話が飛躍しすぎてる。確かに私はせ――ミアを保護するつもりでいたが、監禁などするつもりは――」
「言い訳なんて聞いてあげる必要無いわ!」
次の瞬間にリリィが恐ろしい速度で駆け出して、クレラにとんでもなく重い蹴りの一撃を食らわせる。クレラは寸でで氷の盾を出現させてそれを受け止めたが、勢いは止まらず吹っ飛び職員室の壁をぶち抜いた。一見死んだだろと思う一撃だったが流石は天翼会の一人と言うべきか、とんでもな威力を食らって無事だった。
吹っ飛ばされた先で体についた埃を払い、クレラはリリィを睨む。
「話を聞け! 貴様はいつもそうだな! ジャスミンの話以外はまともに聞けないのか!?」
「まともに聞いてほしければ、相談もせずに勝手に行動をするその性格を治しなさい!」
二人が睨み合い、ミアがポカンと口を開けて驚き、ネモフィラが身を震わせる。アンスリウムや天翼会の他の者達は「またか」とでも言いたそうな表情になり、国王は目を点にして言葉を失う。そしてそんな中で、ネモフィラについて来たプリュイとラーヴが気にせずにミア達の前に出る。
「やっぱりまた始まったんだぞ」
「がお。あの二人は犬猿の仲」
「あれはよくある事なのかのう? 流石にワシもびっくりしたのじゃ」
「は、はい。それに、リリィ先生ってあんなにお強いのですね」
「こうなったら止まらないし、もう帰るんだぞ」
「がお。お家に帰る」
「え? 放っておいていいのですか?」
「がお」
「アタシは王さまと王子さまに声をかけるから、先に行っててなんだぞ」
「う、うむ。と言うか、あ奴等おっかなすぎじゃろ」
「ミアお嬢様。ここは危険です。お言葉に甘えて直ぐに出ましょう」
ルニィの言った通り、第一職員室は最早危険地帯と化していた。それ程にリリィとクレラが暴れていて滅茶苦茶だったのだ。
ミアとネモフィラは困惑しながらもこの場を離れて帰る事にした。因みに、ミアがラーヴの存在に気がついて目を輝かせて「はじめましてなのじゃ」と挨拶するのは、帰路について暫らく経って落ち着いてからの事だった。




