幕間 第二王女の悩み
私は春の国チェラズスフロウレスの第二王女アネモネ=テール=キャロット。父親似の桜色の髪と、母親似のコバルトブルーの瞳を持っていて自慢なの。冬の酉の月に十五歳を迎えて、天翼学園を卒業したわ。そんな私には悩みがある。
「え? 王太子候補から除名……?」
「ええ。そうよ。当然でしょう? だって、貴女の派閥の者が首謀者なんだもの。私、何かおかしな事を言ったかしら?」
サンビタリア姉さんはいつもそう。自分勝手で自分の考えこそが正しいと思っていて、その癖に他人の事を全然考えてない。考えているように見せてるけど、それは他人の事を考えてあげている自分に酔ってるだけ。ホント嫌い。でも、今回の王太子候補除名の件は、嫌な事ばかりじゃ無かった。
「ごめんなさい、ゴーラ様。せっかく私の婚約者になってくれたのに」
「私の事はいいんだよ、アネモネ。こんな事を言うと君は怒ってしまうかもしれないけど、本音を言うと、私は君に王太子になってほしくなかったんだ」
「え……?」
「実は、私と君の為に領を一つ譲ってくれると父から言われていたんだ。君さえよければ、君と一緒にそこで民達に寄り添って暮らしなさいって。ほら? 私は国を良くする為にも、民と一緒に協力していきたいと話した事があるだろう? 父もそれを知っているから、君を誘ってみたらどうだ? って言われていてね。でも、君はチェラズスフロウレスの王太子候補だった。だから、君には相談が出来なかったんだ」
「私が……ブレゴンラスドに嫁ぐ……と言う事ですか?」
「駄目かな? 一緒に来てくれると嬉しい」
「駄目じゃ――っ。いえ。考えさせて下さい」
「うん。分かった。こんな時に困らせてしまってすまない。でも、私は本気だ。今より生活水準や環境が悪くなってしまうだろうけど、絶対に幸せにする。良い返事を待ってるよ」
私の婚約者のゴーラ=B=ティガイドン様。龍人が治めているブレゴンラスドの第七王子で、私と同い年のとても優しい人。気の弱い私なんかを気にかけて、いつも見てくれている。私の家族よりもよっぽど頼れる大切な人。でも、私は「はい」と答えられなかった。でもそれは、別に生活水準が落ちるだとか、ゴーラ様が言っている様な事が理由なわけじゃない。
理由は、私が小さい頃から父親にチェラズスフロウレスの為にと育てられたから。今年の春からは天翼学園に勤めて、国をよくする為に勉強してほしいとも言われていた。だから、この国を出る勇気が私にはなかった。そして、ゴーラ様はこの次の日には、ご自身の国に帰ってしまわれた。優柔不断な私のせいで返事を聞けずに……。
「おお。そこにいるのはアネモネ殿下なのじゃ? 中庭にいるなんて珍しいのう」
侍従も付けずに一人でベンチに座って空を見上げ乍ら悩んでいると、聖女様が話しかけてくれた。でも、正直戸惑ってしまう。だって、私は聖女様と仲が良いわけでは無いし、よく知らない。それに、私が全く関わっていなかったとしても、私の派閥の貴族が聖女様に迷惑をかけてしまった。本当に申し訳がなくて、どんな顔して会えばいいのか分からない。だけど、返事も返せないでいる私に、聖女様はとても元気な笑顔を向けてくれた。
「悩み事かのう? ワシで良ければ聞かせてほしいのじゃ」
「そ、そんな……。聖女さ、ミア様にお話するような事では……大層な話ではありません」
「むう。残念じゃ。やはりワシのようなお子さまには話しても意味がないのじゃな」
「ち、違います。その……ただ私がイジイジしていて、考えがまとまっていないだけですので……」
なんだか自分で言っていて情けなくなってきた。暗い気持ちになって少し顔を俯かせてしまう。すると、聖女様が母性溢れる穏やかで包み込んでくれるような微笑みを見せてくれました。
「言うだけ言ってみてはどうかのう? ワシなんかでは相談にのってやれぬかもしれぬが、聞くだけなら出来るし、言えば少しは楽になるかもしれぬのじゃ」
「ミア様……ありがとうございます」
なんだか涙が出てきた。聖女様は本当に聖女様だったのです。こんなに小さくて可愛いのに、なんてお美しいのでしょう。
ネモフィラの侍従のメイクーが聖女様の派閥を作ったらしいので、私も入りたい気持ちでいっぱいになる。そして、私はたくさん喋った。それはもう懺悔の如く、何から何まで気持ちを全て吐き出した。ゴーラ様を本当に愛してる事。チェラズスフロウレスを離れていいのか悩んでいる事。離れるなら、それは家族や民への裏切りになるのではないかと言う不安。もし私が嫁いだ場合、私の派閥の者をちゃんと説得できるのか、説得に失敗してまた暴走しないかと言う不安。他にも、気が付けば関係のない事まで。
全て話すと、なんだか気持ちが少し楽になる。そして、親身になって私の話を最後まで聞いてくれた聖女様の変わらぬ微笑みを見て、私は決心した。
「ミア様、聞いて下さりありがとうございます。私、ゴーラ様の許に嫁ぐ決心がつきました」
「おお。そうか。それは良かったのう。幸せになるのじゃぞ」
「はい。ミア様」
聖女様の微笑みは拝みたくなる程の笑顔に変わり、私も釣られる様に笑顔で頷いた。




