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ゴーレム使い  作者: 灰色 人生
バトランタ攻防戦

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252/255

222話〜ヴェルド=エン・金座の風〜

明けましておめでとうございます。

本年も宜しくお願いします。

 


 南方自由貿易都市《ヴェルド=エン》。



 陽光の降り注ぐ港に、白帆の船が立ち並び、

 香辛料と金貨の匂いが潮風に混じっていた。


 ヴェルド=エンは、アナトリア大陸南部に位置する自由都市連合の中心地。


 各地の商人たちが集い、交易を通じて独自の繁栄を築いてきた。


 その経済を統べるのが――都市代表会議《金座》。

 そして今、その“金座”を束ねる若き女性商人がいた。


 メリッサ・ヴェルド。

 黄金の髪に碧い瞳、齢二十にも満たぬ若さで

 前議長ガルド・サーヴェンの後を継ぎ、

 新たな《金座》の議長となった才女である。


「……南方諸島との交易、交渉はどう進んでいるの?」



 帳簿を捲りながら、メリッサが部下に問いかける。


 報告を行うのは、補佐官のグレイン・ルドゥ。



 灰髪の実務家で、メリッサの参謀役として知られている。


「順調です。シルヴァ諸島連合との交易路がようやく確保されました。

 来月には最初の船団が出航予定。

 ですが――問題は北の情勢です」


 メリッサが手を止める。


「北の……バトランタ領とその周辺のことね。黒霧の噂は、ここまで届いてるわ」


「ええ。霧に飲まれた街があるとか。

 それに呼応するように、バハンタール公国の魔物も動きを活発化させています。

 砂漠の辺境で“黒煙”が上がったという報告も」


 メリッサの表情がわずかに険しくなる。


「北の霧と、南の砂嵐……

 まるで大陸そのものが、不吉な風を孕んでいるみたいね」


 グレインが頷いたあと、帳簿を閉じる。


「……それにしても、ガルド・サーヴェンの件は放っておけませんね」


 その名に、室内の空気が変わった。


「前議長ガルドの失踪。

 “黒霧騒動”の混乱に紛れて、金庫と帳簿ごと消えました。

 その後、南方で“ガルド名義”の取引がいくつも報告されています。

 匿名出資、奴隷商人の買収、果ては砂漠商団への援助まで……」


 メリッサの瞳が細くなる。


「……やはり、あの老狐。

 ヴェルド=エンを見限って、“砂の王国”に逃げたのね」


「はい。バハンタール公国の港町ラサ・ハムには、

 ガルドが昔支援していた交易商団が今も残っています。

 おそらく、そこに拠点を――」


「いいわ」


 メリッサが遮った。


「南方航路の再開は、“利益”のためだけじゃない。

 ガルド・サーヴェンの尻尾を掴む。

 ヴェルド=エンを裏切った代償は、必ず払わせるわ」


 室内に静かな緊張が走る。


 若き商人の声には、権力の重さと誇りが宿っていた。


「それと、もう一つ。

 新しい航路には、護衛団を付けるように。

 南海は今、魔物の出没が増えている。――例の“黒霧”が海を渡ってくる前に、

 わたしたちが先に動くのよ」


「承知しました。すでに海竜討伐で名を上げた傭兵団《紅潮》と交渉中です」


 メリッサは小さく頷き、机の上の黄金の印章を見つめた。


 それは“金座議長”の証であり、ヴェルド=エンの象徴でもある。


(この都市は、もう誰にも奪わせない……

 わたしが、この手で守る)


 彼女の脳裏に浮かぶのは、金座の混乱、

 ガルド・サーヴェンの逃亡、そして崩れかけた街の市場の光景。


 それでもメリッサは微笑んだ。


「――風を読めば、未来は見えるわ。

 金の風が吹く方向へ、舵を取るだけ」

 夜の港


 月明かりが波間に揺れ、帆船の影を銀色に染めていた。


 潮風が吹く中、メリッサは港の先端でひとり立っていた。


「……ガルド・サーヴェン。あなたの亡霊が、南で蠢いているなら――」


 彼女はそっと金のペンダントを握る。


 それはかつての恩師であり、裏切り者でもある男から贈られたものだった。


「この《金の風》が吹き払ってあげるわ。

 ヴェルド=エンの未来は、あなたの掌の中にはもうない」


 遠く、黒い海の彼方で雷光が閃いた。


 まるで砂漠の嵐が、この港へ迫りつつあるかのように。


 港の鐘が鳴る。


 メリッサの金の瞳が、決意に燃えた。


 その夜、

 南の自由都市《ヴェルド=エン》を発つ最初の交易船《ラ=レグリア号》が、

 静かに出航した。

 それは――金と嵐、

 そして“新たな風”の物語の始まりであった。




 ──続く。

お読み下さりありがとうございます。

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