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薄幸令嬢の奮闘記  作者: 星月天音
出会ったのは、処刑フラグキャラでした。(はじまり)
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原作メインヒーロー、レオン王子と庭園で

物語上のキャラクターとしての紹介文しか知らない私は、早々に困り果てていた。

何せ彼について知っていることは、取りあえず16歳になってから学園で出会うキャサリンに夢中になる王子というだけで、どういう性格なのかがまるで分かってはいない。

もう少し詳しく知っていたなら、婚約回避や穏便破棄への道筋も簡単に組み立てられたのに。


幸子、もう少し人生楽しんでくれたら・・・。まあ、無理か。

きっと幸子が漫画やアニメにハマったら、今度は万引きの濡れ衣を着せられたり、家に突然やってくる親からビリビリに破られたり、根暗な上にオタクだと周囲からの風当たりが更に強くなるだけだろうし。

幸子もそれを事前に察知していたから避けていたところもある。不憫でならない。いっそ今からオタ活してやろうかと思うくらいだ。


11歳。12歳で正式に婚約を発表するということは、王族関係者、他国の王家などにも正式開示されるということ。できれば内密なうちに破棄したほうが、私的には目立たなくて助かるのだが…。


今、二人は城の庭園を歩いていた。後方には気配を殺したように付いてくるメイドや執事。


隣の少年を見やると、むすっとしたまま口を利こうともせず、目も合わせない。あれほど睨んでいたのに。

これならいっそ「婚約なんてやめよ!」と言えば、「最初からそのつもりだボケ」とでも言いそうだな。

とは言え、これは王家と貴族間にある契約ごとと同じ。

子供がうんたらと言ったところで、先ほどのように…


『子供だから今はそう思うだけだ。きっと王妃になるのが恐いのだろうね。しかし、恐れというのは不可能なところには生まれないものだ。可能であるからこそ恐れが生じる。お前が立派な王妃になれると、今確信した!』


などと言い出しかねない。

さっきから何となく感じるのだが、なんとしても婚約させるのがこの世界の既定路線だとしたら…。

キャサリン苛めに走らなければ良いだけなのか?とも思った。だが、この不幸体質幸子の影響を受けた今、それだけでいいのか不安なのだ。


ブロンドのサラリとした綺麗な髪も、青紫の神秘的な瞳も、なるほどあのニュースで見た将来の姿を彷彿とさせている。

美しいのだが、いかんせん嫌われている身にはその瞳の強さに、恐れ慄くものがある。

さすが将来は一国の王となる男の子。今から目力も鍛え抜かれているのだろう。

気を遣っているのか、気配を殺したメイドや執事たちは遥か遠くから様子を窺っている。

これは様子を逐一報告するようにと命令されているのだろうな。

さすがに息がつまり、上を見上げつつ息を吐いた。


その態度にピクリと反応を示した王子に「あら、失礼いたしましたわ。」とにっこりほほ笑む。

まるで怯えたようにギョッとした目で私を見ている。


・・・解せん。眼力王子がビクッと怯えた。解せん。私は至って普通の表情(かお)だった!


エリーは急に虚しくなった。


私は何も悪意など持っていないのに、敵意ばかり示される人生に。前も、今も。

ただ、なんでもないことを語り合う友人が欲しいのだ。


私の様子を怯えながら窺ってくる猫のような様子の王子を見つめ腹を決めた。

ぴたりと立ち止まる私に驚いたように、釣られて止まる王子。


「私、虚しいですわ。青い空が広く清々しくて、花の咲き誇る庭園は美しい。自分以外の誰かがそばにいるのにその感想を伝えることができないのが侘しいですわ。私には、人の心を開く術はありませんから、そのことが悔しいとも。ただ歩いて、過ぎ去っていくのを見ているだけですもの。」


「そんなことを言い合うことが楽しいのか?…侘しいほどのことなのか?」


考え込んだように呟く王子に、エリーは言った。


「・・・・・・私のそばにはいつも他の人がいてお世話をしてくださいます。ですがほとんどの場合、彼らは私の言葉にはYESと返すだけ。仕方のないことだと思っていましたが、最近私は寂しいと思うようになったのです。感想であるなら私の感想は私にとっての正解ですが、芸術や美しさは人によって違うわ。・・・ほら、この花を見る私たちの間でも、何を思うかなんて分からないし同じではないかもしれない。」


とエリーは花の香りを吸い込み、多少及び腰の王子を引き寄せ同じように香りを確かめるように示す。

王子は苦虫を潰したような顔で嫌々ながらに花の香りをかいでいる。

いつも自分のそばにはお世話係や使用人たちがいる。前世幸子を思えば、それだけで十分なのかもしれないが、エリーの心は晴れなかったのだ。


「・・・同じ香りだとしても、好きだとか苦手だとかあるように…私の言葉とは違う感想がその人の中に浮かんでいるのなら、私にもそれを教えてほしいと思うのです。私の目や視点だけではこの世界を知るにはとても足りない。…心が強いわけではありませんので、私の感想をNOと強く否定されたいわけではありませんけどね。」


