すれ違いのフラグは知らぬ間に
自分の部屋の窓辺に設えたカフェテーブルの前に座るエリーは頬杖をつきながら、溜め息を零した。
外を眺めてみても、気分は一向に変化の兆しを見せない。
心の中で何かが騒めいている。その騒めきに、恐れおののく自分がいるのだ。
あの時のレオンの瞳が忘れられない。
彼は何を言いたかったのだろう。私の答えに何を望んでいたの?
でも私は悲しいほどにコミュニケーション能力が貧弱なのだ。幸子もそうであったように。
外ではメイドたちが協力し合って、洗濯物を干し、庭園では庭師たちが草花の剪定をしている。
晴れ渡る空に、似つかわしくない自分。
チクリと胸を刺すものを感じながら、エリーは自虐的な思考に耽る。
こんな綺麗な空が似合うのは、きっとキャサリン(ヒロイン)ね。
私はきっと月もないような真っ暗な夜の闇のほうが似合うのよ。
そんな私が、あの人の隣にいることを望んでいいわけがない…。
そして、ふと思い出す。
『レオン様が私を好きになったら?・・・もし、私があなたを・・・?』
戸惑いから思考能力が奪われていくのが分かる。
『そうだ。勿論、両想いなら結婚すればいいだけのこと。…片想いだったら、どうすると聞いているのだ。』
『そ、そうですわね…。』
考えていなかったと言えばウソになる。でも、思えばいつも想定しているのは原作通りの展開だ。
それはつまり、16歳の運命の出会いを果たした王子が、ヒロインとの真実の愛を貫くために、私は婚約を解消する日がくるということ。
婚約回避できなかったから、王子からの破棄を待っているのだと考えているだけで。
意識から排除していた。
もし、自分がレオンを好きになったら。もし、レオンでもない他の誰かを好きになったらなんて。
回避したい結果があるからだと言い訳しても、自分の中にわだかまる感情があることにエリーは気づいた。
けれど、そんなことなどレオンに言えるわけもないのだ。
応えられずにいるエリーに、レオンが詰め寄る。
混乱の境地まで追いやられたエリーは、ジッとレオンの瞳を見つめた。
『もし私が君を好きだと言ったとき、君に好きな人がいなかったら?もし、君に他の好きな人がいたなら?・・・・・・もし、君が私に好きだと言ったとき、私に好きな人はいなかったら、好きな人がいたなら?』
このまま既定路線を辿っていくのなら、未来は分かってる。彼はキャサリンと出会い恋に落ちる。
その時もし、私がどうしようもなくレオンを好きになっていたとしたら。
エリーは、レオンを前にすると意識的に排除していた理由に辿り着いた。
私は、恐いのだ。
咄嗟にエリーはレオンから目を逸らした。
私は物語通りの悪魔に化すのだろうか?
本当に、綺麗にお別れできるのだろうか?
いい友達同士だと、笑って過ごせるのだろうか。
でも私は避けたい結果があるのだ。
残された道は、諦めて見送るだけなのに。なにを、悩む必要があるのだろう。
前世の幸子も実る前に朽ちて、再び傷を負うことのないように心を閉じた。
それなら、逆に開くしかないとしても、心って、どう開けばいいの?
