聖女は表舞台に立ちたくない
アンスリウムに連れられて天翼学園の第一職員室までやって来て扉を開けると、国王と何人もの天翼会メンバーがいて、更にはサンビタリアの姿もあった。幼稚園組の魔人の先生スミレの姿もあり、心配そうにミアを見つめた。国王の無事を確認すると、ミアはホッと安心して中に入ろうとした。だけど、ルニィは職員室の前で待機を命じられてしまい、ルニィに心配されながらミアは中に入って扉を閉められる。すると、ジェンティーレの姿もあり、目がかち合うと小さく手を振られた。
「なるほど。この少女が報告にあった聖女か」
そう告げたのは、国王の側に立っていた女性。くせ毛のある長い茶色の髪の毛に、ちょっときつめのつり目の黄色い瞳のメガネキャラ。パッと見は優秀な秘書っぽい見た目である。
秘書っぽいメガネキャラは胸元に手を当てて礼をする。
「はじめまして。私は教頭の一人、第一職員室の管理責任をしているクレラ=ハーヴィナーパーだ。今ここに集められている他の者達は、私を含めて君の正体を知っている者だから安心してくれ」
「ふむ。じゃからルニィさんを中に入れんかったのじゃな。うちの国王を連れ出して、ワシに何のようじゃ?」
ミアが質問すると、クレラは少し驚いた表情を見せて、直ぐに微笑する。
「驚いたな。萎縮させてしまうと思ったのだけど、思っていたより肝が据わっている。君は我々に囲まれても堂々としているんだな」
「そ、それは……あ。そこにおるジェティとワシは友人関係なのじゃ。多少は気も楽になるのじゃ」
「何? ジェティ……? 君は……ジェンティーレと友人関係にあるのか?」
「う、うむ?」
ミアがジェンティーレと友人だと言った瞬間だった。この場の空気が変わったのをミアは肌で感じ、驚いて質問したクレラの言葉に頷いて冷や汗を流し、ジェンティーレに視線を移す。しかし、ジェンティーレはニコニコしているだけ。他の者に視線を向ければ全員が驚いた顔をしていて、長い沈黙が続く。そして、クレラがジェンティーレを睨んでため息を吐き出した。
「ジェンティーレ、これはどういう事か説明しろ。チェラズスフロウレスの国王が聖女の存在を誰にも公開せずに、聖女を城内に留めて独占している事よりも問題だぞ」
(むむ? もしかして、それで国王が呼び出されて捕まっておったのか? それってワシのせいではないか。悪い事をしたのう)
ミアが心の中で呟いていると、その間にジェンティーレがミアの隣に立ち、ミアの頭を撫でてミアがジト目を向ける。
「それは誤解だよクレラ。私はミアが聖女だったなんて知らなかったんだから」
「知らなかった? それは無理が無いか? 相手は聖女だぞ?」
「そんな事無いわよ。もし聖女だと知っていたら、チェラズスフロウレスの王が保護する前に私が保護するわ」
「……分かった。今はそれを信じよう」
「質問しても良いかのう?」
「ん? ああ。遠慮なく言ってくれて構わない」
クレラが答えると、ミアは心配そうに自分を見つめる国王と目を合わせてから話しだす。
「さっきお主が、国王がワシの事を言わぬ事が問題と言っておったが、それはワシが要望したからなのじゃ。何が問題なのか教えてほしいのじゃ」
「聖女の希望だと言う事はサンビタリアから聞いている。だけど、それは関係無い。聖女が希望しようがしまいが、最低限の者……せめて侍従には事情を説明し、私生活に支障が出ないようにしなければならない」
「だとしても国王は悪くはないのじゃ」
「それは違う。チェラズスフロウレス王は罪を犯している。君は聖女でありながら、君自身の事が分かっていないようだからハッキリと言おう。聖女は存在そのものに価値があり、我々の道標になりえる存在だ。だけど、それは我々が聖女の言いなりになる事ではない。だから、聖女の頼みだからと言って聞く必要は無いんだ。君がどれだけ己の身分を誰にも言いたくないと言っても、それをはい分かりましたと聞くだけでは駄目なのさ」
(だ、駄目なのじゃ!?)
ミアは焦った。何故なら、この話の流れだと表舞台に立たされてしまうかもしれないと思ったからだ。
「ぬぬう。それではワシの正体を明かせと言うのか?」
「ああ。その通りだ」
(ぬおおおお! やっぱりなのじゃ! ならぬ! ならぬぞおお!)
「君はまだ幼い。我々大人が正しい判断をしてあげる必要がある。ましてや、チェラズスフロウレス王のように幼い聖女の言葉を利用して独占しようなど考えてはならないのだ。チェラズスフロウレス王にはそれ相応の罰を与える必要がある」
(天翼会はワシを表舞台に立たせて引きこもりさせないつもりなのじゃ!?)
ミアは焦るあまり、冷静さを失っていた。だから、クレラが今言った国王が“聖女の言葉を利用して独占”と言う重大な勘違いを聞いてもまともに判断できず、焦りで逆ギレする。
「お断りなのじゃ! お主等の言いなりになんてならぬ! 国王を処分になんてさせぬのじゃ! ここで全員まとめてぶっ飛ばしてやるのじゃ!」
「は……?」
ミアがいきなり怒って宣戦布告するので、クレラは目を大きく開けて驚き、周囲にいた者達も驚いて言葉を失った。ミアの発言は完全に天翼会を敵に回す言葉で、下手すると天翼会と戦争する事になる可能性だってある。国王は顔を真っ青にし、アンスリウムとサンビタリアは信じられ無いものを見る目でミアを見た。だけど、誰もが驚く中で、そうで無い者が一人だけいた。
「あはははははっ。いいねえ。流石はミア。その時は私も君の味方になってあげるわ。でも、勘違いしているみたいね。君も、クレラも」
「なんじゃと! 何が勘違いな……のじゃ? ワシとあの者がなのじゃ?」
ミアがジェンティーレの言葉に落ち着きを取り戻すと、ミアの逆ギレに驚いていたクレラがため息を吐き出し、サンビタリアを鋭く睨んだ。
「これはどう言う事だ? サンビタリア」
そう言ったクレラの視線はとても冷たく、サンビタリアは焦る表情を見せて視線を逸らした。