「・・・例えば、さっきみたいに会話のない時間があるというのは嫌なのか?話す内容がなかったら?」


「いいえ。会話がなくても気まずくないほど信頼関係のある人となら幸せな時間になるでしょう。でも、そこまで至っていない人と一緒にいるときは、寂しいとか気まずいとか思ってしまうのでしょうね…。私には、友達と言える方がおりませんし(前世から)、理想話になるのですけど。きっと最初から信頼関係なんてあるわけがなくて、言葉や態度や行動、表情など様々なやりとりで築いていくものでしょうから…。」


一人きりの孤独より、群れのなかの孤独のほうが辛かった前世。


「・・・私にもいないから、・・・分からない。」


ふと王子を見ると、考え込んだような表情で呟いている。


「え?」


「友達ってやつだ。…私にもいないから、同年代の子と喋るのが苦手なのだ。」


「・・・てっきり、私のことがお嫌いで口を噤んでいるのだと思っておりました。」


まあ、嫌々婚約させられた相手のことを好ましく思うはずもない。疎ましいのは事実だろうな。


「・・・・・・べつに、嫌いってほどじゃない。何も知らないからな。・・・その、悪かった。そう思わせてしまうような態度を取ってしまって・・・。」


たどたどしく目を逸らしながらも詫びる王子に私はふと考えた。

王子と恋仲になることはないにしても、友達にはなれるのではないだろうか。


「いいえ・・・それなら、この花の香りの感想、教えて下さいませ。」


「甘い香りだ。だが、私にはあまり好ましい香りではない。花自体は綺麗だと思う。この淡い色合いや瑞々しさは庭師の努力の賜物。その仕事への熱意の結晶がこの庭園なのだ。私は花を見ることより、彼らの努力が花となって咲いた様子を見るのが好きなのだ。」


王子の目が爛々と輝き、今はいない庭師への敬意で溢れた言葉は同時にエリーの心にも何かが響く。


「そんな王子のようにそれまでの過程を見守ってくださる方がいるから、彼らも頑張れるのでしょうね。見向きもされず当たり前のようにされるより、ずっと素晴らしいことですもの。」


「そ、・・・そうか。それで、・・・え、エリー、君はどうなんだ?この花の感想、とやらは・・・。」


「私?私はこの花が好きですわ。香りはちょっと強いのですが、風に乗って届くほのかな香りが心地良いと思うのです。私の家の庭にも、庭師に頼んで少しだけ植えて頂いたんですよ。それに淡い色の花びらも、全体的な姿も繊細で美しくて。ひとつも萎れているところのない花びら・・・王子様の言うとおり、庭師の方々がどれほど心を込めて育てているのか伝えているようですわね。きっと彼らは愛情を込めた分、この花たちから愛されているのね…。」


すると、王子は目を点にしながら、何かを決断したかのようにエリーに言った。


「・・・あ、ああ。その、実はこの庭は迷路になっているんだ。見せたいものもあるし、後ろの使用人たちを撒いて、もう少し話さないか?」


突拍子もない申し出が王子の口から飛び出す。

だが、エリーはその手に乗った。


「ええ!彼らには申し訳ないですけど、たまにはそうして過ごしてみたいわ!」


そうすれば少しでも婚約に対する本心を探れるかもしれない。


そう言うと、彼はエリーの手を掴んで駆けだした。


「こっちだ!」


背後から「あっ」とか「追うぞ!」など戸惑いの含んだ声が聞こえてくる。

とは言え、彼らもこの城をつぶさに把握したプロだ。逃げたところですぐ追いつかれるのではないか?とちらと背後を見やると王子はすぐに気づいて更に強く手を握る。


「大丈夫。俺の秘密基地があるんだ!そこにいれば見つかったことはないよ!」


え?とエリーは彼を見た。

一人称が私から俺になって、声も言葉も少年のように弾んでいる。

さっきまでの大人びいた口調から、急なその変化にエリーは驚いた。

後ろから見ても彼の表情が楽しそうに輝いている。本当は彼だってこうして遊んでいたいのかもしれない。それなのに大人の事情で見知らぬこんな黒の悪魔と呼ばれる(ことになる)ような子供と婚約させられるなんて、彼だって重荷だったのだ。私だけじゃない。私には、のっぴきならない事情があるけれども、きっと同じ目的(婚約破棄)を持てば仲良くなれるかもしれない。


生垣が密集しアーチの門や子供にしかくぐれない穴などを通って、使用人たちをかく乱して、走る。

エリーは不思議な気持ちになっていた。

さっきまで親の仇のように睨んでいた男の子と手を繋いで一緒に走っている。

なにが起きたんだろう?





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