『わ、私にも、分かりません。でも、いつか読んだ本には「愛する者の幸せのためなら、身を引くのも愛」であり、また「想い続けるのも愛」だと…。けれど、今の私には分かりません。』
逸らしていた視線を向けると、レオンは真剣な瞳でエリーを見つめていた。
その瞳に何らかの感情が燻っているように感じられ、エリーは狼狽えた。
『待って。それなら、去ることが前提の話し?それは、俺が君から去らなければならない日が来るのだとほのめかしているのか?それとも、君が?』
『どちらでもないですわ!…もしも、の話しですもの。あなたが、もし他に好きな人ができて、こうして私と過ごすよりも、その方と一緒にいることが幸せだという日が来たら、と…想像して話しただけですわ。』
『エリー、それは…』
レオンはもっとも重要な点に気づいていた。そして、最も欲しい答えを聞き出そうと口にする寸前。
エリーが呟いた言葉と寂しそうな声音に、レオンは続くはずだった言葉を飲み込んだ。
『けれど………やっと、…やっと人を好きになれたなら、その想いを捨てたくないと願ってしまうかもしれませんわね。』
眼を下げると、エリーは考えずにはいられないことがある。
幸子の人生が交差するように脳裏に浮かぶのだ。
完全ではない記憶でも、幸子はいかなる形式の愛にも恵まれなかった。諦めていた。でも、どこかで欲していた。
そしてこのままいけば、エリーも同じような運命を辿る。
信じること信じられることなく、愛することも愛されることも出来ずに永遠の眠りに就くことなど、二度と経験したくない。
相手がレオンでなくても、エリーの心が飢えを満たそうと執着を覚えてしまったら。
エリーは己の恐怖心と対面していたとき、一方でレオンはエリーに触れようとして宙を彷徨っていた手を力なく下げ、拳を強く握った。
レオンは、エリーの本心が見えると思った瞬間に、エリーとの間には見えない壁があるように思えたのだ。エリーには何か自分には分からない何か大きな悩みがあるのではないだろうか、と。
そしてそれは、自分にはそれを教えてくれないのか、というひとつの大きな一線のように感じさせ、想像するより、期待しているより信頼関係を築いていないのではないかと、レオンに想わせた。
そんなことなど、エリーは気づく由はない。
エリーが何度目かの溜め息を零した時、部屋にマリーが入って来て、淹れたてのお茶とお菓子をテーブルに置いてくれた。
「ああマリー、ありがとう。とてもいい香りね。」
「お嬢さま、どうされたんですか?どうにも顔色が優れませんが…。」
「そう?」
「溜め息ばかりでお体の具合が悪いのでは?今日のパーティー、欠席されたほうが・・・」
マリーはポットからカップにお茶を注ぎながら、エリーを心配そうに見つめている。
その眼差しに微笑んで返す。
「そういうわけにもいかないわ。今日のパーティーには今までお会いしたことのない方がいらっしゃるようですし、ご挨拶するようにお父様から言われましたもの。」
「でもそれで、更に体調を崩されたら…」
エリーはふくよかな香りを醸す紅茶を一口飲み込む。
温かな茶が喉を通り、香りが鼻へ抜けていく。
風邪気味なのかもしれないが、喉が痛い様子はない。
でも、確かに身体に怠さがあるのだけは気になる。少し熱っぽいのだろうか。
「そうね。でも、早くに帰ってくることにすれば大丈夫でしょう。」
令嬢というのも、疲れるものだ。
子息令嬢同士の繋がりは、親同士のそれに繋がる。逆に親同士の親交諍いで子同士の派閥も生じる。
悲しいかな、エリーが彼らと親交を深めようと努力しても叶ったためしなどないが、侯爵家の権利を利用したいと近寄ってくる人は大勢いる、が…。
皆、エリーを間近で見ると斜め横に視線を流し、思惑も流してしまうようだ。
例え、現状として利用する用はないとしても、いつかの牌はいくらでも用意しておきたいのが本心(逃げていくが)。
誰だってそうだ。それが、心を冷え込ませる一番の要因だったとしても。
支度を整えたエリーは、父の迎えを待った。
婚約者のいるエリーでも、まだ公にされていないためエスコート役は親族の男性となる。
