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怒ると怖い先生

 時間は少しだけ遡《さかのぼ》る。ミアがアンスリウムの後を追って第一職員室に向かった後、チェラズスフロウレス寮でネモフィラがリリィを見つけて、大急ぎで駆け寄った。


「リリィ先生。少しだけお時間よろしいですか?」

「あら? 第三王女のネモフィラだったわね。いいわよ。聞きたい事でもあるのかしら?」


 リリィが微笑んで尋ねると、ネモフィラは真剣な眼差しを向けて頷いた。


「先程アンスリウムお兄様が学園にミアを連れて行きました。お父様も大分前に学園に連れて行かれていたようなのです。何があったのでしょうか?」

「え……? そんな話は聞いていないわね。どう言う事かしら? 来てくれる?」

「はい!」


 国王が連れて行かれた事やミアが呼ばれた事をリリィも知らなかったけど、その後の判断は早いものだ。直ぐにネモフィラを連れて寮長室まで行く事にした。

 寮長室に辿り着くと、寮長のジャスミンが笑顔でリリィを迎えた。そして、直ぐにネモフィラに気がついて、その笑顔をネモフィラにも向けた。


「いらっしゃいませ~。どうしたの?」

「この子のお父様と、ミアが第一職員室に呼ばれたそうなのよ。ジャスミンは話を聞いている?」

「え? なにそれ? 私も知らないよ。ん~皆にも聞いてみよっか」


 ジャスミンは目を閉じて、数秒後に目を開ける。すると、この場に手の平サイズの小っちゃな二頭身な精霊達が続々と集まってきた。


「ご主人なんの用ッスか~?」

「ジャス、急になんの用です? ラテは今眠いのです」

「あ。ネモフィラさんなんだぞ」

「がお」

「ぐへへ。中々のかわい子ちゃん。おいたん興奮しちゃうなあ」

「ウィルちょっと気持ち悪いから黙るの~」


 集まって来たのは、全部で六人の精霊達。既に会った事のある精霊が二人で、知らない精霊が四人いる。簡単にそれ等の精霊の特徴をまとめると、冠を頭に乗せた眠気眼な精霊と、怪獣の着ぐるみを着たまんまるおめ目な精霊と、ミアと同じ金髪碧眼の精霊と、漆黒の髪が特徴的な精霊。

 ネモフィラはそんな精霊達の登場で目を輝かせたが、直ぐにミアの事を思いだして顔を引き締めた。そして、やって来た精霊達にも話をすると、眠いと言っていた眠気眼な精霊が冷や汗を流した。


「その話はラテが伝えるように言った筈です。リリィは聞いて無かったです?」

「聞いてないわよ。誰に言ったのよ? って、今はそれはどうでもいいわ。なんでチェラズスフロウレスの王とミアを呼んだの?」

「サンビタリアの報告で聖女の扱いが不十分であるとクレラが判断したらしいです」

「はあ? 何よそれ。ラテ、そう言うのはチェラズスフロウレス担当のジャスミンや私にまず相談するべきでしょう? そもそも何が不十分なのよ? 私も報告を受けているけど、そんな事は無かったわよ。チェラズスフロウレスに訪問した時だって、そんな風には見えなかったし、曇りの無いとっても良い笑顔をしていたわ。それの何がいけないって言うのよ?」

「そんなの知らないです。ラテは興味無いから話を聞いていた後に、伝言を頼んで直ぐに寝たです」

「ラテ、あなた最近怠惰(たいだ)すぎない? 昔はそこまででは無かったでしょう?」

「あはは。ラテちゃん、もうちょっと興味持とうよ」

「嫌です。ラテは怠惰を極めるです」


 眠気眼の精霊が面倒臭そうに告げて顔を背けて、ジャスミンが苦笑しながら冷や汗を流し、リリィがため息を吐き出した。


「ご主人どうするッス? 一回クレラを締め上げるッスか?」

「しないよ!? トンちゃん何言いだすの!? 怖い事言わないで!」

「いいえ。私はドゥーウィンに賛成よ。締めあげましょう。サンビタリアを弟子にしてから、あいつ最近生意気なのよね。ジェンティーレの友人だから今まで大目に見ていたけど、いい機会だわ」

「何言ってるのリリィ! 暴力は駄目だよ!」

「闇討ちなら我に任せるの~」

「おいたんも手伝おうか?」

「みんな駄目だってば!」


 ネモフィラを置いて、何やら物騒な話題に移って盛り上がる面々。ネモフィラは段々と落ち着いてきて、冷や汗を流して様子を見守った。と言うか、自分の姉が天翼会のメンバーと思われる人物の弟子になっていた事に驚いたのもある。すると、驚いているネモフィラに、プリュイと着ぐるみを着た精霊が近づいた。


「多分この様子だと、リリィさんが第一職員室に乗り込むと思うんだぞ。ネモフィラさんも一緒に行くか?」

「がお?」

「は、はい。ミアが心配ですから、わたくしもご一緒したいです」

「それならアタシも一緒について行ってあげるんだぞ」

「がお。わたちも行く。ネモは命を狙われてるって聞いたから護る」

「まあ。本当ですか? ありがとうございます。プリュイ様、それから、えーと……」

「わたちはラーヴ=イアファ」

「ありがとうございます。ラーヴ様。もうご存知の様ですけど、わたくしはチェラズスフロウレス第三王女のネモフィラ=テール=キャロットです。よろしくお願いしますね」

「がお。よろしく」


 ラーヴが両手を上げて「がおー」と可愛らしい雄叫び? を上げて、プリュイがそれを真似して両手を上げながら「がおー」と雄叫び? を上げる。なんとも可愛らしいその様子にネモフィラは思わず笑顔になった。しかし、それも束の間の事。ジャスミンやリリィ達の話が終わったようで、リリィがめちゃんこお怒りな様子で扉を開けた。

 リリィのその姿……と言うか、内から出る目に見えない怒りのオーラ的なものをネモフィラは感じて、びくりと体を震わせて顔を少し青ざめさせる。それ程に怒ったリリィは怖かった。


「第一職員室に行くわ」

「い、いってらっしゃい」


 ジャスミンが冷や汗を流しながら顔を引きつらせて見送り、リリィが激おこで出て行くと、ネモフィラは「わたくしも行きます!」と顔を青ざめさせながらも慌てた様子で駆け出した。

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