ペットの餌じゃないのじゃ作戦(1)
急に決まった天翼学園児童部試用入園の日の前日。ミアや王族や城の役人が並ぶ中、サンビタリアが本当に天翼会のメンバーを数人連れてやって来た。しかし、ミアは最早余裕の笑み。恐怖の王族ペットの餌食べてます事件の攻略法を編み出して、サンビタリアと天翼会のメンバーを王族達と共に出迎えた。
「この少女が例の公爵令嬢でしてよ」
「へえ。この子が」
サンビタリアが家族と一緒にミアを紹介すると、一人がミアを一瞥してから前に出て王族達に一礼する。
「お初にお目にかかります。リリィ=アイビーです。どうぞお見知りおきを」
リリィ=アイビーと名乗った女性は、パッと見た感じは高校三年生くらい。だけど、白く薄っすらと黄緑がかった髪は後頭部でまとめてお団子になっていて、それが大人の女性の雰囲気を表している。目は細く綺麗な黄緑色の瞳で透き通っていて、綺麗な顔立ちで美しい。天翼会メンバー特有のスーツの様な見た目の制服を着ていて、仕事の出来るOL……いや。秘書を思わせる容姿だ。
そんな彼女が王族に自己紹介をすると、背後から手の平サイズの二頭身な見た目の少女がぴょんっと現れて頭の上に乗った。
「初めまして。アタシはプリュイ=ターウオ、水の精霊なんだぞ」
現れたのは水の精霊で、この世界では上位の種族と呼ばれる存在。そしてその可愛さは尋常では無い。綺麗で美しく透き通るようなスカイブルーの髪で、ネモフィラと同じツインテール。目はまん丸で瞳はアメジストの様な綺麗な紫色で、顔もまん丸な二頭身。服装はリリィと同じ天翼会のメンバー特有のスーツで、それがまた可愛らしい。そんな小っちゃなサプライズ登場に、ミアは目を輝かせた。
「か、かわええのじゃあ」
「本当に可愛らしいですね。わたくし精霊様を初めて見ました」
「えへへ。ありがとうだぞ」
ミアとネモフィラが褒めると、プリュイが照れて恥ずかしそうに笑い、それを見て二人は更に目を輝かせる。
「うふふ。良かったわね、プリュ。サンビタリア、可愛らしい子達にあまりお時間を取らせてしまっても悪いから、早速新しい食材を頂きたいのだけど?」
「はい。リリィ先生や他の先生方は多忙ですもの。直ぐにご案内して差し上げますわ」
「ちょっと待つのじゃ!」
「……何かしら?」
ミアが待ったをかけると、サンビタリアがミアを一瞬だけ睨んでニコリと笑む。しかし、ミアは動じない。何故なら、王族ペットの餌食べてます事件を解決しなければならないからだ!
「リリィ先生はイワシと言う魚を知っておるかのう? ですのじゃ」
「ちょっとあなたねえ。そんなつまらない質問をリリィ先生にしないで頂戴」
「いいのよ、サンビタリア。こんなに可愛らしい子がせっかく私に話しかけてくれるのだもの。ちゃんと答えてあげたいわ」
何故だろうか? 言い方に妙な感じがする。が、一先ずそれは置いておこう。リリィはそう言って笑みを浮かべると、ミアの目線に合わせるように屈んで、何故か頭をなでなでする。その真意は定かではないが、気にすると深みにはまりそうなのでやめておいた方が良いだろう。
「それでイワシだったわね? もちろん知ってるわよ。骨まで食べられて美味しいわよね」
「うむ。そのイワシの稚魚はペットの餌として有名なのじゃが、実は人も工夫をすれば食べれると言うのは知っておるかのう? ですのじゃ」
「へえ。そうなの? スモールベアーに生で餌として与えるものだと思っていたけど。でも、あんなに小さいのに、どうやってお料理に使うのかしら?」
リリィは普段料理をしているのだろう。疑問を浮かべるだけでなく、ミアの頭から手を離して、真剣な表情で考え込んだ。ミアはそれを見て、パッと満面の笑みを浮かべる。
「それが“ちりめんじゃこ”なのじゃ。ですのじゃ」
「まあ。そうだったの? サンビタリアから新しい食材をシェフが見つけたと言っていたから、新種の食材を発見したのだと思ってたわ。でも、どうりで……」
「どうりで……なのじゃ?」
「あ、ごめんなさいね。こっちの話よ」
リリィが再びミアの頭をなでなでして微笑む。すると、それを間近で見ていたネモフィラが少しだけ不貞腐れた顔で、ミアの腕を掴んで引っ張った。
「あんまりミアを撫でないで下さい。禿げてしまいます」
「フィーラ? 撫でただけでは禿げぬと思うのじゃ」
「いいえ。禿げます!」
「ふふふ。ごめんなさい、ネモフィラ殿下。貴女の大切な人を取る気は無いのよ。許してね」
「むむ? フィーラはワシばっかり撫でられて嫉妬しておったのか」
「違います。ミアが禿げたら可哀想だから止めてあげ――っ!」
ミアが勘違いしてニッコニコな笑顔でネモフィラの頭を撫で始めて、ネモフィラが破顔してとろけるような顔になる。それを見て、リリィやプリュイや他の者達が微笑ましいものを見る目で二人を見守った。でも、長くは続かない。
この尊き微笑ま空間が気に入らないのか、サンビタリアが咳払いを一つして、雰囲気を打ち消してしまった。
「リリィ先生。さあ、こちらへ」
「……ええ」
リリィが心なしか残念そうな表情を見せて立ち上がると、ミアが再び「ちょっと待つのじゃあ!」と待ったをかける。すると、サンビタリアはあからさまに嫌そうな顔になったが、ミアは気にせずニッコニコな笑顔を振りまいた。
「中庭で調理を見て楽しんでもらおうとシェフと一緒に準備したから、早速そちらに向かうのじゃ。ですのじゃ」
ミアの【ペットの餌じゃないのじゃ作戦】が、今、幕を開けた。