主催者はハインドリッヒ伯爵。
父であるハッシュトン侯爵とは交易関係で商談を交わしていることもあり、ご招待に預かったらしい。
なんの集まりでも、エリーにとっては気が重いものに変わりはない。
表面的にせよ心底にせよ、朗らかな団欒の場に自分が登場すると、ピリッとした緊張が走るのを毎度のように見ているだけで疲れるのだ。
微笑んでみたら、怯えられ。
冗談を言ってみたら、何か恐ろしい呪いを訊いたような顔をする。
痛いヒールにいつもより締め付けたコルセット。個人的には、それを我慢する価値はないのに。
「お父様、お仕事お疲れさまですわ。」
「ああ、パーティーに間に合って良かったよ。」
仕事を一つこなしてから、迎えにきた父に挨拶をして、馬車に乗り込む。
向かいに父と執事、エリーの横にはマリーが座り、物静かな移動時間を経て到着した。
馬車の到着に足早に近寄ってくる伯爵邸の執事が恭しく父を出迎え、主の居場所を告げた。
「ありがとう。では、頼んだよ。」と、父が上着類を預けている。
エリーはマリーに渡し、伯爵邸のメイドたちへ託した。
ハインドリッヒ伯爵は人の良さそうな笑みを浮かべた中年のおじさまで、子供にも礼儀正しい人だ。
ヒゲと恰幅のいい身体、仕立ての良い服、豪華で煌びやかな邸に品の良い笑みは、どこか人の良さそうな雰囲気。
何故か嫌われ者のエリーにも、他の人と違わず礼儀正しく接してくれる。
ひとしきり挨拶を交わし、父たちが商談を兼ねた雑談を始めると同時にエリーは同い年が集まるエリアへと向かう。
そこに挨拶するべき人がいると聞いたからだ。
「・・・あ」
という怯える声と同時に、ザっと一斉に振り返り一瞬でエリーを認識した。
なんていう集団だ。あ、という声だけで反応できるなんて。
前世の「右倣え右」のようだ。でも、負けられない。
「ごきげんよう、皆さま。」と響く声で礼を取りながら言う。
「・・・ご、ごきげんよう。ハッシュトン様」
最初に「あ」と呟いた女の子が弱々しく返す。エリーはそれににっこりと微笑み進み出る。
とは言え、彼女からしたらエリーの微笑みは、般若のそれに見えるらしかった。
すると、軍の演目かというかのように衣擦れの音が一斉に響き、道が開けた。
いやいや、どこに行けと言うのだ。
とその道の先を見るとベランダだった。
出ていけと言ってるかのようだ。
いっそ本当にまっすぐベランダに出てやろう。
歩いている最中、「何様のつもりかしら」「女王風情でいやな感じー」などと聞こえてくるが、常套句だ。
すると有り難いことに初にお目に掛かる挨拶すべきこの家のご令息がベランダにいるのが見えた。
よっしゃ彼らに挨拶をしたら、さっさと帰ろう。
ベランダへ一歩踏み出し、初めて会うことになったこのハインドリッヒ伯爵家の次男、ラルフ・ハインドリッヒの方向へと身体を向けたときだった。
エリーはある人物の姿を認め、息を飲んだ。
――・・・あ。
ダンテ・ヴォート
ひと目で分かった。
私たちより二歳年上の先輩枠であり、メガネキャラ。
絵は青い髪だったが、彼は銀糸にブルーが織り込まれたような繊細な色だ。銀色の瞳が神秘的な煌めきを帯て、見たものを惑わすような魅力を放っている。すらりとした体形に長い足。同年のなかでも背が高いのだろう。
眼鏡も邪魔できない、力。
主人公との出逢いを果たした今、いつどこで主役級の人との出会いが訪れるか分からないと覚悟していたエリーでも、息をのむ存在感。
他の人の挨拶が途切れるころ、エリーはハッとして彼らに近寄った。
「ラルフ・ハインドリッヒ様、今日はお招きいただき感謝しますわ。私はエリー・ハッシュトン。お初にお目に掛かれて光栄ですわ。」
「ああ!エリー嬢、よく来てくださいました。今日この日まで中々お会いできずに残念に思っていましたよ。」
と、感じのよい声音で父譲りのような人好きのする笑顔をくれた。
ラルフは錆色の髪色と茶色の瞳で、愛らしい顔立ちをしていた。体形は父とは違い、すらりとしている。
事前情報だと、現在13歳。その割にダンテに負けず身長が高い。
「私もですわ。ようやくお会いできました。」
