婚約者を救出せよ(6)
捕らわれたネモフィラとリベイアを助ける為に一人でやって来たミアは、ミミミを呼び出してピストルに変形させる。
ミアは己の正体を隠す気が無かった。何故なら、大事な友達が攫われて、冷静でいられるわけがなかったからだ! と言う理由なら多少はかっこよかったかもしれない。しかし、残念ながらそうでは無い。
「み、ミア様? それは、その魔装は…………っ!?」
「ぬ? ……あ。み、見られたのじゃ!?」
そう。皆さんご存知のミアがアホだと言う事実。はい。つまりただ単に忘れていたのである。だから、そこに友達が攫われたからとか、冷静じゃないとか、なんかそう言うそれっぽい理由など何も無い。もう一度言おう。ミアはアホなのだ!
「ぬぬう。なんと言う事じゃ。まさかワシを油断させて魔装を使わせるとはのう」
させてません。
「しかし、見られたからには仕方が無いのじゃ! 母上も女は覚悟が大事と言っておったし、ここは記憶がぶっ飛ぶくらいの重い一撃を食らわせてやるのじゃ!」
おい聖女。って感じのセリフを吐くミア。母親の言葉をそんなアホな事に使うなと言いたい所だ。ともあれ、なんともまあ締まらないし究極にダサいミアだが、その登場はヘルスターを動揺させるには十分過ぎる程だった。
「くっ。魔装もそうだが、何故ミア様がここにいるのです? まさか、レムナケーテ侯爵の後をつけて!?」
「違うのじゃ。ワシはお主の後をつけたのじゃ。それで今までずっと様子を見ておっただけじゃ」
「なんですって!? そんな馬鹿な! くそっ。仕方がありませんね。ミア様にもネモフィラ様と同様ここでお亡くなりになって頂きます」
「ほう。ワシも殺すつもりなのじゃな」
「待ってくれヘルスター! 幾らなんでもそれはやるべきではない! この子は王太子候補でも何でもない! 無関係な子なのだぞ!」
「だからですよ。レムナケーテ侯爵。無関係の者だから殺したところで問題が無いではないですか。派閥間の争いも生む事は無いでしょう。後それから、ミア様を殺すのも貴方の役目です。理由は分かりますよね?」
ヘルスターが床に倒れているリベイアの髪の毛を掴み持ち上げて、懐からナイフを取り出して突きつける。レムナケーテ侯爵はそれを見て、顔を真っ青にさせて膝をついた。
「そんな……。私に無関係の子供まで殺せと言うのか……?」
「当然です。アネモネ様の為にも、私は手を汚すわけにはいかないのですから」
ヘルスターがニヤリと笑みを浮かべて、ナイフの先をリベイアの喉にピッタリとくっつけた。
「さあ。早く殺しなさい。娘の命がどうなってもいいのですか?」
「分かった! 分かったからやめてくれ! リベイアだけは殺さないでくれ!」
「それでいいのです。さあ!」
「すまないな。ミアだったか……? 死んでくれ……」
レムナケーテ侯爵がゆらりと立ち上がり、ミアに体を向けた。
「気にするでない。親なら娘の命を第一に考えて当然じゃ」
「……君は優しいな。でも、すまない。娘の為に……リベイアの為に死んでくれ」
レムナケーテ侯爵が魔装を出現させる。それは全長九十センチもある大きな注射器のような見た目の武器。
ミアはそれを見て、見張りの騎士を攻撃した魔装で間違いないと確信する。と言っても、どちらにしても関係は無い。
「うおおおおお――っ」
一瞬だった。レムナケーテ侯爵がミアに向かって雄叫びを上げて走り出した直後に、ミアが早打ちして一撃でレムナケーテ侯爵を仕留めたのだ。もちろん仕留めたと言っても殺してはいない。レムナケーテ侯爵は気を失ってその場に倒れただけだ。そして、それだけではない。
「あああああああっっ!! 私の手がああああ!」
突然聞こえたのはヘルスターの悲鳴。
ミアがナイフを持っていたヘルスターの手を撃ち抜いたのだ。流石にミアも少し怒っていたようで、ヘルスターの手には風穴が出来上がり、そこから血が大量に飛び出していた。そして、リベイアはヘルスターに離されて床に転がり、一先ずは無事。
「おのれええええ! 下手に出てやればつけあがりやがってええええ! 田舎出の小娘の分際で私の手に穴を開けた事を後悔させてやるぞ! ミアアアアア!」
ヘルスターが雄叫びを上げて魔装を出現させる。そしてそれは装着型のようで、パッと見がバケットハット。使用方法も頭に被るタイプらしく、ヘルスターは魔装を頭に被り、下卑た笑みを浮かべてミアを見た。
「ミア! これがあなたの最後の授業です! 心して聞きなさい! 私は能力取得装置で【透思】と言う対象相手の思考を読む事が出来る強力な能力を手に入れているのです! そしてこの魔装【思考実行】で、私は私が想像した動きが出来――っがはあ……っ!」
ヘルスターが何やら説明をしていたが、その途中でおでこに白金の光を食らい、その場に倒れた。それをやったのは当然一人しかいない。
「話が長いしどうでもいいのじゃ」
と言うわけで、ミアは話を聞かずにミミミピストルを発砲してヘルスターを一撃で仕留めたわけだ。因みに、相手の考えを読めようが読めまいが光速で飛ぶ弾なんて避けようが無いので、まともに戦っていても結果は同じだっただろう。
「さて、カッとなって手に穴を開けてしもうたのはごめんなのじゃ。ちゃんと治してあげるのじゃ」
ちゃんと謝れて偉い。のだろうか? ミアは気絶したヘルスターに謝罪すると、手を治療してあげた。のだけど、この時、アホなミアは肝心な事に気付いていない。
(白金の光……。ミア様は、ミア様は“聖女”様だったんですね!)
そう。この場にはリベイアもいるのだ。リベイアはネモフィラと違って眠らされているわけではなく、猿轡をされて喋れず、縛られていて身動きが取れないだけで、ミアの活躍をその目で見ていたのだ。
「ふう。傷も無事治したし、誰にも見られとらんし、全部万事解決なのじゃ!」




