聖女の存在
「つまり、聖女様の力をレムナケーテ侯爵は見ていないかったが、娘のリベイアは見ていたと言うわけか」
「みたいだね。先日リベイアから聞いて驚いたよ。ミア様は聖女様なんですねーって興奮してたなあ」
「わたくしも眠ってさえいなければ見れましたのに」
「フィーラ。そんな呑気な事を言ってる場合ではないよ」
ネモフィラの言葉にランタナが注意してため息を吐き出すと、それに釣られるように国王もため息を吐き出した。
ここは家族会議室。今ここでは、ミアの正体がばれるか否かの重大な話がされていた。
「ランタナ。リベイアにはなんと伝えたのですか?」
「極秘事項だから誰にも喋らないでほしいと。ただ、既に両親には言ってしまっている様だよ」
「そうですか」
今度は王妃がため息を吐き出す。すると、サンビタリアが「ほほほ」と笑みを零した。
「お父様もお母様も気にしすぎよ。そもそも、この子が最初に正体を隠すと言いだしたのでしょう? この子が自分でばらしてしまっただけなのだから、放っておけばいいじゃない」
「ぬぬう。ぐうの音も出ないのじゃ。サンビタリア殿下の言う通りなのじゃ」
「だけど、ミアがいなかったらフィーラが殺されていたんだ。これは私達王族の責任とも言えるんじゃないかな?」
「王族の責任だと? ランタナ、今回の事件で功績を上げたからと言って調子に乗るなよ? 王族と一纏めにされては堪ったものではない。俺には関係のない事だ」
「アンスリウム兄さん、妹が……フィーラが殺されかけたんだよ? いくらなんでもそれはないんじゃないかな? それに私は何も出来なかった。私が関わっているのを貴族たちが功績だと言っているだけさ」
「どうだかな。お前はお前で陰で何をしているか分からんからな。アネモネ姉さんの様に本当は裏で貴族を操ってネモフィラの命を狙っているのではないか?」
「っなに!」
「やめろ二人とも!」
国王が怒鳴り声を上げて、アンスリウムとランタナは黙り込む。だけど、二人とも納得はしていない。アンスリウムは舌打ちし、ランタナはそっぽを向いて未だに怒っている。そんな二人を見て、王妃は再びため息を吐き出した。
「二人とも頭を冷やしなさい。それに、アンスリウム。今のアネモネへの発言は取り消しなさい。アネモネは責任を負って王太子候補から除名しましたけど、それは貴族たちの怒りを静めるために仕方が無かっただけです。アネモネに罪はありません」
「……すまなかったよ、アネモネ姉さん。悪かった」
「いいのよ。アンスリウム」
アンスリウムが謝罪してアネモネが許すと、王妃が安心して微笑んだ。だけど、その顔は直ぐに真剣なものへと変わる。
「では、話を戻します。今一番の重大な問題です。あなた……」
「そうだな。聖女様が都内で放った白金の光が噂になっている。これをどうするかだ」
「す、すまぬのじゃ」
そう。一番ヤバい重大な問題。それはミアが使った魔法サーチライトが噂になっている事。せめてもの救いは使用した所を目撃されなかった事だが、聖女が使う聖魔法はあまりにも有名で、その存在を見た事が無くても誰もが知っている。リベイアが白金の光をイコールで聖女と判断したのがいい例だ。あの時に放ったサーチライトの白金の光は、人々の注目を集めるには十分すぎるものだった。すまぬのじゃ。で済む問題では無い。
「とんでもない事をしてくれたな。まあ、俺は民をまとめるには良い流れだと思っているけど」
「そうかしら? 噂では王族に代わって聖女が国を統治する日が近いかもしれないと言われているのでしょう? 今回のヘルスターの様な危険人物が出てきても可笑しくないわ。アネモネもそう思わない?」
「……そうね」
「ほらね。聖女の存在は今は隠すべきなのよ。ねえ? 所構わず慈悲を向ける聖女様」
「う、うむ。今後は気を付けるのじゃ」
「サンビタリアお姉様! ミアに嫌みを言うのはやめて下さい!」
「あら? そんなつもりは無かったのよ。でも、そう感じたって事は、ネモフィラはそう思ってるって事なのではなくて?」
「わたくしはそんな事思ってません!」
「あらやだ怖い。そんな顔で睨まないでよ。ふふふ」
「はあ。やめないか二人とも」
国王がため息混じりに二人を注意すると、ネモフィラはぷっくりと頬を膨らませて黙り、サンビタリアは勝ち誇った顔で笑みを浮かべた。そしてそんな二人を見てから、ミアは冷や汗を……いや。何故か大量の汗を流して焦る様な目で国王に視線を向ける。
「それでワシは幽閉されるとかにはならぬよな? 幽閉なんてされとうないのじゃ」
「ゆ、幽閉……? とんでもない。そんな恐れ多い事など出来ません」
「そうかそうか。良かったのじゃあ。所構わず魔法を使うなと、外に出ぬ様に閉じ込められると思ってしまったのじゃ。ならばワシも今後はより一層気を付けるで決まりじゃのう。それで全て解決なのじゃ!」
「せ、聖女様、お言葉ですが、解決はしていないかと思うのですが……」
「よいよい。人の噂も七十五日。噂なぞその内消えるのじゃ。はっはっはっ」
「は、はあ……」
「ミア。君って本当に楽観的すぎるよね」
「ランタナお兄様、それがミアの可愛い所ではないですか」
久しぶりに再発したミアの面倒臭いアホな勘違いと調子に乗った呑気な発言。そんなミアに国王とランタナは冷や汗を流し、ネモフィラがさっきまでの怒りを何処かに放り投げて目を輝かせ笑顔になった。
家族会議はこれにて終了。ミアが勝手に結論を出してしまい、話し合いが終わってしまった。この聖女、ダメダメである。
(さーて、本格的に引きこもり計画を考えようかのう。むむ? 幽閉されたら引きこもり出来たかもしれぬのじゃ?)
呑気にそんな事を考えるミアは知る由もないだろう。この噂が全く消える事無く続き、それは王都に留まる事無く広がっていき、そう遠くない未来に「聖女が現世に誕生した」と世界中の人々が噂する事を。
ミアの【引きこもり計画】は前途多難どころか、始まる前から終わりに向かっているのだった。
第一章 終了
次回から幕間が四話ほど入って、第二章に入ります。