「そうだ、彼はダンテ・ヴォート。僕の友人で親戚にあたるんですよ。ヴォート辺境伯の一人息子。」
そう隣にいるダンテを紹介し、その流れに乗じて互いに頭を下げ合う。
「お会いできて光栄ですわ、ヴォート様。」
「・・・ああ。」
「彼は口数が少なくて、愛想もあまりないから誤解されやすいんだが、悪いやつじゃない。つっけんどんでも悪気も悪意もないから許してやってほしい。」
「私も似たようなものですわ。どうぞここは一つ、私もお許しくださいませ。」
と、言うとダンテはエリーをジッと見てから会場内をじろりと見まわした。
エリーがベランダへ向かったことによって、ある程度の喧騒は取り戻したものの、一部は未だベランダのエリーの動向を気にしてちらりちらりと視線を寄越す。
エリーは慣れていたが、その他の人からすると異様だろう。
「確かにな。ここにいる連中は、どうして君をここまで避けたがるんだ?何かしたのか?」
とダンテが言うと、隣のラルフは青ざめて止めにかかる。
「ダンテ!無口なのに、どうしてデリカシーのないことを聞くときだけ口が過ぎるんだよ!!」
確かに。
とは思ったがエリーは口にせず、詫びを口にするラルフに気にしないでと伝え、ダンテの疑問に答えた。
「ここにいる彼らと口を利くのは、こうしたパーティーでお会いする時くらい。それも挨拶のみですわ。巷では私に関する悪評も多く流れておりますし、それを耳にした方なら避けたいと想うのは当然かと。しかし、名誉のため言わせて頂けるなら、その噂など、私には身に覚えないのないことばかりですわ。まあ、私のなにかの仕草言動が気に入らないとかで尾ひれはひれついての話しかもしれませんから、主観同士の食い違いからきてるのかもしれませんけれど。」
「そうか。私も君に関する噂を口にする者を見たことはあるが・・・申し訳ない、知らない人の話しなど興味なかったので内容までは覚えていなかったから、彼らの様子はいささか奇妙な態度に見えて聞いたまでだ。だが不快にさせたな。」
「いいえ、何も聞かずに誤解するより、ずっと良いですわ。」
とニコリと微笑む。
するとホッとしたようにラルフが胸を撫で下ろしている。
「私は父同士商談関係で良く話しを聞いていたからね、家同士が近いこともあって使用人たちからの話しでも、噂とはまるで違う女の子であることは想像していた。ま、ダンテもよく身に覚えのない悪評を流されるからね。近しい者として、噂と現実の相違なんて慣れているんだけど、彼らはちょっと過敏すぎているように私も見えるね。」
とラルフが言う。
もしかしたら原作の引力かもしれません。
とは言えない。
主人公の登場で、主人公補正を目の当たりにした私には、ひとつの仮説があった。
この周囲の冷遇は、私に「原作通りの悪鬼になれ」と試練を与えているか、「現実がどうであれ、悪役を演じるのはあなた」と強制的に悪役に振り分けられているか。
「ダンテ様まで悪評を流されるんですの?」
「ああ、彼の悪評を流してるのは、主に子息連中で、ほぼやっかみさ。ダンテってほら、顔も良く、頭も良いものだから、女にモテるんだよ。それでいて有力者からも将来有望だと期待されているとの話しもあって、野心の強い奴なんかからは敵認識されてるからな。」
ハアとため息を吐いたダンテは、面倒そうに言う。
「有力者など、俺は知らんがな。」
「な?もしかしたら有力者のほうが気に掛けているのかもしれないが、ダンテ自身は面識がないと言う。だからやっかまれても、どうしようもない。だから、まあ…なんというか、君も気にするなよ。もしかしたら、君の性格に難があるとかではなくて、やっかみかもしれないしな。」
「ラルフ様・・・ありがとうございます。痛み入りますわ。」
と頭を下げると、ぼそりとダンテが告げた。
「気にする必要はないが、気に掛けたほうがいい。自分の周囲の中に、自分を陥れようとしている人間がいるかもしれないのだからな。そして、そういうやつは案外、自分や周囲に良い顔を向けて、本心を欺いているだけかもしれない。」
「天使の顔の悪魔ってやつだな。お前がいつも言ってる。」
「ああ」
