王太子候補の除名
「くくく。あのお方の仰る通りだった。一番警戒するべきは――」
「何をブツブツ言っている。さっさと歩け」
王国の騎士がヘルスターの背中を叩き、ヘルスターが不気味な笑みを浮かべ乍ら連行されて行く。ヘルスターを気絶させてから間もなくして、ランタナ達が王国の騎士達と一緒に駆けつけていた。
眠らされていたネモフィラはメイクーが城に連れて行き、リベイアはヒルグラッセが家まで送って行った。レムナケーテ侯爵は少し前に王国騎士に連れて行かれ、ミアに「ありがとう」と感謝していた。と言うわけで、ここに残っているのはミアとランタナと王国の騎士が数人だけ。
(あのお方じゃと? 誰の――)
「ミア。本当にありがとう。君のおかげで二人とも無事だった」
「む? なあに、当然の事をしたまでじゃ。それより、お主はリベイアと一緒に行かなくて良かったのかのう? 側にいてあげた方がよいのではないか?」
「……いいんだ。結局、私は何も出来なかった。自分が情けなくて仕方ないよ。好きな人を護る力もないなんてさ」
「それなら、これから護れるようになれば良いのじゃ」
「え……?」
「お主より年下のワシが言うのもおかしな話じゃが、お主はまだ七歳で子供じゃ。これからまだまだ成長出来るのじゃ。心と体を鍛えて、好きな女子一人護れるだけ強くなれば良い事なのじゃ」
「私は……私もミアのように強くなれるかな?」
「はっはっはっ。何を弱気になっておる。お主は男の子じゃぞ。鍛えれば女のワシより強くなれるに決まっておるではないか」
「……ああ、そうだね。なるよ。絶対に強くなってリベイアを護れるようになる」
「うむうむ。その意気なのじゃ」
ミアがランタナに微笑んで、ランタナもミアに笑顔を向けた。こうしてこの事件は解決し、ランタナに強い意志を芽生えさせて幕を閉じた。のだけど、この事件がきっかけで一人の運命を大きく変えてしまう結果になる。
◇◇◇
「なぬ? アネモネ殿下の責任になるじゃと?」
「そうなのです。アネモネお姉様が責任を取って、王太子候補からの除名が決定しました」
事件が解決してから数日後。とある庭園の片隅で、ミアはネモフィラからアネモネの王太子候補除名の報を受けた。
「アネモネ殿下はあの事件とは関係が無く、ヘルスターの独断で行われたものだった筈じゃ。何故アネモネ殿下がその様な処分を受ける必要があるのじゃ?」
「サンビタリアお姉様です。自分の派閥の者を止める事の出来ないアネモネお姉様が悪いと言ったのです。それをサンビタリアお姉様の派閥の者だけでなく、他の派閥の者達も同意して……」
「それを言いだしたらレムナケーテ侯爵はどうなるのじゃ? あ奴はサンビタリア殿下の派閥じゃぞ?」
「はい。もちろんそれは問題に上がったのですけど、彼はヘルスターやマルクハルトに操られていた被害者だと言う事になりました。ですから、なんの罪状も無いまま釈放されています」
「なんじゃと!?」
「ミア。しーっです」
「う、うむ」
大声を上げたミアの口をネモフィラが慌てて押さえて、ミアが冷や汗を流して静かになる。すると、少し離れた場所から「何処かで聞き覚えのある声が聞こえなかった?」と、ランタナの声が聞こえた。
「危なかったですね」
「すまぬ」
と言うわけで、結構大事な話をしている様に見えるが、二人の目的はその話では無い。二人の目的は、庭園のベンチで仲良くお喋りをしているランタナとリベイアの様子を覗き見る事だった。そしてこれはパーティーのあった日にミアがリベイアと会議した例の作戦実行中の事である。
「しかし、まさかレムナケーテ侯爵がお咎めなしになるとはのう。流石に意外なのじゃ」
「サンビタリアお姉様への熱は冷めたみたいです。あの事件以来、派閥会議には出ていないそうですよ。でも、お姉様の派閥のままみたいですけど。お姉様もそれを利用してレムナケーテ侯爵を派閥内に留める事で、聖女の様に慈悲深い心だと一層派閥の者からの信仰心を強めていました」
「聖女の様に慈悲深い心……ぷぷ。策士じゃのう」
「笑い事ではありません。お姉様のどこがミアの様に慈悲深いと言うのですか」
(ワシは別に慈悲深くなぞないが、まあ、いいのじゃ)
ネモフィラが頬をぷっくらと膨らませて怒った顔を見せるので、ミアは心の中に本音をしまっておく。
「レムナケーテ侯爵は熱が冷めたのではなく、反省して暫らくの間は外に出ない事にしておるとか、そんなんじゃと思うのじゃ」
「わたくしは違うと思いますけど……あ。ミア。見て下さい」
「ぬ? おお。上手くいったのじゃ」
ネモフィラが目を輝かせて、ミアは小さくガッツポーズする。何故なら、ランタナがリベイアの前で片膝をついて、リベイアの手を取って手の甲にキスをしたからだ。それはまるでお姫様を迎えに来た物語の中の王子さまそのもの。ランタナは本物の王子様なわけだが、それでもネモフィラの目にはキラキラと目に映る。残念な事に二人の会話は聞こえなかったけど、ネモフィラは二人の光景に感動を覚えた。
「ミア。わたくしもミアにアレをやってほしいです」
「あれをなのじゃ? 仕方が無いのう」
「え……?」
ネモフィラの希望に応えて、ミアがネモフィラの前で片膝をつく。そして、ネモフィラの手を取って手の甲にキスをした。ミアにとってそれは女の子同士のおふざけ程度の軽いスキンシップのつもりだったが、ネモフィラからしたら大事件だ。ネモフィラはミアのキスを受けると、顔を真っ赤に染めてその場で倒れてしまった。
「ふぃ、フィーラ!? どうしたのじゃ!? しっかりするのじゃ!」
ミアは突然の気絶に慌てて、気を失いながらも幸せそうなネモフィラの顔に気づかない。そして、騒がしいミアに気がついて、ランタナとリベイアがやって来てしまう。
「ミア様! それにネモフィラ様! どうされたのですか!?」
「まさか私達の様子を見ていたんじゃ……?」
「大変なのじゃ! 敵襲じゃ! フィーラが攻撃を受けたのじゃ!」
「……勘弁してくれ」
ネモフィラの幸せそうな顔を見て、ランタナはそれはもう深いため息を吐き出した。