エリーはハッとしてダンテの顔を見た。
彼のアドバイスにドキッとしたということもあるが、噂の根源は何なのか知らないままにするだけでなく、きちんと向き合えと暗に告げている。そして、それは良い人だと思っていた人の場合もあるのだと。
ダンテ・ヴォートの紹介文を思い出し、彼はやはり心根の優しい方なのだとエリーは思った。
主人公のことは特別な感情が生まれていたという下地があったにせよ、初対面の人間にもこうして気に掛けてくれるのだから。
「ヴォート様も、ありがとうございます。気を付けるように致しますわ。ところでお二人は、とても仲が良いのですね。」
「ああ、幼馴染ってのもあるけど、ダンテってクールで無神経なところもあるけど意外と良い奴だから。」
「褒めているのか、貶しているのか。…俺もラルフとは神経尖らせる必要がなくて楽だな。」
「それって僕がぼんやりててアホだって言いたいのかな?」
「深読みし過ぎだ。お前は、一々言葉尻を取って人の顔色変えたがる性質でもないし、一々人の行動に刺さって騒ぎ立てる性質でもない寛大な心の持ち主だって言う意味だ。」
「物は言いようだよな。」
エリーは知らずにくすくすと笑っていた。
気の置けない仲というのは、こんなやり取りも軽快に交わせるものなのか。
「何がおかしいんだ?」
というダンテに、エリーは答えた。
「誰かの会話を聞いていて、楽しいと思ったのは初めてですわ。私、これほど軽快に言葉を交わせる友人もおりませんし、こんな調子ですから。」と肩を竦めて肩越しにパーティー会場を見やる。
「そうか。まあ、貴族に生まれると人間同士の付き合いより、家柄同士の付き合いを優先するのが普通のような気がするが。」
ダンテが言うと、頷きながらラルフがちらとどこかに目をくれる。
「それに、ほら御覧。」
とラルフが視線である一角に目を向けた。
それに釣られて彼の視線を追うと、女性陣が談笑している。
至って普通の光景。
「彼女たちはパーティーというと必ず顔を見るから、嫌でも目に入るし会話も聞こえてくるのだが。ああして笑って仲良く喋ってるように見えるだろうが、内情は違うことがあるものさ。特に、彼女たちは顕著だ。」
と、彼女たちのほうを見ながら、どんな会話であったかを思い出しているようだ。
家柄や容姿、服装や婚約者の家柄までもを糧に優劣にばかり気を取られ、仲良く会話しているように見える風景でも中身は競争と妬みと自己顕示欲のぶつけ合い。
どこからともなく現れた他の令嬢に誰かが馬鹿にされたとする。けれど彼女たちは怒るのではなく、ひっそりほくそ笑んで、ざまあないと言った顔をして、自慢した持ち物ドレスにワザとぶどうジュースなどの落ちにくいものを零して、裏で笑っている姿や、気もないのにわざと横恋慕するかのように令息に秋風を送ったり、とラルフはなかなかにどうして暗い闇の部分に出くわしているようだ。
「正直、彼女たちの会話が耳に入る度に思うんだよ。よく会う度に張り合うネタがあるものだと。」
「ああいう人種は、それを生きる糧にしているからな。男も女も。」
「そういうのも知ってると、何でもいいから友人がいればいいってものじゃないと思うよ。」
「そうだな。下手してまったく時間の無駄を費やすより、もっと大事なことに時間を使えると思えばいい。」
「さて、そろそろ他の客人とも挨拶せねばな。ダンテ、ここは私一人でこなすから、そろそろ飲み物でも飲んできたらどうだ?エリー嬢、よければ君も。」
可愛らしい見た目にスマートな対応。お父様が商談を交わし、信頼している人の子息なだけあると思わせる何かがある。
きっと彼は私がパーティで一人浮いたまま傷つくことのないように暗にダンテをそばに置くように仕向けたのだろう。
ダンテもそれに気づいているらしく、エリーの返事を待っている。
「ええ、よろしければご一緒してもよろしいでしょうか、ダンテ様。」
「ああ。」
短い返事と腕を差し出してきたダンテにニコリと微笑んで、彼の腕に手を添えた。
ピシっと、他の令嬢の鬼のような視線が瞬間的に背中を刺したことから、早くも後悔しかけていたエリーは、小さく溜息を零した。




